Vengeance For Pain   作:てんぞー

128 / 133
地上の星 - 3

 ケルトが地平から一旦完全に消え去った。しかしそれでもアメリカ大陸を沈没させると見間違うほどのケルトが出現し始める。地平線を黒く塗りつぶして行く人影の中、巨大な姿がそれを踏みつぶしながら大地を赤く染めて登場しつつあるのが見えた。ブラフマーストラを放っていた動きを停止させ、正面、地平線の向こう側から出現しつつある巨体を見た。溢れかえるケルトの姿を踏み潰しながら大地に赤いシミを生みだす存在は醜く、進めば進むほどのその姿は更に大きく見えてくる。

 

 同時に頭を穿つような悪臭が漂い始める。本来であれば魔力で作られたケルト戦士達は血を流さない―――だが歩きながら、更に巨大な姿を見せながら出現する怪物は掬い上げるようにケルトを巨大な手で掴み、数十人同時に口の中へと放り込み、咀嚼した。血を流さぬ怪物の兵が大地と怪物の口元を赤く濡らしながら咆哮を轟かせ―――悪臭、死臭を戦場に蔓延させた。それはまともな精神をしている人間であれば問答無用で発狂へと追い込むような気持ち悪さをしていた。その姿を見ながらラーマが叫んだ。

 

「―――クンバカルナか!」

 

「羅刹王の陣営にいたという()()()()()()()()()()()()()か! クソデケェ!」

 

 最前線、焼けた大地の上に立ちながら、更に大きくなって行くクンバカルナの醜い姿を見た。それが数億という猿の犠牲者を生みだし、討伐された存在であった。その逸話に偽りがなければ、こいつ一匹でそのままアメリカ側の人間を全て食らい尽くすだろう。その大きさも非常識なもので、()()()()()()()()()()()()()のが遠巻きながら理解できる。アレが戦場に走ってきた時点で地震と巨影が消えないからだ。

 

「ふむ、成程。バーサーカーとして召喚されているようだな。して、貴様(ラーマ)はどうやってアレを倒した?」

 

「ん? 余か? 剣で四肢を切り落としてからそんなに腹が減ってるなら好きなだけ食わせてやろう! ……と、口の中を矢で埋め首を断った」

 

「うわ、参考にならねぇ……」

 

 クンバカルナが口を開けてながら地響きを鳴らし迫って来る姿を見る。その大きく開けられた口には人が簡単に三十ぐらい放り込めそうだった。それだけ大きな口を矢で埋めたとは、一体どういう事だろうか。やぱりインドスケール盛り過ぎじゃねぇかなぁ、と思いつつあると、更に巨大に見えてくる敵の姿にやべぇ、と思う。

 

「まともに相手したくねぇな、アレ」

 

「臭いし」

 

「とはいえ、どうにかせねばならんな」

 

「じゃあしばらく退場してもらおうぜ」

 

 そう言いながらパラシュラーマが横に着地し、マントラを通して自然と、宇宙の真理と合一を果たした。爛々と目を輝かせながら真言を呟き、手をタクトの様に振るう。それに従い天地が鳴動を始め、アメリカ大陸西部からナニカが凄まじい勢いと質量を持って高速で接近し、

 

 ―――そのまま、クンバカルナを轢き殺すように轢いた。

 

 超質量とクンバカルナは弾かれるように戦場の外へと飛び消えた。死んだわけではないが、戦場から大きく引き剥がされた、醜い耳を犯すような咆哮と共に。視界から消えた。それを三人で並んで見ながら、視線をパラシュラーマへと向けた。

 

「いや、邪魔なんだから戦場から追い出せばいいだろ?」

 

『今ロッキー山脈の一部が変形しながら吹っ飛んだんだけど誰か犯人を知らないかなぁ!』

 

「まぁ、パラシュラーマ師であれば普通の事だ。この程度」

 

「まぁ、そうなのだが……戦略的には正しいが……忘れよう。それよりもクンバカルナの相手をしばらくしなくていいのは朗報だ―――敵サーヴァントがいない今の内に前線を一気に押し上げるぞ! 各自散開して撃滅を!」

 

 だいぶテンションが上がってきているのを自覚しながら散開する様に飛び出す―――カルデア本隊は未だに後ろから此方の露払いに従いつつ一気に前進してくる。そのメンバーは対人宝具、対人奥義に特化した面子となっている―――その理由は勿論、露払いをインドとアメリカに任せて、一気に敵陣に切り込んだ電撃作戦を目的とするからだ。

