Vengeance For Pain   作:てんぞー

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月の下でから騒ぎ - 2

「―――まぁ、こんなものだろう」

 

 構えていた大型ライフルの銃口を大地へと突き刺すように置いた。

 

 そんな、己の目の前では邪竜を思い出させる巨大なドラゴンの死体が残っている。それはたった今、立香の指示を通して自分とマシュが二人掛かりで討伐した大物だった。そしてそれがオルレアンの魔性ラッシュ、その最後の一体だった。長らく腐らせていた技能、インドであった師とも呼べる聖仙から学んだ古代インドの奥義はどうやら、本物だったらしい。となると現代、神秘が極端に失われた中でもまだ生き残っているのか、という事実に到達すると冷や汗しか流れてこない。俺もよくもまぁ、そんな出会いがあったものだ。神話知識と魔術知識がある今、授けた人物の大物っぷりに軽く恐怖さえ感じている。

 

「……それにしても本当に二人だけで倒せちゃったなぁ……」

 

 立香がドラゴンの死体を見ながらそう呟く。視線をドラゴンへと向ければそれが体中に穴を開け、容赦なく殺害されている姿が見える。その姿を見てあぁ、と頷く。そもそもだ、と口を開く。

 

「マシュのスペック自体は悪くない。問題は英霊から引き継いだスペックと、大盾という武器に対してマシュ自身の経験が追い付いていないことだ。色んな状況を想定するのではなく、実際当たって経験するほうが習熟は早い」

 

『後は、まぁ、ややマシュが無垢すぎるってところかしらね。流石ギャラハッドに気に入られただけはあるわ。罪が欠片も存在せず、その心も清らかだわ―――穢したくなるぐらいに。まぁ、興味外だし別に干渉しないけどね』

 

 マシュの精神性は未だに瓶に水が半分注がれた程度の状態だ。そこから彼女は自分の考え、と呼べるものを学習しなくてはならない。それもまた、経験を通して重ねてゆけば自然と学べる事である。だから、マシュに徹底して足りないのは経験だ。本を読むばかりではなく、体を動かして霊基と体を馴染ませる事。それが必要なのだ。まぁ、英霊と人間では根本的にスペックが違いすぎるのだ。なじまないのも当然といえば当然だ。

 

「直ぐには無理だろうが、戦い続ければそれも慣れるだろう」

 

「なるほど、ご指導ありがとうございます、アヴェンジャーさん」

 

「流石先生っすわ」

 

「先生はやめろ」

 

 立香の言葉に素早く突っ込みを入れると、なんだかうれしそうに笑っていた。その意味が良く解らないが、まぁ、個人的には満足だった。古代インドの奥義、ブラフマーストラ。ブラフマーの名を冠したそれは古代インドの戦士が師から、或いは神から授かることで習得する万物を貫く奥義である。書物に記されたその破壊力は凄まじく、海を干上がらせる程の威力があるとされている―――まぁ、自分にはそこまでの威力は出ない。宝具換算で対国ランクだが、自分が出せるのは精々対軍クラスだ。

 

 それも武器は直径二メートルの巨大ライフルか、或いは弓に限定される。銃器と弓以外の武器の習熟が足りないのだ、自分は。まぁ、現代人として授かる事に成功したと考えれば、それだけでもはや十分偉業だと言う事もできるのだが。過去の俺は一体何者だったんだ。

 

「しっかしドラゴンが穴ぼこ……」

 

「連発できるのが強みだ」

 

「カルデアの電力を使ってないんだよね? 先生は。良く魔力が持つなぁ……」

 

「まぁ、何ごとも裏技があるものだ。裏技が」

 

 そう告げてからライフルの磨かれた鋼に反射して映る、妖精の姿を見た。まぁ、ほぼ確実というか―――彼女が、使っている心臓の主なのだろう。無限とでも表現したい魔力の沸き上がり、その源泉が心臓なのだから、いい加減瞑想の一つでもやれば気づく。いや、気づける程度には己を取り戻してきた、とでも表現するべきなのだろう。まぁ、便利だし献身的だし、文句はないのだが。

 

「俺の心配をする必要はない。俺は割と自分のことはどうにかできる。だがお前は今、そしてこれからもだれかの力を必要とする。そういう役割であり、それが求められている。それを自覚して、必要以上に体を張ろうとするな……今回みたいにできることをちゃんと理解して指示を出せば、結果は出せるんだからな」

 

「やはり先生はツンデレ……」

 

「ロマニ、レイシフトを頼む」

 

『あれ、照れてるの? うわわわ、睨まない、睨まないでよ! 今レイシフトするからさぁ! 目がないけど睨まれてるのってオーラで凄い解るんだよ君! んもぉ、冗談が通じないなぁ』

