Vengeance For Pain   作:てんぞー

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地上の星 - 6

「―――ふふ、はは、ははは―――」

 

「は、は―――はははは―――ひひひ、ははは―――」

 

 声は一瞬停止し、

 

「は―――はっはっはっは、は、はぁ―――!」

 

 空に爆笑が響いている。その音源となる男たちは空を高速で駆け抜けながら何度も何度も衝突を繰り返し、爆裂と破砕を撒き散らし、その余波で地表を削っていた。そこだけ、もはや次元が違っていた。空で交差を繰り返す度に何十という武と武の比べ合い、競い合い、殺し合いを達成し、弾く衝撃で加速しながら再び距離を生み、衝突へと向かって行く。衝突の度に発生する閃光はそれだけで致死に至る毒だった。ただただ破壊を繰り返し、破壊する。破壊しか考えない全力の殺し合い。

 

 それが上空で行われている決戦の内容だった。

 

 聖仙パラシュラーマはその存在と互角に戦いを繰り広げていた。その手の中に馴染んだ鏖殺の嵐斧(パラシュ・ルドラヴァス)は存在しない。だが、その代わりに数々の武装が存在する。それは何千年という生の中で忘れながらも体に刻んで覚えつづけた動き、武器がどれだけ柔かろうが、関係なく常に最高のスペックで運用、戦闘が出来るのは超一流を超えた領域にある神業の技巧を保有しているからに過ぎない。剣を振るえばいつの間にか防御をすり抜けて相手を殺し、槍を握れば相手が反応するよりも早く心臓を貫く。矢を放てば放った瞬間を悟られずに射抜き、チャクラムは構えた瞬間には既に指に戻っている。最強の聖仙の名は伊達ではない。

 

 そんなパラシュラーマと正面からぶつかり合う怪物は、閃光に触れた存在を問答無用で消し飛ばし、破壊していた。それと戦い、全力で戦えるという久しい感覚の中、パラシュラーマは堪え切れない笑い声を放っていた。

 

「あぁ、成程やっぱり。人理焼却に便()()()()のがお前の目的だったかクリシュナ」

 

 なんて事はない、と完全にクリシュナの思惑を看破したパラシュラーマが楽しそうに相対者を蹴り飛ばし、地面にクレーターを穿ちながら理解の声を放った。なんて事はない、とパラシュラーマは声を放った。クリシュナは最初から最後まで正義の男だった。そしてそれに変わりはない。彼は正しさを守った。そして彼は今度も正しさを守ろうとした。既に人理は焼却された。ならそれを取り戻そうとするよりも、新しきを生み出すべきではないだろうか、

 

 ―――クリタ・ユガを始めるべきではないか、と判断した結果だった。

 

 そしてクリシュナの思惑―――彼の存在と引き換えに、それが可能な存在の召喚によって始まりかけていた。

 

「まぁ、本当なら僕も手伝うべきなんだろうけどね―――悪いけど、まだ足掻く人類と、そして弟子がいるんだ。お前も僕の弟子かもしれないけど、あいにくとまだ教えた覚えがないんでね、悪いけど知っている方を優先させて貰うとしよう」

 

 そう言いながらパラシュラーマは一切悪いとは思っていなかった。弟子に対する義理立て、人類に対する義理立て、そして個人の趣向を取った結果、ここでこれと殴り合うのが一番有用かつ個人の楽しみを満たせて合理的であると判断しただけだった。

 

「まぁ、なんだ―――久々の決戦だ、存分に燃え尽きようぜ。これはそういう趣旨のもんだろう? なぁ、カルキ―――」

 

 女と見間違うような白髪、美貌の者は白馬の上からニヤリ、と笑みを浮かべ、高速でパラシュラーマへと向かった―――相対の為に。そしてそれに応える様に、笑い声を響かせながらパラシュラーマが接近する。

 

 

 

 

「絶対に関わりたくない。見ろよあの大空で楽しそうにキャッキャウフフしてる(グル)を」

 

「あの二人が本気で暴れ始める前に聖杯の獲得が完了するのを祈ろう」

 

 ラーマとそんな事を言い合いながらも、手はノンストップで動かし続けていた。サルンガから連続で矢を放ち、それで爆撃を行いながら周辺の森を完全な更地に変え、此方はその横でその間に印を結び、土地殺しの準備を進めていた。第六感が通じない場合は経験が全てのモノを言う。だがその場合、圧倒的に経験を保有しているのはスカサハだ―――となると、あの女がすべての面において上回って来る。

 

