Vengeance For Pain   作:てんぞー

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空の境界/the Garden of Order
影に鬼は鳴く - 1


「―――これがロンドン大空洞での顛末、その全てだ」

 

 特異点探索が終了し、カルデアへと帰還し、ロマニとこの後の展開と、報告の為に食堂でケーキを間に挟み、食べながら話しを続けていた。特異点から帰還したばかりであるという事実もあり、未だに敗北したサーヴァント達は復活していなかった。その為、普段は多くのサーヴァントがいるこの食堂も見る事の出来る数は少ない。残りの数少ないサーヴァント、ダ・ヴィンチはマシュと共に立香の様子を見に行っており、ブーディカは今、厨房で此方への差し入れを作ってくれている。

 

 そして信長とエルメロイ2世とダビデは録画ビデオを食堂の端で見ながら笑っている。悲壮感が欠片もない連中だった。なお愛歌に関しては直ぐ横でケーキと紅茶を優雅に食べている。ロマニも落ち着いた様子でそうか、と目を閉じて答え、

 

「……本当にソロモンが、出たんだね?」

 

「少なくとも肉体は完全にソロモンのものだったさ。ま、それが真実であるかどうかを見通す千里眼は俺にはないさ。ただ霊基は間違いなくソロモンであり、七十二の魔神柱もあいつが放ったもんだ。それに関しては俺が確証する」

 

「そうかぁ……本当にそうなのかぁ……あー、そうなのかぁー……マジかぁー……」

 

 すっごいショックを受けた様な表情をロマニが受け、そのまま無言でテーブルの上に突っ伏した。本当にしょうがない奴だな、と思いながら肩肘をテーブルに付きながら眺めていると、横から袖を引っ張る感触を得た。振り向けば、フォークの上にケーキを乗せた愛歌の姿が見え、それを此方へと向けていた。口を開けてそれを食べさせてもらい、

 

「甘い」

 

「それはそうよ、だってケーキだもの。ビターなチョコレートケーキというのも悪くはないけど、やっぱりケーキの王道は苺のショートケーキ。クリームも苺も甘くなくちゃ到底ケーキと呼べないわ。だからその感想は安直すぎるわ。もっと、こう―――まるで甘味の薔薇園みたい! ……な感じの食レポを次回に期待するわ」

 

「完全にエンタメの食レポじゃねーか」

 

 テレビの方を見るとダビデと信長が必死に服をばたつかせて暑い暑い、とアピールしているのだが何時から空調は壊れたのだろうか? いや、壊れているのは連中の頭だったな、と納得したところで、ロマニがはぁ、と深い溜息を吐きながら復活してきた。

 

「はぁ、まぁ、これに関しては一旦横に置こう。相手が騙っているという可能性もあり得なくないし―――」

 

「―――うん、まぁ、僕もそれに関しては同意するよ。話を聞いた感じ、とてもだけどそれが僕の息子の様には思えないし」

 

 此方の会話にダビデが椅子をグルリ、と回しながら視線を向けて来た。

 

「そもそも僕の息子(ソロモン)は生まれながらにしての王だよ? 人という時期さえ存在せず、王という存在のみを達成する為に生まれて来た。まぁ、なんというか彼もまた神々の計画の被害者とでも言うか……まぁ、そこはどうでもいいんだけど。とりあえず、()()()()()()()()()()んだ。彼が自由に怒る事なんてそもそも出来なかったと思うよ―――もし、彼が本当に僕の息子だとしたら、相当我慢できない事があったんだろうね。うん、まぁ、僕からはそれぐらいかな? それはそれとしてセイヴァー、君でテレビの方はどうにかならないのか? このままだとビデオを見終わっちゃうんだけど」

 

「あ、任せて任せて。やっぱり娯楽にバリエーション欲しいわよね。ちょっとチャンネルを無事な平行世界のチャンネルに繋げちゃいましょう。これぐらいなら抑止力も溜息を吐く程度で許してくれるわ」

 

 ケーキを一旦置いてテレビの方へと向かう愛歌が反則に近い事を言うが、未だに根源接続者である為、これぐらいであれば容易い―――そもそも魔導元帥であれば出来る事だ。なのに彼女にそれが出来ない筈もない。

 

「うん。まぁ、ソロモンの事は置いておくとして……一番聞きたい事があったんだよね」

 

「まぁ、言いたい事は解る。愛歌の事だろ?」

 

