Vengeance For Pain   作:てんぞー

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英霊 - 2

 カルデアにおける英霊召喚とその維持は実は面倒な事になっている。

 

 まず英霊召喚。

 

 システム・フェイトはリソースさえあれば英霊を何度でも召喚する事ができる。だがそれには英霊側の同意が必要である。つまりシステム・フェイトは触媒を使った強引な上位英霊の召喚なんて真似事はできず、マスター・藤丸立香と共に戦うことを認めたサーヴァントのみが召喚されるシステムとなっている。ある意味、地雷を弾くシステムとしては非常に優秀ではあるが、それは別の意味だと立香自身が()を結ばないとカルデアへと英霊を召喚する事ができないという意味でもある。

 

 そして英霊という存在はまともじゃない。

 

 アーチャーにしろ、ランサーにしろ、どちらも戦いの中で出会い、認められ、そして人理焼却を防ぐために力を貸すと決めたサーヴァントである。謎のヒロインZに関してはもはや存在自体が謎なので割愛するとして、どのサーヴァントも出会いに関しては()()()()となっている。そう、サーヴァントと縁を結ぶというのは楽ではない。こうやって戦いの中、極限の状況の中で漸く縁を結ぶ事ができる。そしてそうやって認められるからこそ、カルデアへと来てくれるのだ。

 

 カルデアでの英霊召喚とはそういうシステムになっている。

 

 だがその代わり、どんな英霊であろうとマスターが維持魔力を支払う必要はない。現在はレフ・ライノールの手によってカルデアの施設や発電所が多大な被害を受けて供給量が低下しているため制限が一部存在しているのは事実ではあるが、カルデアに召喚された英霊の維持は()()()()()()()()()()()風にシステムができている。カルデアから魔力の代わりに電力を使ってサーヴァントを維持し、そのうえで肉体を疑似的に受肉化させている。そうすることによって英霊を効率的に維持する事が可能となる。何よりマスターに維持の負担をさせないことはマスター側にリソースを残すという事で長期戦を可能にさせる。

 

 ―――その代わりに、カルデアでの召喚には一つ、デメリットが存在する。

 

 

 

 

 アーチャーが弓を構え、そしてそれを放ってきた。剣で切り払いながら一気にアーチャーへと向かって縮地で踏み込んだ。スキルの効果で音を置き去りにしながら踏み込む動きにアーチャーが反応して動こうとするが、その動きは遅く、舌打ちの様な音が聞こえた。素早く叩き込もうとする掌底にアーチャーが膝を合わせてガードし、双剣を滑り込ませてくる。だがそれは冬木で経験した彼の動きより遥かに遅く、対処は容易だった。

 

 あっさりと双剣を体で挟んで受け止めながらアーチャー・エミヤの首に手刀を突き付け、

 

「参った、降参だ―――まさかここまで霊基が低下するとはな」

 

「それがカルデアでの英霊召喚だ。少々不便ではあるが、どんな英霊を招く事もできるようにするにはこれしかなかった」

 

 カルデアでの英霊召喚、システム・フェイトの致命的欠陥とはそれだった。召喚される英霊の霊基が最低限のレベルまで低下してしまう事だった。それはある意味カルデアの自衛の為でもある―――召喚されたサーヴァントが強大すぎて、マスターの手に余る場合を想定した一種のセーフティだと言ってもいい。だがこの状況においては欠陥としか言えなかった。

 

「つってもそれを解消する方法があるんだろ?」

 

 シミュレーター室の壁に寄りかかっていたランサー、クー・フーリンがそう言ってくるのに頷く。無論、このままではないと。

 

「カルデアには低下しているサーヴァントの霊基を活性化させる道具をダ・ヴィンチが既に開発してある。種火という魔術道具で―――」

 

 ローブの中へと手を伸ばし、金色に輝く種火を取り出した。それをエミヤへと放り投げると、エミヤがそれを受け取り、握りしめた。エミヤに握られた種火が魔力へと還元され、エミヤの中へと吸収されてゆき、カルデアでの召喚という特殊な環境故に低下していたその霊基がわずかに活性化されて行く。ここにロマニがいれば、その上昇を実際の数値として確認できただろう。だが重要なのは使う事によって英霊の霊基を回復させられる事だ。

 

「ふむ……確かに力がみなぎるようだがこれは?」

 

「小型の魔力結晶を腕と呼ばれる魔術生物に与え、成長させる。すると腕の成長と共に結晶もコア化して成長する。最大まで育ったところで収穫したのがこれだ。成長概念が刻まれた魔力結晶。英霊ほど概念的な存在もないからな、これで霊基を回復させる事が出来る」

 

 成程な、とエミヤの呟きを聞き、でさ、とクー・フーリンが声を漏らした。

 