 考えれば考える程、彼女を有利な陣地から崩す事から始めるのが重要なのが見えてくる。その為、簡易的な太極陣を足元に描きながら手で印を結んでいる。とはいえ、そんな事をすれば当然、

 

「む、来たな」

 

 当然ながら阻む存在がある。一番目立つのはクンバカルナだ。上半身を引きずるように跳びかかってくる姿には理性の色が一切なく、食欲しか感じさせない気持ち悪さがある、それとは別に周囲には接近し飛び出してくる獣の気配がある。それらは全て魔猪やキマイラ等の上位の幻獣ばかりであり、どれもが英雄でさえ殺せるような凶悪さをもった、影の国の化け物どもだ。やはり土地殺しを見逃す程スカサハも甘くはないか、そう思いながら影の中からアースが出現した。

 

「余興だ。狩りをしてやろう」

 

「これで一手挟めるな」

 

 風が吹いた。風が吹くのと同時に触れた魔獣の姿が一瞬で風化して行く―――その姿はファンタジーさは欠片もない、グロテスクの塊だった。肉体はまるで生気を失ったかのようにやせ細って行くとそのまま砂の様にバラバラになって崩れて散る、跡形さえも残さない残虐な死だった。

 

 だがそれをクンバカルナが強引に耐えながら突破してくる。

 

 大地ごと噛み千切る様に大きく開けた口から逃れる様に大きく森を超える様に跳躍した瞬間、森の中から無数の赤い閃光が見える。ゲイ・ボルクが飛翔する。咎人の悟りを以ってゲイ・ボルクの呪いを無効化しつつ、大きく斧を振るい、迫って来るゲイ・ボルクを一気に弾きながら空中でワンステップ、足場を取る。そのまま空中での滞空時間を大きく伸ばしながら、片手でアースの首に繋がる鎖を握り、引き寄せる。

 

「さて、どーしたもんか……真面目に戦うと馬鹿を見そうだな」

 

「殺せんのか?」

 

「クンバカルナが邪魔だがアレを真面目に殺そうとした隙を影の女王が狙っているな。となると余らの選択肢は大きく分けて二つとなる。手段を選ばずに迷う事無く殲滅を計るか、或いは勝利という手段を捨てるという事だな」

 

 まぁ、そうだよなぁ、と胸中で呟く。そこまで考えた所でありえないな、と呟く。

 

「敗者に明日はなし」

 

 とてもシンプルな話だ。人理を救う戦いに妥協はない。それで()()()()()()()()()()()()()()()()という事でもある。逃げては運命は微笑まない、最後の最後の瞬間を掴みとれるのは勝てる可能性のある戦いで勝利を握った存在だけ―――それだけだ。つまり、逃げる事と時間稼ぎはここへきて、流石に出来ない。そもそも本来であればもうワシントンに合流している筈なのだ、これ以上此方側に残る時間を伸ばしたくはない。

 

「シータに勝利を届けると伝えている。格好の悪い戦いは出来ん」

 

「んじゃあそういう方向性で」

 

 (グル)と兄弟子が派手にアメリカを焦土に変えている中で、自分達だけは格好の悪い戦いが出来る訳でもない。言葉は緩いが、ここからは本気だけではなく全力で撃滅に向かうべきだと判断する―――つまり、使える札の全てで殺しに行く事を決める。落下しながら斧を握りなおす。その中に練り上げた魔力を込めながら大地を踏みしめる。

 

「―――それじゃ、早々に決着をつけようか(≪無限覚醒≫)

 

では余も準備に入ろう(≪神性:全王化身:借用:ナラシンハ≫)

 

 世界からラーマの存在感が消失した―――ラーマの存在そのものを覚えていなければ存在していた、という事さえも忘れそうになる程、その存在は消え去った。それと同時に一気にクンバカルナへと向かって直進する。上半身を両腕で引きずり回しながら動くクンバカルナはそれだけで大地を殺して回っている。いい加減鬱陶しい。明確な殺意を持ってその自身よりも巨大な、山の如き巨体へと向かう。

 

 鏖殺の嵐斧(パラシュ・ルドラヴァス)を担ぎながら飛び込む正面、クンバカルナが拳を振るってくる。風を生み出して空中でエアステップを取り、回避した所を転がりながらクンバカルナが逆の拳を振るい、そこから逃げた先をゲイ・ボルクが射出され、命を狙ってくる。

 

 それに対して動きを変える事はなかった。

 

ふぅ―――(≪修羅の刃≫)

 

