Vengeance For Pain   作:てんぞー

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ローマの行く末 - 1

 ―――建国王、神祖、ローマの親……ロムルス。

 

 彼の者はローマにおいて絶対的な信頼を得る。当然だ。神話の人物であり、そして偉大なるローマの発見者なのだから。故に、その正しさの前にあらゆるローマの者がひれ伏し、従う。当然だ、それが王という存在であるのだから。故にネロは困った―――己の行いに正義があるのか? 本当に正しいのか? 自分はロムルスに従うべきではないのか、と。カルデアからしてしまえば何を言っているんだ、って言えてしまうだろう。だが彼女はローマ人であり、それはローマ人にのみ共通する価値観だった。故にネロは自身の正義に悩んだ。

 

 悩み―――そして結論した。自分は正しい、のだ、と。

 

 そうやって多くの皇帝を従え、セプテムを支配しようとした皇帝をカルデアと協力し、ネロは撃破した。そのあとに残されたのは、

 

『―――まったく使えないグズだなぁ、英霊というやつも!』

 

 ロムルスを見下すように、その死を冒涜せんとするレフ・ライノールの姿だった。連合首都に残された英霊級の敵性存在。それはレフだけとなった。それ以外はすべて、カルデアが打ち破ってきた。故にここでレフにケリをつければ聖杯を回収し、この特異点も終わる。しかし聖杯を片手に待ち構えるレフの姿は油断とは無縁であり、必要ならば聖杯さえ使って戦いそうな気配もある為、迂闊に飛び込む事さえできない。そんな仲間の様子をモニターを通して見ていた。

 

『ローマを侵略し、支配すればそれで崩壊させる―――なんてゲームに付き合った私にも確かに落ち度があっただろう。だがここまで無能とは知らなかったぞ。所詮は地を這うムシケラ……この程度の役割果たせないゴミか』

 

『貴様! 神祖に対する侮辱を取り消せ!』

 

『取り消す? なぜだ? 暴君一人殺せないクズをどう評価すればいいんだ? ん? 貴様も貴様でさっさと死ねばいいもの、無駄に生にしがみついて、なぜ生き残っている。私も暇ではないんだよ。早く神殿へと戻り合流したいところなのだが―――貴様らがオルレアンで暴れたせいで居残りだとも! 全く、忌々しい……!』

 

 心底イラついたような言葉をレフは吐いていた。

 

「レフ……貴様……」

 

 モニターを眺めながら言葉を吐けば、それに反応し、レフが視線を向けてくる。

 

『あぁ、貴様もそうだ、171号。道具なら道具らしく大人しく従えばいいもの。だが、まぁ、貴様はいい。その両目をえぐらせてもらったところで多少溜飲は落ちた。素敵なプレゼントだったろう? 一生残るな! はははは―――あぁ、もういい、面倒だ。貴様ら全員この私自らの手で殺してやろう』

 

「皆、気を付けて! 凄まじい魔力の反応をレフから感じる―――英霊を確実に超えるぞこれは! でも……なんだこれ、霊基がおかしいぞ……?」

 

 笑いながらレフの肉体がぼこり、と音を立てて変形する。その瞬間、立香の片手の令呪が輝いた。令呪が1画消費されたのだ。それと同時に謎のヒロインZのロンゴミニアドが外装を解除し、本来の姿である光の槍へと変形していた。

 

『変身の時間等与えるものか!』

 

『その容赦のなさグッドですよマスター! というわけで無銘星輝槍(ひみつみにあど)!』

 

「うわ、容赦なっ」

 

 ロマニのそんな言葉と共に無銘星輝槍(ひみつみにあど)が放たれていた。立香も立香で、指示に敵に対する容赦のなさ、というのが見えてきている。いや、容赦がないのではない。()()()()()のだろう。おそらくはオルガマリーの結末に。故にこれ以上相手が話すつもりはないと判断した直後の正面奇襲だった。現状、カルデアが放てる最高威力の宝具を真正面から叩き込んだ。光の瀑布が一瞬でレフの姿を多い尽くし、しかしそこから伸びる姿があった。

 

 黒く、塔のように伸びる、醜悪な怪物の姿。多重に目玉を持ち、この世の生物とは到底思えない姿をした、間違いのない怪物の様子。正面からロンゴミニアドの一撃を受けても死んでおらず、空間に耳を腐らせるような冒涜的な声を響かせる。

 

『―――我が名はレフ・ライノール・()()()()()! 七二柱が一柱! 王に仕えし悪魔! 恐怖せよ、絶望せよ、そして死ね、カルデア諸君。貴様らの旅はここで終わりだ―――!』

 

「悪魔、だって……?」

 

