―――発生したのは熱の爆発ではなかった。
漸く手に馴染む武器を得た事から完全な、個人の保有する専用の奥義、誰にも真似できない完全なるオリジナルの奥義となったブラフマーストラだった。そこに混ざるのは大きく分けて二つの要素だった。一つ目の要素はつまり
そういう事から、放たれる
その射線上の存在は強制的に虚飾が、装飾が祓われる。属性が脱色され、問答無用でニュートラルな、加護も強化もない状態へと浄化されながら攻撃を受ける。
まさに一撃必殺。破壊と殺戮の為の奥義。
「当然避けるか―――」
大地を消し飛ばしながら放った
そう判断した直後、背後から来るのを察した。
「むっ、解るか」
「そういうのは
背後から来た槍の一撃をマフラーのオートガードで初撃を弾きながら体を回し、振り返りながら体を後ろへと反らす様に動く。連続で振るわれる槍の軌道を見極めて回避しながら後ろへと滑らせ体を持ちあげないまま斧を振るう。迫る槍を切り払いながら後ろへと向かって一回転し、着地しながら今度は此方から飛び込む。スカサハもそれに対して正面から相対する。素早い槍撃は回転を動きの合間に混ぜ込む事によって更に加速しているようであり、動きを停止させない限りは攻撃を更に加速して行く。それでありながらスカサハの武芸の閃きは魔技の如く、止まる気配はない。
「本当に哀れな女だな、貴様は!」
「慰める言葉があるなら殺してくれ。私が求めるのは死合で果てる事のみ」
素早く繰り出される槍の連続突撃に対応して此方でも斧を握り、素早く回転させながら連続で振るう。スカサハの動きに呼応する様に此方の動きを素早いものから固定された剛の動きへと変更、急所や後々響く様な場所への攻撃のみは防ぐ事として、それ以外のダメージは放置する方針にする。耐久力に関しては超一流の領域にあると信じているし、蘇生能力もある。その阻害をする呪いの類は殺せる。
―――ならば後は逝くのみ。
動きの質を変えればスカサハの視線が変わる。呼吸でマントラの質を変更させ、心技合一による森羅の力を体内に取り込み、それを練り上げながら殺す様に腕をしならせ、
「どこぞの英雄の奥義か」
「引き出しが多いのが自慢でね―――引き出しの多さと良相性で押し殺すのが性にあってるみたいだ」
つまりメインで戦うのではなく、特化型をサポートしつつ隙あらば確実に殺すという、誰かと組んで実力を更に発揮できるタイプの人間だ―――希望としては完全な武芸者タイプ、それこそクー・フーリンやアルトリア辺りが味方として欲しい所だったが、ここではそんな文句も言えない。スカサハの加速が段々と体を掠り始めるが、それを無視して強引に体を動かす。雨粒の中に混じる赤い色を無視しながら振るう斧は闇の中に翡翠色の軌跡を生み出して行く。
振るわれる斧の軌跡はスカサハの肉を裂き、血肉を吹き飛ばして抉る。
だがそれでスカサハが死ねるわけではない。
物理的にこの女を殺す事は難しい。いや、不可能だろう。スカサハは死という概念そのものから遠い。彼女は死という当然の権利を剥奪された憐れな女だからだ。だからどれだけ残虐な攻撃方法でスカサハの体を抉ろうとも、飛び散る血肉に熱量は存在しない。彼女が死ぬラインへと到達すれば、自動的にスカサハは死から遠ざかる。彼女は死ねない。故にこそ恋い焦がれる―――残酷で美しい死に。
数多くの勇士が彼女の前で散って行った。それを彼女は一人になるまで眺めつづけてきた。誰と仲良くなろうが、全てが彼女を置いて行く。故に評価するのであれば憐れ。それでしかない。そして本当に救いようのない女だった。
―――殺し合う。
「
「どうした?」
「そうだな、お前の人生の総評に関してだ。今からお前を完膚なきまでに始末してやる所だが、その前に俺がお前に対して思った事を言ってやろうかと思ってな」
跳躍し、距離を取り、追従するスカサハの動きを振り払おうとしながら武器を受け流した。やはり斧一本だと戦い辛い―――もっと、複数種の武装が必要だ。弓を使うなと
