「―――まさかパラシュラーマが現代で弟子を取ろうとはな」
アメリカの荒野を軽く跳躍する様に駆けて行く―――そこに純粋な人間の姿はなく、最低限のスペックで英雄級と呼べる領域にある存在のみがある。即ち自分、ラーマ、そしてジェロニモになる。パラシュラーマを説得する要員として己とラーマ、そしてレジスタンスの責任者としてジェロニモが同道するという編成になっている。少なくともパラシュラーマの身分はブラフミン、インドにおけるカースト制度では最上の存在に当たる為、連れてくるのなら責任者レベルではないと失礼に当たる。という訳で面識のある人間が二人、そして責任者で合計三人―――カナダへと向けて移動する為、英霊三人という少人数での移動となっている。
「その言い方から察するに意外の様に聞こえるが」
大地を駆け抜けながらそう話すラーマに、まぁ、割とな、と答える。
「そもそもパラシュラーマに与えられた役割はカーストの制度を戒める事、その大切さを伝える事―――そしてカリ・ユガの終焉に生まれるカルキに全てを教え、クリタ・ユガを生みだす手伝いをする事だ。パラシュラーマ自身、マハーバーラタ以降は他人と関わり、教え、弟子の終わりを見る事にも疲れを感じている筈だ。だからカルキの到来までは引きこもって鍛えつづけているとでも思っていたのだがな……」
まぁ、とラーマは此方へと視線を向けた。
「それが覚者を生んだのだから、観察眼は確かだった、という事か」
「まぁ、
俺の方が知りたい案件だった。
まぁ、運命を見れる人の判断―――自分程度ではどうにもならんだろう。
そんな風な会話をしながら東部に入って中部を迂回する様に北進していた。
現在向かう場所はラーマと己が感じた、パラシュラーマの気配が最も強かった場所―――つまり、パラシュラーマの戦いが終わったであろう場所である。昨日開始した戦いは数時間前にカナダを東から西へと横断する様に終了した。開催位置がケルト陣の中である為、おそらくはケルト陣営に所属する誰かと殺し合いながら移動を続けた結果だと思っている。だから転移や飛行等の手段を取っていなければ、おそらくはアメリカ北東部に存在していると思っている。
その為、現在最前線である中部を迂回し、更にやや東寄りにある合衆国城を迂回する様に、北へと向かう。距離がかなりあるもので、ダラス方面から移動を始めている為、
まずはグランドキャニオンまで向かっていた。
そこから北進―――ロッキー山脈を突っ切る様な形で、障害物を無視しながら移動していた。
本来、人間であれば飛行機を使って移動するような距離だ。だがそんな道具も乗り物も宝具も今は存在しない。その為、ジェロニモと自分で相互に移動補助用の魔術を多重に発動させ、それで敏捷力を上げられる極限まで強化したら、一気に大地を跳躍しながら突き進んで行くという移動手段を取るしかなかった。ここまで強化を行って移動すればもはやバイクや車なんて乗り物よりも移動速度は高く、疲れを知らない英霊という存在だからこそノンストップで移動し続けられる。合衆国後方、ケルトと全く関係のない土地を走っているという事もあって警戒は少ない。その為、割と派手に跳躍したところで見られても平気だった。
普通じゃこんな事は出来ない―――マスターもいるし。
マスターがおらず、気にする相手もいないからこそできる移動だった。マスターが、つまりは普通の人間がいればG等の関係で飛行しながらゲロレインボーでも作っていたり、ブラックアウトする程度の速度は出している。そもそも、それだけの速度を英霊は出そうとすれば一応は出せたりするのだ。
テキサスを中心とする南部は一度ケルトの攻勢を受けた影響からか、非常に荒廃していて荒野が多くなっており、それを抜けて到着するのはグランドキャニオンだった。それは言わずと知れた、アメリカの誇る観光名所の一つであり、自分が宗教巡りをしている間、一度は目撃した事のある景色だった。とはいえ、あの頃は景色を楽しむなんて考えはなかったのも事実だった。
「中々の景観だな」
「時間があれば楽しむのだがなぁ」
「ま、そういうのは人理が修復した後、召喚された場合の楽しみとしてくれ」
苦笑しながらグランドキャニオンの大峡谷を飛び越えて行く。飛び上がり、滞空している間に青い空と白い雲、光輪を無視するとして、その空の下に広がる大自然の姿に魅入る。確かに、時間があれば何時までも眺めていたい景色だった。アースと契約し、使役しているせいか、グランドキャニオンから他よりも強く星の力を感じる―――一種のパワースポットとなっているのは事実らしい。こういう所でゆっくりと夜の星を眺めるのもまた、乙なものだろうなぁ、なんて事を考えながら先へと進んで行く。
