Vengeance For Pain   作:てんぞー

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ローマ・ザ・ローマ - 3

「うむ! 実に素晴らしい働きであった! まさに一騎当千とでも評するべきその働き、余は満足である! して、ローマからの援軍を余は呼んだ覚えはないし、来る気配もなかったので少々判断に困っているのだが、そなた達は一体何者であるのか?」

 

 ローマ兵は謎のヒロインZとランスロットの二人で完全に蹂躙された。それはもう酷い様子で、二人が通り抜けた場所に起き上るような姿はなかった。それが終わった後で盛大に暴れていた真紅の服装の女の下へと立香を先頭に向かった。此方が即座に味方だと見抜いた彼女は歓迎するも、同時に此方の存在に対して警戒をしているのが見えた。当たり前だ、一度謎のヒロインZ、そしてランスロットという戦力を目撃したのであれば無理やりにでも警戒せざるを得ないだろう。故に代表として、立香が前に出た。

 

「あ、どうも、俺たちはカルデアって言う組織です。人理修復の為に……えーと、つまり()()()()()()()()を解消し、本来の形を取り戻す為の旅をしている者です」

 

 立香のその言葉にふむ、と少女は呟いた。

 

「なるほど、それはつまり今、余の周りではありえない筈の出来事が発生している、という事であるのだな? よい、よい。そういう事であれば余も幾つか覚えがある。ならば何時、カルデアらを余は歓迎する事にしよう」

 

 その言葉にえっ、とマシュが声をこぼした。

 

「えー、っと、そんなにあっさりと信じてもいいんですか?」

 

 うむ、と少女は頷いた。

 

「余に嘘の類はまるで通じぬ(≪■■特権:真偽看破≫)からな。故にそなたらが嘘をついておらず、どうやって話すべきか必死に考えていることぐらい通じるわ」

 

 一瞬、目に痛みを覚えた。それとともに真紅の少女が何か、スキルのようなものを発動させたような、或いはそれを感知したような感じがあった。だがそれも一瞬だけだった。軽く頭を横へと振り、妙な感覚を排除してから改めて真紅の少女へと視線を向けなおした。うむうむ、と真紅の少女は呟きながら見渡し、頷いていた。

 

「うむ、余のローマへと歓迎しよう。このアッビア街道を北進すれば直ぐに見えてくるであろう。正しに来た、というのであればまずはその偉大さをその目で見て、そして知ると良いぞ、余の―――この第五代皇帝ネロ・クラウディウスが治める花の都のローマを!」

 

「……」

 

「……」

 

『歴史って面白いわねー。騎士王に続いてあの暴君ネロが女性だった、なんて』

 

 暴君ネロ―――三度落陽を迎えても、なお。横暴であり、暴君であり、そして独自の価値観でローマを愛した皇帝であったと、知識の中には記録されている。かなりの倒錯者であり、美しければ男であれ、女であれ、関係なく愛したとも。そんな人物が実はこんな少女で、女で、そしてあんな滅茶苦茶なのか、と思うと思わず頭が痛くなってくる。

 

「それはそれとして―――あれはなんだ」

 

 ネロがそう言って少し離れた位置を指さした。そこではロンゴミニアドによって大地に縫い付けられたランスロットが火炙りにされていた。それもそうだ。露骨にネロの胸元を見てnot arthurと特大の咆哮を響かせようとしていたのだから。もはやアイデンティティ、というよりはネタの一つとしてランスロットが覚えてしまった感じがある。アレだろうか、謎のヒロインZが完全にギャラクシーでユニバースな世界観を突破しているから、それに合わせて自分も同じ道へと身を投げたのだろうか。さすが騎士、その忠義はちょっと理解したくない。ともあれ、

 

「アレは身内の罰ゲームみたいなもので恒例行事です。本人も幽霊のようなもので間違って焼死してもそのうち蘇るので、そこまで気にする必要はありません」

 

「そ、そうか……うむ、余は気にしない事にした! それよりもまずはローマへと帰還であるな。我が都が無事であるかどうかを確かめねば。ではえーと、カルデアら、であったか? とりあえずは余と共にローマへと来ると良い。まずはそなたらの助太刀、その労いをしようと思う。詳しい話はその時にしよう。では余の愛しき兵たちよ! これよりローマへと帰還するぞ!」

 

