Vengeance For Pain   作:てんぞー

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地獄のインターバル - 2

 燃えていた。

 

「酷いわ……こんなのってないわよ!! 酷過ぎでしょ! ないわよぉおぉ―――!!」

 

 泣いていた。

 

「はーっはっはっはっはっは、はーっはっはは―――はーはーっはっはっは!」

 

 ひたすら笑い続けていた。

 

「沖田。マルチでクエ消化すんの手伝ってくんね?」

 

「あ、ノッブじゃないですか。別にいいですよー」

 

 携帯ゲーム機でマルチプレイをしていた。

 

 上からコスプレしているエリザベート・バートリー、此方も白い衣装のネロ・クラウディウス、そしてカルデアに到着したばかりの沖田がノッブと呼ぶ軍服姿の女だった。その姿や背景はどれもバラバラながら、一つの共通点を持っていた―――つまり、この三人、今現在、どうしようもなくヤケクソだった。これ以上ないってぐらいにヤケクソだった。見ているほうが哀れになってくるぐらいにヤケクソだった。エリザベートに関しては号泣してた。ネロもネロで目の前の惨状を見ていてもはや笑うしかないという状態なのだろう。まぁ、その気持ちは解らなくもない。

 

 視線を完全にふてくされている三人から外し、その向こう側へと向ける。

 

 そこにあったのは炎だった。

 

 いや、城だった。違う、コロセウムだ。やはり違う。本能寺だ。

 

 ―――否、否、否。

 

 その全てである。

 

 チェイテ城にコロセウムが融合したうえで最上階が本能寺となっており、炎上していた本能寺の炎がコロセウムとチェイテ城に燃え移って盛大に大炎上した挙句、それが城下町にまで移って、ルーマニアとローマを融合したような景色が炎の海に飲み込まれてまさしく地獄としか表現できない光景が広がっている。まさしくカオス。もはやカオスという言葉しかその表現には見つからなかった。なんというか、本当にどうしてこうなってしまったのだろうという哀れさを感じずにはいられなかった。チェイテ城はエリザベートの居城、コロセウムはローマ文化の誇り、そして本能寺は―――なんだろう、本能寺炎上と言われると信長しか思いつかないが、まさかノッブとは第六天魔王信長のことなのだろうか? まぁ、どちらにしろ、

 

『これは酷い。うん……言葉にできないいろいろな酷さがあるわ! こう……具体的には説明やめましょうか! うん! 私にだって慈悲ぐらいはあるわ!』

 

「びぇぇぇぇええええん!!」

 

 号泣しているハロウィンっぽい衣装のエリザベートから一歩離れ、エミヤ、ダビデ、ロマニのホログラム、立香、マシュ、ブーディカの今回の遠征メンバーでスクラムを組みながら頭を合わせた。最後の一人の沖田は現在、ゲームのマルチプレイ故に不参加である。

 

「誰か慰めろ」

 

『アヴェンジャーくん無茶言うなぁ! 無理を言わないでよ! 流石のボクでさえコメントを控えるような惨状だよアレ!? というか何アレ? 特異点融合ってどういうことなんだ! というか女性のリードの仕方に関してはエミヤくんとダビデが一番上手だったからそっちにアドバイスを求めようよ! ね!』

 

 視線がエミヤへとダビデへと向けられる。当初はエルメロイ2世が求められたが、状況を理解した瞬間あの男は逃げて、その代わりにレイシフトにダビデを放り込んできた。状況を見るに、最適な人選だったとも言える。そしてそうやって視線を向けられた二人、エミヤははぁ、と息を吐き、

 

「悪いがあの娘どもだけは絶対に嫌だ」

 

「剣のような鋼の意思を感じる……!」

 

「あの二人が揃っている時点でまともな特異点なわけあるまい!! いいかね? 私は漸くカルデアという安息の地を手にしたのだ。それなのに月から続いてこの二人の面倒等見ていられるか……! 私は帰るぞ!」

 

「エミヤ先輩……」

 

 そう告げると逃げるように自殺した。これでどう足掻いてもしばらくは復元に時間がかかる為、特異点には参加できない。お前、そこまでネロとエリザベートが嫌なのか―――と思ったが、そういえばローマ特異点も最初はエミヤがものすごい嫌な顔をしていたのを思い出す。まさか、また別の聖杯戦争で面識でもあるのだろうか、あの男は。とりあえず自殺するレベルで嫌がるというのは理解できた。エミヤが使えないのならダビデだ。期待の視線がダビデに集まり。うん、と頷いた。