 ロマニの震えるような声を他所に、レフ―――フラウロスとカルデアとの戦いが始まった。城を貫通するように伸びて、その根元が見えないフラウロスの体は固定されてはいるが、その目が輝くのと同時に爆裂を発生させる。迷うことなく後ろへと下がった立香のカバーに入るようにマシュが飛び出し、爆発を防ぐ。それを目視したフラウロスは今度は穢れの洪水を室内に発生させ、一気にすべての生命を洗い流そうとする。

 

『マシュ!』

 

『仮想宝具展開します!』

 

 立香の一声にマシュが反応し、宝具が展開された。室内を洗い流す穢れの大河がそれによって正面から分断され、その背後、弓を構えたエミヤから矢が放たれた。

 

『偽・螺旋剣Ⅱ―――なぁに、ただのフルコースだ、好きなだけ持って行きたまえ』

 

 そう言ってエミヤが一息で()()()する。マシュの宝具に守られている間に連続で投影された精度の高い宝具を連続射撃し、それをそれぞれフラウロスの目に突き刺し、直後、壊れた幻想による連鎖爆破によって巨大な爆発を発生させ、城の天井を吹き飛ばした。晴れわたる空の下、二つの影が大跳躍によって飛び上がっていた。

 

 ランスロット、そしてネロだ。

 

『とぉ―――ぅ!』

 

『GrrrrrrrAAAARrrrrrrrrr!!』

 

 吠えながら飛び降りてくる騎士と皇帝が一瞬で空から加速して落ちてくる。壊れた幻想によって生み出された隙間に潜り込まれた斬撃がフラウロスの体を大きく抉りながら炎と光の残像をその体に刻んだ。それを受けながらもフラウロスの表情からは余裕は消えない。まだこの程度なら問題にすらならない、という余裕をその視線から感じる。だがそこに間髪入れず、蹴り穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)が放たれた。千を超える棘に変形したゲイ・ボルクがフラウロスの体を貫通しながら深く、深く傷つけて行く。だがその中でもフラウロスは姿を消すことなく、逆に目を光らせた。

 

『さあ、散々に攻撃する時間はくれてやったぞ? 痛みを返してやろう―――』

 

 フラウロスの攻撃にマシュが前に出ようとする、しかしそれを反射的に謎のヒロインZが後ろへと蹴り飛ばした。それにマシュと立香が驚いたような表情を浮かべるが、

 

時間概念攻撃(≪直感≫)はさすがに肉体のほうが耐えられません、あとは任せました』

 

『焼却式―――フラウロス』

 

 迷う事無く前へと飛び込んだ謎のヒロインZがロンゴミニアドを壊れた幻想で爆破しながら自爆した。フラウロスの放った攻撃、それを謎のヒロインZは時間概念攻撃と呼んだ―――フラウロスの言葉を精査すれば、それはおそらく時間そのものを焼却して攻撃する手段。人理焼却と同じプロセスを対人規模で放っているのだろう。となるとおそらく、()()()()()では耐えられない。だがモニターを見ていたのはそこまでだ。首からぶら下がるように背中に張り付く妖精の姿を感じつつも、管制室からコフィンのあるレイシフトルームへとつながる窓を開き、飛び降りた。

 

「ロマニ! アルトリアが消えたのなら俺がレイシフトできる筈だ!」

 

「数分から数秒の誤差が出るからレイシフト直後に備えていてくれ! 奇襲できるように空に出す!」

 

「今度はボロボロにならずに戻って来いよ!!」

 

「終わったら特異点攻略パーティーみんなでしますからねー!」

 

『ふふ、善き人々ばかりね、ここは』

 

 コフィンに乗り込み、レイシフトに備えながらあぁ、と心の中で返答する―――だからこそ負けられないのだ。自分の為だけではない。世界の為だけではない。カルデアでは支え、支えられながら生きているのだ。だからこそ、何よりも一緒にある戦友の為に戦わなくてはならない。それがきっと、今の、自分の、人間らしさなのだろう。

 

「レイシフトプロセス開始!」

 

 言葉と共にもう何度も経験し、慣れたレイシフトの霊子変換の浮遊感を感じた。すべてがバラバラになった再構成される感覚の中、一瞬ですべてが変化し、ローマの大空に自分はたどり着いた。真下を見れば巨大なフラウロスの姿が見え、マシュの宝具を正面に立てながらクー・フーリンとエミヤの中距離攻撃をマシンガンの如く放ち、弾幕を形成していた。フラウロスの爆裂と穢れの大河にやや押し込まれ、ランスロットやネロは踏み込めないでいるらしい。

 

 となると、二人が踏み込む―――いや、サンソンが宝具を発動させる隙を作るのが役割だろう。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()からだ。

 

さて―――やってやりますか(≪思い出す+虚ろの英知:マントラ≫)

 

