Vengeance For Pain   作:てんぞー

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英霊 - 3

 ―――まだ第一特異点の特定が終わらないらしい。

 

 エミヤ、クー・フーリン、アルト―――謎のヒロインZの霊基が最大の状態まで強化された。そのおかげで英霊戦力が向上しており、冬木のようにレフと相対しても今では割と正面から圧殺できるのではないか、と思える程度には向上している。それはともあれ、特異点への介入が行えるまでは基本、待機となっており、大量に時間が空いてしまう。では暇なのか? と言われるとそれは違う。現在のカルデアは非常事態であるのと同時に修復中である事もあり、カルデア施設の修復等が行えるのであれば、全員、休む暇もなく作業を続けているのが事実だ。

 

 ―――そんな己もカルデア修復に走り回っている。

 

 ヒマラヤ山脈の地下に存在する大工房であるカルデアはしかし、人数の低下と施設の破損に伴って施設の一部を閉鎖することで電力の確保を行う事を決定した。発電施設でさえ半壊している事態なのだからこれは仕方のないことであり、更に英霊の維持の事を考えると更に気を付けなくてはならなかった。だから電力供給、発電施設回りに関してはカルデアが最優先で修復しなくてはならない事であった。だがそれには明らかに人手が足りていない。

 

 そういうこともあってカルデアのメンテナンスができる自分も作業に参加していた。カルデアの施設を復旧させれば、それだけ休む余裕や、回せるリソースが増えてくる。そうすれば今は閉鎖している区画も開放し、回収に行けない装備や道具を回収する事もできる。()()()()()()()()()()()()()となる。

 

 光のない発電所の中で、壁の中を走る配線を確認する。

 

 シェイプシフターを義眼と繋げ、それで壁の中の配線をカメラ化させたシェイプシフターを通して確認しながら、もう一部を工具へと変形させ、そうやって修復作業を行ってゆく。普通の人間では複数の道具が必要だったり不可能だったりする作業も、己のような効率化された存在であれば、シェイプシフターの使用で非常に楽に作業を進める事ができる。最優先事項の一つである発電施設の修復、その作業を進めていると、

 

「すいませーん、アヴェンジャーさんはいませんかー?」

 

「ん?」

 

 自分を呼ぶ声が聞こえてくる。闇の中、懐中電灯を片手に近づいてくる姿が見える。義眼の暗視を使って確認すれば、マシュと立香の主従が此方へと何かを持って近づいてくるのが見えた。片手でシェイプシフターを操作したまま、此方だと声を張って存在感をアピールする。すると懐中電灯が此方へと向けられ、二人が近づいてくる。

 

「あ、いたいた。食堂からおやつの差し入れだって」

 

『……あんぱんね!』

 

 別にあんぱんマニアだという訳ではないのだが……まぁ、今のカルデアには余裕がないはずなのにおやつを捻出してもらっているのだ、ありがたく受け取ろうと思いつつ、あんぱんを差し出してくる立香に少し待て、と言葉を継げる。シェイプシフターのカメラの先に切断されている配線が見える。手元の予備コードをシェイプシフターに運ばせ、切れた部分を融合させるように繋げる。

 

 直後、電気がスパークする。起動音が響く。発電機の修復はすでに完了していた。故にあとはそこから伸びる配線の修復が必要だったが、それも今完了した。それを証明するように天井に光が戻り、暗かった室内を明るく照らし始める。それと同時に施設に電力が供給されて行き、

 

『セクターD,Eに電力供給を確認しました』

 

「これで一先ず終わりだな」

 

 シェイプシフターを引き戻しながら腕輪に変形させて修復を終了する。まだまだやることは多いが、これ以上立香とマシュを待たせるわけにもいかないだろう。待たせた、と告げながらあんぱんをもらう。考えたり作業をするのに糖分を摂取するのは悪くはない。

 

「アヴェンジャーさんって凄いよな」

 

 あんぱんを食べ始めていると、立香がそんな事を此方を見て告げてきた。そんな感想を向けられるのは初めてなだけに、少々驚きながら、食べていたあんぱんから口を放しながらどこがだ、と返す。そうすると、

 

「いや、だってアヴェンジャーさんってほんと何でも出来てるし。冬木では警戒とか戦闘してたし、そのほかにも治療の知識とか戦術を考えることもできるし。それでカルデアに戻ってきたらカルデアの修復作業にまで参加しているし……アヴェンジャーさんに出来ない事ってあるの?」

