Vengeance For Pain   作:てんぞー

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鏡写し - 6

「―――聖杯の探索を行う前にヘルタースケルターを始末したほうがいいと思うんだ」

 

「妥当な判断だな。Pとかいうアホを始末したけど、アレがいる限りどう足掻いても探索の足を潰されるのは目に見えてるからな。まずは相手が数を揃えているならその元凶を潰しとかねぇと後々背中を取られてめんどくせぇし」

 

「おや、無駄に賢そうな事を言っていますね、この子は。もしかして少しでも内申点を上げようとしているんでしょうか? あさましくあざとい……モードレッド、マイサン……今からキャラ転向を始めても遅いんですよ……」

 

「ち、父上ぇー!」

 

 相変わらずペンドラゴン家はネタに事欠かなかった。それはそれとして、少し真面目な話になるが、ヘルタースケルターの掃討に関しては賛成だった。少なくとも地下に聖杯があるとわかっても、それを求める時に地上から侵入した際、ヘルタースケルターの物量で一気に攻められたら割と真面目に辛い。いや、戦闘自体はそうでもないが、問題は立香が激しく損耗する事だ。この中で唯一、英霊スペックではないのは立香だけなのだから。だから優先度は高いと言える。

 

「問題はどうやって、よねー。ぶっちゃけこの霧の中で探すのって難しくない?」

 

 そう言いながらも、アルテミスの視線がこちらへと向けられる。流石に待て、と言う。

 

お前ら(英雄)じゃねぇんだから流石にそこまで便利にゃあ出来てねぇよ……まぁ、強風で魔霧を吹き飛ばす事はできるけど、それでもロンドン全体なんてできねぇぞ? それに魔霧の中に相手が隠れているって保障もねぇ。まずは確実に相手を倒す手段を考えてくれ」

 

「うん、まぁ、そう言われたらそうなんだけどねぇー……私も本来の力が出せたらパパー! と終わらせちゃうんだけどなぁー」

 

「やめてください。いや、ほんとやめてください。マジでやめてください。シャレにならないんでほんと自重してくださいね。いや、マジで」

 

 オリべえの胃が今度は犠牲になっている。だが物理的に胃が存在するかどうかさえも解らないので、これはまぁこれでいっか、という感じで犠牲になるオリべえを見送る。それはそれとして、どうやって魔霧に対処し、ヘルタースケルターを対処するか考える。すでに今までの調査でヘルタースケルターが指令を受けて動いている半自動的なロボットである事は理解している。その動力源はおそらくそれを製造した存在の魔力であり、そこから供給を受けているとも。それを逆探知できれば―――なんて、簡単にはいかない。

 

 なにせ、破壊されたヘルタースケルターは勝手に魔力に分解されるからだ。

 

 だから素材からではなく、魔術か、あるいは宝具によって生成されていると考えられる。

 

 ……ここまで解っていて探知が進まないのは一つ、魔霧に探知を阻害する力がある事、そして同時に相手も一か所で固まるほど馬鹿ではないだろう、とこちらの予想がある。ぶっちゃけ、探し始めたら逃げるだろうという確信があるのだ。

 

「めんどくせぇなぁ。マーリンの奴はいねぇのかよ」

 

「引きこもりのことは忘れなさい。とはいえ、今は彼の存在が欲しいのは事実ですね……ケルトの方でそういう事に関する知恵はありませんかクー・フーリン」

 

「あぁん? まぁ、原初のルーンを使って大まかな位置を探すってのが俺の限界だな。その原初のルーンでさえキャスタークラスじゃねぇから十全に使えるってわけじゃねぇから、マジで方向って程度しか解らねぇだろう。こういうの、スカサハならまだ、なんかやり口があったんだろうがなぁ……正直俺はそれ以上はできねぇぞ」

 

 それができるだけでもかなり上々だとは思うのだが―――シェイクスピアとアンデルセンは書斎を占領、引きこもって一向に出てくる気配すらないし、沖田は期待するだけ無駄だ。ナーサリー・ライムにもそういう類いの技能があるようには思えない。直感がもう少し能動的に使用できるスキルだったら探せたのかもしれないが、そういうスキルじゃないから考察するだけ無駄だ。

 

『―――どうやら難しく考え過ぎているようだな』

 

「あ、教授」

 

 手段を考えていると、立香の声とともに新たなホログラムが映し出されるのを見た。そこに表示されているのはエルメロイ2世の姿だった。そういえば彼の霊基は現在、孔明という歴史に名を遺した大軍師だった事を思い出す。これは一つ、良い知恵が出るのではないか? と軽く期待が持てる為、エルメロイ2世ヘと集中する。

 

