Vengeance For Pain   作:てんぞー

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ストーム・ハント・ショー・ダウン - 1

「―――ロンドンの地下にこんなもんがあるとは思いもしなかったぜ」

 

 そう言いながら薄暗いロンドン地下通路を抜けて行く。その作りは近代的ではなく、もっと古い作りのように見える。表現するなら中世ぐらいの作りだろうか? ただ見覚えはあるにはあるのだ、この作りは。

 

「冬木の大聖杯に続く道を思い出すな」

 

「あぁ、あそこか……確かに作りが近いな」

 

 エミヤが納得の声をこぼす。そういえばお前は冬木のプロフェッショナルだよな、と壁に触れながら思う。かなり強固な作りをしているこの地下通路はドンドン地下へと向かって進んでおり、進んでゆく度に段々とだが魔霧が濃くなって行くのが感じられた。その濃度も上昇するにつれ、だんだんとだがサーヴァントさえ圧迫し始めるようにさえ感じている為、割と真面目に対処する為に強風を発生させて霧払いをしている。この魔霧という存在はどうやら、考えていた以上に厄介なものに感じる。第一、高濃度の魔力が入った霧であり、聖杯が生み出しているという時点でロクなものではない。

 

「……結構深いな」

 

「相当深く彫り込んでいるあたり、そして古さから考えると近年作成されたというわけではないな、これは。もっと前……数百年前から、という規模だな。まぁ、レフ・ライノールの発言を鵜呑みにするなら前の時代からコツコツとした準備をしていたとも考えられるが」

 

「なんか妙に気の抜ける考えだな。いや、隠すにはちょうどいい場所ってのは解るんだけどよ」

 

「おーい! 誰かそろそろわしと交代しない??」

 

 前方でオートで火縄銃を浮かべては射撃していた信長が声をかけてくる。視線を前方へと向ければ大量のアンデッドが道を阻害しているのが見えた。ただそれをまともに相手するのは面倒な為、メンバーの変更はなし、アーチャー組でローテーションを決めながら射撃で一方的に掃討しながら進んで行く。地味に数が多いのが面倒な話だ。とはいえ、ザコはザコだ。時間がとられるだけであり、倒すことには一切の問題がない。

 

 だが時間がかかればそれだけ負荷が立香にかかる。チラり、とその姿を盗み見る。表面上は立香は真面目な表情を浮かべている―――果たして、本当に大丈夫だろうか? 正直、心配はしてあげられるが、専門ではない。そもそも()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだから。そう考えると自分自身でも相当やらかしているな、と呆れてくる。それはそれとして、ザコの相手をするのも面倒だ。

 

「強引に突破するか?」

 

「うーん……帰りの心配はしなくてよさそうだし、そっちのがいいか。じゃあノッブとオリオン交代で。一発でかいのぶち込んだら強引に突破するからクーニキと先生で前衛お願い」

 

「おう、任せな」

 

「そんじゃ働きますか」

 

 大戦斧へとシェイプシフターを変形させ、マントラを唱えて身体能力を上昇させる。クー・フーリンも魔槍を構え、突貫の姿勢を見せる。そんなこちらに立香から魔術による強化支援が入り、オリオンが巨大な弓から月光の砲撃を放って隙を生み出した。それを感じた瞬間に足元を蹴り、一気に前へと飛び出して骨の群れを消し飛ばしながら中央に道を作った。

 

 

 

 

 数は確かに多い―――だがザコだ。そこまで苦しむことはない。強引に中央突破してしまえばあとはこっちのものだ。長く、永遠にも思える通路を駆け抜けて行けば更に魔霧は濃度を増してゆき、それこそ魔力を吸い上げられそうになる濃度へと上がって行く為、迷うことなく霧払いしながら立香を運びつつ進んで行く。その結果、いよいよ逃亡の終わりが見えてくる。

 

 やはりそれはどこか見たことのある光景だった。

 

 巨大な空洞の中央には盛り上がった山のような場所があり、そこには巨大な蒸気機関が鎮座していた。黙々と魔霧を生み出すその巨大な蒸気機関はこのロンドンに災厄を生み出していた犯人であり、

 

「―――良くぞここまで到達した。いや、流石か。もしくは当然ここまで来たと言うべきか。冬木の頃は歩くだけでも苦労していたのが良くここまで息もつかずに敵を滅ぼし、やってきたものだ。その成長性には驚きを通り越して呆れを覚えるぞ。我らが悪逆の形に抗う者たちよ」

 

「呆れるのはこっちだ。相変わらず御託を鬱陶しく並べる連中だな」

 

 そう言って、モードレッドは敵意をインバネスコートを着た、青髪、オールバックの男へとクラレントと共に向けた。油断することなくこちらも武器を構え、おそらくはこの特異点に関する黒幕に対して警戒を見せる。男の手には聖杯はない。となると隠しているのか、或いはあの巨大な蒸気機関の中にあるのか、それが判断できるまでは容易に手が出せる状況ではなかった。