 

「―――めんどくさいから契約の箱を投げ込んじゃダメかな!」

 

「この駄ビデはほんと……」

 

 いや、だって、とダビデは言う。

 

「どこからどう見ても不安定な特異点だし、いっその事契約の箱をぶち込んで終わらせたほうが早くない? それに僕のセンサーによると地雷力1万の反応があるしね!!」

 

「うーん、この畜生っぷり」

 

 まぁ、だがダビデにいうことは解らなくはない。正直この状況、関わるだけ無駄というか、損をするというか、まともに相手をしたらそれだけ損をするという気がするのだ―――ぶっちゃけ、できることならスルーしたいというレベルで。ただそれが出来る訳でもないのだから困った話だ。その考えに、ロマニが追い打ちを叩き込んでくる。

 

『うん、そのね? 非常に残念な話をしようと思うんだ―――実はあの大炎上チェイテコロシアムから聖杯の反応があるんだ』

 

「へー」

 

『しかも2個』

 

「んんんん……! 初手対城宝具乱舞という手段が消えたぞぉ!」

 

「先輩、もしかして問題なかったら消し飛ばして終わりとか考えていませんでした……?」

 

 しかし聖杯が―――しかも2個もあるってどういう事だお月見特異点の時は聖杯がなかったので、突発(イベント)特異点の時は聖杯なしの気軽な休暇かと思ったのに、初手地獄とはちょっとこれ、酷すぎないだろうか。何かって明らかに準備して楽しませようとしていたというのがエリザベートとネロの姿から準備が見えているのが酷い。

 

 なんというか、普通に招待状が二人の横に落ちている。たぶん楽しみにしながら用意していたんだろうなぁ、と思う。その結果が、

 

『大炎上だからね。なんか、もう、乙女心がちょっとだけ垣間見えてる分、居た堪れないわ。同じ乙女として今回は笑えないかなー……』

 

「とりあえず……方針はどうする……?」

 

「ネロ公をとりあえず慰めておきたいんだけど……」

 

「あ、どうぞどうぞ。というか聖杯があるならこれ、確実に回収のために歩かなきゃダメだよね。ダメなんだよね? うん―――どう足掻いても魔界とかいうフレーズが似合いそうな世界になってきたけどこの通り、俺らには幸運のフォウくんがいるから大丈夫……!」

 

フォ()っ」

 

 逃げ出そうとするフォウを立香が片手で掴んで絶対に逃がさない、という表情を笑顔のまま浮かべている。こいつもかなり図太くなったなぁ、なんて思うが、実はその裏で割と何度もロマニやブーディカにメンタルケアを受けているものだから、割とキているのだというのはよく理解できる。ただこういう場でまだふざける事ができるのなら、限界はまだ先なのかもしれない。ともあれ―――そろそろ真面目な話をしよう。

 

「聖杯がある以上、悪用されない為にもアレは回収する必要がある。となると聖杯を回収するためにあの大炎上かぼちゃローマへと突入する必要があるんだが」

 

「うん、そうだね。僕でさえ目逸らしたくなる様な現実だね! ……だけどそもそも、原因はなんなんだ?」

 

「あ、わし知っとるぞ」

 

 そう告げる声に視線が―――エリザベートとネロの視線を含めた視線がすべて、沖田とマルチプレイ中の信長へと向けられた。本人は視線を携帯ゲーム機へと向けたまま、ガチャはクソ、とか呟いているが、

 

「いや、こう、登場は派手にやろうかなぁ? ってパクってきた聖杯弄り回してたらもう1個あったらなぁ! わし、並列直結させてトランなんちゃらしてセイハイライザーでもして遊ぼうかなぁ! とか思ったら聖杯がなんかノリで叶えちゃって。一応爆弾に改造してたんだけどなー」

 

『戦犯が発覚したようだね』

 

 ロマニの言葉とともに無言で武器を構えるエリザベートとネロ、そこに信長がいやいやいや、待て待て、と言葉を置く。

 

「ワシだってこれ被害者じゃろ!! わしだって本能寺がフュージョンして奥州並のパーリィーッ! するとか思ってなかったもん!」

 

「いや、どう考えても貴女が悪いですよ」

 

「あー! マルチから抜けたー!」

 

 沖田が縮地で逃げた次の瞬間にエリザベートとネロが信長を滅多殺しにし始めていた。その様子をカルデア勢で眺めてから、視線をかぼちゃコロシアム寺へと向けた。東西文化の悪夢のコラボを炎でデコレーションしているその景色は、前よりもさらに燃え上がりながら、いつの間にか幻想種の姿が増えているのが目撃できた。

