Vengeance For Pain   作:てんぞー

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ローマの行く末 - 2

 一瞬―――たった一瞬で半壊した。

 

「無事、か……」

 

「な、なんとか。ありがとうございますアヴェンジャーさん」

 

「被害ほーこく―――!」

 

 押し倒したマシュと立香が立ち上がりながら、言葉を口にした。周りへと視線を向ければ、ネロと、確かガリア遠征隊にいたはぐれサーヴァント、ブーディカを脇に抱えたクー・フーリンの姿を見つける事が出来た。だがそれ以外のサーヴァントに関してはどうやら、全滅してしまったらしい。

 

『聖杯直結の無限魔力で破壊特化の宝具を放てばそりゃあもうこうなるわよ。ほんと、呆れた』

 

 妖精の言葉を耳にしながら、軍神の剣(フォトン・レイ)と呼ばれた宝具が発動した直後の出来事を思い出す。まず、宝具が放たれる瞬間にマシュとブーディカが宝具を発動させ、防御するために割り込んだ。だがそのさらに前でエミヤが盾になるように熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)を発動、それが蒸発して行く中で、ランスロットが踏み込んだ。他の宝具をすべて発動停止させることで解放される本当の宝具、無毀なる湖光(アロンダイト)を叩き付けた。

 

 だが()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 エミヤとランスロットが宝具に飲み込まれて蒸発した上で、ブーディカとマシュが連続で宝具を展開、それによってそがれた宝具の威力により、漸く回避行動がとれるレベルになった。それに自分とクー・フーリンが割り込み、四人を二人で分担して救い出し、回避した。残念ながらサンソンが一番近い位置にいた為、助け出すことは一番最初に諦めた。

 

 だがそれでなんとか、ネロ、ブーディカ、マシュ、立香、自分、クー・フーリンと生き残れた。

 

「半壊しているし―――連合首都が綺麗に消し飛んでる……」

 

 立香の視線を追えば、宝具が放たれた方向、連合首都の市街地方面が見える。そこは軽い地獄が形成されていた。まず、市街地中央は完全に更地と化していた。その先にある光景すらも完全に更地となっており、正面に聳える山脈は()()()()()()()()()()()()()()()()()()姿を見せていた。まさに格が違う、という言葉が正しい。アレだけの破壊力を謎のヒロインZのロンゴミニアドで出せるかは怪しい。いや、本来の出力であれば繰り出せるのかもしれない。だが問題はそれだけの魔力をカルデアのシステムでは用意することが難しく、カルデアの召喚霊基では限界がある、ということだ。真正面から戦うことは難しいだろう、アレは。

 

『相手の正体が解った!』

 

「さすドク」

 

『いやぁ、それ程でも……って和んでる場合じゃないよね! うん! フンヌで軍神の剣なんてものを持ち出す存在はただ一つ、アッティラ大王だ! というかアッティラ大王さえ女だったとか歴史はどうなってるんだ! アッティラの死因って鼻血だぞ! あんな少女が鼻血で死んだのってちょっとだけおもしろすぎるんだけど!』

 

「Dr.ロマン? そんな事はいいですから、相手を追えませんか?」

 

『あ、うん……ごめん……』

 

 ロマニはそう言うと何かを操作する様な姿を見せ、ん、と頷いた。

 

『―――アッティラは真っ直ぐローマへと向かってる。彼女は様々な文明に終わりを与えた存在だ。たぶん、この特異点を滅ぼす上では最も有効な手段であり、恐ろしい存在だろう。彼女がローマへと到達すればおそらく、この特異点は完全に崩壊し、人類史は今度こそ完全に消え去る。ボク達の完全な敗北だ』

 

「となると彼女がローマに到着する前に止めなきゃ……いや、倒さなきゃならないんだね。エミヤとサンソンとランスロはいなくなった……ローマ側はどう?」

 

 その言葉にブーディカが答えた。

 

「たぶん呂布とスパルタクスは駄目だね。位置的に間違いなく巻き込まれているし、アレに耐えられる英霊がいるとは思えないし。荊軻は……どうだろう、彼女は攪乱に回っていたからまだマシだとは思うけど、頭数に入れないほうがいいかもしれないね」

 

「となるとここにいる面子だけで倒さなきゃ駄目か……兄貴、またゲイ・ボルクに頼ると思うけどいい?」

 

 立香の言葉におう、とクー・フーリンが答える。

 

「任せな―――って言いたい所だけどそう簡単に突き刺さるとは思えないぜ。確かに俺の槍にゃあ因果逆転から確実に心臓を穿つ呪いがあるぜ? だけどそれを回避する裏ワザってのは何時の時代にも存在する訳だ。幸運のステータスで回避する騎士王様とかいりゃあ、発動そのものをキャンセルして無効化するってやり方もあるし、因果よりも早く逃げ切るって奴も世の中にはいる。あんまし俺ばかり頼るなよ。戦術が一辺倒になると死ぬからな」