 ロマニと視線を愛歌の方へと向けた。黄金の器―――()()、だがそれも普通の聖杯ではなく穢れの大淫婦が保有するべき穢れの聖杯を彼女は片手に握っている。とはいえ、その性能は凄まじく中途半端だ。アライメントが混沌・悪であれば、伝承通りの悪逆を成し遂げるだろう。秩序・善であれば正しい聖杯としての機能を発揮しただろう。だが今は二人が一緒に存在する為にアライメントは中立・中庸。この境界線の上でのみ二人、一緒にいられる。そしてその為、あの聖杯は穢れの聖杯でありながら非常に不安定で、そして歪んでいる。それを戦闘で使える様に現在は調整中ではあるが、それから生み出される泥に関しては愛歌が触媒やら手足の様に自由に動かす事が出来る。故にそれを使って、テレビのチャンネルを平行世界に繋げている。

 

 使っている技能は凄まじいのに、やってることが極限までみみっちぃ。

 

 だが、まぁ、そんなものだ。今の彼女はそれぐらいで限界だ。万能ではあるが、全能さはない。それは己も同じだ。ただ、根源に接続しているだけである。他の者よりも少しだけ便利で楽が出来る、という事実を抜けば特に変化はない。だから、

 

「心配する必要はないさ。アレは()だからな。俺が裏切ろうとでも考えない限りはただの能天気な娘だよ。心配する必要はない」

 

「うーん、だけど根源接続者……魔術師的に考えるとねぇ……」

 

「まぁ、戦いが終わったら俺は愛歌と適当に雲隠れするさ。折角綺麗な体に戻れたし」

 

「あぁ、そう言えば戻ってくるときに肉体を再構成したんだっけ? 服装もがらりと変わっちゃってるからびっくりしちゃったよ」

 

 横の磨かれた壁に反射し、映る自分の姿を見た。まず一番最初に目に入るのは()()()()だ。今までの様な黒い肌は消え失せ、ちゃんとした東洋人の肌色を取り戻している。だが髪の毛はそのまま、色素が抜け落ちたような白髪で、もっさりしてあるのを首裏でまとめてある。服装はそこまで凝った物ではなく、下衣は機能性の高いミリタリー柄のカーゴパンツ、上衣は袖の無いインナースーツで、その上から蒼色の布をローブ、或いはマントの様に首下に巻きつけている。

 

 服装は全部、此方へと戻ってくる際に自分が旅をしていた頃の服装を思い出し、それに似た格好を幻想種の素材で再現したものだ。見た目は現代の服装だが、どれも幻想種の素材で作成されており、不死鳥の羽のアクセサリなんかもこっそりと顔横の髪に装着していたりする―――なんでも、コーディネートは気にした方がいいとは愛歌の言葉である。

 

「流石に全裸で復活することに躊躇を覚えたからな。俺はともかくあっちが」

 

「君は全裸で良かったのか……!」

 

 まぁ、そういうノリもあるよね! という話だ。なお、愛歌に関しては生前と同じ鮮やかな青と白のフリルドレスを装着している。見慣れている姿だけに、違和感なんてものは一切存在しない。まぁ、何だかんだで自分もあの子がああやって自由に動き回り、俺以外の誰かと話せるようになる姿は見ていて嬉しいものがある―――それで漸く、()も救われたという感触がある。

 

「ま、そんな訳で今の()はセイヴァー……の、霊基を借りているだけの里見栄二、だ。他人を救おうとは思わないが、説法の一つや二つ、求められればする。そこで()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。遠慮なく相談してもいいんだぞ、ロマニ」

 

「ははは……だけど基本的にカウンセリングはボクの仕事だからなぁ。まぁ、でもセイヴァー……いや、エージの説法に関しては興味があるかな。君が見出した人生の答えというものを欠片でもいいから、感じ取ってみたくはある」

 

 ロマニの言葉に苦笑する。言葉とは―――難しいものだ。伝えようとすればするほど、其れは熱意と心をもって捻じ曲げられてしまう。その為、正しい言葉が伝わるとは限らなくなってしまう。それは真実から遠ざかる意味でもある。だからこの開いた感覚を、悟りと呼ばれる境地を誰かと共有する事は不可能だ。それでも、誰かに対して納得を与える事が出来る。それがおそらく、仏陀―――ゴータマの行った事だった。理解していても未だに思う、宗教は苦手で、嫌いだ。

 

「―――はい、おまちどおさま。甘いものを食べるのもいいけど、戦場から帰ってきたらまずはスープで体を温めようか。ロンディニウムは寒かったんだろう?」

 

キッチンで作業していたブーディカがスープの入ったボウルを運んで、それを前に置いてくれた。

 

「ありがとう」

 

「いいんだよ……私は実際、サーヴァントとしてはそこまで強くないって自覚しているしね。これがもっと違う霊基―――それこそアヴェンジャーであれば話は違ったんだろう。だけどそうではなく、私はライダーで召喚された。つまり私が必要とされたのはその力ではない場所なんだろうと思ってるんだ」

