Vengeance For Pain   作:てんぞー

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最愛を求めて - 3

「―――さて、現状に関する情報を纏める。これは現地で判明した情報、サーヴァントから聞き出した憶測、そしてカルデアで調べた情報を統合した結果、私が判断したものだ。いいな?」

 

 ロード・エルメロイ2世、諸葛孔明の霊基を持つ疑似サーヴァントの彼はそう告げると、周りから頷きを返される。おそらく現在、カルデアが保有する戦力の中で一番作戦などに関する判断が上手く、私情抜きで選択できるサーヴァントだ。効率の化け物とも表現されている存在だ。そんな孔明の言葉であれば、大きな信頼を置ける。そういう訳でロビンとビリーが合流したところで一旦、情報整理を行う。

 

「まず最初に我らの最大の敵はこのアメリカ東部を占領するケルト軍となる。その首領は現在の所、ケルト神話出身のメイヴ、或いはクー・フーリンだと思われている。少なくともこのアメリカ大陸におけるケルト戦士の無限湧き現象に関してはメイヴの宝具があったとしても、聖杯級のバックアップがなければ不可能だと思われる。その為、まず間違いなく黒幕の一人としてメイヴが存在する。そしてラーマ王から聞いた話ではクー・フーリンは禍々しい装いに異常な耐久力と回復力を見せていたとされる。それこそ致命傷とも言える傷を回復するレベル。このことから、現在の聖杯の所有者はメイヴではなく、クー・フーリン、或いはケルト戦士の作成をメイヴの手から切り離したシステマチックなものにしてから聖杯をクー・フーリンの強化に使っていると考える―――ここまではいいな?」

 

 他の者同様、頷いてエルメロイ2世に返答する。それを受けたエルメロイ2世は話を続ける。

 

「まずメイヴは生前、関係を持った存在の力を借用出来ると把握している。これはフェルグスのカラドボルグであったり、ケルト戦士の召喚であったり、コンホヴォルの未来視であったりする。特にコンホヴォル王の未来視、これは限定的でありながらメイヴに未来の様子を見せる宝具となる為、ケルト戦士の量産の様に宝具が聖杯のバックアップで拡大解釈を受けていれば、コンホヴォル王本人が召喚され、更に精度の高い未来視が発生するだろう―――」

 

「奇襲は無理、という事か」

 

「まぁ、本当に未来視が万能ってなら今頃俺らが磨り潰されているだろうし? 万能って訳じゃないんだろうな。とはいえ、イカサマがあるって解ってて博打を打つ馬鹿はいないな」

 

 ジェロニモとロビンがやれやれ、という声色で呟いた。どうやら二人の脳内で奇襲して本陣を壊滅させるというプランがあったらしい―――まぁ、司令部への電撃作戦というのはこういう状況における、一番の逆転手段でもあるのだから当然と言えば当然だろう。メイヴの未来視の情報がなければまず間違いなく実行されていた―――そして、此方が壊滅していただろう。

 

「では陣営を変えて話をアメリカ側に持ってくる。此方はエジソンが首領だ。機械化兵とする事で即席で戦える兵士を量産化し、それで無限のケルト兵とぶつかり合っている。所属している将がエレナ・ブラヴァツキー女史とマハーバーラタの大英雄、カルナ。エジソン本人はおそらく何らかの要因で正気の判断を失っている。何故なら戦場を見ればやがて、ケルトが勝利するのは見えているのにエジソンはその先、聖杯を使ってアメリカを保存する事しか考えてないからだ。彼の蛮行は止めなくてはならず、説得はこの戦いを終える為、そして味方を増やす為に必要とされる事の一つだが……この場合、エジソン陣営に所属する英霊、カルナが最大の問題となって来る」

 

 エルメロイ2世がこのカルナだが、と言葉を置く。

 

「おそらくは()()()()として聖杯に呼び出されている可能性が高い―――おそらくは彼と深い因縁のあるサーヴァントがケルト側に召喚されているのだろう。この場合、カルナのライバルとして記録されているマハーバーラタの大英雄、アルジュナだと思われる。この英雄、アルジュナはカルナと互角のサーヴァントであり、カルナと一対一の勝負であれば勝敗は解らないものだと言われているが……現在、カルナには黄金の鎧がある。あらゆる攻撃を無力化するその鎧はアルジュナと戦う上で神々が奪ってまで封じたほどの代物だ。それが残った状態でアルジュナと戦えば、おそらく天秤は其方に傾く―――まぁ、現状、これは良い。だが問題はそこに辿り着くまでのカルナだ」

 

 うむ、とエルメロイ2世の言葉に頷く。ここは俺の出番だろう。

 