 

 顔面殴り飛ばしてやろうかお前、と心の中で言葉を黙殺しつつ、戦闘が終わったのでこれ以上、オルレアンに残っている必要もない為、さっさと撤収させて貰う―――成果としてドラゴンから逆鱗が、ワイバーン等からも使えそうな魔術素材が手に入ったのだから、まぁ、戦闘以外でも利益はあっただろう。そんなことを考えながらレイシフトの慣れた感覚を味わいつつ、カルデアへと帰還する。

 

 

 

 

 最近はカルデアの物資にも余裕が出てきた。オルレアン、ローマと物資の補給先が出てきたのと、復旧してきた区画である程度栽培が行えるようになってきたのが最大の理由だろう。その中でも自分が一番恩恵をあずかっているのはシャワーの存在だった。意外な話かもしれないが、自分はこのシャワーという儀式を気に入っていた。一時間ぐらいずっと浴びていたいというのが本音だった。とはいえ、まだ物資が余っている、という訳でもない。鍛錬の後のシャワータイムを終え、心地よさを体で感じていた。

 

『だいぶ人間らしさが出て来たわね。おかげで私の事を疑ったりしちゃうけど、やっぱりそういう人間らしさがあるから可愛くも見えるものよね。あーん、私も一緒にシャワー浴びたいなー。生身の体がないのは辛いわねー』

 

「うるせぇ。そのうち思い出してやるから少しは大人しくしててくれ」

 

『えー』

 

 全くこいつは、と軽く溜息を吐き、タオルを手に取って髪を乾かしていると、扉にノック音を聞こえた。誰かが訪ねてきているらしい。腰にタオルを巻いて、そのまま扉へと向かい、ロックを外す。

 

「はい」

 

「Arrrr……」

 

 ランスロットの姿がいた。彼は片手に絵を持っていた。それは冬木のデータに登録されている黒い騎士王アルトリアを青と白の服装に変えたような姿だった。ランスロットはそれを指さすと、

 

「Arthur! Arthur! This is Arthur!」

 

『これ、本当に狂化してるの? なんか滅茶苦茶スキルが発動しまくって狂化キャンセルしまくってるんだけどこれ……』

 

 しかもこのランスロット卿、地味にアルトリアの顔ではなく胸を連打している。その胸は自分が知っている謎のヒロインZと比べると実に慎ましいものであり、俗にいうと貧乳と呼べるカテゴリーに属するサイズだった。まぁ、確かに世の中スレンダーなのが良い、と言う人もいるし、その気持ちも分からなくはない。大きければいいというものではないし、小さければいいって訳でもない。その人その人にあうサイズってものがある気がするが、このバーサーク卿のテンションは一体なんなんだろうか。

 

『狂化されてるのは性癖だけなんじゃないかしら。というかギャラハッド泣くわよ。マジで。こんなのが父親だったら私でも泣くわ』

 

 そりゃあな……と納得していると、しっかりと売り込んでアピールして来ようとするランスロットがいい加減にウザくなってきたので、

 

「結局、ランスロット卿は何をしたいんだ。解る言葉で頼む」

 

 その言葉にランスロットが動きを止め、

 

「いや、やっぱり女女していて巨乳とか我が王じゃないし、ここは本来の姿はこう、哀れな程慎ましい姿をしているって事を皆さんに伝えないと思いまして……」

 

「自害せよランスロットォ!!」

 

 何言ってんだこいつ。そう思った直後、二本のロンゴミニアドがランスロットを貫通して串刺しにした。それでもその手は絶対に慎ましいアルトリアの絵から離れず、大事そうにそれを掴んでいた。妖精が円卓芸もここまで来ればもはや天晴としか言いようがないわね、と称賛すら始めていた。それをガン無視して謎のヒロインZがそのままランスロットを貫通させたロンゴミニアドで真っ二つに割いた。

 

 それを終えた謎のヒロインZがふぅ、と一息つきながら額の汗を拭った。

 

「なんとなく貧乳狂いを討伐完了しました。いやぁ、日に日に円卓芸がクソの様に加速していきますけど一体何が原因なのでしょうねぇ……? というかこの先、ガウェインとかトリスタンとかラモラックとか、連中が追加されるたびにこのペースで暴走されると血の粛清劇を開幕しなきゃいけないんですけど。というかランスロットめ、貴様を除籍するのは何度目だ」

 

「Thirty……Six……」

 

 お前、謎のヒロインZに殺された回数数えてたのか……。もはやその忠犬っぷりには呆れるどころか称賛するほかないだろう。死んでちょっと失せろランスロット、またあとでどうせ、謎のヒロインZに殺されるから。そう思ってランスロットが消えるのを眺めていると、消えた後で、謎のヒロインZが此方をじー、と見つめているのが見えた。