 

「うっす」

 

 クー・フーリンの立香の言葉に頷いている間に、コートのポケットから回復薬を取り出し、それをマシュへと渡し、お互いに軽く回復補給しながら連戦に備える。英霊達は魔力と時間さえあれば勝手に回復するが、生身である自分たちはこういう道具を必要とする。そのため、アッティラを追いかける前に軽く補給と回復を行い、準備を完了させる。

 

 それを見届けたネロがうむ、と頷いた。

 

「準備は良いな? 魔術師殿よ、貴殿はアッティラがどれだけの速度で進んでいるか解らぬか?」

 

『えーと、そう早くはないね。歩くような速さだから正直、急げば十分間に合う。いったん補給や休息を入れても間に合うとは思う。最上としてはエミヤ達の復活まで待つ事なんだけど……』

 

「であるか……どうするのだ、カルデアの魔術師よ」

 

 ネロの言葉に立香が頷く。

 

「うん。待ってる事は出来ない。あの宝具の範囲を見たらマッシリアから狙撃してローマぐらい吹き飛ばせそうな感じあるし、何よりも急いで倒す必要があると思う」

 

「であるならば、我らに足を止める理由はないであろう! これよりこの戦いを終わらせる為に大王アッティラに決戦を挑む! 行くぞ!」

 

 応、と返答する。最速であるクー・フーリンが今度は立香を腰でつかんで持ち上げ、もはや廃墟となった連合首都の王城から飛び降りて、着地する。その姿に続くように自分たちも王城から脱出して行き、もはや命など一つとさえ残っていない連合首都を一気に走り抜けて脱出する。ここにいた人々の統一、気持ち悪さはローマ神祖・ロムルスによって身も心も完全に支配されてしまった姿だったのだろう、と今更ながら思い出す。完全なカリスマによる完全な統一。

 

 それは、無機質な機械の様な世界なのかもしれない。

 

 そんな感想を抱きながら残されたメンバーでアッティラの後を追う様に走る。と、元々首都の外へと通じる門がある筈の場所に、此方を待つサーヴァントの姿が見えた。白い東洋風の衣装の女の姿をしているサーヴァントはこちらに合流すると、こちらの走りに合わせて並走してくる。ほかのみんなの表情を見れば、知り合いだというのが解る。

 

「荊軻、無事であったか!」

 

「まぁ、なんとかね。ただ呂布とスパルタクスはダメだった。それで、あの危なそうなのを討ちに行くんだろう? 混ぜてもらうよ」

 

「うむ、実に心強い。参陣を許す!」

 

 これでまた戦力が一人増えた。アレだけの超級英霊を相手にするにはなるべく多くの英霊戦力がほしいのが事実である。故にこうやって戦力が増えるのは現状、願った通りである。合流したことに少しだけ勝算が増えたことを認識しつつ、さらにアッティラへと向かって進んで行くと、広い範囲に増えだす魔力の反応を感じる。この魔力には覚えがあった。それも割と最近の話だ。やや冷や汗を掻きながら視線を正面、段々と見えてきたアッティラのほうへと向ければ、

 

 彼女を守るように展開されるワイバーンが出現してきた。それも十や二十ではない。百や二百というすさまじい数だった。それが際限なく、アッティラの周囲に連続で召喚され続けている。いや、彼女自身の歩みに変化はない―――或いはレフの最後の意思を叶える為に聖杯が自動的にそうやって活動しているのかもしれない。

 

「あの……近づけそうにないんですけどアレ……」

 

「仕方があるまい……私が露払いをしよう。本当ならあの戦士の首がほしい所だが―――どうやら手に余るようだからな」

 

「荊軻さん!」

 

 言葉を放ち、アサシンの女が一瞬で姿を消す。その直後には正面にいるワイバーン数匹の首が飛んだ。文字通り血路を開いてくれるのだろう、そう思った直後、音が爆発した。ワイバーンの群れを横から殴り飛ばす轟音と爆裂に視線を向ければ、海の方からアイドルとメイドが陸地に着地したのが見えた。どうやらこの戦いだけには参戦してくれるようだった。爆音波が響き、ワイバーン達の脳を揺らして一気に行動不能に落として行く。それを横目に、一気に残されたカルデアパーティーと、ネロとブーディカと共に切り込んで行く。クー・フーリンの両手を開ける為に立香も両足で走らせ、自分とクー・フーリンで正面から来るワイバーンを一撃で必殺しながら進んで行く。

 

