Vengeance For Pain   作:てんぞー

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霧の中へ - 3

「―――沖田さん大勝利ー!」

 

 三十を超え、そして増援が投入されまくったヘルタースケルターと呼ばれた小型ロボット、そしてそれに続くように出現したオートマタにホムンクルスとの連戦はこちらの無傷という完全勝利で終わった。アルトリアがいるのが理由なのか、モードレッドは疑う事無く最初からこっちの味方をしていたが―――何度も何度もチラチラと視線をアルトリアと沖田へと向けていたのが解る。そうだよな、そりゃあそうだよ。気になるよな、それは。それはそれとして、沖田がまた吐血してる。

 

「ち、父上っぽいのぉー!」

 

「ふふ、戦闘中は調子が良かったんですけどねー。私はもう……駄目みたいです……」

 

「父上っぽいのぉー!」

 

「はーい、ユア・ファーザーはここですよ」

 

 モードレッドが胸を張るアルトリアへと視線を向け、アルトリアが胸を軽く揺らした。それを見たモードレッドが揺れるそれに合わせて視線を上下させてから、自分の鎧に包まれた胸元へと視線を向け、そして視線を沖田の胸へと向けてから、

 

「父上ぇ―――!」

 

「おい、ドラ息子。今どこを見て判断したんですか。円卓は揃いも揃って貧乳主義者か。殺すぞ。大きくたっていいじゃないですか! 私だってカリバー捨ててロンゴミニアド握ってればちゃんと成長してこんなだったんですよ!」

 

「いや、だって父上って呼ぶにはなんかメスっぽすぎるし」

 

「ここでまさかのマジレス」

 

 オリべえがまた胸って単語に反応してオリオンに紅葉おろしにされている。女に対する欲望がお前はほんと尽きないなぁ―――だからヤンデレに捕まるのだ、なんてことを思っていると妖精からの視線が突き刺さる。なんだ、言いたいことがあるなら素直に口に出せよ、と思っていると背中によじ登るだけで無言を貫く。それが逆に怖い。そういえば、なんだかんだでこいつに関しては何一つ思い出せていないんだよなぁ、と少しだけ、申し訳なさが湧いてくる。

 

『ま……それは仕方のない事だし? 時は近づいているわ。私はそれを祈って待つばかりよ。ここまで来たら後は祈る程度しかできないし―――祈る神様がいないってのが皮肉よね』

 

 神を否定する者が祈りという行為を行う。確かにそれは皮肉だ。しかし今はそれを考えない。それ以前にやることがあるからだ。とりあえず義眼を失ってからコツコツと組み上げていた探査魔術を発動させ、レーダーのように周囲を軽くスキャンする。感知するのは動態反応がメインとなる。それによって素早く情報が脳へと返信され、敵の接近を告げてくる。

 

「まだまだこっちに向かってくる一団があるな」

 

「あぁ、連中は家の中に引っ込んでれば手は出さねぇけど、こうやって通りにいるのが見つかると周囲のが一気に襲い掛かってくるからな」

 

「まるでアクティブ連鎖するネトゲのモンスターだなぁ……」

 

『と、言うよりはリンクと援軍要請するガードメカに近い機能だと思うよ』

 

 相手がロボットである事を考えると納得する性質ではあるが―――なんというか、微妙に近未来を感じる話でもあった。今回のロンドン特異点は1888年の特異点となっている。今までのもっと昔の時代、科学がほとんど発達していない時代の出来事ばかりだった。だが今回、ロンドンは明確に近代といえる時代であり、尚且つ出現してくる敵の姿が魔術、そして科学を融合したような存在だった。ホムンクルスに関しては錬金術の分野。こういうのを敵として配置する以上、相手のサーヴァントの候補はある程度絞り込める。科学に傾倒した魔術師や錬金術師、あるいは近代で科学により歴史に名を遺した偉人だろう。虚ろの英知で軽く検索した結果、ヒット情報が多すぎるのでここでの推測はやめる。

 