 

「……どうした謎のヒロインZ」

 

「あ、いえ。もうそこそこの付き合いになりますし、アルトリアでいいですよ」

 

「お前、キャラはどうした」

 

「いや、常に全力疾走し続けるのも疲れますし。休めるときには休んでいますよ、私は」

 

 じゃあ失礼します、と言って勝手に部屋の中に入り込んでくる。おい、と言っても無駄なようで、勝手に部屋に上がり込んでくると中を見渡し始める。ほうほう、と頷きながらなんだか探し回るように部屋の中を歩き始めるので正直やめてもらいたい。何より自分はまだバスタオル一枚の状態で立っているのだが。いい加減に着替えたい。そこでひとしきり室内を見て回った謎のヒロインZ―――アルトリアがこちらへと視線を向けた。

 

「なんというか、意外と人間味のある部屋ですね」

 

 自分の部屋は元々、ほとんど装飾のない部屋だった。そこにロマニがノートパソコンやらアニメやらお菓子を持ち込んだのが始まりだった。そこに妖精が色々と注文を入れ、もっとかっこいい部屋にしないといやだ、と駄々を捏ねたり、ロマニがこれ、似合うんじゃないか、と勝手に持ち込んだりした結果、最初は何もなかった生活するためだけの部屋も、今はそこそこ装飾のある、人間らしい部屋になっている。

 

 まぁ、ロマニの持ち込んだフィギュアの類はすべて撤去して返してやった。その代わりにポスターやコーヒーメイカー、過去の自分が旅の間に欲しがっていた家財の類をおいている。おかげで人並みの空間が形成されていると言ってもいい。まぁ、所詮は真似事だ。昔の自分を忘れないように、自分はこういうものを好んでいた、というものを飾っているのだ。そうすればまた記憶が焼けても、この景色を見て思い出せるかもしれない―――なんて甘い幻想だ。

 

 まぁ、ちょくちょく余ったマナプリズムをダ・ヴィンチ工房へと持ち込み、それを加工してもらうだけなのだから、そこまで手間がかかっている訳でもないのだ。

 

「最近は昔のことを思い出しつつあるからな。だから少しは人間らしくする事にした」

 

「ふーん……まぁ、確かに前よりはマシですね」

 

「人の部屋に押し入って発言することがそれか」

 

「いやぁ、今の私はフリーダムさが売りなんで」

 

 まぁ、確かにフリーダムの塊ではあるよな、と思う。それはそれとして、

 

「何の用事だ」

 

「えっ、用事もなければ遊びに来ちゃダメなんですか―――いや、あるんですけどね」

 

『今のはたぶん殴ってもいい所よ』

 

「お前と喋ってると少し前までの俺がどれだけ我慢強いのかを自覚させられるな……」

 

 ため息をつくと、アルトリアはそれを見てどこか嬉しそうに頷く。結局のところ、アルトリアがどういう存在なのかを自分は良く知らない。ただ将来的に俺が原因でカルデアは()()という発言を聞いている。そして彼女はその未来を変える為にこうやって、異なる霊基でここへと潜り込んできた―――となるとやはり、原因となる俺は気になる、というところだろうか。

 

「うん? どうしたんですかアヴェンジャー、私を見つめちゃったりして。あれ、もしかして惚れちゃいましたか? しかしそこは残念。特に売約済みでもなんでもありませんが、それはそれとして好感度不足です。私の好感度を上げるにはプレゼントが有効ですよ!!」

 

「具体的には?」

 

「セイバーの首」

 

『いい趣味じゃない』

 

 こいつ、ほんとどうしようもないな、何て事を思ってため息を吐いていると、けらけらと笑ったアルトリアがでは、と言ってくる。

 

「管制室へと向かいましょうか」

 

「出動か?」

 

 いいえ、とアルトリアが言葉を置く。

 

「―――月見ですよ! 月見団子!」

 

 あぁ、そんな時期なんだな、と思いつつ、背中を押して外へと出そうとする彼女に言う。

 

「まずは着替えさせろ……!」

 

 背中を押してくるアルトリアを蹴り飛ばしながらそう声に出した。きっとこうしていれば、俺らしいのだろう、と悩みながら。




 という訳で懐かしのオリオンイベ、始まるザマス。オルレアンTASで出会わなかったサーヴァントと縁をとりあえずフランス経由で結ぶチャンスでザマスよ。当時はこれのおかげで大量に素材を手に入れてたりしてたなぁ……。ただ脳死初級周回が安定でしたねぇ……。

 カルデアの善き人々と善き戦友たち。

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