 

「尊すぎて眼が焼かれる」

 

「前が見えねぇ」

 

「アビシャグの気配を感じる」

 

「ファック」

 

「わしと結婚しない?」

 

「はははは……照れるのは別として、そこのロクデナシは鍋の中に放り込むよ?」

 

 ヒィ、とダビデが声を漏らした直後、テレビからギュイン、と音がし、どうやら平行世界とチャンネルを繋げる事に成功したらしい。これでまた、カルデアに新たな娯楽文化が、それもかなり理不尽な形で復活した―――これを見て現代を懐かしむ様になったら、頑張って特異点を攻略してソロモンをミンチにすればいいのだ。現状、逆にミンチにされる可能性の方が高いのだが。愛歌が戻ってくると、横に座って幸せそうにケーキを食べ進める。それに合わせ、此方もブーディカが作ってくれたスープを飲む―――なんだかんだでソロモンとの相対で冷えた臓腑が温まって行くのを感じる。

 

「その表情を見ると気に入ってもらえたみたいだね。まだまだたくさんあるから、おかわりが欲しかったら遠慮なくね?」

 

「おう、助かるわ。だけどそれはそれとして―――ロマニ」

 

「うん、そうだね……立香くんの事だね」

 

 それがおそらく現在、このカルデアに置いて重要な事なのだろう。実際、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。ぶっちゃけた話、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。それはサンソンが召喚された時点で行える事だったのだ。だがそれを行わないのはエリート思考の彼らが今の英霊達と、そして立香とどんな衝突を起こすか、解り切っているからだ。だから現状、カルデアは立香一人に特異点の攻略のマスターという役割を任せなくてはならない。

 

「特異点での戦いでストレスと疲弊は感知されている―――だけどそれ以外には特に問題はないんだ」

 

「ソロモンに呪われているからな。魂だけを別の場所に隔離させられている」

 

「やっぱりか……科学と魔術的にサーチしても異常が見つからないならやっぱりそっち方面かと思ったけど、実際に経験した人が言うならまず間違いない、か」

 

 まぁ、魂だけとなって溶けてから復活したのだから、プロフェッショナルと言えばプロフェッショナルなのだが―――あんまり、嬉しいプロではないが。スープを飲み進めつつ、横の愛歌の頭を軽く掻く様に撫でると、頭を此方に寄せて、体を擦り付けてくるのを感じる。なんか、ペットの犬みたいな反応だな、と思うと足を踏まれた。筋力Bで踏むのは止めてくれ。骨が折れる。

 

「率直に言うけどエイジ、彼を君は助けられるかい?」

 

「無理。そりゃあ細かい事ならテレビみたいにどうにかなるさ。だけど万能と全能ってのは格が違うのさ、ロマニ。こっちが鉄の棒でテコの原理を使って荷物を持ち上げようとする中で、アイツはフォークリフトを使ってる感じだ」

 

「すっごい解り辛い!」

 

 うるせぇ、ジェネレーションギャップだと言いたいのかお前。キレるぞ。

 

「根本的に格が違うんだよ、アレとは。100回勝負したら100回敗北して、1万回勝負しても1万回負ける。そういう相手なんだよ。だからアレが何かをした所で、後からどうにかするってのは俺には無理だ」

 

「そう、か……」

 

「……まぁ、でも即死してないって事は、我らの人類最後のマスター殿は今も必死に足掻いているって事さ。こと、逆境における足掻きって要素においてあいつよりも優れた人類はいないさ。俺達はここまでカルデアを引っ張ってきた少年を信じればいい」

 

 そう、それを敢えて言葉にするとしたら、

 

「―――待て、しかして希望せよ……かしらね?」

 

 愛歌が言葉を引き継ぎ、話を終わらせた。現状、カルデアの技術では立香の救出はどうにもならない事だった。そもそも魔術王と呼ばれるソロモンの放った魔術に後から干渉するなんて高度過ぎる行いが出来る存在が()()()()()()()()()()()()()のだ。それでいてあのソロモンが獣の座について全能の王としてあることを考えれば、()()()()()()()()()()()()()()()()()だろう。故に本当に待つしかないのだ。

 

 立香が戻ってくるその時までは―――何時も通り、休暇だ。




 監獄島と空の境界は同時進行予定。外側にいる人間は描写するような事もないし。空の境界も管理人が変化したのでちょくちょく変更予定で。とはいえ、オガワハイムは掘り下げには便利なので割とそのままかも?

 データが好評でうれしい所。絵心が無くて絵が描けないけど、まぁ、説明ここまで入れればいいよね、って感じだ(

 ちう訳で現在のさとみーの姿公開であった。旅するナイスミドル風。

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