「一旦休息を挟もう」
グランドキャニオンを超えてしばらく北へと進んだところでジェロニモが言葉を置いた。足を止めながらいいのか? とジェロニモとラーマへと視線を向けた。ジェロニモの言葉にそうだな、とラーマの頷いて同意した。
「余とジェロニモはサーヴァントであるから食事などを必要とはせぬが……エージは違うのだろう? 我慢する事が出来るのと、我慢をするべき事とは違う。非日常だからこそある種のルーティンを守るべきだと余は思う。故に遠慮する事無く休息を入れるべきだとも思うぞ」
「じゃあ二人の好意に甘えさせて貰いますか」
適当な木陰を見つけるとその下に移動し、影の中で移動をサボっていた愛歌とアースが出てくる。お前ら、俺を働かせておいて調子いいよなぁ、と思いつつも、愛歌の手の中に握られているランチバスケットの存在を見て許す。超許す事にする。
「全く現金ねぇ、もう」
「へへ、男なんて生き物は割と単純なんだ」
「誇る事ではないな」
「事実ではあるが」
「もぅ……あ、貴方達の分もあるから遠慮する必要はないわ。見ているだけというのも退屈なものでしょう?」
木陰で休みながら、四人と惑星一つでランチタイムという約一惑星が原因でスケールが壮大になるランチタイムになった。とはいえ、こうやって人の姿を取っている間は表現や考え方がやや人間寄り―――というより器寄りになるらしく、その動作や表現はかなり人間的である為、タイプアースだなんて説明しない限りは通じる事もないだろう。木陰の下、草の上に腰掛けながらランチバスケットを開ける。その中に入っているのはサンドイッチと幾つかに切り分けられた果物だった。
「カルデアからレイシフトすれば普通は手に入らない食材とかが調達できるから便利よね―――エミヤ辺りが割と張り切ったり幻想種料理のチャレンジしたりで最近、厨房に揃ってる食材が結構バリエーション豊富なのよ」
「平時でもあの調子なのか、あの男は」
「まぁ、趣味があるのは悪くはないと思うが」
サンドイッチを一つ手に取りながらその中を確かめてみる。サニーレタスにワイバーン肉、マスタードにマヨネーズとシンプルなサンドイッチの他にも定番を抑えた組み合わせや、ポテトサラダを挟んだサンドイッチも見つける。地味にポテトサラダが大好物なので、先に其方のサンドイッチを取って確保しておくと、ジェロニモに笑われた。悪かったな、子供らしくて。そう思いながらも水筒から注がれる麦茶を片手に、アメリカの大地を照らす日差しを浴びながら短いランチタイムに入った。
「うん、美味しい」
「ふふ、そう言ってくれると嬉しいわ」
「中々の器量の妻だな、エージ。とはいえ、余のシータには負けるがな」
「流石十四年間ノンストップで妻を求めて戦い続けて来た男の言葉は違う」
「……うむ、サーヴァントとして召喚されて戦い続けるだけだとも思ったが、こういう事もあるか」
まぁ、サーヴァントなんて生き物は基本的に絶望的に生き急いでいる。普通の聖杯戦争であればまともに休息を取る暇さえないだろう―――そんなことすれば狭い市街の中で狙い殺されるだけなのだから。だからこうやって、普通に観光名所の近くでピクニックランチなんて事はあり得ないだろう。
こういう何でもないような時間を得難く感じるのもまた、この状況の異常さなのだろう。そもそも、通常の聖杯戦争でアメリカ大陸そのものを戦場とする事なんて、神秘の秘匿を考えればまずありえないだろうし、そんな規模になったら神秘としても死ぬ筈だ―――だからこんな状況、特異点でもなければありえない。或いは地球そのもので七つの聖杯を並列霊基させる……なんて事でもしなければ無理だろう。
「……」
「ん? どうしたのだ、浮かない顔をしおって」
サンドイッチを口の中に詰め込みながら考えていると。影から半身だけ覗かせながら食べているアースがそんな事を聞いてくる。お前、それちょっと行儀悪いんじゃないか? とは思いつつも星に文句は言えない。ともあれ、どうしたか、と言われるとアレだ。
「戦いが終わった後を考えてた」
「あぁ、成程な。お前はマスター同様生身の人だったな」
「あぁ。元々俺は実験体としてカルデアに運び込まれて情報抹消されているから世間的には