「その種火、使い方アレでいいのか?」

 

 クー・フーリンが指差すシミュレーション室の角、そこには積み上げられた種火の姿があり、その横には謎のヒロインZの姿があった。空っぽの茶碗の中に種火を箸で投げ入れると、そこからご飯を掻き込む様に運び込んで口で種火を食べ、

 

「―――種火うめぇ」

 

 幸せそうにそう呟き、種火を箸と茶碗で食べていた。それを今まで見て見ぬフリをしていたが、さすがにここまで来ると無視をするのも難しかった。というかツッコミどころが多すぎて無視するとかそういう次元にはなかった。

 

「アイツたしかイギリス人だろ。なんであんなに箸の使い方がうめぇんだよ」

 

「そもそも種火って物理的に食えるのかアレ」

 

「でも霊基反応向上してはいるんだよな」

 

『謎のヒロインZ……カルデアお笑い道場の新たな看板娘ね……!』

 

 妖精がげらげらと笑いながら影の中で楽しそうにしていた―――お前は楽しくない時が本当になさそうだよなぁ、とある意味うらやましくなる精神だった。そんな三人で謎のヒロインZを眺めていると、此方の視線に気づいた謎のヒロインZが首をかしげながら、

 

「おや、どうしたのですかアヴェランチャーさん。私の種火ですから食べちゃダメですよ?」

 

「名前を合体させるな」

 

「さんはいらない」

 

「つか食わねぇよ」

 

『たった数秒で三か所もツッコミどころを生んでるから実力派ね、彼女は』

 

 そういうのはいらないから、と思いつつも謎のヒロインZはまるで何事もないかのようにそのまま種火を食べ続ける。現在、カルデアの戦力はマシュ、自分、エミヤ、クー・フーリン、そして謎のヒロインZの5人のみとなっている。自分とマシュは種火を必要としない―――生きている人間の体を持っており、すでに霊基は最大の状態まで活性化されているからだ。

 

 となると必要な種火はエミヤ、クー・フーリンと謎のヒロインZの分だけだが、三人分の貯蓄であればカルデアにも余裕がある。これが十人を超えるようになればどこかで調達してくる必要はあるが、ダ・ヴィンチ工房でも種火の養殖は開始してる為、さほど問題はない。これでとりあえずだがカルデアのグランドオーダーに挑むサーヴァントの戦力は整ってきていると言えるだろう。

 

 少なくとも3人とも―――本来の霊基で戦えるようになれば、自分よりも遥かに有能である。寝食を必要とせず、電力で存在が賄える分、食料を圧迫しなくていいから。何よりも経験が違う。神話や伝承の中を駆け抜けてきた英雄としての一生分の経験がその中には詰まっているのだ。当たり前だが、強い。

 

 彼、彼女達は英霊の座に英雄として認められるに足るだけの偉業を達成した存在なのだから。

 

「しかし人類史の救済か……何度も聖杯戦争には参戦し、その道のプロフェッショナルという自負はあったが、まさかこんな事に手を貸す羽目になるとは思いもしなかったな」

 

「まぁ、普通はこうなるなんて思いもしねぇよ。つかお前と組むってこと自体初めてじゃねぇか?」

 

「……かもしれんな。正直、考えたこともなかった。だが貴様の腕は誰よりも私が良く知っている―――その槍の刺さらなさもな。因果律を超えて必中の筈なのに相手を殺せなくて恥ずかしくないのか貴様?」

 

「あ、テメェ、言っちゃいけねぇ事を! あのな、普通は刺さるんだよ! 普通は! なんでか刺さらない相手ばっかりなんだよ! だぁー! 次だ、次! レイシフトして特異点に行ったら俺の槍がちゃんと突き刺さる事を証明してやるから見てろよ?」

 

 エミヤとクー・フーリンはこの発言から解るように、聖杯戦争はこれが初めてではないらしく、そのうえ何度も戦ったことのある知古らしい―――エミヤのマテリアルを確認する限り、彼は神代等ではなく比較的現代に生まれた人間であるはずだ。それなのにこうやって真の英雄とも言える人物たちと知り合い、戦い、そして渡り合うことができた。

 

 己の実力で。己の覚悟で。

 

 正直、尊敬に値するだろう―――ただ謎のヒロインZの事に関してだけは正直、同情してもいい気がする。

 

「ふぅ……まぁ、それはいいとして我々のマスターはどうしたのだ?」

 

「藤丸なら勉強中だ。次の特異点特定まで数日の余裕があるらしいからな、ロマニの話によれば。だからその間に用兵術や戦術を勉強している」

 