「さて……カルナに関してだが、奴は俺と同じ(グル)、パラシュラーマの弟子だったという来歴を持つ。アルジュナと勝負する上ではブラフマーストラの奥義が必須だと言われていたからな。アルジュナの様に息をしているだけで授かる様な坊ちゃんとは違って、カルナは自分から探し求める必要があり、その結果辿り着いたのがパラシュラーマだった。とはいえ、(グル)はクシャトリヤを酷く憎んでいた。そしてクシャトリヤだったら弟子であろうと殺す、というぐらいの殺意を見せていた。そんな(グル)に身分を偽ってカルナは弟子となった……まぁ、結局はブラフマーストラを授かった後でバレてしまうんだけどな」

 

 ちなみにこのバレるきっかけとなった事件の原因はインドラだと言われている。そして同時にカルナから黄金の鎧を奪ったのもインドラである。最後に自分でさえ扱えない槍を渡した所でチャラになると思ってんじゃねぇぞテメェ、と個人的には一言言ってから殺したい。やっぱり神ってクソだわとしか言えない。

 

「そこ、私情を挟まない」

 

「あいあい、えーと……そうだった。カルナがこの時、パラシュラーマ(グル)に二回呪われている。その内容は一番重要な戦いの時にブラフマーストラの奥義を忘れてしまう事。そしてもう一つはその時に戦車が動かなくなってしまう、というものだった。まぁ、この時はカルナも他の武術でどうにかするわ、ってノリだったのかもしれないけど、戦争が進んで多くの死人が出る中で、カルナは最後に一度、パラシュラーマ(グル)に会った」

 

 そしてそこでカルナは願ったのだ。

 

「このままではアルジュナには勝てないから奥義の呪いだけでも消してくれ、と」

 

 ここまで追い込まれ、敗北が秒読みだったとしても―――カルナは、奥義一つで戦場をひっくり返すつもりだった。そしておそらく、意地と根性でそれを成し遂げただろう、とは思う。

 

「だけどパラシュラーマ(グル)はこれを断った。彼もまたマハーバーラタという物語の奴隷であり、決まっている流れからは抜け出せなかった。故にパラシュラーマ(グル)はそれは出来ないが、それとは別に()()()()()()()()と言ったのだ」

 

「あれ……カルナってクシャトリヤなんだよな? それっておかしくない? というかなんで殺されずにいるんだろ」

 

 立香の疑問はもっともな部分だ。だから答える。

 

「カルナの死は確定していたんだよ。彼は悪側の陣営に付いてしまった英雄として討たれる運命にあったのさ。まぁ、細かい話に関しては流石に当人に聞かなきゃ解らないけど……ともあれ、ここでパラシュラーマはカルナに対して奥義は返せないが、その代わりに祝福をくれてやると言った。ここからが本題……というか問題だ。この時(グル)はな? 弟子煩悩というかなんというか……死地へと解っていて赴くカルナに対してヴィジャヤという弓と、永遠に消える事なく燃え続ける炎と、そして()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を与えたんだ」

 

「ごめん、最後なんかおかしなものが聞こえた」

 

 聞き間違いではないのだ。聖仙は文字通り運命さえ支配する。慈悲を見せたパラシュラーマはカルナの最後のその瞬間までは戦士として戦えるように運命を掌握したのだ。そして事実、アルジュナと相対した瞬間にカルナの全てが崩壊し―――動けなくなり、無防備だったカルナをアルジュナは一方的に射殺した。それでカルナという男の物語は終わりを迎えた。

 

 って事はだ、とクー・フーリンが口を開ける。

 

「……俺らはアイツを殺せねぇし、撤退に追い込もうとしてもあの鎧が原因で無駄に近い。その代わりにケルト連中が本気で動き出した場合、推定相対者のアルジュナによって瞬殺される、と」

 

「うん。カナダの方から(グル)の気配を感じたし、カルナ、(グル)、アルジュナと三人そろっているなら逸話的な強制力が発生するからまず間違いなく再現されてると思う。その証拠はラーマとシータの現界だ。本来の聖杯戦争ではラーマとシータの同時召喚はあり得ない。だがヴィシュヌの化身が降臨している間はその伴侶の化身もまた姿を現すという逸話をラーマとシータの同時召喚で再現されている」

 

「―――という訳でかなりの確率で今の憶測がそのまま通る。シータの存在自体、ラーマ王が確実にアメリカの大地にいるという事を感じ取っている。となると逸話再現による強制力というのも馬鹿に出来ない。そして現状、我々が協力するレジスタンスの手駒、状況、そしてこの先で成しておくべき事を考えると取れる行動は幾つかある……いいな?」

 

 付いてきているか、と確認する為にエルメロイ2世が言葉を置いた。それを飲み込む様に立香とマシュがハイ、と答えると宜しい、とエルメロイ2世が呟く。

 

