Vengeance For Pain   作:てんぞー

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ストーム・ハント・ショー・ダウン - 3

 戦闘開始直後に空が雷電で包まれた。一斉に雷撃が空から雨の様に降り注ぎ始めると同時に、魔霧が一気に活性化し始める。地下通路、そして大空洞の魔霧は全てテスラへと変形した―――だがここ、地上、大空洞よりも総量は多いだろう魔霧はまだまだ残っていた。即ち、ロンドン全域が現在、テスラの領域であった。既に地下通路から出たという時点で彼の攻撃範囲内であったが、短時間に二度も攻撃を経験すれば、

 

「対処の一つや二つ出来るに決まっているだろう!」

 

「なんと!」

 

 空へと矢が放たれ、それが雷鳴を一点へと集めた。一瞬で破壊されるが、流石に破壊は雷速よりも遅い。サーヴァントであれば十分に回避できる速度であり、エミヤが生み出した一瞬に合わせて一気にテスラの方へと向かって大戦斧を振りかぶりながら突貫する。再び纏っている魔霧を誰かが―――いや、己が剥がさないとならないのだ。そうしなければ誰の攻撃も届かない。故に自分を迎撃に来る雷撃を受けても、

 

「止まりはしないか!」

 

無論、末路は覚悟してる(≪復讐者:死狂い≫)

 

 死にたくないのと()()()()()()のでは全く違う話だ。そこらへんの分別に関しては此方で既に完了している。故に、激痛が走ろうが、逃げられない閃光が体を突き抜けようが、それを無視してバーサーカーの如く体を加速させる。アヴェンジャークラスは何よりもその戦い方と相性が良い。この痛みが魔力になる。この痛みを耐える為に力が湧き上がる。心臓が生かす為に破裂しそうな程加速する。魔力が体から溢れ出す。それこそ魔霧のドレインに負けない勢いで。

 

 チャクラを解放する。マントラを唱える。聖術を唱える。仙術を呼吸する。風水で往く。錬金術で武装を整える。東洋の体術技能で体を動かす。中東の外法で肉体のリミッターを解除する。そうやって複合魔術、技術、キメラとも呼べる状況で限界まで肉体を酷使する事で漸く、英霊と言う根本的にスペックの違う存在と正面から殺し合える。

 

「ぉぉぉおおお―――!」

 

 大雷階段へと一気に飛び乗り、渾身の魔力撃を振り下ろす。それは鋼鉄を殴る様な感触と共に魔霧と接触し、その一部を一気に吹き飛ばした。その内側から迫る即死級の雷撃を横へと素早く筋肉を断裂させながら回避し、魔術と細胞活性での固定でむりやり動く様に操作しながらノンストップで避けた先から弓へと変形、梵天よ、死に狂え(ブラフマーストラ)を放った。至近距離からの砲撃がテスラを叩きつけるが、雷帝は魔霧を千切れさせながらも雷電による迎撃を行い、逆方向へと跳躍しながら()()()()()()()()()していた。

 

「フハハハ! 電磁浮遊であるとも!」

 

「理由を創れば何でもやっていいって訳じゃねぇぞ!!」

 

 屋根の上に着地し、直後、横へと大きく跳躍しながら曲射する。上へと放った矢が空中で弧を描きながら古代の奥義となって頭上からテスラめがけて落下して行く。頭上を奪った瞬間から光になってテスラを滅ぼさんとするが、電磁加速により一気に速度を加速させているその姿に掠りもしない。見てくれはアホっぽいが、その実力は化け物だった。

 

「しゃら、くせぇ―――!」

 

 そこにモードレッドが魔力放出をジェット噴射の様に加速させながら飛び込んだ。灼雷の尾を引きながら飛び込むがテスラはしかし、そこから放たれる斬撃を回避する。直後、100に分裂した剣の矢が一斉にテスラを包囲する様に襲い掛かる。全方位に雷電を放出し相殺した姿に、

 

 ―――正面からマシュが突貫した。

 

「フハハハハ! いいぞ! その調子だ!」

 

「くっ、まるで要塞を殴っているような……!」

 

 雷撃を大盾で完全に遮断しながらもそのまま叩き付ける様にテスラを殴り飛ばした―――しかしマシュの言葉から聞こえる通り、反応は良くない。笑いながらテスラはバッキンガムへと向けて飛翔して行く。まともに戦わず、そのままバッキンガムへと向かうつもりか、そう判断した直後、雷鳴が夜空を轟く。そしてそれは閃光と共に()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「ぬぅっ!?」

 

「おいおい―――そりゃあゴールデンじゃねぇぜ」

 