だから大きく動き回りながら息を整え、スカサハの動きを引き込む。ワルツを踊る様に相手の攻撃を自分へと向けて引き込みながら、スカサハへと言葉を放った。
「―――なんとも、まぁ、
スカサハの耳朶に言葉が届いた瞬間、左手で印を結んだ。それに反応しスカサハが魔力を振り払う様に発した瞬間、世界が静止した。風と動きを停止させ、雨粒が空中で落下するのを停止した。水面の波紋は広がる事を停止して拒み、世界はあらゆる運動から切り離された。だがそれは時間が停止したからではない。
即ち、星天。これぞ聖仙の秘術にして秘儀。書物に残される事なく、記される事もない奥義。
星天停止、である。とはいえ、それも準備があって成立するものであり、即興で使えば即座に突破するような児戯。スカサハがそれを受けて停止した時間は
だが、その女の姿は次の瞬間には―――ズレた。
まずは言葉を放つ前に顔がズレ、体がズレ、腕が落ち、体が解体された。
闇の中で嵐に触れられる事もなく、崩れ落ちるスカサハの
「―――まさかこんな状況になって念願の殺人を達成するとはね。いや、半神みたいなもんだから殺神か? ま、どちらにしろあっけないもんだ」
ふぅ、と息を
「なんとか殺せたか、いやぁ、助かった。やっぱ一人で戦うのは無理だわ、アレ」
「まぁ、元々作戦通りに進めただけって話なんだが……アイツ、死がないんだろう? 大丈夫なのか?」
「一回は確実に殺してる。こっから蘇るかどうかは……運か、或いは神のみぞ知るって奴だ。流石に俺はもう知らん。知りたくもない」
やった事は簡単、気配遮断で式を潜ませて、咎人の悟りで死への理解を極限まで高めて無理矢理スカサハの死を見せる。後は嵐で大地に、湖の下に掘った陣を使って気配感知を無効化、第六感を此方へと集中させる事で鈍らせ、明確な割り込む瞬間を作って式に殺させるだけの話だ。式が同じ、根源接続を由来としている存在だったからこそ出来る裏技だ―――こっちの式はその事実を知らないが。
セイバーの方の式は、アサシンの方の式が負けるまでは特異点に出てくるつもりはないから困ったものだ。あっちの方が色々と説明が楽なのに。まぁ、結局は器が一緒なのだから通じているという事実は一緒なのだ。自覚があるか否かという点が違うだけで。
「というかオレに殺らせるなら自分でやればいいだろ」
「無理無理、それはルール違反になっちまうから、逆に俺がヤバイ」
「はーん……めんどくさそうだな」
そらな、と呟く。そもそも救世主という存在自体が面倒の極みにあるようなものだ。存在する時点で
と、まぁ、そういう訳で、式の直死を利用した―――流石に死そのものの付与と比べれば劣るではあろうが、それでもこれでも一つの殺害手段だ。もう二度と蘇らない事を祈る。スカサハの攻撃が何度も突き刺さった箇所が血に滲んでいて地味に痛い。呼吸を整えて回復をしながら、軽く斧を振るえば地形を削っていた嵐が一瞬で静寂を取り戻し、晴天が帰って来る。
周辺を見れば広く広がる湖と、そこに沈んだ大地が見え、その遠方にはこの空間を避ける様に戦うアメリカとケルトが見え、激しく炎と破壊を撒き散らしながら戦っているのは―――カルナ、そしてアルジュナだろうか。二人は誰にも邪魔される事なく、遠方で空中戦を広げたと思ったら間にあった崖を完全に跡形もなく消し飛ばし、人のいない方向へと大地に大量のクレーターを爆撃の如く穿ちながら神話で果たせなかった戦いの続きを行っていた。既にカルナの体には黄金の鎧がない様に見える。その代わりに片手に握られたあの槍はインドラの槍だろうか、アレを食らえば流石にアルジュナでさえ一撃だろう。
「見えるか、あの空飛んでアメリカ破壊してるの兄弟なんだぜ」
「はた迷惑な兄弟喧嘩もあったもんだ。って、それより次はどうするんだ?」
「ここはインド大決戦に任せ―――」
言葉を放った瞬間、大地が震えた。言葉を止めて、震源地へと向かって視線を向けた。
足元の湖が震動によって震えて水が飛び散っている。それもそのはずだ。巨影が太陽を遮るように
―――クンバカルナ殿がジャンプしながらこっちへ向かってきてらっしゃるぞぉ……!
