Vengeance For Pain   作:てんぞー

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オルレアンTA - 4

 ―――気配遮断を発動させ、カルデアから持ち込んできた匂い消しで完全に消臭し、それで対策を完了させたところでオルレアンへと接近する。空を飛ぶワイバーンも、大地の上で守護するように立ち尽くすドラゴンも、全てが気づかずに通り過ぎて行く。直ぐ横の謎のヒロインZも同じように完全に姿と気配を殺しており、攻撃動作に入らない限りは絶対にバレることはないだろう。サーヴァントのような気配察知スキルや直感の様なスキルがない為、メタ的な方法で気配遮断を突破することができないのだ。オルレアンへと接近する、その荒野を半分抜けたところで足を止める。こちらは準備を完了させた。謎のヒロインZのほうへと視線を向け、アイコンタクトをとる。向こう側も即座にロンゴミニアドを抜けるように待機しており、何時でも攻撃に移れる状態となっていた。

 

『―――こっちは待機完了、いつでも行動に移せる』

 

『おう、任せな。派手に決めてやるからよ。今度のマスターは派手にやらせてくれるから楽しくてしょうがねぇわ』

 

 別グループに分かれているクー・フーリンからの念話がそれで切れる。実際、全力で戦えることが許されているだけで楽しそうにしているのが聞こえる。英霊としてはこの規格外の舞台で戦えるのがやりがいがあって楽しいのだろう、そう判断して別チームの動きを待つ。その間にシェイプシフターを球体へと変形させ、魔力を静かに、バレ無いように注ぎ込みながら待機する。段々と色を濁らせるアトラスの宝玉を握りしめる。それが何を欲するのかを、触れている感触を通して知りながらも手放す事無く、そのまま待機している。

 

 ―――やがて、オルレアンの荒野に声が響いた。

 

「―――蹴り穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)!」

 

 空へと飛びあがる青い姿が見えた。直後、朱い閃光が空から何百、何千という細かい鏃へと変形して降り注いだ。それこそが魔槍ゲイ・ボルクの本来の運用方法、影の国の女王よりクー・フーリンが教わった使い方。魔槍ゲイ・ボルクをその足で蹴り上げて、空から蹴り落とすことによって何千という鏃に変形し、突き刺さった相手の内側から棘を伸ばしてその内側から食い破る。心臓破りの呪いは刺し穿つ時とは違い、失われている。だが一度に大量の軍勢と戦う為の使用方法はその呪いの朱槍さえ存在していれば、使い方を変えるだけで存分に使用できる。

 

 そうすることによって、オルレアンの守護に回っていた巨大なドラゴンが、そしてワイバーンが一斉にクー・フーリンを敵として捕らえた。何十という数ではなく、何百というレベルの竜種が一斉にクー・フーリンという存在を目指して殺到する。その多くが魔槍の雨によって蹴散らされようとも、本命である巨大なドラゴンが無事である以上、敵はそれを惜しむことがなかった。

 

 だがそれを阻む様にジャンヌが出た。解りやすくクー・フーリンの着地地点の少し前に出た彼女はその旗を掲げ、宝具を発動させた。着地するまでの間のクー・フーリンをそうやって完全に守護し、ワイバーンやドラゴンから一斉に吐き出された超高熱のブレスを一気に無力化する。

 

 そうやってその意識がサーヴァントへと向けられた瞬間、

 

 ―――ドラゴンの姿が地平線から喪失された。

 

 クー・フーリンという陽動、ジャンヌという餌によってつられてその意識がドラゴンへと向けられた瞬間、エミヤの固有結界にドラゴンが放り込まれた。おそらく固有結界の中ではドラゴンとエミヤの一対一の勝負が始まっているだろう。エミヤと神話クラスのドラゴンの戦い―――さすがに一対一だとドラゴンスレイヤーの異名でもなければつらいだろう。だが最悪の場合、()()()()()退()()()()()()()()のだ。ドラゴンが隔離された時点でその役割を果たしている―――いずれカルデアで会おう。

 

 直後、謎のヒロインZが握るロンゴミニアドが二振りとも、その鋼の外装を剥がして完全な光の塊へと変形した。それは魔力が完全に装填され、宝具として放つことが可能である状態を示していた。神話クラスの宝具であるが故、令呪でも使用しない限りは即座に放つことができないという明確なデメリットは存在しているが、そんなものは令呪で強引に発動可能にしてしまえば問題はない。二つの光を一本に束ねたそれを放つ準備を謎のヒロインZが完了させていた。それによって気配遮断が解除され、戦場にこちらの姿が晒される。ワイバーンがそれに気づくも、状況はすでに遅い―――クー・フーリンとジャンヌという陽動に食いついた以上、

