Vengeance For Pain   作:てんぞー

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檻の底 - 6

 洞窟の中には様々な魔物が用意されており、それを危なげなく立香たちが排除して行く。元々英霊を従えた過剰戦力の集団なのだから、魔物程度で負ける訳がないのはある意味当然だ。その程度で敗北するのであれば、そもそも英霊を名乗れないのだから。故に道を阻まれながらもサクサクと切り込んで行く姿を眺め、立香の指示能力が上昇しているのが見てわかる。よく見れば少しだが、ネロから指示の出し方を学んでいるように見える。どうやらちゃんと、立ち止まらずに学び、戦い続けているらしい。やっぱり、俺なんて必要ないな、と再度確信が取れたところで、立香らがキメラの首をあっさりと切り落として討伐を完了させた。

 

「あら……意外と早かったわね」

 

「まぁ、あれだけの英霊を従えてるんだ。これぐらいできて当然だろう」

 

 そうね、と隣に立つステンノが呟いた。すでに半日以上経過していることもあって、徐々にだが日が暮れ始めており、水平線にかかる太陽が夕日の色に世界を染め上げていた―――実に、美しい風景だった。俺はこの景色を、どこかで見たことがある。歩きながら、自分の目で、世界を旅しながらまだまだ、こんな景色があったんだな、と思いながら眺めていた、という記憶があるのだ。

 

「ふーん……だけど明確に勇者と呼べそうなのはいないわね」

 

「それは―――」

 

「英霊は全員既に死んでいるから駄目。あの少年はまだ本当の意味での勇気を知らないわ。少女のほうは無垢すぎて駄目ね、まだ学ぶべきことが多い。暴君は……そうね、まだ悩みの途中という所かしら。ギリギリ及第点をあげてもいいかもしれないわ」

 

 なるほど、と小さく呟く。英霊なのだから勇者であって当然、というところか。そういう意味では納得できる。しかしネロでダメであって、なぜ自分が勇者なのかは、良く解らない。或いはステンノにのみ理解できる勇者としての線引きがあるのかもしれない。ともあれ、それは自分の判別の付くところではなかった。そのため、どうあがいてもスルーするしかなかった。それにあまり、神性に踏み込みたくないというのも真実だった。その為、そんなに会話が続くこともなく、黙って帰還を待っていると、

 

 やや疲れた様子の立香らが洞窟から出てきた―――キャットやアイドルと一緒に。

 

 まぁ、そりゃあ疲れるよな。

 

『まぁ、疲れるわよね』

 

 納得過ぎる理由だった。だがその表情も、ステンノとともにスタート地点、つまりは浜辺で立って待っている姿を目撃した瞬間、一変する。かなり驚いた表情を浮かべながらも、同時にカルデアとのリンクが回復する。どうやら自分が別行動をしている間にメンバーの変化はなかったらしく、エミヤを除いたまま、合流できた。立香が真っ先に前に出ると、

 

「お、お前は、アヴェンジャー先生! 先生じゃないっすか! というか姿が物凄いワイルドになってる! イメチェンっすか」

 

「待たせたな。連合首都の場所と様子を掴んできたぞ。あと先生じゃない」

 

「おぉ! これで漸く連合らの首都へと攻め込めるぞ! よくやった!」

 

 フハハハ笑うネロの周りではなぜか花びらが舞っている。現象からしてどうあがいても魔術的なのだが、全く魔術を使っている反応がない―――その体質か何かなのかだろうか、あの演出の花びらの登場は。それはともあれ、とりあえずは、

 

「これで俺も合流だ。連合首都に関する情報をまずは分けよう」

 

 ここに来た、自分の目的を果たすことにする。

 

 

 

 

 霊子に変換された肉体が徐々に人の形を取り戻し、再構成が終わるのと同時に正面、コフィンの扉が開かれる。ややよろよろとしながらも、コフィンから体を引きずりだす。そこではエミヤが待ち構えていた。すでにそこにいた妖精の視界のおかげで、彼の姿を捉える事ができ、ふらつく体を片手で支えてもらった。

 

「随分と無茶をした様だな……両目を失ったな?」

 

 流石英霊、隠していてもすぐに解ってしまうのか。隠す意味はないのかもしれないと思いつつ、軽く頷いて答える。

 

「まだ戦えるし、視界を貸してくれる妖精がいるから大丈夫だ。それよりも」

 