「え、えぇ……動けるデブってのは聞くけど飛べるデブってのはジャンル的に新しいわね……!」
いつの間にか横に出現した愛歌がそんな事を言うが、冗談に出来る状況じゃなかった。軽くわぁい、B級映画かよ……とか言いたくなる光景が空には浮かんでいた。しかもどうやら投げつけられたロッキー山脈の一部を鈍器として使う予定なのか
「……じゃ、オレはワシントンまでひとっ走りしてくるから」
「待て、待て待て待て待て」
「じゃあな」
「式お前―――!!」
一瞬で式の姿が消えた。ワシントンDCへと向かったカルデアの本隊に召喚されたのだろうか、或いはオーダーチェンジで切り替わったのだろうか。どちらにしろ、まず間違いなく逃げられた。おのれ、式め。この恨みは絶対に忘れないぞ、と思いながら空から落ちてくるクンバカルナから視線を外し、助けを求めて視線を巡らせる。
カルナ―――アルジュナと笑いながら焦土を広げている。
パラシュラーマ―――クリシュナと争いを行っている。死にたくないから放置で。
ラーマ―――無事だった。視線を向けると此方に気づき、そしてクンバカルナを見上げた。
「アレ、どうにかしろよ!! 逸話再現できるだろ! 今だ! 必殺のラーマスラッシュ!」
「今の余には流石に物理的に無理だ!! あの頃はもっと成熟した体であったから一息で切り落とせたのだ、今の余では手足の長さが足りん!」
足りてたら出来るのか、お前。やっぱり根本的な技量に関してはこいつら、頭おかしいなぁ、と思いつつラーマと視線を合わせ、落ちてくるクンバカルナへと視線を戻した。それから互いに武器を抜きながら構えた。
「仕方があるまい、再び殺してやるとしよう。解っているな?」
「着地した瞬間の硬直だろう? まぁ、読みに関しては
「うむ。では一撃で消し飛ばすとするか……それで死んでくれるならばな」
「怖い事言うの止めない? 足元で生き返りそうな奴がいるんだけどこっちは」
「うむ……まぁ、その時はその時でスッパリ諦めよ! ともあれ、邪魔な奴からは退場してもらおうとしよう―――いい加減、羅刹の存在は見飽きた」
ラーマが弓を抜き、それに
そこからは互いに言葉をかける事もなく、落ちてくるクンバカルナを見た。
山という重量を抱えた超巨体は落下と同時にアメリカ大陸を砕く。大地がそのものが津波の様にめくれ上がりながら襲い掛かってくるなら、それが自然災害として全てを滅ぼそうとする土砂津波として発生する瞬間、クンバカルナの動きが停止したのに合わせ、正面から迫って来る土砂に向かって斧を振り下ろし、
「
そして、ラーマは矢を放った。
「―――
陸津波。アメリカは死ぬ。
さとみーは状況、環境を整えて、その上で自分で戦って追い込んでサポートする器用万能タイプ。だからと言って殺傷力がまるでないという訳でもない。つまり超攻撃的なサポーターというスタイル。なので平気な顔してアレ? これ決闘だっけ? すまんな、とかやらかす。
という訳で続いてクンバカルナ戦。億単位で戦場で食い殺したという逸話の怪物。
なお、その頃ワシントンは春のケルト祭。