Vengeance For Pain   作:てんぞー

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ローマ・ザ・ローマ - 2

 もはや五度目となる霊子へと変換され、特異点へと送り込まれるレイシフトの感覚。それが終わったころに目を開ければ、視界いっぱいに草原と青空の姿が入り込んでくる。この豊かな風景はオルレアンでも一回目撃している為、新鮮さを感じない。記憶の中にある風景のほとんどは中東か、或いはアジア圏の熱帯を歩き回る記憶ばかりで、こういうヨーロッパの景色はまるで記憶にない。とはいえ、草原と青空なんてものはどこに行っても同じような景色ばかりだ。

 

『琴線に触れるものはないのね』

 

 見慣れた景色だというのが実に悲しい話なのだ。思い出し始めているのだ、色々と。その結果、記憶がないころに感じていた新たな出来事に触れる新鮮さは段々と薄れている。これが少しずつ知って行く事の悲しみなのだろうか、そんなくだらないことを考えていると、ロマニとの通信が繋がる。

 

『花のローマへようこそ……って言いたいところだけどアレ? ローマじゃない? 映像が正しいのなら見渡す限り平原しか見えないんだけど』

 

「いえ、それで正しいですDr.ロマニ。どこからどう見てもここはローマではありません。加えて言うとどこかの街道の近くのようです」

 

『ローマへと直接レイシフトしたはずなんだけどおかしいなぁ……となると座標をズラされたか、或いはローマの場所が違うとか、かな? まぁ、どちらにしろイレギュラー発生だね』

 

「開幕ラッキーチャンスみたいな言い方はやめてよドクター……それよりもここがどこかなのかを特定よろしく。さて、今回は、っと……」

 

 ロマニに現在位置の特定を行わせている間に、立香が今回の遠征メンバーを確認する。一回レイシフトで特異点へと参戦できるサーヴァントは全部で六騎までだ。そのため、現在七騎のサーヴァントを保有するカルデアでは絶対に一人、カルデアで待機していなければいけないサーヴァントが出てくる―――今回はエミヤが自発的にカルデアに残ると宣言した為、いつでも交代か、あるいは他のサーヴァントが敗北した場合に備えて即座に出れるように待機している。

 

 とはいえ、レイシフトで此方へと到着するには数分のラグが発生するらしく。即座に駆けつけられるという訳でもない為、控えのサーヴァントがいるから安心できるという事ではない。ともあれ、そんな事もあって今回の参戦メンバーはエミヤを抜いて、新入りのサーヴァントを加えた布陣だった。バーサーカーであるランスロットの暴走が気がかりではあるが、レイシフトされた直後からお馬さんごっこを開始しているので、心配するだけ無駄だな、と思っておく。

 

『過去のブリテンは相当な魔境だった様ね。気になるような、ならないような……』

 

 その気持ちは解る、と勝手に出現して肩車される妖精へと言葉を向けた。これで本当に誰にも姿が見えないのだというから、本当に驚きだ。ともあれ、そこで全員来ていること、そして持ち込みの装備があることを確認し終わるとうん、とロマニの声が通信から響いた。

 

『そこはアッビア街道、ロ-マから南にある地点だね。このまま街道に沿って北上すればローマへとたどり着けると思うけど……その前に戦闘反応だ。この先の街道で衝突する魔力反応を感じる。この時代の事を調べるためにも調査をよろしく』

 

「うっし、じゃあグランドオーダー開始!」

 

「はい!」

 

「任務拝承」

 

 立香の言葉に従いサーヴァント達が霊体化し、姿を隠す。今回に限ってはオルレアンでの反省を生かして、マシュと立香もある程度認識をぼやけさせるためのローブをカルデアの方から用意されているため、元々の服装の上からそれを着ている。これを着ていれば姿に対して違和感を持たれなくなる程度の魔術礼装ではあるが、異なる時代での情報収集には必須の礼装とも言える。

 

『アヴェンジャーくん、義眼との同期を頼むよ』

 

 ロマニに促されて義眼とカルデアへの映像を同期させる。望遠モードに切り替え、示された方角へと視線を合わせ、そこにあるものを見る。ズームされ、拡大された視界の中で見えるのは()()()()()()だった。何方も真紅と金の装飾を施された兵士達の衝突であり、どちらも同じ、生きた人である。その装飾は知識の中から探りだせばローマ兵のものであるのは明確なのだが、それはそれとして、それが本気で殺しあってぶつかっているのには流石に困惑する事実だった。

