Vengeance For Pain   作:てんぞー

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ローマ・ザ・ローマ - 4

「―――余のローマは現在一つの敵を抱えている。これをローマ連合帝国と呼ぶ」

 

 宮殿、客間へとネロが此方を案内し、そして様々な果物や飲み物をテーブルの上に飾り、提供しながら教えてくる。ネロが、そしてローマが現在抱えている敵の存在を。それは連合帝国を名乗る、ネロとはまた別のローマであった。無論、一つの世代に皇帝は一人。つまりこの時代の皇帝とはネロの事を示す。ゆえにそれ以外のローマは存在せず、ローマを名乗る敵とローマが戦った、なんて記録もない。故にこの時点でありえない出来事であったが、

 

「連合と呼んでおるのだが、連中は皇帝と名乗る者どもが存在し、連合を率いている。このローマの支配者である余を無視してだ! 不敬にも程があろう? とはいえ、問題は相手が優秀であり、余のローマと国土を半分に割って拮抗しているという事実にある。特に最近は岩で作られた巨人の様な不思議な生物を使役するせいと、相手の首都が発見できていない事もあって攻め込めずやや押されている部分もあるのが悩ましいところでな」

 

 ネロの言葉にピピ、と電子音を鳴らしながらロマニの声がした。

 

『失礼……それは勿論、歴史になかった出来事だ。つまりボクらの敵もまたこの時代を乱す連合の存在だと見てまず間違いがないと思う。それに不思議な生物、とはたぶん魔道生物の事だろうね。それを生産している魔術師がいるという事は―――』

 

「レフ教授がいる可能性もある、という事ですね」

 

「まったく関係のない魔術師かもしれないけどね」

 

 立香の言葉に頷く。ゴーレム等の魔道生物はその道理に詳しい魔術師や錬金術師であれば基本的に誰であっても作る事が出来る。

 

「相手側にキャスターが存在する可能性もあるな。……軍団として相手が動いているという事はオルレアンとはだいぶ違った方針で来るつもりなのだろうな、相手は。やはりオルレアンの戦いは見られていた可能性が高いか……」

 

 どちらにしろ、このローマ連合帝国というのが明確な敵であることに間違いない。レフがいるかいないかは関係なく、カルデアとしてはこの特異点を修復しなくてはならない。つまり、ネロと共に連合帝国の打倒が今回の目標となる。立香が共に戦うという意思を表示し、ネロに伝えれば、ネロが嬉しそうにそうか、と言葉を零した。

 

「それでは―――」

 

「―――ネロ様! 進軍! 敵の進軍です! 軍団規模で接近中です! 北のほうから突如として現れました!」

 

「……歓迎の宴と行きたいところであったが、先に連合からの歓迎を受ける事になってしまったな。立香、マシュ、アヴェンジャーのカルデアらよ、余の味方をするという意思表示、此度の戦いで示してくれるか?」

 

 ネロのその言葉に立香が己の胸を叩いた。

 

「勿論ですとも」

 

 

 

 

 ローマの城壁からその外部、迫る軍勢へと視線を向ける。見えてくるのはローマ連合帝国の兵士達、そしてそれに混ざるようにカルデアでも見慣れたゴーレムの姿が見える。そのほかにも金で雇われたような傭兵、荒くれ者の姿が見える。それなりに混ざってはいるが、統一された意志の様なものを感じる。正面、城壁の前に立つように立香とマシュが、そして他の英霊達が見える。全員が前線に出ている中、自分は後ろへと下がっていた。

 

 今回の編成、支援と援護が行えるアーチャーのクラスのサーヴァントが存在しない。アサシンであるサンソンは医術スキルで概念的な干渉を行い、傷の治療などを行える貴重な技能を持ったサーヴァントだ。それ故に前線で戦うことを強いられている。謎のヒロインZだけはロンゴミニアドで砲撃支援ができるが、ランスロットが存在する今、連携して戦ったほうが魔力も負担も少ない。何より前線指揮官として立香を鍛えるチャンスである為、前線で戦えるサーヴァントは立香やネロとともに、前線へと切り込んでいる。

 

 それでも()()()()()()()()()()

 

「エミヤには及ばんが、スポッターとしての役割を果たさせて貰おう」

 