 

 となると、なるべく多くのケルトを鏖殺しつつ、サーヴァントを釣り出す必要がある。いや、必ず釣り出されるだろう。サーヴァントの相手はサーヴァントでなければ止められない。そしてサーヴァントが出てくるなら、サーヴァントで止めなくてはならない。そうしなければただ蹂躙されるだけの結末が待っている。それは相手も理解している筈だ。

 

 故に散開しつつ、相手が相対したがる将を、サーヴァントを釣り出す。地平の彼方へと向かって破壊を叩きこめば急速にアメリカの大地が荒廃して行く。爆裂と雷火の戦場の中で、クンバカルナと入れ替わる様に接近する強い気配を幾つか感じる。更に戦場へと向かって飛び込んで行き、ケルト陣営側の気配を刺激してみる。それに釣られ―――いや、迷う事無く此方へと向かってくる気配が一つある。

 

「来たか!」

 

『……浮気は駄目よ?』

 

「地雷女に手を出そうとする程馬鹿じゃない―――来い!」

 

 戦場の一角を占領する様に足を止める。接近してくる姿がここまで来ると見えてくる。さて、立香たちの方は作戦通り動いてくれよ―――と、思いながら、接近してくる姿に向けて斧を向けてからそれを天にかざした。

 

「さあ、お前との初陣だ。俺にお前の事を誇らせてくれ―――鏖殺の嵐斧(パラシュ・ルドラヴァス)!」

 

 言葉に答える様に翡翠色の輝きを奇形の斧が放った。その輝きと共に大気が震え上がった。吸い上げられる魔力は通常の人間でなくても一瞬で干からびさせるだけのものがある―――だが根源を通しての無限供給の魔力にそんなものは通じない。出力としての制限はあっても、供給としての制限は存在しない。故に喜んで魔力を吸い上げる嵐斧はそのまま風を操った。それが世界を一つ包む様に流れた。それに続き、大気に雨をもたらした。大粒のそれは天から最初はゆっくりと降り注ぎながら風と混じり合い、勢いを加速させて行く。マントラの加護を通して雨に濡れぬ身は常に最良の思考と風雨の対象外へと押し出されていた。だがその外側、身に触れぬ雨と風は、

 

 生物を生きる事を許さぬ嵐の異界を生みだしていた。

 

 結界ではなく異界。もはやそれは一つの違う世界だった。

 

 吹き荒ぶ嵐はもはや生物の生きる場所ではない。苛烈すぎる風の気配は()()()()()()()()()()()場所であり、そして降り注ぐ雨は()()()()()()()()()()()()()もの。空間そのものが雨と風によって音を失いながら息が白く染まる様な気温の低下が発生する。足元の大地はあっさりとその原形を無くし、風と雨粒によって抉り抜かれたそこは湖と化す。完全に日の光が乱雲によって遮られ、轟雷が天上に鳴り響く。

 

 鏖殺の嵐斧(パラシュ・ルドラヴァス)を下ろしながら嵐絶異界の中、水面の()を何事もないかの様に歩き進みながら、右手で握る嵐斧を肩に担いだ。風にも雨にも干渉されず、足元の湖にも干渉されず。異界形成前と何ら変わらない状況のままでいる。だがそれ以外の全ては完全に嵐に飲み込まれていた。足元の湖でさえそうだ。

 

 パラシュラーマはこれを引きずってカナダを横断したのだ―――そりゃあカナダも滅ぶという奴だ。

 

 だがそんな嵐の中、小動する事もなく、侵入し、水面の上に立つ女の姿があった。

 

「―――待たせたな」

 

「待ってもいないし望んですらいねぇ。自分の都合の押し付けもいい加減にしろよ、女。死にたけりゃあ影の国を人理に繋いでついでに焼かれれば良いだろ」

 

 影の国の女王スカサハが衣装を一新していた。ヴェールの様なものを被り、どこかで見た事のあるゲイ・ボルクを片手に、そして彼女が持っていた旧式ゲイ・ボルクをもう片手に握っている。彼女の魔術や呪術の腕前を考えるなら、あれらをあっさりと複製してくるだろう―――羨ましい能力だ、自分も武器の複製や投影能力が欲しい。ノータイムで生み出しつつ投げる事の出来る武器が増えるだけで戦力の幅は一気に広がるというのに。

 