「これがゴータマの同属かぁ……説教が入りそうだな」
もう入ってる。割と寝ている間に何度か食らってる。まぁ、解らなくもないが。覚者にしては俺が俗物的すぎるのだ。悟りを利用するだけ利用して、それに従って生きようとしていないから当然と言えば当然なのだが。とはいえ、彼方も彼方でそれが義務でもなんでもない事は理解している為、怒るだけで済ませているのだが。
「まぁ、俺とマシュと立香に関してはこれで終わりじゃねぇんだ。この戦いの
まず間違いなくカルデアの存在自体が問題になるし。レイシフトだって国連議会から承認を得て漸く行う事が出来るものだ―――今の様に軽い旅行気分で連打出来るものじゃない。まず責任者一族のアニムスフィアが死に絶えて、そして顧問であるレフ・ライノールでさえいない。その上、数多くの英霊が存在するこのカルデアという場所を時計塔も国連も見逃そうとするはずがない。
マシュも寿命の問題がある。
立香はその頃であれば人類最強のマスターとして君臨するだろう―――おそらく、古今東西どんなマスター、たとえ月の勝利者であろうとも人理を修復する事に成功した立香には勝てないだろうとは思う。
それだけ人理の修復という偉業の達成は凄まじく、ごまかしがきかない。
時計塔からの追加人員、国連からの呼応策、カルデアで凍結保存中のマスター、数多くの政争等からの干渉、
これらすべてをどうにかしなくてはならない。
―――少なくとも、少年と少女の旅がハッピーエンドで終わらないのは嫌だ。
「ま、旅が終わった後をちょくちょく考えるのも大人の仕事だよな、って話だ」
面倒だが、子供は
「素直じゃないわねー」
「俺は何時だって自分の欲望に素直だぞ? な? ―――おい、お前らなんでこっちを見ないんだよ、おい!」
少しはこっちを見て返事してみろよお前ら! と、中々賑やかなランチタイムを過ごしていると、地平線に人影を見た。感じた事のない、しかし強い気配に動きを止める事なく食べていたサンドイッチを口の中に押し込み、麦茶で一気に流し込んだ。勿体ないと思いながら一気に食べ終わるとさて、と心の中で呟きながら立ち上がり、此方を相手も発見し、近づいてくる姿を見た。普通の跳躍ではない、伸びながら素早く移動する跳躍は高速移動法の一つ、それも見た事のあるものだ。
なにせ、それは
故に、その姿を見た瞬間、相手の人生を悟り、正体がなんであるのかを理解した。全身をタイツで包む姿は典型的なケルトの衣装ではあるが、その艶やかな肢体に隠れる技量、叡智、そして
「ピクニックも短かったな……」
「終わった後でゆっくりやれば良いだろう。それよりも穏やかな気配ではないな―――来るぞ」
ラーマの言葉と共に正面の大地を爆ぜながら、影の国の女主人が着地した。顔の下半分を隠すようなマスク姿で朱槍を二本抜き放ち、回転させてから構えた。
「最初は馬鹿弟子が暴走しているのであればそれを諌めるのが師の役割とし、共に戦おうと思ったが―――貴様がいるのであれば話は変わる」
女の視線は斧を抜き、肩に乗せた此方へと向けられ、固定されていた。
「貴様、
気持ちは解らなくもない―――だがお前、そんな事を言っている場合じゃないだろう。人理が燃えているんだぞ、というか燃やされ終わってるんだぞ。お前、そんなことしてる場合じゃないぞ?
「影の国に帰ってくれスカサハ。クー・フーリンも今ならあげるから」
「いらん。そして置いて行け―――私の終わりを……それでこそ影の国より参った意味がある!!」
畜生が、厄日かよ、と呟きながら飛び込んでくる
https://www.evernote.com/shard/s702/sh/b98e6c54-b3bf-4981-9dc6-1c3b11642d39/900c9b477ce1b2b5474c2d823be401a5
影の国に帰れ。という訳で2スキル調整完了で解禁。vs生身スカサハ師匠だよ。
正直お前も例外で召喚されているって枠だからサーヴァントにするよりも生身の方がしっくりくるよ。やったね、サーヴァントの時みたいな弱体化なしだよ。こっち来ないでくれ。
彼女は死ねない。死という概念が届かなかった。心臓を穿っても死ねない。微塵に砕いても死ねない、生きているだけの女だった。何時かはあの男であれば……と願うも、男は死んだ。故に女は一人、国が燃え尽きるその日まで玉座で殺せる者を待つ。誰ぞ、私を殺せるものはいないか。