 告げながら弓に変形させたシェイプシフターから此方へと来る前にエミヤに頼んで作成してもらった爆裂矢を番え、一呼吸で一気に放つ。明らかに面倒そうな攻城兵器を用意してた兵士を兵器ごと爆裂矢の爆発に巻き込んで破壊する。奥深くにある危険物はとりあえずこれで排除しつつ、爆撃を感知したら弓で迎撃する。そのスタイルを維持しながら義眼の望遠で戦場を俯瞰し、状況を把握しながらカルデアへとデータをリンク、此方で収集した情報を前線の立香へと送る。

 

 やはりどうも、直接戦うよりはこうやって支援に徹する方が効率的に動けるらしい。

 

『皮肉なものね。英霊を倒す者を求めた結果、生まれて来たのは英霊を効率的に動かす事のできるサポーターなんだから。倒す筈の存在が連携するための歯車になっているんだから笑いものよ。マリスビリー見てるー?』

 

 あの世に声が届くなら……いや、そのうちエジソンでも出現しそうだし考えるのはやめておこう。そんな事よりも己の役割を全うする事に集中する。

 

一拍二拍……(≪虚ろの英知:神道≫)

 

 弓の弦で音を響かせ、それで祓いの効果のある魔術を発動させる。城壁にかかりつつあった敵の魔術効果をそうやって祓い、クリーンリセットさせる。前線にいくつか、魔術師が混ざっているのが見える。どうやらこの時代にも神秘の使徒は存在するらしい。こういう魔術的な干渉は神秘に対する知恵や対抗手段のないものに対しては極悪な力を発揮する為、最低限一人は後方で対策に回ってるほうが安定する。

 

「魔術師は……あそこか」

 

 魔術の反応を逆探知、そのまま魔術師へと向けて矢を放った。それを守るようにゴーレムが立ちはだかる。そんなゴーレムの体を爆裂する矢が粉砕するが、その背後にいる魔術師は無事―――だった。

 

 過去形。

 

『暴走列車ランスロットマンに吹き飛ばされたわね。見事に』

 

 しかもゴーレムに片腕を突き刺して宝具化させて乗っ取っているのが凄い。黒化したゴーレムが妖精の言葉通り、暴走列車のように走り回りながら連合ローマ兵を玩具のように吹き飛ばしている。宝具化されると普通の状態よりも強度などが強化される以上、通常のゴーレムでは宝具化ゴーレムには勝てない。悲しい話だが、ゴーレムが増えれば増えるだけ、ランスロットの玩具が増えるという状況は見ていて愉快だった。そう思っているうちにガンガン倒れるローマ兵士の姿が増えてくる。

 

 元々クー・フーリン、謎のヒロインZ、そしてランスロットという格としては大英雄クラスの英霊が最前線で一切の制約なしで暴れているのだから、当然と言える状況だった。眺めている内に数百という兵士が減って行き、

 

『強大な魔力を感知、これは―――魔術か!!』

 

 ロマニの声と共に、敵の軍団の向こう側を見た―――転移魔術の発動によって、一気に連合ローマ側に大量のゴーレム、そして連合ローマ兵が補充されるのが見えた。先ほどまで倒れていた連合ローマ兵もいつの間にか姿を消していた。転移というよりは超大規模な置換魔術と言ったほうが近いのかもしれない。負傷した兵と補充の人員を入れ替えたのだろう。だがそれはとてもこの時代の人間に行える魔術ではない。

 

『使われたわね? 聖杯の力を』

 

 まさしく聖杯によって成し得る規模の魔術だった。となると聖杯によって魔術をブーストして行使したのだろうか。まぁ、その判断は追々するとする。矢を新たに射出し、戦場を観察し、リアルタイムでデータリンクを形成しながら通信機を通して立香へと言葉を送る。

 

「敵の規模が一気に未知数になった。転移の類で一気に相手の戦力が補充されたからな」

 

『えっ、マジっすか先生』

 

「先生はやめろ……長引きそうだから、ある程度温存しながら戦うように心がけたほうが賢いかもしれない」

 

『うっす……ランスロットは休憩! クー・フーリンの宝具で一旦ゴーレムを薙ぎ払ったらローテ組んでちょっとペースダウンするよ!』

 

『前線指揮官としてそこそこ意識が出来てきたかしら? まぁ、普通の聖杯戦争ではありえない状況だし、これだけ聖杯戦争を経験したことのある子もあの子だけでしょうし、そのうち世界で一番聖杯戦争にもサーヴァントにも詳しいマスター……いいえ、最強のマスターにでもなれそうね』

 

「……それまで生存できていればな」

 