「なんか作戦でもある?」

 

『あぁ、あるぞ。最も作戦と呼べるものでもないがな』

 

 それは、

 

『―――ゴリ押しだ』

 

 えっ、と誰かが声を零すが、葉巻を咥えたエルメロイ2世はそれに気にする事もなく、そのまま話を続ける。

 

『確かに相手のサーヴァントや状況を警戒し、慎重になるのも大事だ。だがそれはそれとして、慎重な安全策ばかり選んでいると逆にその隙を突いて相手の動きを許してしまう。こういう状況は逆にマンパワー任せに強引に押し通すぐらいが安定する。先ほどランサーのルーン魔術で大まかな方角は解ると出たのだろう?』

 

 なら話は簡単だ、とエルメロイ2世は告げる。

 

『アヴェンジャーで魔霧を霧払いしつつランサーのルーン魔術で探知、襲い掛かってくるザコは他のサーヴァントで護衛しながら排除すればいい。ぶっちゃけた話をするが()()()使()()()()()()()()()だという事を忘れるな。相手が相当凶悪なハメ能力でも持っていなければ、少しミスをしても数と質ではカルデアがかなり上だ、それこそ今まで何度も聖杯もちの英霊と戦って勝利してきた程度には―――恐れる必要はない、我を押し通せ』

 

 ホログラムがロマニのものへと切り替わる。で、どうかな? と問うてきた彼に対して、うん、と立香が頷いた。

 

「―――カルデア最高最悪の暴力によるゴリ押しを見せてやる……!」

 

 

 

 

「―――はい! という訳で第一回! 倫敦ヘルタースケルターの親玉を狩り殺せゲームを開催いたしまーす! 司会と実況は無能! 無職! 無価値の3Mがつくオリべえです。今回の大会のスタッフには探索担当のランサークー・フーリンくん、そして霧払い担当で最近扇風機というあだ名がついたアヴェンジャーくんです」

 

「どうもよろしく殺します」

 

「まぁ、たまにゃあ茶番も悪くねぇけど……おい、なんか全体的にガチじゃねーかこれ?」

 

 ラジカセから軽快な運動会っぽい音楽が流れ始める。クー・フーリンとともに文句を言いつつも、探知と霧払いを始める。広範囲に魔霧を吹き飛ばすため、魔力を継続的に消費されるのと同時に強風が発生し始める。それによってロンドン中央から魔霧が排除される。範囲は広くはないが―――弓兵が視界を得るには十分すぎる広さではあった。そんなわけで、立香の護衛であり運搬係であるマシュ、サポート担当の自分とクー・フーリンを抜いた残りの三騎、

 

 信長、エミヤ、オリオンがやる気満々だった。オリオン(アルテミス)に至っては何やらオーラさえまとっており、服装も白から赤へと色変わりしていた。どこからどう見ても本気の姿だった。おそらくオリべえにいい感じにおだてられてしまったのだろうか、これはいい悪夢が見れそうだなぁ、と思いつつ霧払いを開始する。オリべえがそれではー、と声を置く。

 

「エントリーナンバーワン、序盤はカルデアでお留守番中だったエミヤさん、今回の準備と必勝の策をお願いします」

 

 オリべえの言葉に見たまえ、とエミヤが腰の矢筒を示す。ドラゴンの逆鱗を使用した矢筒は中に宝具から変形された矢が消耗される事なく中に維持され、込められていた。

 

「見ての通り、これが私の必勝の策だ。カルデアにいる間にちょくちょく固有結界を展開、その内部で精錬した聖剣を使い捨て可能な矢としてストックしてある。ダ・ヴィンチ女史と食堂アルバイトの報酬で交渉した結果、私の貯蓄を崩してこうやって、固有結界外でも上位ランクの魔剣や聖剣を維持する礼装を用意させてもらった―――固有結界なしでも今の私は対軍、対城クラスを連射するぞ。まぁ、見ていたまえ。最後に勝つのは私と決まっている」

 

「クッソガチな説明ありがとうございました。えー、それじゃあ次! 信長さん! 戦術と意気込みをどうぞ!」

 

 オリべえが小型マイクを片手に信長へとインタビューをする。信長の周囲には火縄銃が大量に浮かび上がっており、いつでも発射可能な状態となっていた。それこそ一つの軍隊を相手にするというレベルで展開されており、どこからどう見ても戦争の準備としか思えないレベルでの展開だった。

 

「わし、焼き討ちさえ気を付ければ割と無敵じゃからな! 日ノ本に轟かせた魔王の三段撃ちを星になったおき太の代わりに見せちゃる」

 

「星になってねぇーから。ただ、物量ってのはいちばんシンプルな暴力だよなぁー。あー……はい、次次。次どうぞ」

 