「まぁ、オレも色々と聞きたいことがあるし、そっちも聞きたい事があるだろ。とりあえず連中をぶっ壊したって事は敵じゃねぇんだろ? メスっぽい父上と桜色の父上っぽいのもいるし、一旦オレが拠点にしてる場所に来ないか? そこでならゆっくりと話せるぜ」

 

「あ、マスター。コレには騙すとかハメるとかそういう概念が存在しないので疑う必要はないです。ある意味そういう点においては信用できます。ただ貧乳なので人類としては少し可哀想です」

 

「お、カムランリターンズかな?」

 

「せーんーぱーいー?」

 

 マシュと立香の姿を眺めていると、あの二人が付き合った場合、将来的に絶対に尻に敷かれるだろうなぁ、というのが容易に想像できた。なんというか、オリべえ&オリオンに近いものを感じていたりする。カルデアでは基本的に女性優位というか女性側のキャラが強すぎてどうにもならねぇな、というのが感想だった。まぁ、それはどうでもいいのだ。この先、男のサーヴァントさえ増えればきっと、解決する問題なのだから。

 

 それよりも問題はモードレッドに従ってついて行くかどうかという事だったが―――これまでの特異点探索の上で、毎回と言っていいレベルで序盤に案内役となるサーヴァントと出会うことがあった。それをある意味、機能していない抑止力の最後の力だとカルデアでは解釈している。その為、こうやって出現したモードレッドが今回、その役割を持っているのだと判断し、

 

 ―――モードレッドと行動する事にする。

 

 

 

 

「此方が円卓で有名なアーサーの真実の姿で実は女性で名前はアルトリアといった上にIFなエクスカリバーではなくロンゴミニアドを握って体が成長した上にロンゴミニアド二刀流をしているアルトリア・ペンドラゴン・アサシン、通称謎のヒロインZです」

 

「……はい」

 

「そしてこちらがアルトリアと全く同じ顔なだけで属性も生まれも育ちもまるで違う上に面識すらなく本当にただの他人で極東の侍で新撰組の天才の沖田総司で特技は場所を選ばずに吐血する事です。あとついでに天才で欠片も容赦がないので容赦なくスパっとやります」

 

「……うん」

 

「そして此方がオリべえ&オリオンとかいうオリオンの霊基を奪ったうえで神性を蹴り棄ててオリオンの代わりに現界してきた女神アルテミスでその余ったリソースにマスコットの様に詰め込まれたオリべえくんが本当のオリオンで、ヤンデレミスがオリオンに対する拘束力の高さを愛で見せてるけど基本的にオリべえがクズなのでいつも粛清されているけど楽しいので基本的にオリべえ&オリオンな方向性で」

 

「……はい」

 

「そして此方がケルトで幾人もの女を孕ませた上に運という概念から見放されているスーパーケルト英雄のクー・フーリンさん。ただし聖杯戦争というシステムからは毎回不遇の扱いを受けて馬車も剣も没収された上に定期的に夢の中でヤンデレなお師匠様に狙われているらしい、命的な意味で」

 

 それを聞いたモードレッドと、もう一人、ヘンリー・ジキルと呼ばれた青年は動きを完全に停止させて、そのまま四人で戦隊モノポーズをキメるフランクすぎる英霊たちの姿を見て、そしてもう一度天井を見上げ、確認するように視線を英霊へと戻し、それから視線を立香へと向け、サムズアップを返された。それを受け、ヘンリーがこれ、どうしよう……と言わんばかりの表情を浮かべた。

 

『まぁ、伝説に見る偉人や英雄の姿がこんな残念な集団だと思うと嘆きたくなる気持ちも解るわ。しかも何をしているかと言うと人類史の修復よ? 人類というレベルでの救済を行う旅なのよこれ? 一応人類でこんなレベルのことを行うのは初なのよ? 平行世界の類でさえこんな大事には突入した事がないわ。なのにそれを手伝っている連中がこんなだったらそらそうなるわよ』

 

 まぁ、今回のメンツが愉快すぎるのも解る。とりあえず、

 

