Vengeance For Pain   作:てんぞー

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答え - 4

世界線を観測。

 

自己の相互観測。

 

時間軸に同期。

 

属性を調整する。

 

肉体を再構築する。

 

 ―――聞こえる。音が聞こえる。再構築される肉体と新たな服装。それを通して肉体がリアルな感触を得る。それは根源の一部として溶けていた時の全知とは違い、己の肉体、己の知覚で完全に感じ取る、完全な人としての感触だった。それでもまだ不完全に。耳に届く音は決して理解できるものではなく、

 

「■―――■――――――■―――■―――――――■――■■―――――――――■■―――――――――■―――■――――――■――――――■――――――■■―――■―――■」

 

 人の言語には聞こえず、時間の流れそのものが違っていた。故に更に調整は進んで行く。根源に溶けていた状態から再び、己という存在を()()()()()()()()確立させる。根源との接続を通してこの世界に対して、僅かにのみ許された反則行為(Cheating)を行って行く。それは全知や全能から遠く離れた愚行だった。それはあの充足感と比べれば悲しい程の喪失感だった。それはもはや、二度と戻らない永遠だった。

 

言語の取得。

 

時間速度の調整。

 

「―――ありえん。貴様、は、まさか―――」

 

 人類の言語の再取得、そして時間速をイコールにする。それで漸く人類の言語を理解するに至る。時間速が違い過ぎる故に一言、音を一つ発する知覚が正しい時間に合わせられ、漸く人間の言葉を理解できる領域へと戻ってきた。それは根源に存在する以上は必要のなかった概念である故に、溶けた瞬間に消えてしまった。故に再び、再取得が必要なものであり、そこから更に、自分が必要な最後の要素を抽出、改変、適応して行く。

 

能力最適化。

 

()()()()()()

 

 ゆっくり、ゆっくりと両目を見開いて行く。そこには裸眼に映る世界の姿が見えた。褐色肌の古代イスラエル王がはじめて、驚愕の表情を浮かべて此方へと視線を向けていた。その驚きは此方が死から蘇った事ではなく、

 

「貴様、戻ってこれたのか―――」

 

「どうしたソロモン、そんなに俺が戻ってきたことが驚きか?」

 

 言葉を放ちながらチラリ、と視線を立香とマシュの方へと向ければ、二人はまだギリギリ無事だったらしい―――いや、マシュがそこそこダメージを受けている辺り、ギリアウトだったかもしれない。そう思いながらも、真正面からソロモンと視線をぶつけ合い、その姿を睨んだ。直後、視線を通して呪殺されるのを感じた。一瞬で相手を殺す事の出来るソロモン王の魔術、もはやそこに詠唱なんてものは必要なく、名を呼ぶか、或いは視線を合わせるだけでも殺しに来るだろう。

 

「だが―――俺には通じ(≪咎人の悟り≫)ない」

 

「成程、そういう事か―――私がお前を押し上げる最後の一手だったか」

 

 ソロモンがそう言葉を放った瞬間、前へと一気に踏み込んだ、前の体よりも遥かに力が入る。速度のノリが違う。新しく作り直した体は完全に現代人のスペックを超え、古代の、戦う為の人間のスペックへと到達している。その為、その速度にソロモンは―――反応した。普通に。それでも全能たる王の領域には遥かに届かない。故にどうあがいても後手である。ソロモンには勝てない。その事実を、

 

「だけど残念、もう、一人じゃない(≪単独顕現≫)のよね」

 

「―――」

 

 愛歌が止めた。ソロモンの足を、そして腕を大地から伸びる触手状の泥が動きを一瞬停止させており、その瞬間に割り込んで拳がソロモンに叩き込まれた。そこで動きを止める事なく、オーバーヒート状態のシェイプシフターを手元に召喚、握り潰しながら限界駆動を超えて変形させる―――その姿を大戦斧へ。握る腕が柄へと食い込み、魔力が注ぎ込まれる。その()にシェイプシフターそのものが悲鳴を上げるが、気にする事無く踏み込みながら、飛び込んだ。

 

 飛びかかる様に左手を伸ばし、ソロモンの顔面を掴みながら渾身の一撃を―――今までとは違う()()()()()()()()()()()()を、一撃で山を消し、二撃目で海を干上がらせるというその破壊力を圧縮させて振り下ろした。その破壊力に耐え切れず、シェイプシフターが自壊し始める。だがそれを顧みず、掴んだソロモンを大地に叩き付けながら、大地とサンドイッチにする様に振り下ろす。二撃目。完全にシェイプシフターが砕けながら()()した。もはや兵器としては完全に使用出来ない。

 

「これが()が見出した救い、救世の形―――」

 