 ネロがそう声を張り上げ、握る赤い剣を掲げた。それに呼応するように真紅と黄金の衣装の兵士たちが返答し、軍勢としての統率された声が響く。歩き出すネロに合わせ、ローマへの帰還が始まる。それに合わせ、此方カルデア組もネロから少し離れた場所から歩き出す。

 

「失礼、少し仲間内で相談を」

 

「うむ、許す!」

 

「それでは」

 

 ネロから少し離れたところで防音結界を魔術で張り、それでカルデアの会話内容が漏れないように注意を払いつつ、マシュと立香の会話に混ざる。

 

「先生の鮮やかな会話あざっす、あざっす」

 

「先生はやめろ」

 

「はい、何時も通りのコントが終わったところでここまでの話を纏めましょうか。あ、アルトリアさんとランスロットさんは炙り終わったら合流するそうです」

 

 コント扱いされているがあちらの方がもっとコントじゃないのだろうか、そんな文句を胸の中にしまい込みつつ、今まで出てきた情報を軽く整理することにする。この特異点は一世紀のローマである。皇帝はネロ・クラウディウスであり、現在ネロと敵対するローマ人が、集団が存在する。そして皇帝ネロは女性であり、暴君と呼ばれるにはどこか、兵士たちに慕われているような、そんな気配さえある。現状存在する情報はこれぐらいのものだろう。

 

『―――うん、となるとネロがおそらく正しい側のローマなんだろう。ダ・ヴィンチちゃんや、アルトリア・ペンドラゴンの例を見れば今更実は女でした、なんて偉人女体化は珍しくはないって考えてしまおう。だからネロが正しいローマ側だとして、彼女と敵対したローマが正しくないローマ、って事なんだろうね』

 

「具体的な話となるとローマに到着してからになりそうなので、まだちょっと情報不足ですね……」

 

「うーん、とりあえずはネロについて話を聞くしかない、って感じだね。というか交渉、先生がやってくれるから俺必要あるの? って感じなんだけど」

 

「先生はやめろ……それに俺はマニュアルの交渉術しかできない。ネロは芸術を愛し、かなり情熱的な人物だったと聞く。だったら俺のように冷めた男よりはお前やマシュのように若さに溢れているほうがウケがいいだろう」

 

『そんな風に助言するから先生呼ばわれするのよ』

 

 とはいえ、立香とマシュの精神的な未熟さ、不安定さに関しては見ていて不安を覚えるレベルなのだ。英霊たちはそこらへん、超人であるが為に()()()()()()()()()()()()()()()()程度にしか考えない。だが違う。マシュは英霊の霊基を借りているだけだし、立香もよくやって、成長を頑張っているだけであってその本質は凡人だ。誰かが教え、そして導かない限りは躓いて、そのまま転んで崖から落ちてしまうのだろう。

 

 それこそたぶん、オルレアンや冬木の後で偶にやった自分やエミヤでのカウンセリングがなければ、もう既に自殺していてもおかしくはない―――少なくともエミヤはそこらへん()()()()()()()()貴重な英霊だった。とはいえ、彼は今回カルデアで留守番だ。その為、彼の分も自分が面倒を見なくては、と思っている。ともあれ、まずはローマへと行かなくては話にならない。

 

 軽く状況確認を終え、炎上中のランスロットをロンゴミニアドの先端で引っ掻けるように謎のヒロインZが戻ってくる。その光景を見ると、カルデア内で良く見る光景だなぁ、と軽く呆れを感じつつも、それを普通に受け入れるだけの人間性が自分にはあるのだと、

 

 それを噛みしめながら、ネロと共にローマへと向かった。

 

 

 

 

 ―――花の都ローマ。

 

 古代ローマ、それは地理で言えばイタリア中部に存在した文明の名称である。古代ローマ帝国と呼ばれる一文明を築いたそれは現代ではローマという都市のみを名前として残すが、歴史上様々な影響を残している。数多くの属州を抱えていたローマは四方八方から様々な制度、文化、思想が流入し、そのおかげで目覚ましい発展を遂げたという。特に一般人でもローマのことで真っ先に思い浮かべるのは娯楽の事だろう。劇場、コロセウム、スパ、そういった類の施設も市民に対して提供されていた。

 

「どうだ、これが余の治めるローマである!」

 

『うわぁ……なんというか、凄いわね。これがローマという町なのね』

 