 寸前の所でテスラが大きく飛翔し、階段から外れて屋根の上でホバーして動きを止めた。その進撃を阻んだ人物は―――実にゴールデンだった。短い金髪の髪に黄金のアクセサリーの数々、そして大きく開けられた胸元から見える見事な胸襟―――凄まじい程にゴールデンな男だった。カラーグラスを装着した男はテスラの様に雷鳴を響かせ、帯電しながらも雷神の斧をその肩に担ぐように構えていた。それは真っ直ぐテスラへと向けられていた。

 

「おうおうおう! お前、聞こえねぇのか、苦しい、痛い、暑い、助けてと叫ぶ焼却された人々の声がよ。聞こえねぇのか、助けを呼ぶ声が」

 

「貴様は……成程、我が雷電とここに停滞した魔霧の反応によって召喚されたサーヴァントか! あぁ、そして答えよう! 普段の私であるならば英国紳士としてこのような恥ずかしい行いは出来ないだろう……だが私は狂化されている! 其れもまた一興だと思うのだよ、我が雷霆によりこの人理を焼却する! それもまたスパーキングと思わないかね、ミスター・ゴールデン!」

 

「なら俺の答えは一つだ―――助太刀するぜ、大将。鉞担いだゴールデン、坂田金時っつー英霊だ。助けが必要そうだから無理やり来たぜ!」

 

「超、超ゴールデン助かります」

 

「はっはっは! 解ってるじゃねぇか!」

 

「あ、こら、何やってるんですか金時さん。そんなに雷起こさないでくださいよ、その静電気で尻尾の毛が立ってしまうので」

 

「おい、ここは戦場だぞフォックス……」

 

 金時の背後を追いかけてくるように和装姿の女―――獣人、らしき姿が出現した。金時にフォックスと呼ばれた辺り、狐系なのだろうが、それを考えているだけの時間や余裕はない。テスラが足を止めている内に素早くバスターライフルへと変形させようとしたところで、金時とフォックスを召喚し終わったロンドン中の魔霧が急速に濃縮、テスラの召喚時の様に一点へと向かって集まり始めていた。

 

「もう既にお腹いっぱいなんですけど……」

 

「頑張れ藤丸。どうやら特異点終盤でのボスラッシュは標準らしい」

 

「んー……長年女性関係で痛めて来た胃が急に再稼働を始めて来たぞ……!」

 

「おい、顔が蒼いけど大丈夫かアーチャー」

 

 段々とだが状況の収拾がつかなくなってきた所で、バッキンガム宮殿上空で濃縮されて行く魔霧はテスラの時と同様、召喚反応を示し始める。まさに怒涛の展開と呼べる凄まじい速度で、またこの場に新たに、おそらくは敵であるサーヴァントの姿が増えた。それは黒馬に乗った一人の女の姿だった。見覚えのある聖槍を片手に握り、ロンドンを見下ろす女は、

 

「かはっ」

 

「ち、父上が増えたぁ! 増えたぞ! ち、父上ぇ! そしてアーチャーが吐血したぁ!」

 

「カルデアに帰りたい……」

 

『ほ、ほら、不幸中の幸いで魔霧は減ったんだし、立香くんあと少しだけ頑張ろう! ね? ね!』

 

『ボスサンドイッチとか全く話に聞いてないわよ……これ、難易度調整狂って……あ、いや、待って。なんだかんだでオケアノスも十二の試練ヘラクレスとか用意されてたし脅威レベル的には変わらなかったわね、ふぁいとっ!』

 

 それはそれとして、明らかにロンゴミニアドが光っているし、回転しているし、星のエネルギーを巻き上げてパワーアップしている。テスラと同時にアレを相手しろというのか。普通に死ぬぞ。なんというか物凄く普通に死ぬぞ。マシュ以外はアレに耐えられる自信が無い。というか確実に無理だ。俺でさえどんなに全力を尽くしても真正面からバラバラにされる。梵天よ、死に狂え(ブラフマーストラ)とぶつけ合っても多分一瞬で飲み込まれる。アレは格が違う。というか見てる。こっちを見てる。やはり姿は違っても中身は同じアルトリアなのか、こっちガン見してロンゴミニアド回転させている。これ、もうダメだろ。因縁ならエミヤの方にあるから仲良くロンゴミニアドで殺してやってくれ、こっちを見るな。

 

 今、脳内で、門司とトワイスとリンがサムズアップしながらこっち来いよ、つってるのが見える。

 

『いや、そっちに行くには早すぎるからね? まだまだ死ねないからね? それにほら―――此方も戦力は整ったわよ』

 

 愛歌が声を放てばレイシフトが発生する。ロンドンの戦場となっている市街地の屋根に霊子の燐光を散らしながらカルデアから送られてきた補充戦力が姿を見せる。ランスロットは真っ先に視線を槍のアルトリアへと向けて大きく吠え、沖田は素早く刀を構えて何時でも切り付けられる状態へと移行し、そしてサンソンはラヴ♡マリーと書かれた団扇を装備していた。