「あぁ、任せておきたまえ。マスターの背中は私がしっかり守る。君は次の特異点までしっかりと療養したまえ」

 

 ハイタッチを決めてエミヤと居場所を交替する。自分の代わりにエミヤが今からローマ時代の攻略を行ってくれるだろう―――自分なんかよりもはるかに有能だ、心配する必要はない。そう思いながらコフィンの並ぶレイシフトルームを出る。通路に出たところで待っていたのはロマニの姿だった。やあ、と片手を上げて挨拶する彼はこちらへと近づくと、

 

「手を貸すよ……目、ないんだろ?」

 

「……俺はそんなにわかりやすいか?」

 

「いや、ただ単純にボクがバイタルやサインを追いかけているってだけだよ。隠密解除でステータスの更新を行ったらいきなり欠損や内臓のダメージが出現するものだから驚いたよ。ほら、医務室に向かおうか。管制室は今、レオナルドに任せてるからボクよりも立派にやってくれるさ」

 

 ため息を吐くと、こちらへと向けて伸ばされた手を取った。どこか、この男には信じられないような、そんな気配がある。だけど、このカルデアで間違いなく彼は本気で働いているのだから、今更、疑ったりするのも馬鹿馬鹿しいと思いながらロマニの伸ばした手を取る。妖精のおかげで視界は確保できているが、それも完全に自分の目で見ている訳ではない。早いところ、スペアでもいいから新しい義眼を入れたいところだと思いつつ、ロマニの助けをもらいながら医務室へと向かう。

 

「相当無茶をしたみたいだね、今回は」

 

「その無茶をするために俺が生み出された訳だからな」

 

「それはそうかもしれないけど―――立香くんやマシュが泣くよ? あの二人のことを思うならもう少し、使い潰すようなやり方は考えてもいいんじゃないか?」

 

『そうだそうだー! もっと体を労われー!』

 

「解ってはいるんだが……」

 

 何より謎のヒロインZが先に死ぬか、或いは記憶を完全に取り戻さない限りは絶対にカルデアが詰む、と発言しているのだ。あの女は理不尽とカオスの塊ではあるが、嘘はつかない―――少なくとも真面目な事では。つまり少なくとも全滅する要因がこの先には存在するのだ。そうなると聊か焦りを覚える。とはいえ、それが原因で戦線から外れるのも問題だ―――自分の記憶は特異点の中ではないと探れないらしいのだから。

 

 そうやって、考えているうちに医務室へと到着する。ロマニの城とも言えるここへ案内されると、ベッドに座らせられ、診察が始まる。包帯を解いて両目の状態を調べられ、魔術で体内探査を、両手の状態を確認され、そのほかにも後遺症がないのかを確認させられる。そうやってロマニによる検査が数時間ほど続いたところで、改めて医務室の椅子に座らせられる。

 

 検査の結果を告げられる。

 

「まず重い話からするけど、()()()()()()()()()()()()()()()かな。たぶん抉られたときに視神経を酷く損傷している。末端のほうが完全に死んでいて使い物にならない。だから最低限手術と半年ほどの治療期間が必要になるかな。とはいえ、そんな余裕も時間も今のボクらには存在しない。だからこの事件が解決するまでは諦めてほしい。それに君……目はなくても見えているんだよね?」

 

 その言葉に頷きを返す。膝の上に座っている妖精を見ることができないが、彼女は今、自分の膝に座ってこちらへと視線を向けているのが解る。そんな妖精の視線を無視するように視線をロマニへと向けたまま、口を開く。

 

「説明は、いるか?」

 

「……出来たら欲しいけど、その苦虫を噛み潰したような表情を見ていると、説明できそうなものでもないんでしょ? まぁ、そこは僕が魔眼に目覚めたとでも書いておくよ。そうすれば納得は得られるだろうね」

 

「……すまない」

 

「いや、君が謝る必要はないんだよ、アヴェンジャー。元はといえば君やマシュの事を知れなかったボクに問題があるんだから。その上で戦場に出ることを許可し、頼んでいるのはボクなんだ……はは、本当は頭を下げて謝るべきなんだろうね」

 

「気にするな。少なくとも俺は自分で望んで戦場に進んでいる。第一俺だけ安全に身を任せて下がっているなんてことは藤丸やマシュの前では絶対に出来ない」

 