 両腕を広げ、ローマの大通りでネロはローマ、その文化そのものを自慢するように太陽な笑みを見せていた。ローマという都市、それを説明するには過去の資料とか、現代ではどういう風とか、そういう例えを持ち出すのは()()()()()()()だった。そう、それこそがローマという文化であり、国だった。太陽の如く活気づいている都市は人々が忙しそうに、しかし同時に満たされた表情で歩き、進んでいるのが解る。道路横の露店では様々な果物が並べられ、どれも美しく景色を彩っていた。人々の笑い声が、そして活気が満ちている。そうとしか表現する事ができなかった。そう、ここは活気が満ちている―――生きているのだ。

 

「……」

 

「……」

 

 立香とマシュに限ってはもう言葉もない、という様子で口を開けてローマの街並みに見入っていた。その様子だけで言葉はいらない様子だった。ネロは嬉しそうにうむうむ、と頷いていた。だがマシュや立香の気持ちも解らなくはないのだ。ここは生きている、都市そのものが深呼吸をするかのように生きているのだ。記憶にある現代の街並み、まだ破壊される前のカルデアのあの重苦しい空気とはまるで違う。ここにいる誰もが喜びと、日常を胸いっぱいに感じて生活しているのだ。

 

 惰性に流されるように生きてゆく現代社会では見る事のない景色だった。

 

『そうね。だからこそ圧倒されるのかしら。知識だけで知るのとは全然違うわね……やはりこうやって経験する事は。流石の私も驚いちゃったわ。確かにあーだこーだ持ち出して説明したりするのは無粋ね、これは。ローマ、そう表現するのが一番だわ』

 

 そう、表現するのであればローマ、それが一番しっくりとくる、そういう場所だった。

 

「ふっふっふっふ、そうであろう、そうであろう! みなまで言うな、その表情を見れば言いたいこと、

その気持ちは良く伝わってくる。これが余のローマであり、そして先人たちが築き上げてきたローマである。即ち―――ローマであるのだ!」

 

「やばい、なんかすごいローマ的なローマ力伝わってくる。これがローマか」

 

「先輩、しっかりしてください、国語の成績が2みたいな状態になってますよ!」

 

「フォウフォーウ!」

 

 何やってんだこいつら、と思いながら眺めていると、ネロが近くの果物屋からリンゴを拝借する。果物屋もそれを取るのがネロだと知ると、嬉しそうに笑みを浮かべ、好きなだけ持って行ってくれ、と笑っていた。ネロはどうやらちゃんと臣民に慕われているようだった。故に晩年の死に様をどうしても思い浮かべ、首をかしげてしまう。

 

『人の変化も没落も刹那の出来事よ。たとえそれがどんなに高潔な人物であろうと、時の流れには逆らえないのよ。それは人間という生物である以上、仕方のない事だわ。貴方だって子供の頃と大人になってからは意見が変わるでしょ? ものの見方や価値観の変化なんて時とともに変わってしまうものよ、残念ながらね』

 

「受け取るが良い。我が領内で取れた新鮮な果物であるぞ」

 

 そう言いながらネロが林檎を此方へと投げてよこした。受け取った手の中で見る林檎は新鮮でみずみずしい姿をしている―――ヒマラヤに存在するカルデア、なおかつ物資の大半が失われている今、中々味わえるものではない。ゆっくりとローブの袖で林檎を軽く磨いてからそれに噛り付いた。良く見ればマシュは遠慮しているが、立香も此方と同じように林檎に噛り付いていた。そして林檎を口にした瞬間、何とも言葉にできない甘さが口の中に広がり、溢れんばかりの果汁が口内を満たした。新鮮な林檎がここまで美味しいとは、思ってもいなかった。

 

「超美味しい……」

 

「そうであろう? そうであろう! うむ、中々にいいリアクションを見せてくれるから余としても大変満足である。であるならば、カルデアらよ、そろそろ余の宮殿へと向かおうか。まずは歓迎をし、そして余が自ら説明するとしょう」

 

 それは、これから自分達が相対する存在、この特異点における異常、つまり、

 

「―――敵を、連合帝国の存在を!」




 書いてて思う。ネロちゃまかわいい、と。

 とりあえず導入はシナリオ通り、というか毎回変えられる場所もねぇよなぁ、と思いつつもオルレアンみたいに独自路線でやるよー。

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