 これから最前線で指揮し、サーヴァントを運用できるのは立香一人だけだ。つまり戦闘面での戦術に関しては彼が頼りになる。戦略に関してはロマニに任せればいいが、細かいところは立香が担当である以上、いつまでも素人でいてもらっては困る。それゆえ、戦術に詳しいスタッフに教育を任せ、立香は現在サーヴァントの運用方法を勉強中である。初めにエミヤ、クー・フーリン、そして謎のヒロインZの特徴を掴む所から始め、個人個人がどういう状況で力を発揮するか、なんてところの勉強だろう。

 

 正直、これができないとこの先、まったく戦えないだろうと思う。

 

 なにせサーヴァントという存在はカルデアの電力で維持されていても、その本質、主は立香なのであるのだから。カルデアに応えたのではない。()()()()()()()()()()()()()のだから。だから立香がマスターとしての最低限の知識と技能をつけてもらわないと困る。

 

 それを聞いたエミヤがふむ、と声を漏らした。

 

「なるほど―――なら私は食堂に邪魔させてもらおう。使命感を持たせるだけでは潰れかねないからな」

 

「んじゃ、俺はケツを蹴り上げてやるかね。ケルト式の戦術って奴を教えてやる事にするか」

 

 エミヤに対して対抗心を持っているのか、シミュレーター室から出てゆくエミヤの後を追いかけるようにクー・フーリンもシミュレーター室から出て行く。その姿を見て、自分も復旧作業中のセクターの手伝いに行くか、と思って立ち去ろうとしたところで、

 

「あぁ、そうでしたアヴェンジャー、少しいいでしょうか」

 

 げふぅ、と声を漏らしながら謎のヒロインZが食べる手を止めながら此方を呼び止めた。足を止め、振り返りながら謎のヒロインZへと視線を向けなおした。茶碗と箸を一時的に解放した謎のヒロインZが、此方へとマフラー帽子のジャージ、というどこからどう見ても英霊ではないスタイルで視線を向けている―――相変わらず極限まで怪しい。

 

『これが騎士王だっていうんだからブリテンの滅びも納得よね』

 

 そもそもあの騎士王アーサー、アーサー・ペンドラゴンがアルトリアという女性だったなんて事実、いったい誰が信じるだろうか。そんな真実、おそらくはこうやって召喚しない限りは絶対に判明しなかっただろう。

 

「これからの話はマスターに対してオフレコでよろしくおねがいします。色々と夢と希望と抑止力的なサムシングがあるんで」

 

「はぁ……」

 

 今一、という感じのこちらのリアクションを無視し、そのまま謎のヒロインZが話を進める。

 

「ここで良い子の夢を完全にデストロイする形で暴露しますが―――私の真名はアルトリア・ペンドラゴン。あの円卓の王です! 罰ゲームで無理やり王にされた挙句最期が残念だった人です。とりあえず次モードレッドを見たら廃嫡カリバーかなぁ、とか考えてます。あ、カリバーないわ。後でアーチャーに量産してもらいますか」

 

「あ、はい」

 

 アーチャー、死ぬんじゃないだろうか。

 

「あっと、話がズレてしまいましたね? まぁ、そんなわけで私は最上級の霊基を持ったアーサー・ペンドラゴンですが、ちょっと見ての通り正規のサーヴァントではありません。というか本来召喚されるべき、というか応えたセイバー・アルトリアの霊基をヒッキーのロクデナシの覗き魔のクズニートを利用して上書きする形で飛び込んできました」

 

「お、おう」

 

『アヴェンジャーに素でこのリアクションを取らせるから大物よね』

 

 まぁ、なんというか―あ、はい、とかお、おう、としか言葉が出てこないというか、どういうリアクションをとればいいのか今一解らないのだ。生物的に未知すぎるのだ、こいつは。せめて妖精の様に架空の幻覚であれば無視できたのだが。

 

「えぇ、まぁ、こうやって登場したのは私が登場する特異点が未だに解決されていない事と未焼却であるが故に記録を保持した状態であって縁をこれから結ぶ事があるので、それを応用しましてというか―――うん! まぁ、細かいことは銀河流星剣で流しましょう! ほら、バベジンも数式以外に関しては割と寛容ですしね」

 

『どこからツッコめばいいのかしらコレ』

 

 妖精でさえ呆れる発言の連続、その果てで、

 

「と、言う事でネタバレしますとアヴェンジャーこの先で死ぬってよ」

 

 過去かつてないフランクな死亡宣言であった。




 Xの系譜はネタにしかならないというかギャグ時空がシリアス時空に殴り込んできたぞ!! 妖精さんも本質はシリアス側だから戸惑うぞ! 強いぞ謎のヒロインZ! かっこいいぞ謎のヒロインZ!! 胸が大きいぞ謎のヒロインZ!

 金髪巨乳だからな!!

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