 

 立香の言葉に頭を横に振る。

 

「俺は別に凄くとも何ともない。そもそもからして俺を凄いと思う事さえ間違っている。俺の全てが他人からの捧げもの、借り物だからな。俺自身由来のものなんてなに一つさえない。故に俺の事を凄いと思う必要はない。その賛辞はカルデアへと向けておけ」

 

 此方の言葉に立香が首をかしげるので、マシュが補足するように言葉を挟み込む。

 

「えっとですね、先輩。アヴェンジャーさんは人造的な英霊作成のテストモデルなんです。元々存在した人物に霊基を与える事で無名の英霊を生み出せないか、という実験の結果ですね」

 

 その言葉に頷きを返す。

 

「俺は英霊化実験に()()()()()()()()()()()()元人間だった。カルデアの使命を考えれば誰かが人間を超える戦力を必要とする。だから俺は志願する事にした。その結果。骨格や筋肉、神経を入れ替えて強化兵の真似事をしてから霊基を入れて、アヴェンジャーの霊基を手に入れる事に成功した―――その際に脳に直接、戦闘やこの先必要とされる知識の多くをインプリントさせて貰っている。故にこの知識や技術は俺のものではない。提供した人物のものを模倣しているだけだ」

 

 それに、あくまでもインプリントされた能力であり、模倣だ。

 

「本当の達人と呼べる様な領域へと近づくことはできないし、技術によって再現できるものが限界だ。センス、才能と呼ばれるそれが必要な領域には絶対に手が届かない。いいところスキルランクでいえばC、或いはBランクが限界だ。だから基本的にはスキルを4~5同時にエミュレートし、キメラさせて使用している……たとえば縮地で踏み込みながら気配遮断で相手の死角を奪い、自己改造で一時的に筋力を増強しながら射撃で確実に急所を打ち抜く、とかな。これで漸く本当に英霊と呼べるような連中と戦える」

 

 戦闘経験も確かに存在する。だがそれもどこかで戦っていた誰かの経験を詰め込んだものであって、0から10までこの体で自分自身由来の能力というものは存在しないのだ。当たり前と言ってしまえば当たり前だ。人間の技術や力では英霊には勝てないのだから。だけど立香は頭を横に振る。

 

「でも俺は違うと思うな。力を与えられたのは事実かもしれないけど、それを何に振るうか、どうやって振るうかを決めているのはアヴェンジャーさんなんでしょ? だとしたらやっぱり凄いのはアヴェンジャーさんだと思うよ。だって普通は自分から志願なんて出来ないし、そうやって与えられたもので真摯に人類史を救おうと考えられないし」

 

「……」

 

 立香の言葉が心に突き刺さった。改造とインプリントの部分は事実だが―――志願と動機に関しては完全な嘘だ。己という存在を証明したい虚栄心で戦っているのだということは、この少年にだけは絶対に伝えられなかった。笑みを浮かべる少年は、そして少女は一切人を疑うような視線を向けていなかった。彼、彼女は本気で俺が頼りになる味方だと心の底から思っているのだ。それを見て、罪悪感を感じる自分の心の、なんて醜いことだろうか。

 

 改めて理解する―――この二人だけは絶対何が何でも、守り抜かなくてはならないのだ、と。

 

 だが、それすらも―――。

 

 

 

 

「―――アヴェンジャー死ぬってよ!」

 

 謎のヒロインZの発言に硬直していると、謎のヒロインZがまぁ、待ってくださいよ、と声のトーンを割と真面目なものに変える。

 

「少しだけ真面目な話をしますとこの先の特異点で貴方は殺されます。そりゃあずっぷしと。心臓を一撃ですね、胸にぽっかり穴が開く感じ。そして()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 謎のヒロインZの言葉に今度こそ、完全に思考を停止させた。カルデアが全滅する―――ありえない話ではないが、自分一人が死んだところでそれが現実になるかどうかは怪しい。そもそもからして自分よりもはるかに強い英霊がいるのだから、自分一人消えた程度ではどうにもならない筈だ。この謎のヒロインZだって見た目と行動はふざけているが、その体に宿っている神秘は自分をはるかに凌駕している。

 

「あ、ちなみに他の英霊に頼っても無駄ですよ。一蹴されて全滅しましたし」

 

「……は?」

 

 謎のヒロインZが此方の胸に指を突き付けてきた。

 

