Vengeance For Pain   作:てんぞー

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月の下でから騒ぎ - 3

 管制室に行けばロマニが空の皿を握りながら楽しそうにしており、それを立香が窘めていた。あの男はほんと、イベントのたびに楽しそうにしているなぁ、なんて事を思いつつ、思い出す。今、外の世界では9月頃だったはずだ。その頃の日本では月がよく見え、それで月見団子を食べながら酒を飲む、そういう風習があったなぁ、と思い出す。かくいう自分も日本人だ。そういう風習に思い入れがない訳ではない。しかし人生の大半は外国で苦行をしていた事ばかりで、長らくこういう行事からは離れていた事もあり、新鮮さを感じる。

 

「お団子、お団子ー」

 

 アルトリアも滅茶苦茶楽しみにしているらしく、声が踊っている。ダ・ヴィンチも姿を現し、その片手には酒が握られている。

 

「やあやあ、お待たせお待たせ。月の映像を出そうかと思うんだけどお団子の方はまだかい?」

 

「お団子ならマシュがさっき取りに行ったよ」

 

「娯楽の少ないカルデアだから、前々からこっそりエミヤくんに頼んでこねて貰っていたんだよねー。いやぁ、酒も節制していたし、こりゃあもう楽しみってもんだよ」

 

「シロウのお団子ですかー。いやぁ、実に楽しみですねぇー……」

 

 誰もが月見という娯楽を楽しみにしていた。背中にしがみつく妖精もどこかウキウキしている様な様子を見せている―――なるほど、彼女がここまでご機嫌だということは、と何かを悟ったのと同時にカルデア内をアラートが響く。それはカルデア内で何らかの異変を告げるアラート音であり、同時にあぁ、ろくでもない事が起きるんだな、という事を妖精の笑い声でなんとなく察していた。半分あきらめを感じつつも、繰り広げられる会話に耳を傾ける。

 

「―――お団子と一緒に食糧庫が空になっていたんです!」

 

「地味に一大事だな」

 

犯人は殺す(≪アサシン≫)

 

 アルトリアがすでに殺意の波動を纏ってしまっている。食欲の恨みは何とやら、という話だ。そう思いながらも一気に慌ただしくなるカルデアの姿に、軽くため息を吐く。つくづくイベントというイベントから休みを得られない場所だな、と諦めを覚えながらコフィンへと搭乗する為にレイシフトルームへと向かう。

 

 

 

 なんか物凄い殺気立ってる。

 

『そ、そこはフランス、夜のオルレアンだ。犯人と推定される人物はそこにレイシフトしたらしいんだけど……あの、皆、大丈夫……?』

 

 ロマニがそうやって確認を入れる具合には殺気立っていた。まずマシュは立香へと用意した特選団子を奪われたことに憤慨していた。エミヤは純粋に自分が誰かのために用意した食べ物が奪われたということにキレていた。そしてアルトリアは自分の食べ物が奪われたという事実にロンゴミニアドを完全解放しそうになり、クー・フーリンとランスロットのサンソンによる公開処刑で何とか思い止まった。ただ三人の気配はなんというか、バーサーカーのクラスでも付与された?って言いたいぐらいには殺気立っていた。お前ら、特異点でもそんなに殺意で溢れていなかっただろう。

 

 サンソンとブーディカはカルデアの守りに残すとして、今回レイシフトしたサーヴァントは全部で五騎、先ほどの三人に合わせ、己、そして―――新人である。

 

「Fuck、人理修復のために召喚されたと思ったらまさかの団子集めとはな。過去にも未来にも、団子集めをさせるマスターも、団子を全力で取り返そうとするサーヴァントがいるのもここ(カルデア)だけだろうな……」

 

「諦めろエルメロイ2世。ここはそういう場だ」

 

 黒いスーツの上から赤いコートと黄色のストール、高身の男―――諸葛孔明の疑似サーヴァント、デミサーヴァントとも言えない己に似たような存在、しかしそれよりも遥かに完成度が高く、両者の合意のある融合系―――現代の人物、ロード・エルメロイ2世である。その霊基は間違いなく諸葛孔明であり、彼が振るう力も諸葛孔明のものである―――しかしその人格はロード・エルメロイ2世をベースとされており、言動や発言もそれをベースとしている。どうやら直接的な面識はないが、有名人らしくロマニはエルメロイ2世のことを良く知っているらしい。