 

「お前が……黒幕か?」

 

「然り、私はマキリ・ゾォルケン。この魔霧計画の最初の主導者である。この特異点―――第四特異点を破壊する役割を王の名の下に遂行する一人の魔術師だ」

 

『マキリ・ゾォルケン―――冬木の聖杯戦争における御三家の一つね。間桐、マキリ……とんだ言葉遊びね。まさかこんなところで見るなんてとてもだけど思わなかったわ。それに王と言っている辺り、こいつもレフの一派なのね』

 

 となると出来れば情報を引き出したいところだが―――それを話そうとする意思がマキリには見えなかった。

 

「あぁ、見えるだろう? アングルボダの姿が。アレはすでに暴走状態にある。現在ロンドンでは急速に魔霧が濃度を活性化しつつある―――そう、それこそ今のこの濃度が比にならないレベルでな。そしてそうすれば間違いなく強力な英霊が召喚される」

 

「お前の目的は―――」

 

「―――語るに及ばず。この特異点の破壊のみ。増しつつある濃度。この魔霧を活性化させられる英霊が出現すればこのイギリスそのものが消し飛ぼう―――そして私は既にその到来を確信している―――」

 

「―――お前、うるせぇわ。オレ以外がブリテンを滅ぼすって正気かてめぇ? やらせるわけねぇだろ」

 

 赤い稲妻をモードレッドが纏った。灼雷はスパークしながらマキリに対するモードレッドのいら立ちを明確に証明しており、どれは同時に避けられない戦闘を示していた。もはやここから先は激突するのみ。そして聖杯もマキリの意識の向け方からもはやあのアングルボダという蒸気機関に接続されている事実も確定した。それならば、もはや遠慮する必要はない。

 

「Take that you fiend―――!」

 

「先制攻撃ってな」

 

 マキリが動き出す前に迷うことなくクラレントから灼雷が、そして梵天よ、死に狂え(ブラフマーストラ)が放たれた。一瞬で閃光と爆熱に飲み込まれた中から、人の姿を捨て巨大な姿が出現した、それはもはや見慣れた感じのある黒い肉塊の柱、大量の目玉が生理的嫌悪を生み出す冒涜と獣の刻印を刻まれた悪魔だった。体の中の獣性がこいつを食らえ、と本能的に叫ぶことを感知する。

 

「七十二柱の魔神が一柱。魔神バルバトス―――我が願うは悪逆、そして狂乱の檻に囚われし星の開拓者―――」

 

『気を付けろみんな! そいつは英霊召喚の一節だ! 急いで倒さないと英霊を呼ばれるぞ!』

 

「んじゃあわしの出番じゃな!」

 

 巨大化したマキリが醜悪な魔神柱の姿へと変貌したそれに対して信長の神性特攻宝具が発動する。全裸マントというどうしようもない恰好なのだが、オリオンがそのまま大地に転がってぐだぐだし始める姿を見れば、それが宝具としてはどれだけ強力なのは見て取れる。それと同時に浮かび上がる三千丁の火縄銃を一気に連射させ、マキリ―――バルバトスの体に砲撃を躊躇なく叩き込んで行く。しかし展開していた対神宝具を即座に信長は解除した。

 

「なんじゃこれ? 神性特攻が刺さらんぞ。となるとあんまりわしの相性の良い相手じゃないの。マスターよ、交代じゃ!」

 

「チェンジオーダー! ノッブを生贄に、カルデアから謎のヒロインZを場に召喚する! 皆、アングルボダを巻き込まないように最高火力で一気に消し飛ばすんだ! っ、マシュ前へ!」

 

「はいっ!」

 

「マスターの呼び声に私が見事フハハハーンなとう―――うわぁぁぉ!?」

 

 立香が叫んだ瞬間、閃光と押し寄せる大河が呑み込まんと広がったが、直後マシュの展開した仮想宝具の存在によって一気に押しとどめられ、安地を生み出す。そこに飛び込んだ瞬間、火力を一気に高めあげるために自身に対するフルエンチャント、フル強化を一瞬で完了させ、

 

「はぁぁぁ、あ!」

 

 マシュの気合いの方向とともに障壁が敵の攻撃を押し弾いた。その瞬間、一気に飛び出した。左右バラバラに展開しながらもアングルボダを巻き込まないように武器を輝かせながら、クー・フーリンが対軍規模で分裂する魔槍を放った。エミヤが投影済みの聖剣を矢として一斉に放った。アルトリアがロンゴミニアドを光に変えて投擲した。オリオンが月光を力へと変えて一気に収束して放ち、モードレッドがアルトリアに合わせてクレラントから灼雷を放った。それに合わせ、邪魔になる魔霧を霧払いで吹き飛ばし、宝具にささげた魔力の減衰を無効化する。