 

「ワイバーン……ドラゴン……ウェアウルフ……ゴブリン……アレはドラゴンの亜種か? 無駄にバリエーション多いな。それにイビルアイもいるな。アレの邪眼は確か対魔力がないと英霊でさえ面倒なことになった筈だな。まるで幻想博物館のようだな……ん? 本能寺から生えてるアレ、魔神柱じゃないか?」

 

「もうやだこれ……」

 

 博物館というよりは幻想動物園と言った方が正しいのかもしれない。もしくは幻想のサバンナ。放し飼いにされた幻想種が自由、そのままの姿で元気に生きている。何が元気かというと現在、目の前、元チェイテローマ城下町で野放しになっている幻想種がついに共食いを開始した。ついに幻想戦国時代が開幕したらしい。種族でグループ分けしながら合戦さながらの戦争をはじめながら領地を奪い合い始めている。これが戦国時代の概念が混ざってしまった結果なのだろうか。

 

『あの狸っぽいウェアウルフが徳川ウルフで、それに従っている無双しているのが本田ウルフかしら。なんか見てたら段々と楽しくなってきたわね!』

 

 間違いなくそれは現実逃避だ。だが現実を見なくてはならないのも事実だ。つまり、聖杯が2個も叩き込んであるあの魔城にこれから、突入して聖杯を回収しなくてはならない。なぜだ―――なぜ、カルデアにはまともなアサシンがいないのだろうか。こんな時こそアサシンの仕事だろうに、肝心の隠密行動のできるアサシンがここには存在しない。それが今、極限まで辛すぎる。

 

「というかまずアレを突っ切って魔界タワーへと行かなきゃいけないのか」

 

「チェイテ城よ! 本当はハロウィン用に装飾してたのに!!」

 

「否、余のコロシアムである! 今一度お互いにぶつかり合い、確かめ合い、そして余が座で徹夜して作成した概念礼装も報酬として出す予定だったのだが!」

 

「見事融合してキメラ化してるんじゃけど」

 

 黄金のネロ像の頭の部分がジャック・オ・ランタンになっており、その中が本能寺の炎で満たされている。他にも頭がかぼちゃ化したキメラがいるし、スタンバっていたのか、英霊の霊基すら感じさせる。もう、観察すればするほどカオスが増えてくるのはスルメを噛んでいるような感じだった。一口目からお腹いっぱいなので正直、もう嫌なのだが。

 

「―――良し、中央突破はアルトリアの方が有利だ。俺と入れ替わりでアルトリアを呼び出そう」

 

「いや、逃がさないからね? 絶対逃がさないからね? 梵天よ、死に狂え(ブラフマーストラ)とかいう便利な雑魚掃討手段のある先生を逃がすわけないからね? ここに来た以上絶対に逃がさないからな、逃がさないからな……!」

 

 片手でフォウを掴んだまま、かつてない必死さを笑顔を浮かべたまま、空いているもう片手で此方を掴んできていた。

 

「助けてロマニ……!」

 

『じゃ、ボクはオペレートに集中するか』

 

「ロマニ……ロマニ!!」

 

「まぁ、イベントと思って諦めるのがいいんじゃね?」

 

 そう言ってきた信長の姿に向かって無言で銃に変形させて射撃した。信長が悲鳴を上げながら回避する姿を見て、もう何発か射撃を叩き込む。お前が諸悪の根源なんだからその言動を許すと思うなよ、と思いつつ信長の姿を数秒ほどにらみ続け、溜息を吐いた。

 

「……諦めるか」

 

 もう、諦めるしかなかった。隙を見て逃げ出しても多分追いつかれるだろう。そうなったらもう、最初からとことんやってやるしかない。そうだ、地平線にいる存在をすべて吹き飛ばしてしまえば何も問題はないのだ。そうすればたぶん、第四特異点の特定までの間に再び平穏が戻ってくるのだ―――何もない、共食いの平穏が。

 

 もうだめだ。完全な平穏はカルデアにもないのだ……。

 

ならばあとは殺るのみ(≪獣の権能:殺戮権限≫)

 

『おそらく歴史上最も泣きたくなる獣の権能の発動ね……』

 

 バスターライフルに変形させ、片手と肩に乗せるように戦闘準備を整え、中に入ったらさらに酷い事になってるんだろうなぁ、というかつてない絶望感が心に襲い掛かっていた。




 信長被害者の会。

 これをこれから攻略するぞぉ(震え声

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