 

 そして()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、どうあがいても介入が間に合わない。

 

「二人で初めての共同作業ですね……キャッ!」

 

『なにいってんだこいつ。座から情報抹消してやろうか』

 

「やめろ。恥ずかしそうにロンゴミニアド振るうな。光が漏れてる、漏れてる」

 

 しかも漏れた光で大地に穴が空くので冗談とかそういうレベルを数段階飛ばしている。なぜカルデアはこんな魔物を召喚してしまったのか。なぜ座はこんな魔物の存在を許してしまったのか。それはおそらく人類では理解できる概念ではないのだろう。だがそんなことよりも今は、作戦の総仕上げだった。

 

「では私が上から―――」

 

「俺が下から―――」

 

 魔力を限界まで捻出し、シェイプシフターの全機能、ロック、リミッターを解除する。同時に謎のヒロインZが空へと飛びあがり、ロンゴミニアドを限界まで引き絞った。彼女がそれを振るうのと同時に、黒く濁ったシェイプシフターを大地へと叩き付けた。

 

無銘星輝槍(ひみつみにあど)!」

 

無貌にて世の果てを彩る(ナイアーラトホテップ)

 

 ロンゴミニアドが空を割るのと同時に、大地へと沈んだシェイプシフターが一線の黒を刻みながら一直線にオルレアンへと向かった。もはやそこに人が存在していないのはロマニの探査を使った結果、理解している、それ故に一切の遠慮はない。世界そのものを改変するほどの威力を持った聖槍、そして星そのものを滅ぼすといわれるアトラス院の生んだ大罪の一つ。それが同時に放たれた。空間も時間も、その全てを無視した破壊の一撃がオルレアンという空間に着弾し、すべてを光に飲み込んだ。それと同時に大地からオルレアンへと浸食したシェイプシフター―――或いはナイアーラトホテップと呼ばれる色も形も存在しない無貌の武器が黒となってオルレアンをその下部から一気に飲み込んだ。

 

 その性質は()()()()()。文字通り、虚無へと姿を変えるのだ―――触れたものと一緒に。

 

 それ故にそれは星を殺す兵器となる。無には質量が存在せず、制限も存在しない。ゆえに触れれば触れるだけ勝手に領域が増え、勝手に星を蝕んで滅ぼす。一度始めてしまえば終わらせるまでは無限に無への変形を繰り返すだけの星の破壊兵器。その展開と維持は増えすぎないように送り込んだ魔力でのみコントロールできるが、それでさえ常に制御を振り切って勝手に変形し続ける可能性だって存在する。

 

 ―――固有結界の様に隔離された空間でなければ、使おうとも思えない、アトラス院の罪の一つ。

 

 それが、そして星そのものをつなぎとめる聖槍が上空から、挟み込むように放たれた。音速を超え、知覚を超え、そして人理が及ぶ理解を超えて必殺が同時に放たれた。それは絶対に逃がさない、絶対に滅ぼすという意思の具現であり、これ以上ない徹底した殺戮の意思表示であった。相手が聖杯を使って新たなサーヴァントを召喚しようが、強化しようが、逃げようとしようが、どんな抵抗を試みても、()()()()()()()()()()()()という徹底した戦術。

 

 黒幕が誰であるかは知らないし、興味もない―――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「―――堕ちろ」

 

 声を揃えて宝具と兵器に命令を下した。同時に上下からすり潰されるような形でオルレアンが一瞬で光と無に変換されて爆裂すら生み出さずに静かにその姿を無人の荒野へと変形させた。ちょうど魔力切れになってシェイプシフターの宝玉へと姿が戻り、魔術で手元へと引き寄せて回収する。これでオルレアン内に黒幕が存在したのであれば、今ので完全に消し飛ばすことに成功したはずだった。

 

「さて……作戦を添削した結果これが一番有効で容赦のないやり方ですが。これで落とせないなら割とやばいんですけど―――アーチャーが。こう、流星になってそう」

 

「聖杯がどこまで力を発揮できるか、次第か。神造兵器と星殺しを同時に相手取って防げるだけの全能性を保有するか否か……」

 

「いえ、聖杯は全能ではありません。あくまでも()()です。ですので死んでから発動させる等の後出しとかは出来ないので保有していても()()()()()()()()()()()すれば問題なく落とせる筈なんですが……どうなんでしょうね、これ」

 

 真面目な話、シェイプシフターが起動しないオーバーヒート状態に入っているので、このまま聖杯によってパワーアップした英霊が相手となると相当厳しい状況になる為、覚悟を決めなくてはならない場面だったが―――その心配も杞憂だったのか、ワイバーン達が光の粉となって消え始めて行く。