 

 とはいえ、これは朗報だ。オルレアンではほぼ人類側が絶滅していた事を考えると、まだ人間が生きているという事実自体が嬉しいものだ。とはいえ、

 

「どちらに加勢する?」

 

 通常の視界でも段々と見えてくる距離に入ったところで、そう呟きながらローマ対ローマの戦いを見る。どちらも生きている人間である以上、カルデアとしては守るべき存在だ。とはいえ、どちらに加勢すべきか、それが解らない。そう思ってしばらく戦場を眺めていると、唐突にランスロットを椅子代わりにして座る謎のヒロインZがその姿を見せた。

 

「アルトリア顔の気配を感じますね……殺さないと……」

 

「カルデアの前線指揮官として判断します! なんか属性的に綺麗っぽいアルトリア顔がいたらそっちに加勢で!」

 

「Why!?」

 

 思わず母国語が漏れる謎のヒロインZの姿を無視し、うんうん、と納得するような声が通信の向こう側から聞こえた。謎のヒロインZがシリアスではないという事は極めて安全である、と判断できる。なんだかんだでカオスの塊のような女ではあるが、その中身に関してはアルトリア・ペンドラゴン、つまりは騎士王と呼ばれた人物の経験が詰まっているのだ。ふざけていい状況といけない状況はしっかりと理解しているだろう。

 

 そう思った直後、

 

「―――とぉーぅ!」

 

 可愛らしいが、しかし良く響くような声が聞こえた。音源、戦場の方へと視線を向ければ10メートル程の高さまで跳躍した人の姿が見える―――驚くことに、その動きからは一切の魔力も、そして霊基も感じられなかった。空に舞い上がる燃え上がるような服装の女はまさに生身で、その能力を証明していた。大よそ、現代人ではまるで不可能な身体能力の高さは、現代よりもはるかに満ちているエーテルの影響で生み出された才能のある屈強な人の力なのだろう。ただそうやって空へと飛び上がった彼女は放たれた矢を一閃の下に散らしながら、

 

「―――余が大大大正義ローマアタック!」

 

 アルトリア顔でそう叫びながら高速落下し、無数の兵士を蹴散らした。それでもその圧倒的能力を前にしても敵対するローマ兵の数は全く減らない。無双の英雄ではあったが、相手の数は軽く百を超えているのが見えていた。ともあれ、そこまで相手の姿と、そしてアルトリア顔の彼女を確認したところで、

 

「とりあえず俺は彼女が味方だと思うんだけど」

 

『うん、まぁ、凄く解りやすいよね!』

 

「えー。始末しましょうよ、始末。アルトリア顔一人消したところで人類は終わりませんから。ね? アレ、ちょっとサクっとやっちゃいましょう。ほら、ランスロットもアルトリア顔許せねぇ……! とか言ってすごい殺気立っていますし」

 

「Arrrr……」

 

 物凄い困った気配を出しながらランスロットが頭を横へと全力で振っている。そりゃそうだ、とそのリアクションに納得しながらも、立香はすでにローマアタックを決めたアルトリア顔に味方する事を決めているらしい。ならばそれに従うのがサーヴァントとしての役割だろう。謎のヒロインZも不本意そうな表情を浮かべているが、従う気配はある。

 

「……ふむ、大丈夫か(≪虚ろの英知:医術:診断≫)

 

 立香のメンタルは軽く診断する限り、今は平気そうだ。少なくとも冬木、オルレアンを駆け抜けてきたその経験が彼を支えている。何よりマシュの前で格好つけようとする彼の心得が強く、その姿を支えている。今はまだ放置していても大丈夫だろう。そう判断したところでエミヤがいない遠距離武装枠を埋める為にシェイプシフターを大弓へと変形させ、魔力の矢を形成した。

 

「相手ローマ兵は推定300はいるようですが―――」

 

「ふむ……まぁ、そろそろ真面目にやりますか。ランスロット、私に合わせてください。召喚されてからの初陣です。貴方の名が偽りではないことをその武威をもって証明しなさい。狂化した程度で出来なくなる程度の雑魚ではないでしょう、貴方も」

 

 謎のヒロインZが立ち上がり、二本のロンゴミニアドを抜くのと同時に、ランスロットの咆哮が空に響いた。それは明確な歓喜の咆哮だった。円卓を割ってしまった罪人であるのに、再び王と肩を並べて戦う機会なんて存在しないはずなのに―――その運命を捻じ曲げ、カルデアという最果ての終焉でそのありえない事態は達成されてしまった。それゆえにランスロットは空へと向かって歓喜の咆哮を響かせた。