 

「早すぎ―――る―――!」

 

 バルバトスの体に大量の穴が穿たれ、一気にぼろぼろになる。それこそ哀れと表現できるレベルで。一切の容赦なく爆撃のように連打される大規模殺戮級の宝具の雨の前に。バルバトスの巨大な姿が一瞬で削れて行く。それをありえないものを見るように目を見開きながらバルバトスが砕けて行くが、

 

「―――一体、何回お前らと戦ったと思ってるんだ」

 

 そう、立香が言った。

 

「ローマで、オケアノスで既に戦ってるんだ。シミュレーターでもデータで再現して何度か訓練だってしてるんだぞ。そりゃあ慣れる訳じゃないけどさ。それでも何度も勉強して、対策を考えて、戦い方を相談しながら間違えないようにやってるんだ―――これぐらい、当然だよ。俺たちは負けられないんだから」

 

「―――」

 

 バルバトスがそれ以上の言葉を話せるようなことを許すことなく、そのまま一斉に宝具火力を叩き付け、欠片さえも許さずにバルバトスの姿を消し去った。それによって漸く、ロンドンからすべての敵の存在を排除する事に成功した。警戒を残しながらも、ほっと息を吐いた。これで第四特異点もなんとか無事に切り抜けた。

 

 そう思った直後、

 

「―――いいえ、まだです! モードレッド!」

 

「任せな父上!」

 

 アルトリアとモードレッドが既に動いていた。跳躍するように二人が真っ直ぐに向かうのはバルバトスの後方―――その姿によって隠されていた、魔霧の超濃縮体だった。すさまじいとまで表現できる濃縮された魔霧は英霊を召還する為に必要とする魔力をはるかにぶっちぎっており、それが英霊召喚と同じ反応を示すことは恐怖しか生まなかった。それをおそらくはアルトリアとモードレッドが直感的に読み取ったのだろう。すでに二人は攻撃に入っていた。

 

「相手が完全に現界する前にケリをつけます!」

 

「震えろ、灼雷―――!」

 

 凄まじい閃光を引き連れながら一瞬でアルトリアとモードレッドが飛び込んだ。だがそれよりも早く、

 

 ()()()()()()()()()()()()()()

 

 魔力が一気に吸い尽くされた。ロンゴミニアドとクラレントが急速に光を失う。エミヤが投影した武器が一瞬で溶けた。急速に魔力を吸い上げられる感覚の中、心臓が鼓動をうちながら急速に魔力を充填し、枯渇と供給による苦痛が肉体を駆け巡るも、次の瞬間には予想できる事態に備えてマントラを唱えながらチャクラを更に活性化、迎撃へと入れる様に限界駆動する。体が悲鳴を上げるのを無視しながら無理やり動く。マシュと立香は―――大丈夫だ、シールダーの防御力は伊達じゃないらしい。となると心配するのは自分自身のみ―――。

 

「ごめんなさいマスター、()()()()()よ、気を付けてね……」

 

 直後、すべての空気が震えた。閃光が全てを満たした。芯まで響くような衝撃と激痛に耐えようとした体が一瞬で吹き飛ばされ、衝撃から一瞬だけ視界がホワイトアウトする。激痛を感じながら背中に衝撃、吹き飛ばされ、転がりながら壁に叩きつけられて動きが止まり、血反吐を吐きながらその声を聴いた。

 

「―――人類史に雷電神話、降臨」

 

 神経がショック状態の影響なのか、まともに動く事が出来ず、そんな肉体の代わりに、開く事の出来ない目はしかし、相手の姿を捉えた。魔霧は収束し、一つの英霊の姿を生みだしていた。其れは英国紳士風の男でありながら、雷電を纏い、その存在感だけで破壊を撒き散らす、狂化を付与された英霊だった。

 

「即ちニコラ・テスラ参上である!」

 

 高らかに宣言した直後、雷電が再び空間に満ちた。




 雷電王降臨であった。4章も漸く終わりが見えてきましたなー。なんだかんだでオルレアンで8話、ローマで19話、オケアノス8話、そして現在ロンドン12話目、となんかパターンはいってきた感じで。

 5章はどう見ても話数インフレが見えてるんだよなぁ……インド的に考えて……。

 一部読者が「こんな戦い方で最終決戦助けてくれるのか?」と疑ってるけど、それでもてんぞーは確殺教を止めない。敵を喋らせる前に殺さないと安心して眠れない!! 実際にバルバトスマキリとか喋らせているとその間に召喚詠唱してたしね。やっぱり最速で殺すのが正義。

 なおチェンオダは仕様変更によって現在連れている英霊をカルデアの英霊とノータイムで交代する魔術となった。

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