 全身にゲイ・ボルクが突き刺さるのを感じつつも、正面、クンバカルナの拳と接敵した。クンバカルナの筋力、体積、そして攻撃と共に繰り出される質量は膨大であり、通常の人間であればまず間違いなくミンチになる。だが両足を失った上で何度も穢れの聖杯の泥を触れたこいつにはもはや、本来程の破壊力を残していない。この状態であれば、

 

 ―――正面突破できる。

 

 故にそのまま、左拳をクンバカルナの拳に叩き付け、即座に折れる拳、それが状態時間の遡行によってメリメリと音と痛みを逆再生させながら無理矢理、振り抜かれたクンバカルナの拳を爪を食い込ませて握らせる。クンバカルナが次の瞬間、何をしようとするのかを理解し、腕を振り回して引き剥がそうとするのを無視して拳に手を食い込ませたまま、右手の斧を振り下ろした。

 

 万物を問答無用で貫通する奥義がそのまま、肩からクンバカルナの腕を断ち切った。

 

 大質量が落下し、クンバカルナが絶叫の声を響かせるよりも早く開いた片手で突き刺さった槍を引き抜きながら縮地で一気に逆側へと移動する。そのまま肩の上に跳躍して飛び乗り、斧を振り上げる。その瞬間、視界の端に一気に接近してくる姿が見えた。迎撃の動きへと振り下ろしを替え、払い打ちを放てば、同時に二槍の連撃を弾ける。

 

「大人しく死んでおけ」

 

「可能であればな、貴様が私を殺して見せろ」

 

 クンバカルナの上でスカサハとの相対、その第二ラウンドが幕を開ける。絶叫に喘ぐクンバカルナの声が空を揺らし、そしてその巨体も揺らす。腕一本となったクンバカルナはもはや激痛で理性だけではなく食欲さえもトばしてしまったのか、もはや赤子の様に絶叫しながら暴力装置となった。完全な狂化によって暴走するのみとなったクンバカルナが暴れるその体の上で、

 

 スカサハと殺し合う。

 

 斧を両手持ちに切り替え、二槍に対応する為に一閃一閃の速度を底上げしながらつぎ込める技量を込め、スカサハの魔技に対抗する様に不安定な足場を駆け抜けながら三合攻撃をぶつけ合う。その度に発生する衝撃は全て此方へと押し付けられた上で斬撃が浸透し、体を刻む。

 

 スカサハには勝てない。

 

 たった五十年の人生、数年の鍛錬、そして植えつけられた記憶と新しい優秀な肉体。全てがチグハグで理解を持って繋ぎ止めても習熟や日々の鍛錬が圧倒的に足りていない。一合一合衝突を繰り返す度に敗北するという実感がわき上がって来る。非常に残念な話ながら、スカサハに弱点はない。おそらく殺してもバラバラにしても普通に蘇るだろうし、マグマに沈めてもその外側で蘇るだろう。

 

 ただ、一回は殺せた―――そのまま昇天出来なかったが。

 

 なら話は変わる。

 

 ()()()()()()()()

 

「―――ゼ、ェアアアアア!!」

 

 強引に押し切る様に斬撃を叩き込む。スカサハの弾いた槍が回転し、加速しながら戻るのと同時に傷を生む。痛みが走り、体に傷が増える。体が赤く濡れ始める。だがそれを厭う事もなく、押し込む様に斬撃を加速させ、正面からスカサハを押し込む。だが強引な攻撃が通じる程簡単な相手ではない。押し込めば押し込むほどスカサハの槍は鋭く、素早く加速して体に裂傷を増やして行く。戦場にされたクンバカルナの背はその余波を受け更に傷痕が増え、心臓に伸びそうになる斬撃が増える。

 

 恐怖か、或いは本能か、的確に此方とスカサハを握りつぶす様に残りの腕を伸ばしてくる。

 

「邪魔だ」

 

 それに向けて押し込もうと斬撃を放つ。だがそれを受け流しながらスカサハが回避行動を取る。流れる様に横へと跳躍しながら横を通り過ぎて行く腕を切り落とし、クンバカルナをダルマに仕上げた。落ちて行く腕の横をスカサハが落下して行く中、何度目かの状態回帰の中、落下するスカサハへと向けて、

 

 戦いを終わらせる為に飛び込んだ。




 超インド救世主、来ちゃった。なお超インド救世主も将来的にはパラシュラーマが教える予定だったりするのである。ほんとお前過労死しそうなぐらい教えるね。

 結局の所、正面から殺すのは不可能なので、正面から以外での手段が必要になってくるのがスカサハ。正面から戦っているとその内運悪く死ぬのがクー・フーリン、

 目的を果たそうと頑張れば頑張る程空回って失敗するのがケルト。

 たぶん次回で決着。

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