 やがて、歩きながら進むアッティラの姿が完全に捉えられた。その姿は追いついてきたこちらの姿を見つけ、完全に足を止めた。

 

「追い、ついたぞ……!」

 

 立香の言葉にアッティラが視線を立香へと向け、口を開いた。

 

「……行く手を阻むのか、私の」

 

「その為に来た」

 

「貴様がローマを滅ぼすつもりなら、余は阻まなくてはならない。貴様は―――」

 

「―――私は、フンヌの戦士である」

 

 ネロの言葉を断ち切るようにアッティラが口を開いた。それは拒絶の言葉ではなく、視界にすら入れていない言葉だった。アッティラは見えていない。世界も、人も、英霊も。ただただ聖杯によって召喚された、破壊の機構としてのみ活動していた。そしてそれを完遂するべく、聖杯は無限に魔力をアッティラへと供給していた。時間が経過すればするほど、アッティラは強化されていく。はたして対英雄スキルだけで自分にこいつが突破できるのか?

 

『―――出来るわよ』

 

 耳元、妖精の声がした。息がかかるような距離、唇の感触さえ感じるぐらいの近さで、妖精は囁いた。出来るのだ、と。だがそれを否定する。自分では無理だ。

 

『いいえ、出来るわよ。だってほら、良く見なさい。目でじゃないわ。心で。肌で。呼吸なさい。耳を澄ませるのよ―――ねぇ、思い出さないかしら?』

 

 アッティラを見る。妖精の視線で見る。周りの会話が消えて行く。見えるのはアッティラただ一人だった。その存在を明確にとらえた。いや、その存在の中にある、ただ一つの要素を見出した。あぁ、なるほど。なるほど―――実になるほど、である。あぁ、確かに。()()()()()()()。いや、違うな。これは違う。そう、これは、

 

「―――()()()()()()()()()()

 

「―――私は、大王である(≪神性B≫)。その文明を破壊する」

 

 見た、理解した。そして思い出す。殺意、とは何だったのかを。

 

『ねぇ? 出来るでしょ? 殺せるでしょ? 殺したくなるでしょう? なら可能よ。ほら、とても簡単な事よ。否定しちゃダメ。認めるのよ。自分の奥底に眠る()()を。そう、目覚めさせてあげなさい。怨敵が目の前にいるわよ。獲物は目の前にいるわ。得物はその手の中にあるのだから―――思い出して、その手に握るの。さあ、今こそ吠えるのよ』

 

 あらゆる感覚が遠くなって行く。時間が歪んで行く。妖精の声だけが聞こえる。停止したような、時間が進んでいるような妙な感覚の中で、思い出すのは怒りと殺意、そして憎悪だ。そう、憎悪。神に対する憎悪。俺はいったい何をした、という憎悪。俺の親はそんなにも悪かったのか、という憎悪。何故貴様らは人を試そうとするのだ、という憎悪。

 

 憎悪―――尽きることのない憎悪。それが心を熱く燃え上がらせている。そして、そう、それが全て。それがアヴェンジャー。許す? 認める? ふざけるな。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。アヴェンジャーに存在するのは純粋な憎悪と殺意のみ。妥協は存在しない。殺す。そう、殺して蹂躙して引きずりまわして肉塊にしてお前を何が何でも踏みにじってやる。

 

 それだけがアヴェンジャーという存在の全てである。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。

 

『さあ、手を伸ばして』

 

 右手をゆっくりと伸ばす。シェイプシフターはその姿を自在に変形し、変えて行く。それは金属だった。片手で握られるサイズ、片手で振り回すことのできるサイズ。それは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()である。故にそこに信仰はある。ただ神秘も年代も経ていないだけである、原始的ではない、最新の殺意。それがどんどん、持ち上げて行く片手の中で形成されて行く。

 

―――あぁ(≪復讐者≫)

 

 深海の底で、呼吸をした様な気分だった。充足感、解放感、そして漸く、アヴェンジャーとしての己と、171号となる前の己の意思が完全に合致した気がする。それにより漸く、心の底から何かに対して殺意を抱けた。

 

それでは始めようか(≪■の■■:概念刻印:銃≫)

 

 お前は、

 

―――殺してもいいカミだからな(≪聖人:咎人≫)




https://www.evernote.com/shard/s702/sh/1e7a0451-dba2-4353-bc6f-9ca78d33f6f9/4fdd1632b9b49ba429055c922f323c79

 あっぷでーとのおじかんよー。という訳でアレコレ見えてきわね。そして妖精さんは可愛いですね(震え声

 魚が水を必要とし、人が酸素を必要とする。

 それと同じように、復讐者もまた、復讐相手が必要である。それのない復讐者は酸素のない人、空のない鳥、水のない魚。存在することができないし、存在する意味もないのである。

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