()()が原因です。()()()()()()()()()()()()んですよ。具体的に誰が、と言うと呪われますしバレますし、霊基をフリーダム許可な感じのロールで突入しているんで割と今発言パルクール状態ですが、それでも越えられない一線はあるので強制的にご了承ください」

 

『あー……あー……あー……心当たりしかないわー……そうよねー。さすがに心臓ブッチするわよねー……バレたらそうなるわよねー……うーん……完全に私のせいよねー、これ。まぁ、いまさら逃げる事もできないんだけど』

 

 妖精が頭を抱えながら項垂れていた。そういえば心臓も何か、特殊なものと入れ替えていたのを思い出す。そのおかげかまるで疲れ知らずで動けることだけは認識しているのだが、それが何らかの原因なのだろうか? ただ謎のヒロインZはそれを伝えると、

 

「という訳でなるべく命を消費するのであれば()()()()()()()()使()()()()()()()()()。あ、これが案Aですね。たぶんエンカウントしなければ本気にならないだろうし。え? 最初から本気? え、どっかの金髪の様に慢心する事はない? クソゲーじゃないですかやだぁー!」

 

「何を言ってるんだお前は……」

 

「あ、ちなみに詰むって話は割とマジです。というかかなり霊基に引っ張られてこういう感じなのは許してください。謎のヒロインとしての本能がアルトリアを殺せって囁いてきているんです……こう、CoC的な流れで!」

 

「……」

 

 しばし無言で謎のヒロインZを眺めていると、少しだけ顔を赤らめられ、咳払いをされた。

 

「こほんこほん……まぁ、しかし態々死に急ぐ必要もありません。ですからちょっとした突破のヒントというか、攻略方法というか、攻略WIKIがないんで知恵袋から引っ張ってきました。というわけで―――」

 

 

 

 

「アヴェンジャーさん? ぼーっとしてましたけど大丈夫ですか?」

 

「ん……大丈夫だ。この後休憩を入れる予定だしな」

 

 苦笑を作りながらさて、と剥がした壁を元に戻す。これでまたカルデアがその機能を一つ取り戻す事ができた。確か復活した区画には武器保管庫が存在した筈だ。英霊はともかく、自分なら持ち込むことのできる武装や道具が増やせそうだ。軽く咳払いをしつつ、

 

「まぁ、俺のことは比較的にどうでもいい。それよりも問題はお前らだ。差し入れに来るのはいいんだが? そうするだけの余裕があるのか? お前らに?」

 

「うぐっ」

 

 立香がその言葉に苦しみの表情を浮かべて動きを止めた。その姿に軽くため息を吐きながらほら、早く勉強へと戻れ、と追い払う。

 

「差し入れは助かったがな、余り俺とは関わらない方がいい」

 

「ん? それは……なんで?」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()からだ。お前が今感じる一分、一秒はとても貴重なもので、取り返しのつかないものだ。特に人類史の救済に挑むというのであれば、尚更だ。であればもっと有効に時間を使うがいい。エミヤか……或はクー・フーリンか。どちらも俺よりも遥かに優秀で力のある存在だ。もっと時間を過ごして仲良くなって、協力して貰うといい。きっとそれが最後の最後で道を開く力になるだろう」

 

 瞬間、脳裏にノイズが走る。その一瞬だけ、メガネをかけた白衣の男の姿を思い出した。返り血に濡れ、それでもなお戦場で患者へと手を伸ばそうとする、名前も思い出せない男の姿を思い出し―――即座にその姿が消えた。頭が痛い。だがその痛みを無視し、何でもないように振る舞う。自分は既に終わっている存在だ。深く関わっても後々、傷になるだけだ。だから、

 

「さ、行くといい。みんながお前が待っている」

 

 そこに、己だけは加わらないが。




 ガチャ丸くんのコミュ回みたいな何か。なお絆は0固定な模様。

 沙条愛誰の心臓なんだ……。まぁ、全知全能があればそりゃあ本気出すよね!

 イシュタ凛の追加ボイスを見る→特異点解消前は特異点クリア後の記憶がある

 アルトリア(セイバー)→冬木クリア済みで記憶を引き継げな
 槍トリア≠剣トリアなので同一人物の記憶は別枠
 槍トリアは特異点未解消なのでまだ記憶がある
 ギャラクシーにすれば多少ギャグっぽくて許されるんじゃね? とロクデナシの発案。槍トリア、ノリで承諾。

 そして生み出された強烈過ぎる謎のヒロインZというキャラクター。

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