 とはいえ、生存できれば、ではないのだ。絶対に生存させる、のだ。立香が死んだ時点でカルデアはその活動を完全に終了する。サーヴァントはただ、召喚されてここにいるわけではない。マスターという存在と縁を結ぶことで召喚されるのだ。その縁と言えるべきものがマスターの資質として一番重要なのだ。そしてそれに限って、藤丸立香という存在は天運に恵まれている。それが彼の才能だった。

 

 才能を宝石と評するなら、彼は石ころだった。だけど河原で見つけた、妙に形の良くて艶のある綺麗な石。誰が見てもそれに値段をつけるほどの価値はないと解るそれ、だけどどこか魅力的に見えてしまうそれ。それが藤丸立香だと思っている。ただそんな彼も、聖杯戦争という修羅場を何度も迎え、芸術的に磨き上げられている―――それこそ、本物の宝石に負けない輝きを放つ為に。

 

『やっぱり……聖杯の力を使っているとしか思えない。普通はこんな無茶な魔術は使えない。北西の方角から大規模な魔術の行使を感知できる以上、おそらく力の使い手は間違いなくそちらにいるんだと思うけど―――』

 

 アンチマジックを神道、教会式の二種類で使用し、干渉をキャンセルする。油断したら即座に都市そのものに転移してつぶしてきそうだと判断する。この干渉はおそらくその下準備としてのマーキング行為だろうと思っている―――これはローマそのものにネロの許可を貰い、転移対策の結界を張ったほうがいいのかもしれない。というかそうしないといつか奇襲されてローマが潰される。或いはそれが敵の狙いだったのかもしれない。

 

『前線にいた魔術師はそう多くはないし、討伐完了。弓兵を除けば城壁に遠距離攻撃を仕掛けられそうな相手は優先的に排除できたね』

 

「となると此方のローマ兵も動かしやすくなる……いや、既にネロが動かしているか」

 

 時間はかかるだろうが、ローマの防衛戦はまずイレギュラーでもなければ、此方が確実に守り抜く事ができるだろう。そもそも半日程度の防衛で疲れるような人間はこの時代にはいないし、英霊もその程度だったら鼻歌交じりにこなせるだろう。問題は立香の体力が持つかどうかだが……そこはサンソンが判断できるだろう。アレはある意味医者だ。

 

 最大の問題はネロがまだ相手の拠点を発見できていない、という所にある。

 

 相手が聖杯を握っており、オルレアンでの戦いを見ている以上、こちらの手札が割れており、それに対する対抗策を仕込んでいてもおかしくはない。何より転移で軍団を送り込むなんて無茶なことができるのであれば、時間をかければかけるほどジリ貧になって押しつぶされる未来が見えてくる。おそらくネロもそこは理解しているはずだ。となると次の行動は遠征による土地の奪還と、領地の拡大だろうか。支配する領土を増やそうとすれば、その奪還のために相手はぶつからないといけない。つまり、相手に攻めさせず防衛に意識を回させることができる。

 

……(≪虚ろの英知:心眼≫)

 

 真横に手を伸ばし、横にいたローマ兵の前に手を差し出した。そのまま、顔面に突き刺さる瞬間の矢を手でつかみ、それを素早くクロスボウに変形したシェイプシフターに装填、それを射った兵士の腕へと打ち返した。それを横で見ていたローマ兵が驚きながら、

 

「あ、ありがとう……お前、独り言が多いから不気味に思えたけどいい奴だったんだな……」

 

 

「一言多い。それよりも次が来るぞ(≪義眼:偽・千里眼≫)、今度は助けないぞ」

 

「おぉ、今度は此方が助けてやるから待ってろよ」

 

 死にかけた男がよく言うものだ、と内心呆れつつも、ふぅ、と軽く息を吐く。やはり、相手の居場所が解らないとどうしようもない、というのは事実だった。となると重要なのは敵の拠点の把握、だろう。先ほど、ロマニの通信で反応は北西の方からあったとされる、

 

 となると敵の拠点はそっちにある可能性が高いだろう。

 

『あら、存外やる気なのね? まぁ、いいわ。偶には単独行動も素敵よね』

 

 謎のヒロインZは貴重な戦力だし、サンソンでは潜入と探索に向かないだろう。そうなると必然的に、

 

 ―――自分が探りに行くのが道理だろう。




 メタルアヴェンジャー・ソリッド、始まるってよ。潜入、情報収集のプロのハサン先生いないからね。

 それはそれとして、

 ウィーウィッシュアメリクリスマス!ウィーウィッシュアメリクリスマス!ウィーウィッシュアメリクリスマス! アンアハーピーヌーヤー!

 クリスマスは中止!!!

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