「アルトリア、沖田、モードレッドって順番で並ぼうか」

 

「……おう」

 

 困惑するモードレッドを引きずって三人を横並びにし、ほかの全員で正面に集まり、ひざを曲げて角度を変えたり、横から眺めたりして、三人の比較を行う。改めて三人そろってそっくりだ。本当に、そっくりだ。

 

『モードレッドはアルトリアをベースに作成したホムンクルスみたいなものだから似ているのも当然だわ。……沖田やネロに関しては完全に神の悪戯と言えるものね。ダークでソウルなのを遊んでいる創造主とは別の話ね。原稿、書いているかしら……』

 

 何を言ってるんだお前は。

 

「……世の中、同じ顔が一人はいるといわれているけどこう見るとねぇ……?」

 

「ほんとそっくりさんだな。これでまったくの無関係だってから逆にすげぇ」

 

「まぁ、むさくるしい顔はともかく、美女が増えるならそれだけであ、今日は締め上げるのが早いっすねぇぇぇ―――!!」

 

「オリべえったらほんと芸人ね」

 

 オリべえとランスロットの爆死芸に関してはもはや様式美という部分さえある。戦力が減るとか以前に、もはやノルマとして死亡することが確定しているような気さえする。まぁ、それは比較的どうでもいいのだ。数時間後に復活するし、使用した令呪も1日経過すれば1画だけだが復活する。回収可能なリソースなのだから。

 

「―――まぁ、こんな風に過去の偉人や英雄に助けを求めながら、特異点と呼ばれる時代の問題を解決するのが俺達カルデアだ。割とふざけてる部分は今はあるけど、やるときはちゃんとやるし、既にほかの特異点で聖杯も三つ回収している。俺達の目的はこの時代を乱す()()()から聖杯を回収して元に戻す事だ。そうすれば現在ロンドンを襲っている問題がすべて解決する」

 

 ギャグやジョークを挟みつつも、しっかりと状況の進行を行った立香は段々とだがこのイロモノサーヴァント集団の扱いというか統率にも慣れてきたようで、どこか貫録を見せ始めている部分がある。こうやってモードレッドをダシに使って遊びながらしっかりとヘンリーと話を進める辺り、実に成長性を感じさせる。それを受けてヘンリーが頷く。

 

「うん……此方としても願ったり叶ったりだ。正直な話、やりたい事とやるべき事、そしてどこから手を付けていいか解らないって部分があって人手が足りなかったんだ。セイバーは、その、控えめにいうと肉体労働なら頼りになるんだけど……」

 

「あ゛ぁ゛!? オレが馬鹿だって―――あいたぁっ!」

 

「こらモードレッド、相手が思っていないことを曲解して受け取るその無駄にひねくれたクソ叛逆思考をやめなさい。というかそういう思慮が足りてない部分があるから後々困ったというのに死んでも反省していませんねこのドラ息子は」

 

「オレは叛逆のモードレッドだ―――あいたぁっ! また頭叩いたなメス上!」

 

「誰がメス上ですか、メス上。という前々から言いたかったんですけど叛逆とか明らかに褒められるタイプの名前じゃないクセになんでそこまで誇らしそうな表情で言い切るんですか」

 

「仲いいなー。あー……俺もコンラに会いてぇなぁ……」

 

「クー・フーリン殿が予想外の流れ弾に殺されておられる……!」

 

 クー・フーリン、ついに物理的にだけではなく、精神的にも殺され始める。というかケルト文化はゲッシュの誓いがクソとしか表現できない。ゲッシュを誓わなければ力は手に入らないのに、それを利用して殺しに来るのだ―――世紀末神話ケルト、とか密かに言われていたりしても納得できるというものだ。

 

 それはそれとして、

 

「ジキル氏はその様子だと調べたい事が複数あるようですが……」

 

「ヘンリーで結構だよ、ミス。だけど……うん。実は同じロンドン内の協力者や友人と連絡を取り合っていたんだけどね、最近霧―――僕はこれを魔霧と名付けて呼称しているんだけど、それが深まってから連絡を取れなかったり、怪異が発生したりで動き回れないなんてケースが発生しているんだ。その調査や連絡で出歩きたいところなんだけど―――」