「冗談を言うな。望む様に死ねるかもしれない状況で、その機会を逃す馬鹿はおらぬだろう?」

 

「ふぅー……」

 

 まぁ、喋るだけ無駄だよな、とは思う。それに彼女に現状、愛歌以外に対して救いの対象を広げるという余裕が己にはない、という説明を彼女へと向けても意味はないだろう。ラーマは()()()()セーフだ。言い訳があるし、大義名分があるし、何より()()()()()()()()()からだ。大本のラーマとシータを救う訳ではないから、スナック感覚で解呪出来た。だがスカサハは違う。この女は()()()()()()()()()()なのだ。

 

 まぁ、それはそれとして、

 

 こういう酷く自己中心的な女は好きになれないのも事実の一つだ―――見方を変えればただただ必死なのだろうが。必死な上に不器用な女―――救いようがないし、救うつもりもない。

 

「悪いがお前には付き合ってられない―――さっさと終わらせて貰おうか」

 

「此方とてそのつもりだ―――さぁ、私を殺せ。殺してみせよ」

 

 その言葉と共にスカサハが二槍を握り、一気に飛び込んで―――その動きを殺して後ろへと飛びのいた。チ、とそのまま飛び込まなかったスカサハの存在に舌打ちする。鋭く見極めたか、と流石にスカサハを楽に殺そうとするのは無理があったか。

 

『―――察知されてしまったか(≪空想具現化:かぜよ≫)

 

 暴風の中にアースの風化概念の風を混ぜ込んで、触れたらそのまま特異点の終了までずっと風化させて放置しようと思ったが、それを察せられたらしい。奇襲で通じないなら呪術で風化対策されるな、と軽く溜息を吐きながら、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「絶え間なく支援を続けろー。囲んで押し込んで封殺してボコす」

 

『はいはい、解ってるわよ』

 

『まともに戦おうとする方が愚かしい、という奴か』

 

 大正解である。頼んだ端から嵐絶異界の雨粒の中に少量だが穢れの泥が混じり始める。最初は効果は薄いだろうが、逃げ場はないし、此方は雨の方と違って回避も防ぐ事も出来ず、徐々に蓄積して行く。時間が経過すればするほどスカサハの肉体は粘土の様に柔らかくなって行くだろう。まぁ、そこまで戦闘を続ける予定はないのだが。ともあれ、嵐の中の轟雷にアースのらいめいを混ぜ、雨風そのものに穢れの聖杯の泥を混ぜる。

 

 戦いとはまず、その準備から始まり―――次に戦場の支配へと続く。

 

 己に有利な戦場を生みだす事がまた、勝機を掴む事へと通じる。

 

「ふむ、成程……盛り上げてくれるな」

 

「これだからケルト思考は……!」

 

 そんなもの、構うまい、とスカサハが飛び込んでくる的確に降り注いでくる雷鳴を回避しながら飛び込んでくる姿に対して此方からも接近し、交差する槍と斧を正面から衝突させ、武器を拮抗させた。その停止した動きの中で、スカサハは懇願するような、期待に満ちた視線を向けてくる。本当に、

 

「―――馬鹿な女だ……!」

 

 武器を弾く。二槍であるが故に衝撃を分散させたスカサハが素早く槍を一本戻してくる。風を使って体を押す様に動かしながら横へとズレる。突き出された左槍から行動を予測して放たれる右槍の突きを斧で弾きながら体を後ろへと引く。僅かに出来た空白、風化の風と雷鳴が落ちる。それを回避する様にスカサハが飛び退くのに合わせ、呼吸を合わせ、

 

ふぅ―――(≪マントラ:心技合一≫)

 

 武器と、大地と、天と、宙と心技を合一させ、一瞬で最大出力を兵器へと込めた。それでも武器を悲鳴どころかダメージを受ける様子さえなく、機嫌よさげに魔力を吸い上げながら形を変えた。僅かに開いたスカサハとの合間に、それを叩き込んだ。

 

「―――梵天よ、嵐に堕ちろ(ブラフマーストラ・パラシュ)

 

 放たれた衝撃と共に大地が悲鳴を上げた。




 次回はvsスカサハ。

 さとみーは戦うなら確実に勝つだけの手段と手札を用意して勝率100%の状態にしてから確殺を狙うタイプ。スカサハは戦っている間になる程、100%にするわという感じで勝利するタイプ。

 ガチャ丸は0%を1%に変えてその1%を絶対に掴むタイプ。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。