 

「……まぁ、サーヴァントとして召喚されている以上、求めに応えるのが役割だ。仕事は果たそう。この欠食児童を放置すれば惨劇しか生まれないだろうからな」

 

「目に見える自走式地雷か……」

 

「あの、先生&先生? できたら統率するの手伝って欲しいかなぁ、って……」

 

 立香が何とか三人の手綱を握っている。やるものではないか、と心の中で称賛するが、手を貸すような事はしない―――この先、更に扱いづらいサーヴァントが出てくる可能性もある。その事を考えたら今のうちに苦労して覚えたほうが後が楽になる。

 

「この外道共め……!」

 

「ですが1セット1万もする京都の―――と、マスター、戦闘音です!」

 

 マシュの言葉とともに狼の遠吠え、そして弓が放たれる音が聞こえてくる。

 

「よ、良し。とりあえずまずは誰が戦っているのかを確かめに行こう。お団子の行方のヒントにもなるかもしれないしね」

 

「そうだな。では急いで行くとしようか」

 

 戦闘音の方へと向かった走って行けば、物凄く奇妙なものを見た。そこではウェアウルフの集団と戦う女の姿が見えた。白い服装の女性は英霊としての強い力を持っており、非常に奇妙な形状の弓で、変な音を放ちながらウェアウルフを撃っていた。ただどこか、非常に力不足なのが原因なのか、弓から放たれた閃光の矢を受けてもウェアウルフを倒し切れておらず、そのままじり貧に押し込まれていた。

 

 ただ、倒れたウェアウルフが魔力へと分解されてゆく中で、

 

 そのウェアウルフが団子を落とした瞬間、三人の目つきが変わった。

 

 直後、エミヤとアルトリアとマシュが凄まじい速度でウェアウルフの集団の中へと飛び込み、十数は超えるその集団を空高く投げ飛ばしては殴り飛ばし、毟る様に団子をその姿から剥ぎ取る、地獄絵図が広がる。その間に女性に近づく立香を見て、前に出ることなく、エルメロイ2世と肩を並べながら、一歩下がった場所から全体を眺めていた。視線は無論、女へと向けられていた。いや、女というか、極限まで隠しているし、霊基も下げる事でほとんど消えるように処理されているが、この目を騙す事はできない。

 

 アレはカミだ。しかも女神だ。

 

「月と神、そして月見団子……あぁ、供物という事か」

 

 横で聞くエルメロイ2世の呟きに、ほんとクッソくだらない答えが理解出来た為、思考停止したくなって来た。月見団子は月への供物。そしてそれが特異点という()()()()()()()という環境を刺激し、本当に神霊を呼び寄せてしまったとか、そういう流れなのだろう。くだらなすぎて言葉もない。たぶん団子バーサークに入っている三人は知らないだろうし、立香も言われなければ気づかないだろう。

 

「どうするか? 処すか?」

 

「いや、これも一つ、いい経験になるだろう。とりあえず告げずに放置だ。神の気まぐれ……課題としては中々ハードだが、神仏という存在を学ぶ上での教材としてはどうだ、中々悪くない。何よりこういうお祭り騒ぎは総じて切り上げるよりも乗ったほうが利益が出るものだ」

 

「流石は大軍師殿、言葉に重みがある」

 

「ぬかせ。この程度誰だって見れば解るだろう……冷静ならな」

 

 そう言って再び、バーサークしてる英霊へと向ける。ウェアウルフの群れを完全に殲滅したと思ったら、そのまま近くのウェアウルフを狩る為に飛び込んで―――ロンゴミニアドとカラドボルグの閃光がたった今、街道を駆け抜けた。そうか、宝具を抜く程本気で団子が食べたいのか。これはもう止めようがないなぁ、なんて事を英霊たちの暴れっぷりを見ながら諦めを抱いていた。もうこれ、最初の段階で収拾がつかなくなってるんだが。

 

『それでも続くのよ……イベントは……』

 