 

「……どうやら今回は勝てたみたいですね。さて、次回もこれぐらいやりやすい相手だと嬉しいのですが」

 

「どうだろうな。俺が敵だったら相手の動きを監視するし、同時にとられた手段に対して対策を取るだろうな」

 

「まぁ、でしょうね。レフ・ライノール、でしたか。私が彼だったら此方の動向を把握しつつ、こちらの手札を見て対抗手段を差し込みますね。少なくとも英霊戦力が整いつつあるカルデアは無視できるレベルの相手ではありませんから」

 

 謎のヒロインZの言葉は真理だった。少なくともロンゴミニアドをはじめとした大火力による奇襲爆撃を封じる為の手段を相手が用意するだろう。重要なのはこちらもそれに対して対抗手段を用意できるか、否かという点だ。

 

『―――良し、オルレアンにサーヴァント反応なし、聖杯の存在を確認! 一番近いアヴェンジャーは回収を頼む! あ、あとアーチャーは一足先にカルデアに戻ってるから心配しなくてもいいよ。いやぁ、キメ顔で挑んだ挙句食われちゃった彼の勇姿は録画してあるから戻ってきて鑑賞会を開こうか』

 

「シロウ……無茶しやがって……」

 

 見上げる空にはなぜか、笑顔とサムズアップを向けるエミヤの姿が見えた気がした。おそらくはいつも通りの幻覚だろう。だがそれはそれとして、エミヤも最後まで戦ったのだから死体蹴りはやめてあげてほしい―――と、言ってもおそらくは無理なのだろうが。ロマニがかなり乗り気なあたり、まず間違いなく実行されるのだろう。

 

「やれやれ、この先を考えると憂鬱だな」

 

「憂鬱? 貴方が? それはいい」

 

 謎のヒロインZが笑いながら言う。

 

「憂鬱に思えるなら心が健全だという証拠です。記憶遡行は順調に進んでいるようですね」

 

 その言葉に聖杯の回収に向かおうとしていた足を止め、そして彼女の方へと視線を向けた。両手をジャージの中に突っ込んで立つその姿は、歪められた霊基だ。本来はアルトリア・ペンドラゴンという少女の霊基のIFを利用したうえで役割のコンタミネーションを発生させたことで、IFのIFという存在として現界している。その存在は余りにも歪だ。それこそ本来では存在できない程に。

 

 こんな、特異点だらけで不安定な世界だからこそ出現できたような存在なのかもしれない。

 

「お前は―――いや、俺はなんだったんだ。お前にとって」

 

「同僚で、仲間で、戦友ですよ。まぁ、見ていて少々不安になってくるタイプの。……まぁ、問題の特異点はまだ先です。焦らないでください。それが最終的な勝利に繋がると信じていますから」

 

 迷う事のない真直ぐな視線を彼女は向けてきていた。俺は―――自分が本当に信じられるのかどうか、それさえ解らないのに。やはり、英霊という生き物は根本からして違う生き物なのだろう、と理解される。彼、彼女たちほど誰かを信じるという行いは自分には出来そうにない。

 

 謎のヒロインZに背を向けてオルレアン更地へと向かう。宝具と兵器の爆心地は巨大なクレーターを超えて底のない穴が形成されており、それがそのまま星の中心まで伸びているのではないかと、思わされる。その中央、オルレアンだった場所の中心点に浮かび上がる水晶体が見えた―――あの冬木では回収する事のできなかった、聖杯だ。

 

 片手を伸ばし、水晶体を手元へと引き寄せる。そのまま、それをローブの内側へとしまい込む。ちゃんとそれ用の道具はカルデアから持ち込んでいるため、問題はない。そうやって聖杯の回収を完了させながら軽く息を吐いた。

 

「立香は……ジャンヌと別れを告げてるか」

 

 この特異点は理想的な形で進み、そして完了させる事ができた。

 

 が、きっと、まだ―――まだなのだろう。

 

『人理焼却なんて出来事を前にしているのに、この程度で終わる訳ないものね? ふふ―――』

 

 特異点を乗り越えたはずなのに、嘲笑するような笑い声は消えず、胸の内に湧き上がってくる感情は、

 

 ―――そう、不安だった。




https://www.evernote.com/shard/s702/sh/e70bebb4-531c-4d80-a0c8-fa2c3db00fef/121550d955f076442caf907a81f86cef

 あっぷでーと! 新しい武装と兵器の説明よー。第二スキルがおや……?

 というわけでいつからデスカウントされるのがランサーだけだと思ってた……? バカめ! 奴も光魔法かっこいいポーズを決めて昇天したわ!

 というわけでほかの英霊全員出番カットです(無情

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