『―――うん、カルデアの作戦担当としてそりゃあ勝てる見込みがあるからゴーサインは出したよ? たぶんそれが最善だったし。だけどさ、本当に全滅させるとか思いもしなかったよ……流石にビックリだよ!』
ロマニの通信は同時に、ここに存在していた五騎のサーヴァントの霊基反応の消失を意味していた。最後の
それを撃ち込まれて、無事なサーヴァントなんてものは存在してたまるか、とも言える。
「無事か立香?」
「あぁ、うん。マシュとジャンヌさんに守って貰ったから何とか」
マシュとジャンヌに守られていた立香が手を振る。一番の懸念は何もかも投げ捨てての立香への特攻だった。そのためのマシュとジャンヌという究極の防護を与えたのだが、そのおかげかコレのほうは無傷でしのげたらしい。ラ・シャリテの適当な家屋に姿を隠していたエミヤが壁を蹴破りながら登場し、ロンゴミニアドを避ける為に動いていたクー・フーリンが屋根の上に着地する。そしてロンゴミニアドを元の姿へと戻した謎のヒロインZがそれを消し去り、両手をポケットの中に入れて跳躍から着地した。
「見事な采配でしたマスター。急造のチームとしては中々理にかなった運用です。ただ最後の最後でランサーを巻き込ませないのは減点対象ですね。あそこはオチ的にランサーが死んだ! ……ってのを入れる流れです。というかボルクって刺さるもんなんですね、アレ」
「お前いつか絶対心臓をぶち抜いてやるから覚悟しろよ」
怨嗟の声を漏らしながらクー・フーリンが、そしてエミヤが合流してくる。それによってここにいる全員が戦闘を無事に突破したという事実を確認する事が出来た―――なんとか、生き残れたらしい。
『ま、正直今回は相手の接近が解ったのが重要だったわね。あと此方で待ち構えることができたから罠に落とす事もできたのは幸いしたわねー』
「……まぁ、何度も通用する手口ではないだろう。何より同じ戦闘手段に慣れると安心するのが怖い」
聞こえないように小さく呟く。褒められたことが嬉しいのか立香はやや照れながら頭の後ろを掻いていた。
「いや……うん、俺で役に立てたのなら頑張って考えただけの事はあったよ。正直マスターと言っても令呪使う事以外は特にできそうな事ないし……」
「―――それは違います」
ジャンヌが立香の言葉を否定した。そのままそっと両手で立香の手を取る。
「貴方が背負った使命、その重さを私は聞きました。そして今の戦いを見て解りました。きっと貴方はこれからも同じ様に様々な時代、背景、思想を持ったサーヴァントを率いて戦場に出ます。ですが彼らを率いる事ができるのは貴方だけです。
「―――」
ジャンヌの言葉に一瞬立香は言葉を失い、そして静かに、しかし微笑を浮かべて頷く。
「……うん。ならもう少しだけ、自信を持つよ」
「おう、そうしろそうしろ。俺とアーチャーを同時に御しているってだけで快挙もんだからな!」
「まぁ、個人的に我々がいがみ合わずにいられるのは元凶が素知らぬ顔で我が道を突っ走っているという点があるからなのだが……」
「それな」
エミヤとクー・フーリンの視線が謎のヒロインZへと向けられた。そこで謎のヒロインZは視線を向けられると、両手で頬を抑えていやーん、とポーズを作り、溜息を吐いた英霊が二人、視線を背けながら逃げ出した。アレで未だにちゃんと周りを警戒しているのだから、英霊という生き物は動きと思考が完全に切り離されているのか、とでも思ってしまう。しかしそうやっていると、先ほどまで固有結界が展開されていた空間、そこに浮かび上がってくるものがあった。
それは七色の輝きを見せる概念的な水晶体だった。
「っ、マスター! 聖杯です!」
驚く前に確保しようと即座に動こうとし、その前に水晶体がその姿を消した。魔力の反応は完全に途切れ、その空間から消え去っていた。それはまるで
それはつまり、
「―――黒幕が別にいる、って事?」
「頭の回転は悪くないようだな、マスター」
立香の言葉をエミヤは肯定した。だがおそらくそれで正しいだろうとは思う。実際、聖杯の動きは回収のそれだった。深読みをするのであれば、ジャンヌに一時的に聖杯を貸与していたのだろうと思う。そこまで考えたところで立香がぽん、と手を叩く。
「これってつまりは黒幕を叩くチャンスなんじゃないかな……? 聖杯を所持していたジャンヌ・オルタを撃破して、そしてその戦力も纏めて撃破した。もし黒幕がジャンヌ・オルタを召喚する事で間接的にフランスの領土を蹂躙して人類史を歪めていたら―――」
『時間をかければジャンヌ・オルタを再召喚されてしまうかもしれないね。こりゃあ情報収集をせずに、まっすぐオルレアンへと向かったほうがいいかもしれないね。聖杯はカルデアの召喚術とはまた違うシステムで大量に英霊を召還する事ができる。時間を与えれば相手にジャンヌ・オルタ以外にも召喚させられる』
「となると時間との勝負ですね……こんな時、宇宙船ラムレイⅢや高速宇宙バイクドゥ・スタリオンⅡがあれば楽だったんですが」
「貴様何時までそのギャラクティックな設定を引っ張るつもりだ」
腕を組み、数瞬、自分がどう動くかを考え―――しかし最終的な判断を立香に任せる事にする。この少年は自分が思っている以上に
自分の命を任せるに足ると判断する―――少なくとも先ほどの作戦はそれには十分な動きだったと思う。
『あらあら、らしくもなく入れ込んじゃっているわね?』