 

「お前みたいに青白いひょろいのに外を歩かせるわけねぇだろ」

 

「という事でね。正直今は手が欲しかったんだ」

 

 モードレッドの言葉にヘンリーが肩を揺らした。その姿を見てモードレッドの後ろからアルトリアがほうほう、と声を漏らしている。地味にウザイ。それを無視してヘンリーが話を進める。

 

「現在のロンドンで大きく発生している事件は三つまで絞り込める。一つ目は空気中に大量の魔力を含むこの濃霧、魔霧。これは人が吸い込むと臓腑が腐って死に至る毒だ。次に通称切り裂きジャックって呼ばれる通り魔殺人鬼。そっちに関してはセイバーの方が詳しいからそっちから聞き出して欲しいかな。そして最後にヘルタースケルターをはじめとする人造生物たちの巡回。まるで何かを探したりするかのように常にロンドン市街を歩き回っているんだ。まぁ、この内、今の僕たちに明確に対処できるのは巡回をしている人造生物たちの討伐ぐらいだったんだけど……君たちが来てくれたおかげでその状況も大きく変えられる」

 

 うん、と頷きながらヘンリーはカルデアの様子を伺い、話を続けても大丈夫か確かめる。なんというか、気の弱そうな青年、あのジキルとハイドの物語通りの人物かどうか、気になってくるものだ。

 

 話は続く。

 

「現在、僕が懸念する事は二つある―――一つはヴィクター・フランケンシュタイン氏と連絡が取れなくなった事だ」

 

「昨日まではちゃんと連絡が取れていたんだけどな、今日になって急に連絡が取れねぇ―――お前らと会わなきゃそのまま来てるかどうか、確かめに行く予定だったんだけどな」

 

「もう一つはソーホー。此方はソーハーにいる情報提供者からの情報だ。あっちは魔霧がこちらよりもかなり酷いレベルで濃くなっていて、それこそ一呼吸もすれば致命傷ってぐらいになっているんだけど……彼によればそんなソーホー内では浮かび、活動する本が目撃されている。僕たちはこれを魔本と仮称した。それはヘルタースケルターと違って()()()()()()()()()らしい」

 

 ヘンリーのその言葉を聞き、立香が頷く。

 

「どちらも緊急性の高い案件だね」

 

「うん。セイバーが後二人ぐらい欲しいと思っていたんだけど―――」

 

 視線が沖田とアルトリアへと向けられ、

 

「本当に叶っちゃったなぁ……」

 

 苦笑する声を聴きながらそうだな、と呟く。

 

「この人数だったら緊急性が高そうだし、二手に分かれるのも悪くはないだろうな。そもそも俺は藤丸とはライン繋いでないから自由に動けるし」

 

「なら私が付き合いましょう。最強のセイバーでありロンゴミニアド二刀流免許皆伝である私はアサシン霊基のおかげでかなり自由に動けますからね」

 

「相変わらずメス上の発言のインパクトが凄すぎてどう叛逆すればいいか解らねぇ―――だからとりあえずメス上とは違う方に行くか!」

 

「いやだから人をメス扱いやめなさいというか殴りますよこいつ」

 

 途端にモードレッドがなんか、子犬というかポンコツとかに見えてきた。まぁ、こんなカオス・アルトリアについていこうとしている姿はどこか健気というか、面白すぎるからいいのだが。ともあれ、そんな事でロンドンの街へと調査と情報収集の為に出歩くことになった。

 

「すまんなぁ、コンラ……俺が悪かった……いや……ほんとに……」

 

 クー・フーリンのトラウマを抉りながら。




 コンラはクー・フーリンの子、ゲッシュのアレコレでぶち殺してしまったというアレ。やっぱゲッシュはダメやね……。というか世紀末ケルト神話は家族でも躊躇なく殺しあうそのメンタルおかしいよ!

 メス上とかいうパワーワード。

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