 ()()()()()()()。自分の旅路、それを思い出したのが原因だろうか? ≪虚ろの英知≫へのアクセスが前よりもスムーズに行ける。自分がかつて旅路の中で学んだ経験や知識が魔術の世界と絡むことによって理解へと至り、C~Bという制限を一部に限定して超越する。こんなところで門司につき合わされた修行や、宗教の知識が役に立ってくるのだから、おかしな話だった。そう思いながらもシェイプシフターを取り出し、それを大戦斧へと切り替える。今ならいけるか、と口の中で呟きながら魔力による強化、ルーン魔術による強化、マントラによる強化、と複数体系の魔術を多重に発動させ、肉体と出力を上昇させる。

 

 そのまま、魔力放出を再現して落下速度を加速させながら、大戦斧を体全体で一回転しながら両手で持って疑似・怪力を再現する、

 

「―――両目の礼を返す。存分に受け取れ」

 

 そのまま、頭上からフラウロスに叩き付けた。同時に込められた大量の魔力が灼光となってフラウロスを貫通し、真っ二つに裂きながら背後を貫通した。

 

『おぉぉ、キサマ―――!』

 

 フラウロスの視線が全て此方へと向けられ、意識が下から外された。

 

「久しぶりだな、レフ。いや、フラウロスか。良い旅路を期待する」

 

 大戦斧をフラウロスの体を蹴り飛ばしながら下がるように落ちる。それと同時にフラウロスを包む世界が黒く暗転した。その巨体は一瞬で解体され、見えざる民衆の手によって姿を剥がされ、レフ・ライノールの姿へと引き戻され、その姿は処刑台へとのせられた。今の一瞬、それが十分すぎる時間だった。

 

「時間の焼却。無知なる者の殺害。仲間への裏切り。主の背信。貴方は罪を重ねすぎた(≪処刑人≫)。それでは民衆の満場一致により刑を執行します」

 

「おぉぉぉ―――聖杯よ―――!」

 

 ギロチンにかけられたレフが叫ぶ。人の姿に戻ったと共に出現した、その片手に握られる黄金の聖杯へと呼びかけるようにレフが叫ぶ。だがそれよりも早く、処刑刃でギロチンを吊るすロープをサンソンが断ち切った。

 

死は明日への希望なり(ラモール・エスポワール)

 

 レフの首が宝具の発動と共に完全に断ち切られた。レフに内包された無数の命、尽きることのない力、悪魔としての権能、時間へと干渉する能力。そのすべてがレフを生かそうとする。だが処刑という行動、その概念により、全ての生への執着が拒否された。

 

 死―――それのみ。どの観点から観測しようが、悪である事実を覆すことのできないフラウロスに求められたのは死、のみである。それが焼却された人々の望んだ事であり、唯一、民衆がフラウロスに対して望んだ事である。

 

 即ち死、それは絶対の結果であった。

 

「馬鹿……な、私がサーヴァント如きにぃ―――」

 

 斬首されたレフの首はしばらく言葉を放ち、恨むように視線を突き刺してきた―――しかし、その後ですべての動きが停止し、サーヴァントが消える時のように、光の塵となって砕け散った。

 

 ―――だが聖杯の動きは止まらない。

 

 レフが消えても、レフが残した命令を遂行する。光を放ちながら編み出すのは召喚式。消えて行く処刑場の中で輝く聖杯は聖杯自身を核に、その外骨格を形成するように一つの姿を生み出した。

 

 ―――それはヴェールを被った、褐色の白い少女だった。

 

 恐ろしいほどに静かで、恐ろしい程に破滅で満ちていた。彼女の登場とともにすべての空気が停止、サーヴァントから動きの気配が消失した。その中で、聖杯を取り込んだ少女が口を開いた。

 

「―――私はフンヌの戦士」

 

 言葉と共に時間が動き出した。その一瞬で背中を冷や汗が流れ始める。

 

これはいかんな(≪心眼(真)≫)

 

Arrrrr―――(≪狂化:危機察知≫)

 

 一瞬でロンゴミニアドすら超える魔力が展開され、それを見ながら飛び込む英霊の姿を横目に自分も動く。次の瞬間、何が発生するのかを理解しつつ、干渉はほぼ不可能だった。

 

「あ、これアカンやつだ」

 

 立香がマシュに守られながら呟いた瞬間、

 

軍神の剣(フォトン・レイ)

 

 破壊光が連合首都を満たした。




 という訳でレフ教授がギロチンされたとさ。なんか妙に強キャラ感のあるドルヲタ。お前毎回これぐらい真面目だったらなぁ……と思いつつ、たぶん最終戦は次回という事で文明破壊ガールが一人……来るぞ!

 次回、神性B、某氏の殺意を全霊で受ける。

 殺してもいいカミ? ヤッター!

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