 オリべえのゲンナリとした声に反応するようにオリオンが楽しそうに笑う。漏れ出している女神のオーラが超ハイテンション状態に彼女が突入していることを証明していた。

 

「ダーリンに頑張って! 愛している! 優勝信じているからって言われたら本気を出さなきゃもうこれは罪よ罪! だってほら、私ってばやっぱり良妻だし? ダーリンの前では乙女的には頑張らないといけないと思うしキャー! これでダーリンも増々私に入れ込んじゃうどうしよう、ケダモノ―――!」

 

「オリべえお疲れさん」

 

「なんで人理焼却に抗っている合間に俺、こんな目に合ってるんだろうなぁ……」

 

 オリべえの切実な願いを無視しつつ、ルーン魔術が探し人を示した。それは一つの方角を示し、そしてそちらへと向かって大きく腕を薙いだ。それに反応するように魔霧が一気に吹き飛ばされ、街中を進んでゆく大量のヘルタースケルターの姿が見えた。Pと名乗るキャスターを始末した影響か、オートマタやホムンクルスの姿は見えず、その代わりにおぞましい数のヘルタースケルターが一斉に走りまわる姿が見えた。その姿を見ながら立香が口元にホイッスルを運ぶ。

 

「―――第一回、ヘルタースケルター狩り大会開催! 優勝者には願い事をカルデアが叶えられる範囲で叶えます!! ちなみに宝具を使った本人を倒すと100点だよ! ザコは一律1点!」

 

 英霊たちがめっちゃやる気を出した。それをクー・フーリンとオリべえと愛歌で横に並んで眺める。ドン引きするぐらい精密で、そしておぞましい虐殺が始まった。まず最初に浮かび上がった信長の無数の火縄銃がその銃口からレーザービームを射出し、一気にヘルタースケルターを蹂躙し始める。そうやって粉砕されたヘルタースケルターを壁にしながら新たなヘルタースケルターが出現すると、エミヤが聖剣矢を放った。空間を跳躍して放たれる矢はヘルタースケルターを貫通するとそのまま次のヘルタースケルターへと跳躍、矢となった刀身そのものをすりおろしながらも貫通とランダム跳躍を繰り返しながらひたすらヘルタースケルターをワープしつつ殺しまくり、物陰に隠れようとする個体を隠させる事もなく消し飛ばす。

 

 そして何よりも酷いのがオリオンだった。というかやっている事が完全にアルテミスだった。魔霧が晴れた青空、まだ昼間だが―――()()()()()()()()()()()のだ。そして月光そのものが収束し、サテライトレーザーとして宇宙から落ちてくる。むろん、頭上からの攻撃に対して逃げられる場所がなく、路地裏に逃げ込んでも()()()()()()()()()()()()()()()()()()為、実質逃げ場などなかった。

 

『これ以上なく暴れてるわねぇ……まぁ、エミヤに関してはどこか、必死さすら感じるのは何故かしら。そうじゃなくてもほかの二人も割とテンション高いわねぇ……』

 

 ドン引きする程のガチっぷりだった。お前ら、もしかして奥の手とか使ってない? って言いたくなるレベルの殲滅力だった。

 

「っと、ガンガン進んでくな。おい、アヴェンジャー」

 

「あいあい、解ってる」

 

 屋根から屋根の上へと移動するように跳躍し、それに合わせて魔霧を払う。それに合わせてクー・フーリンが索敵を行い、大まかな方角を示す―――やはり、動いている。どうやら此方が強引に探しに来ているというのが伝わっているらしい。とはいえ、移動がやや遅く感じられる。これは、詰めれるな、とほぼ直感的に判断する。

 

「―――優勝し、あの無駄飯ぐらいに食糧制限を……!」

 

「えぇぃ、優勝しわしが平蜘蛛礼装を作ってもらうんじゃぁー!」

 

「ダーリンが二度とほかの女に手を出せないように監禁するための礼装を用意してもらうわ!」

 

「あの、マジで俺のためにも勝ってください。ほんとお願いします」

 

 オリべえの必死な声を聞きながらも、ロンドンの街へ、この軍隊を指揮する存在を討伐する為に一気に飛び込んだ。




 そう、それはすなわちゴリラ戦術。ゴリラのごとくたくましく正面からなぐり殺せばええねん! それだけの話である!

 フランとの関係? 迷い? 知るかぁ! 死ねぇ! な平常運転のカルデア。悩む前に殺せ、殺してから悩めのひどさ。やっぱり敵は確殺するのに限る。

 次回、バベジン惨殺。なおモーさんは護衛の関係でハウスであった。

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