 少なくとも、今、自分が戦おうと思うのは記憶を探す為だけではない。思い出せば思い出すほど蘇る人間性。それとともに思い出すのは()()()()だ。チンケで、価値もない。だが、同時に矜持があるのだ。子供だけを前にして、後ろに下がって安全を貪るなんてことは自分には絶対できない。そんな風に守られるだけの大人なんて死んでしまえばいい。心の底からそう思える程度には、色々と思い出している。そしてそこに、偽りはない。その感情を知ってか、ロマニは少しだけ驚いたような表情を浮かべてから、しかし笑みを浮かべた。

 

「うん。最初の頃とは比べ物にならないぐらいに君は人間らしくなっている。それがボクやレオナルドではなく自分で見つけていることだって思うと少し悔しいけど……友人として祝福させて欲しいな」

 

「友人?」

 

 聞きなれない言葉にロマニが少しだけ傷ついたような表情を浮かべる。

 

「え、もしかしてボクのこと友達だって思ってなかった? それはちょっと傷つくなぁ……」

 

 いや、違う、そうじゃない。逆だ。

 

「俺なんかがお前の友だと思ってもいいのか?」

 

 そんなこちらの言葉にロマニが軽く、頭の裏を掻き、

 

「何を言ってるんだ。同じ職場で働いて、暇な時間を一緒に潰して、一緒にお菓子を食べて、くだらないことで雑談して……それだけでボクらは友達だろ? そこに許可は必要ないよ。というかその自己評価の低さをどうにかしようよ。君は君でこのカルデアに大きく貢献している。君が働いているおかげで修復されているカルデアのシステムだってある。君がいなきゃボク達は今頃、もっとカツカツにリソース管理しなくちゃいけないんだ。そう―――君がボクらの3時のおやつを守ってるんだ!」

 

 ロマニを半眼で睨み付けようとして―――目がないことに気づき、少しだけ妙な表情を浮かべてしまった。そこにため息を吐き、新しい包帯を取って、それを目の在った場所に巻いて行く。妖精のおかげで視界が確保できるだけ、今はまだマシだ。

 

「さて、また仮面でも引っ張り出すか……」

 

「ん? また姿を隠すつもりかい? 止めておいたほうがいいよ。すでに一度立香君たちに見せているんだから、今更隠したって逆に剥がされるよ」

 

 ロマニのその言葉に動きを止める。その言葉は割と正しい、というか想像出来る。実際、今まで何度かフードを外さないのか? と立香に聞かれたことがあるし、アレが本気で剥がしに来たらまず間違いなく謎のヒロインZが悪ノリして混ざってくるだろう。そうすると忠犬ランスロットも混ざってくる。そうなってくるといよいよ、隠し通せる気もしない。

 

「それに君の肌、前は何をやっても肉が剥き出しだったけど、今ではちゃんと皮膚が出来てる。もうそこまでして隠さなくてもいいと、ボクは思うんだけど」

 

 自分が姿を隠していたのはどこまでも醜悪な自分の姿を他人の目に触れさせるのがいやだったからだ。だがロマニに言われて自分の体を見れば、前には存在しなかった肌の存在が見て取れた。本当にいつの間にか、だ。戦闘を繰り返しているから逆に悪化するはずの体なのに、なのに改善されてきている様子が見えている。とはいえ、漆黒の肌と色素を失った非現実的なまでの髪色の白さはまだ変わらない―――まるで怪物のような姿をしている。

 

 ……ただ、妥協は必要なのだろう。

 

「解った。怪しくない服装をすればいいのだろう」

 

「あ、自覚あったんだ」

 

「さすがにあの恰好をしていてアレが怪しくはないとは欠片も思っていない。それと比べて姿を晒す方を嫌った」

 

「筋金入りだなぁ……まぁ、仕方がない。うん。ここは僕の服装を貸し出そうか。レオナルドに頼めば礼装として作成できそうだし、本格的なのは特異点の攻略の後でだけど、今はとりあえず君の格好をどうにかしようか」

 

 そう言ってロマニは目を輝かせていた。姿は大人なのに、まるで子供のような男だと呆れつつも、それを悪くないと思ってしまうのは―――罪深いのだろうか?




 171号くん再臨0から1へ。というわけでカルデアで待機しつつお着替えの時間である。

 カルデアは優しい職場(爆破後限定

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