 

 クー・フーリンがその姿を見送った。軽く、ため息を吐くような声で姿を見せながらも、前に出る気配はなかった。

 

「ま―――たまにゃあ一番槍を譲ってやるか。音に聞く円卓の騎士が本物ってんなら……」

 

 クー・フーリンがそうつぶやいた直後、謎のヒロインZとランスロットの二人がローマ兵に突っ込んだ。その反応として対応しようとしたローマ兵は盾を構えたが、その直後爆発するような衝撃を受けて空へとその姿が舞い上がるのが見えた。そこからはもはや暴風が一気に食い破り、蹂躙して行く姿を眺めるだけだった。ランスロットが接近し、武器をつかめばそれが宝具化し、それを使い捨ての道具として贅沢に振るいながら接近してくるローマ兵全てを()()()()()()()()()()している。

 

 そんなランスロットだけでも凄まじい所に、ヒャッハーと叫ぶ二槍の謎のヒロインZが突貫して行く。その言動はふざけているが、その動きは凄まじいの一言に尽きる。まるで頭の後ろに目がついているのではないかと言わんばかりに背後から襲い掛かる兵士に反応し、カウンターを放ちながら()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。

 

 それは数日等で完成できる動きではなかった。明らかにお互いのクセ、呼吸、流派、思考、それを理解しての動きだった。それもそうだ。謎のヒロインZはあんな格好でふざけていてもその中身は完全に騎士王そのもので、そしてランスロットという騎士は彼女に仕えた事のあるものだ―――それも長い時を、臣下として。ならば当然同じ戦場に出ただろう。一緒に訓練しただろう。同じ城で暮らし、腕を磨き、そして成長したのだろう。

 

 その終わりはまさに悲劇だとしか表現のしようがない。だがそういう執着や決着はここ、カルデアでは存在しない。謎のヒロインZはアルトリア・ペンドラゴンのサーヴァントとしての姿であり、そしてバーサーカーのランスロットもまた、英霊としての姿の一つである。そう、彼と彼女は今、サーヴァントである。

 

「うぉー……すげぇ……」

 

 藤丸立香というマスターの下で、人類史を救うという目的を達成するための参陣したサーヴァントなのだ。故に極自然と、二人は背中を合わせ、

 

 ―――再び、戦友として共に戦う事ができる。

 

 それを証明したのが正面の戦いだった。

 

 どんな武器であろうと己の一部のように扱い、変幻自在に動きを変えながらすべての兵士を一撃で吹き飛ばし、昏倒させ、無力化してゆくランスロット、そしてランスロットが食い破った所へと踏み込み、神秘と武装の格差でどんな攻撃も無力化させながら気配遮断で瞬間的に姿を消し、正面から奇襲染みた動きで完全に戦場を支配する謎のヒロインZは、コンビとしての動きが完全に完成された、歴戦の勇士としての姿を見せていた。

 

「宝具とかの派手さとはまた別の、言葉じゃ表現できない凄まじさがあるな、これ……」

 

 立香がそうやって表現するのも仕方がない。黒と白、そんな暴風としてしか二人の姿は表現できなかった。何をしようが人間では絶対にどうしようもない、そんな領域の動きであり、もはや士気が折れていないのが不思議すぎる、そういう完全な蹂躙だった。

 

 改めて―――これが、本物の英霊だと実感する。

 

 とことん鍛えられ、経験を持っており、理不尽であり、そして―――英霊なのだ。

 

 彼らは英霊と呼ばれるに値する何らかの行いをなしてきた存在なのだ。その中でもアルトリア・ペンドラゴンとランスロットはその武名と伝説を後の歴史に残した。故に()()()()()なのだ。あの存在は英霊なのだから。

 

 これが()()()()()と呼べる存在、その戦いなのだ。

 

 ―――オルレアンでの戦い等、死線からは程遠い。




 ローマとラーマは響きが似ている。つまりローマとは真なるラーマの陰でしかなかったのだ……つまりシータ様ガチャ実装はよ……はよ……。

 それはそれとして、同じ時代、武威を良く知る者同士がそろったので時代コンボが発生して連携ボーナスが発生しました。

 なお、メタというか対策されて数百人は死ぬのが現実。

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