「なんだそりゃ……」

 

『なに……ってそりゃあ息抜きの場よ。貴方もそっちのデコ軍師もちょっと難しく考えすぎだわ。そこらへん、あの三人は良く解っているわね。まぁ、経験回数が多いだけで、マシュは流されてるだけなんだろうけど。貴方はもうちょいハメの外し方を掴んでおくべきよ』

 

「つまりは、深く考えるな、って事か……」

 

『正解』

 

 つまりは遊びが足りない、とこの妖精は言いたいのだろう―――実際、自分にそういう部分が欠けているという自覚はあった。ただ、そればかりはどうしようもない。人間性以前に、遊びまわるような人生を送ってこなかった。門司やアルトリアがやっているようなはしゃぎ方は到底、自分には真似出来ない事だった。いや、だからこそ彼女の姿を見て、羨ましく思うのかもしれない。

 

 あんなに自由に心と感情を素直に表現出来るのは、きっと途轍もなく尊く、美しいものだ。

 

「―――ぁ」

 

「ん? どうしたアヴェンジャー」

 

「い、いや……」

 

 目元を抑える。今、何かを思い出せそうだった。そう、何か―――何か、自分という人間を()()()()()考え、その片鱗に触れたような気がした。この感触は間違いがなかった。()()だ。それがどうしても思い出せず、つっかえ、自分という人間のパーソナリティを不完全にしていた。それさえ思い出せば絶対に己の名前さえ思い出せるという自信があった。そう、間違いがない。旅路の果てで俺は、

 

 ―――()()()()()()()()()

 

 それを思い出した瞬間、胸を狂おしいほどの郷愁と飢餓が満たす。かつて感じたこともない感触に一瞬の戸惑いを感じるが、それを無言のうちに、誰にも悟られないように黙って隠し通す。そう、自分に明確に欠けているものを自覚してしまったのだ。それを自覚してそのままでいられるはずがない。それは完成直前のパズルピースをなくしてしまった状態だ。プラモデルの最後の部品が欠落している状態だ。ゲームを遊んでいて最後の最後で一番重要なフラグが回収できずにエンディングを迎えてしまった状態だ。

 

 まるで胸にぽっかりと、穴が開いてしまったかのような喪失感だった。

 

 いや、まるでではないのだろう。得た答えを失ったのだから、正しく喪失してしまったのだ。はたしてそれは何だったのだろうか。俺は再び戻ってきた極東で何を見た? 何を話した? 何を経験した? 何を思い、そして何を結論した。あぁ、そうだ、そうだった、ここも特異点。オルレアン跡地の特異点だった。そりゃあ思い出す可能性もあるさ。だがなぜこんな時に限って、こうも心を乱そうとするのだろうか。

 

「あぁ……やっぱりカミってクソだな」

 

「殺気! 殺気漏れてるよ先生!」

 

「おっと、すまない。半分発作的にカミは殺したくなって来るからなぁ……」

 

「カルデアで死んでるランサーで我慢しておけ」

 

 何気にエルメロイ2世が酷い事を言っている気がする。仕方がないからクー・フーリンで我慢するか、とエルメロイ2世から煙草を一本借りながらつぶやき、それを口に咥えた。懐かしい味に脳裏をちりちりと刺激するものがある。だがそれを無視しながら、立香がオリオン、と紹介する。女神へと視線を向けた。

 

 ―――お前、妙な動きとったら地上から一欠片も残さず絶対に消し去ってやるからな。

 

「うーん、この懐かしい感覚……ギリシャを思い出すわー……。そうねー、あの時代はこういう気概の勇者が多かったわよねー。懐かしいわー……」

 

 牽制したと思ったら逆に懐かしがられた。これはこの先が思いやられるな……なんてことを考えながら、

 

 月見団子フェスティバルが開催された。




 という訳で2枠目は絶対過労死マジシャン先生であった。やったね、セメント枠だよ。そしてそのうちショタる。次の召喚は3章クリア後で。

 シナリオ変えようと考えたりするけど、意外とFGOのシナリオって無駄がなさすぎるんだよなぁー……4章だけは序盤と中盤、大幅に変更入れてもよさそうな気配あるけど。

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