足元、影の中から妖精の声が聞こえた。妖精の言葉とともに一瞬、フラッシュバックする何かが見えた。頭痛を訴える脳の痛みを少しでも抑え込むために片手を頭へと伸ばし、フードの上から頭を掴んだ。そんな自分をとらえたのか、立香が視線を向けてくる。
「アヴェンジャーさん、大丈夫?」
―――ザッピングする。一瞬だけ見える景色が変わった。立香が別人に見えた。それを表情にも態度にも見せることなくいいや、と少しだけ大げさに頭を横に振る。
「魔力を消耗して少し疲れただけだ……直ぐ治る。それよりも次の行動だ。どうするつもりだ」
「あ……うん。このままオルレアンに攻め込む事にする。このチャンスだけは見逃せないからね。だから足の速いクー・フーリンと謎のヒロインZを偵察に出てもらって、他の皆で準備を整えつつ進撃って感じにしようかなぁ、って」
立香の判断は悪くない。頷いて納得する。
「それで問題ないと思う。ただもう少し自分の発言に自信を持ったほうがいい。じゃないと情けなく見えるぞ」
「うっ、き、気を付ける」
ちょっとしたイヤミだ。それを言えるぐらいの人間性が自分に在ったことに軽く驚き、先に走り去るクー・フーリンと謎のヒロインZを見送りながら、その姿を追いかけるように集団で移動を開始する。オルレアンへの道は山沿いに進んでゆく必要がある為。森のような障害物はないが、その代わりにむき出しになった岩肌が悪路となって道を阻んでくる―――ワイバーンのように飛行すれば簡単にオルレアンへと向かう事もできるのだろう。
召喚サークルの設置を諦め、早期決着のためにオルレアンへと向かう。
背後に燃え上がるラ・シャリテを置き、人理定礎を復元すればまた人が蘇るから―――そう、言い訳して背を向ける。
『そう、今までそうしてきたように』
オルレアンへと向かって歩いて行く中、再び景色がザッピングする。まるで正しいチャンネルを探そうとしているかのように景色がチカチカと変化する。オルレアンへと向かってゆく道は緑で包まれているはずなのに、瞬きをする度に景色が変わり、砂塵が舞う荒野へと変貌し、再びフランスへとその姿を戻す。軽く目元を擦りながら視界を合わせながら、義眼のチェックを行う。脳裏にくすくすくす、と少女の笑い声が響くのが聞こえる。
「あの……大丈夫ですか、アヴェンジャーさん?」
「いや、何でもない」
何が起こっているのだろうか。自分に起きている奇妙な現象にやや困惑を感じながらも何でもない、とジャンヌに言葉を返し、軽く頭を横へと振るい、この変な感覚を振り払うように動きを取ってから視界を正面へと向けた瞬間、
世界が一変した。
正面、ジャンヌがいたはずの場所には誰もいなかった。景色は完全にその姿を変え、砂塵の舞う荒野でもなく、緑の残るフランスの大地でもなく、
高層ビルとコンクリートの道路が並ぶ、現代の街並みだった。
「立香? マシュ? エミヤ、ジャンヌ! ロマニ! カルデア、通信が届かないか……」
パスは感じる―――だけどそれを通して意思を伝える、交信するという行為は不可能だった。シェイプシフターを取り出そうにも、それもまるで死んでいるかのように一切の反応を示していなかった。あれだけ作成した竜骨の矢も、その他の武装もすべて今の自分には装備されていなかった。くすくす、くすくす、と少女の笑い声が響くのが聞こえてくる。
周りへと視線を向けた一瞬だけ、再びフランスの大地が見えた。
「……精神干渉か? 或いは宝具の類か?」
判断材料が少なすぎる。そう思った直後、風が吹いた。人気の存在しない無人の街の中、風に乗ってこちらへと向かって飛ばされてくるものがあった。それをつかみ、確かめてみれば新聞だった―――日付は2010年、それはマルスビリーに自分が素材として捕まる数年前の日付だった。大きく見出しには中東と米の関係悪化に関する事が見せつけるように書かれてあった。
―――くすくすくす、と笑い声が響くのが聞こえた。
「……
新聞紙を捨てながら探るように言葉を放った。だがそこに返答はなく、どこからともなく聞こえてくる少女の笑い声だけが感じられる人の気配だった。まるでおとぎの国に迷い込んだアリスのような気分だった―――いや、アリス・イン・ワンダーランドでもここまで悪趣味ではないだろう。
心に、何かが渦巻き始めていた。それがなんであるかを確かめる前に足音が聞こえた。素早く視線を持ち上げながら正面へと向ければ、人影は見えないのに正面、大通りを抜けて行くように軽い足音だけが聞こえた。まるで導くように、誘い込むように、足音はこちらを引き込んでいた。
「とはいえ、それ以外に選択肢はないか。最悪の場合、俺一人が死ぬだけで済むだろう」
普段であればそこに応えてくれる妖精の声もあったが、この場にそれはなく、頭に痛みを覚えていた。或いは何かを―――何かを思い出そうとしているのかもしれない。あの光景を見て、ラ・シャリテを見て、何かが、
何かが思い出されようとしているのかもしれない。
敵かもしれないし、記憶かもしれない。どちらにしろ、足を止めている間はその答えは永遠に出ないことは明白だった。
故に、それを探る為にも前へ―――前へと向かって足を進めた。何かがある、という妙な確信を抱きながら。
まさかRTAだと思ったら静岡じゃったか……という感じに。妖精さん楽しそうっすな、ってことで。
魔術王RTA、22日から始まりそうっすなぁ……。