 拳を振り上げながらタメを作る。そこに割り込む様に横に出現した愛歌がソロモンの姿を蹴った―――軽く見えるそれはしかし、スペックは()()()()()()()()()()()()()為、それだけでその姿を空へと蹴り上げた。それに追撃する様に、空の姿へと向けて拳を振り抜いた。

 

「―――命の終わり、輪廻の導き(アンタメン・サムサーラ)―――!」

 

 魔力を、エネルギーを、武器に込めていた浄化、輪廻、昇華の概念を拳から振り抜いて放った。受ける度に現世における罪状を流し、新たなる生へ、輪廻へと導く対人輪廻宝具。()()()()()()()()為の決戦宝具。その閃光が一直線に空へと蹴り上げられたソロモンを貫通し、天蓋を貫通して地上までの道を一直線に生み出した。人も神も平等に殺して輪廻に流し込む宝具ではあるが、

 

「……駄目だ、復活した直後なら初陣補正のノリで行けるかと思ったけど無理っぽいこれ」

 

「ノリだけで勝てたら世話無いわよねー」

 

「つか武器がねぇから全力出しきれねぇ―――と、危ない(≪咎人の悟り≫)

 

「それは良い事を聞かせて貰った」

 

 《根源接続者》によるソロモンの知覚する時間速度と自分の反射、思考速度を同期させる。それによって反応外から殺害されるという事態を封じ込め、背後へと転移してきたソロモンの魔術による一閃をしゃがんで回避する。そのまま体を滑らせながら拳を握り、そこに再び命の終わり、輪廻の導き(アンタメン・サムサーラ)を発動させる為に輪廻の概念を拳に込める―――とはいえ、頑強さはランクで言えばA程度の肉体、全力で放とうとすれば肉体の方が持たない。切実に武器が欲しい、そう思いながら、

 

 素早く、拳を振り抜いた。先ほどのと同様、()()()()()()()()()()()()()があるのだが、まるで何事もなかったかのようにソロモンは此方を見下す視線を向けていた。素早く後方へと飛びのき、距離を開け、マシュと立香の前に着地する。

 

「アヴェンジャー……さん?」

 

「はいはい、エージお兄さんだよー。ちょっと気合いと根性であの世から戻ってきただけだから、気にするな。そしてこっちのマスコットが愛歌ちゃん。よろしく」

 

「よろしくね、マシュ」

 

 愛歌が軽く手をマシュへと向けて振った。それを受けてマシュが困惑したような、困ったような表情を浮かべて数秒間停止するが、

 

「は、はぁ……あ、いや、それよりも先輩がまるで反応を見せないんです!」

 

 チラリ、と背後へと視線を向け、俯いたままの立香を見た―――それは完全に心の折れた姿だった。その上で何か、呪術か魔術によって干渉されている? 意識の一部をソロモンの方へと割いている今、それを細かく精査するだけの余裕はなかった。チ、と舌打ちしつつ吐き捨て、真っ直ぐソロモンへと視線を向けた。その瞳は此方、まるで観察し、看破しようとするものに見えた。故にそれを正面から受け取りながら、拳を握った。

 

「……二回ぐらいはぶち殺した(昇華)感触があったんだが」

 

「あぁ、私もまさか二回も殺されるとは思いもしなかった。だがそのおかげで見えたぞ、貴様の正体が。貴様―――救世主(けものがり)か」

 

 救世主。即ち獣を狩る存在。とはいえ、それだけではないのだが―――それで概ね、正しかった。この再調整、再構築を行われた肉体の霊基は復讐者のクラス、アヴェンジャーではない。救済を司る霊基、セイヴァーのクラスとなっている。このクラス自体が根本から獣を狩る為のクラスの様なものだ。とはいえ、

 

「―――接続者ではあるが自由という訳ではなさそうだな。()()()()()()()()()()な」

 

「……」

 

 ソロモンの様な完全な全能者ではないのが事実であり、人間、それも肉体をもつ存在として霊基のレベルを落とし込んでいる。あの楽園を離れ、人としての苦生を選んだ故に受ける、仕方のない制限だった。もはやあの一瞬の永遠からは程遠い、人の不自由な制限を受けていた。とはいえ、其れは自分が進んで選び、受けたものだった。悦びはすれど、嘆く事なんてはない。拳を握り、それをカラリヤパヤットの構えで相対に入る。

 

 構える事もないソロモンは此方へと視線を向け、

 

「―――この程度であれば手を下すまでもないな。帰るか」

 

 視線を背け、去って行こうとする。マシュがその姿に問いかけようとするのを素早く愛歌が手を伸ばして口を遮る事で黙らせる。そのまま、完全に興味を失ったかのように、振り返る事さえなくソロモンはその場を去って行く。ゆっくり、ゆっくりと虚空に溶けて行くように消えるソロモンの後ろ姿を眺め、その姿が完全に消え去ったのを確認してから息を吐く。空間からソロモンが消え、空間全体を圧迫するような重圧が消滅する。それまでずっと、息を止めていたような状態だった。