 

「いや、待って! サンソン! 武器は! 武器はどうした!?」

 

 えっ、という声が一斉に漏れ、サンソンの手の中にあった団扇へと向けられ、サンソン自身も黙ったまま、視線を団扇への方へと向けながら、それを何度か振るう。それで剣の動きを数度再現し、魔力を宿らせて屋根の一角を切り裂く。

 

「だ、大丈夫です! 戦えそうです!」

 

「そういう!! 問題では!! ないだろう!!」

 

「ほんとそれ」

 

「大丈夫―――マリアへの愛が限りなく僕を強くしてくれる」

 

「アイツバーサーカーだっけ? アサシンじゃなくて?」

 

「Not Arthur! Not Arthur!」

 

『一気に増えて煩くなってきたわねコレ……』

 

 ランスロットが指差しで芸に走っている辺り、サンソンに対する対抗心を覚えているのかもしれない。お前ら本当に英霊だよな? だったよな? そう思いながらも、先ほどよりは心が楽になって行くのを感じる。仲間が増えて戦力が向上したのが一つの理由だが―――それとは別に、煮詰まった戦場の空気が変わって行くのを感じられた。先ほどまでは控えめに言って()()があった。早くどうにかしないと、アレを倒さなくてはならない。そう言う空気が蔓延し、決死になる部分があったのだ。

 

 だが今、カルデアからの増援と金時とフォックスが登場し、軽い風が流れ始めるのを感覚的に捉える。淀んだ空気を押し流し、カルデアらしい空気が流れ始めている。立香へと視線を向けてみれば、汗を掻いているのは見えるが、必要以上に緊張しているのは見えない。()()()()()の状況に変わりつつあるのを彼も感じ取っているのだろう。ともなれば、流れは、

 

『完全に此方が取ったわね』

 

 愛歌の言葉に同意し、立香の言葉が響く。

 

「戦場を二つに分ける! テスラ対応班はエミヤ、先生、ゴールデン、フォックス、沖田! アルトリアに対応するのはランスロット、モードレッド、サンソン、マシュで! フォックスさん良く解らないんでゴールデンとセット運用ですけど問題ありませんかねぇ!」

 

「あ、私、天に属す英霊というか反英霊ではありますが、それはそれとして、あの程度の雷撃に当たる様な事はしませんのでそれで大丈夫ですとも。それと私の真名、名を玉藻の前、気軽にタマモちゃん、とでもお呼びくださいマスター」

 

「うわきつっ」

 

「今言ったの誰だ」

 

 軽い笑い声がロンドンの空を駆け巡り、それを喉から漏らしながらも跳躍、場所を入れ替える様に決戦に向けて居場所を切り替える。同時に装備も切り替え、前衛は金時に任せ、完全に迎撃と援護へと向けて装備を弓へと変形させる。軽く看破するだけしてみたが、あの坂田金時、どうやら超がつくレベルでの一流のサーヴァントらしく、まともに戦った場合、勝てる方法が自分には見いだせない。つまりは素直に前衛を其方に任せた方が有利だ。戦場を二グループで分けた所で、金時、そして玉藻、エミヤに並ぶ。

 

「そういう訳でよろしく頼むぜ。俺の背中はそっちに預けるからな」

 

「日本でも有数の有名人にそう言われると光栄だ」

 

「恥ずかしいからんな事を言わないでくれよ、手元が狂っちまうわ。おう、フォックス。お前、俺の召喚にタダノリしてきただけなんだから無茶するんじゃねぇぞ」

 

「言われなくてもサポートしかしませんよ……はぁ、英国への召喚と聞いたから期待していたんですけれど、それがこんな結果になるとはなんとももはや、我が運ながら、呆れ果てたものですね」

 

「ま、戦力が増えるのは此方としては大歓迎なのだがね」

 

 大英雄に大反英雄、それが援軍として戦ってくれるならこの上なく心強い。ロンゴミニアドのアルトリアに関しては―――心配する必要はないだろう。そもそも原典からして()()()()()()()()()()()のだから、後はどれだけ数の暴力でアレを押し込めるか否か、だ。寧ろ大変なのは此方だろう。

 

 故に、

 

「さあ、我が悪逆を止めんとする英霊達よ! 準備は完了したか? であるならば最終ラウンドのゴングを鳴らそうではないか!」

 

 浮かび上がったテスラの宣言と共に、ロンドンにおける戦いの最終ラウンドが幕を開けた。




 という訳で乳上乱入でvsテスラ&乳上のボスサンド状態へ。

 ここら辺から全体的な難易度が爆上がりして行く方針で。そう、つまりは今までがチュートリアルだったのだ。これからは地獄が見れる事でしょう。色んな意味で。

 そしてゴルフォ、出番だぞ。

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