 

「ふぅー……帰ったか」

 

「何とか生き残れたわね……まぁ、敵とさえ認識されていないのが現実だけど」

 

 もしこれが完璧に根源と接続を繋いでいた状態であれば、おそらくは手段を選ばずに殺しに来ただろう。その可能性がおそらくアルトリアの前週には存在したのだ。僅かだけだが、それでも可能性がある。故にソロモンは全滅させて憂いを取り除いたのだろう。逆に今回は俺が至っても全能者ではない事を悟り、敵対する必要もないと判断したのだろう。

 

 ……本気にさせたら確実に敗北する為、ここで見逃されて助かった。

 

「あの……アヴェンジャー……さん、ですよね?」

 

「あぁ、まぁ、今はセイヴァークラスで現界し直したから今はセイヴァーだ。気軽にエージ兄さんとでも呼んでくれ」

 

「おじさーん」

 

 無言で愛歌の顔面をアイアンクローで掴んで横に引きずる。それをマシュが呆然と眺めるが、しかし次の瞬間には正気に戻っていた。

 

「いえ、待ってください! 確かに先ほど心臓を潰されて死んだ筈です!」

 

「あぁ、だからそこから蘇ったんだよ。反則技を使ってな―――まぁ、もう二度と出来る事じゃないし、込み入った説明もあるから諸々に関してはカルデアへと戻ってからやる事にしよう。それよりも、藤丸―――いや、立香の面倒は俺が見ておくから、先に聖杯の回収を頼む」

 

 此方の言葉に不承不承ながらマシュはゆっくり頷くと、何度か振り返りながらアングルボダの方へと向かって行った。それを確認してから倒れている立香へと近づき、仰向けに転がしながら開いている瞳を覗き込む。……生きてはいる。しかしその魂はどこかに囚われている。余り深く覗き込み過ぎるとこっちも引き込まれて捕まるな、と察したところでそれ以上覗き込むのを止める。大体当たりはつけた。心が折れた瞬間を狙って魂を幽閉させたか、と小さく息の下で呟くと、漸くカルデアと通信が回復したらしく、ロマニのホログラムが出現した。

 

『無事かい!? ってうわぁ!? 誰!? というかこの惨状は!? 立香くんが倒れているけど容体は!? あー、もぉー! 気になる事というか確かめなきゃいけない事が山積み! えーと……この霊基反応は……アヴェンジャー……かな……?』

 

「元、だけどそれに関しては後で説明する。それよりも今、マシュが聖杯の回収を行っている。それが終わったら速やかにレイシフトを頼む。黒幕が判明したからそれを込みで色々と話さなきゃいけない事がある」

 

 ソロモンの出現、冠位指定という事の意味、その情報をまずはカルデアへと告げなくてはならない。それから自分の今の霊基を、様子を、どうしてこうなってしまったのかも、説明しなくてはならないだろう。アルトリアが経験した時空ではどうやらここで全滅したらしいが、

 

 結果としては今回は全滅一歩手前、という程度だろう。

 

 いや、真正面から大罪の獣と相対してこの程度の損害で済んだのだから、もはや奇跡と呼べる領域にある。だが、

 

「やる事、成す事多すぎるわね」

 

「そしてその責任の大半は―――」

 

 藤丸立香という少年にかかっている。そう、グランドオーダーはまだ半分。半分しか終わっていない。そしてこの旅、ソロモンという黒幕が明確に露出された事で()()()()()()()()と考えてもいいのだろう。少なくとも、

 

 奴は明確に此方を見て、認識した―――ならば、今まで通りとは行かないだろう。

 

 聖杯を回収したマシュの姿を眺めながら軽く溜息を吐いた。どこまでも絶望的ではあるが、それでもこの絶望と希望の入り乱れる現世こそが、己が何よりも求めたものである以上、()は何も言えない―――密かに、祝福するだけだった。

 

 旅を、そしていずれ辿るであろう結末を。




https://www.evernote.com/shard/s702/sh/522a6d39-d3ef-4612-b596-8e606049d80f/35270e92aea60c76ea7e0df4e445e230

https://www.evernote.com/shard/s702/sh/ef2524d2-71b9-4a5b-9877-a8c87c53ef11/767ea55d4ed334ca66843b0d7a0010d3

 サトミー! 新しいステータスよー! マテ風とFGO風で二度美味しいね? 誰がここまで作り込めと言った! 俺だ! データ作成は楽しいからしょうがないね!(グルのデータ隠しつつ

 という訳で実質的に敗北、心が折れた瞬間にガチャ丸は監獄へ幽閉。ロンドンはこれに終了で……。

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