「時計塔の馬鹿共よりも出来の良い生徒で喜ばしい事だ。……さて、我々が優先的に処理しなければいけない事は幾つかある。まず一つ目はエジソン大統王の説得。これはエジソンに目的を諦めさせるのと同時にアメリカ合衆国という戦力をまとめ上げる為に必要な行動だ。そして次のケルト戦力の弱体化、制限、遅延。現状のケルト陣営の進軍速度ではアメリカの命も長くはなく、エジソンの敗北も見えてくる為、相手が詰みの動きを作り出す前に幾つか陣地を切り取ってケルトの動きを抑制する必要がある。三つ目はパラシュラーマとの接触、そして可能であれば味方に引き入れる事。これに関してはエジソンを説得する話に通じるが、エジソンを正気に戻してカルナを仲間にした場合、そのままアルジュナにカルナを殺される事を防ぐための術だ。パラシュラーマに呪いの解除を頼んで貰えれば、カルナを戦力として運用できるだろう」

 

「あ、それ先生に頼めない? 先生ってばラーマの呪いを一瞬で破壊してたし」

 

 立香の信頼するような言葉に対して簡潔に答えた。

 

「死ぬ」

 

「えっ」

 

「死ぬ」

 

「……え?」

 

「俺が(グル)に殺されて死ぬ」

 

「えぇー……」

 

「うむ……まあ、パラシュラーマの奴は情が深いし、流石にそこまで短絡的ではないと思いたいが……うーん―――やはり、自分のやった事が弟子に許可もなく解除されたのであればやはり師という立場ならばキレるか。死ぬとは思わんが五体満足ではいられないな」

 

 なのでカルナの呪いは解除できない。それに戦ったところで勝てるとは思えない相手の一人だ。戦いたいとも思わない。というか逃げたい。正直師匠と今更あったところで何を言われたものか解りもしない。クシャトリヤ認定はされないだろうが、弟子がウルトラCを根源に決めて帰ってきたと知った時のリアクションが非常に恐ろしい。でもあの人、かなり情が深くて定期的に弟子の顔を見に行くぐらいにはマメだからなぁ、と思い出す。

 

 まぁ、その話は後だ。

 

「そして最後、四つ目はケルト側が召喚したケルト英雄に対してカウンターとして召喚されている野良サーヴァントの回収だ。話を聞けば近くの街にネロ・クラウディウスがいるのをロビンが既に確認しているらしい他、このアメリカのどこかにはラーマの奥方であるシータがいるとの話もある。これらの戦力になるサーヴァントを回収、説得、味方にする事で対ケルト戦線への主力に組み込む事とする」

 

 エルメロイ2世の言葉にラーマは頷く。

 

「シータ自身はそこまでは強くはない(インド基準)が……余は現界するにあたってセイバーのクラスに改造した故、本来持つべき武器を手にしていない。アーチャーのクラスで余と同じ存在として召喚されるシータであるならば、まず間違いなく余の弓を―――サルンガを持っている。それであれば羅刹王すら耐え切れず地平から消し去る、最強のブラフマーストラを放つ事も出来る。無論、この状況は余としても見逃せぬ。シータとの再会を手伝ってくれるのであればもはや憂いはない―――理想王の名に誓い、全霊を持ってこの地平からケルトの名を消し去ろう」

 

「……との頼もしい言葉だ。とりあえず、現状出来る情報整理はここまでだ。質問はあるか?」

 

 しばし、会議に使っている廃墟の間で考える様に全員が仕草を取る。エルメロイ2世のおかげで今、このアメリカ大陸で発生している状況、対処すべき事は解った。とりあえずとして、

 

「優先事項はどれになる?」

 

「私見で言わせて貰えればケルトへの対処、サーヴァントに対する接触、そして最終的にはエジソンの説得だろう。現状、一番脅威度が低いのがエジソン大統王の存在で、奴もレジスタンスに対しては関わったら対処する程度の動きしか見せない」

 

 無言で銃に弾丸を装填するナイチンゲールを見てエルメロイ2世がビクビクし始める―――その気持ちは、良く解る。あの婦長、強い訳ではないが非常に恐ろしいのだ。なんというか、本能的に逆らえない恐ろしさがある。キャラ的な問題なのだろうが、あの迫力には負ける。巌窟王だって逃げる。

 

 それはともかく、

 

「―――で、どうするのだマスター。状況は以下の通りだ。お前はどう判断する?」

 

 サーヴァントから向けられたその言葉に立香は考え込む様にしばし、黙る。腕を組み、眼を閉じて考える立香はしかし、驚く程静かで、しかし頼りになる気配があった。数秒そのまま瞑目を続けてから目を開いた。

 

「……よし、まずはケルトの攻撃に対して対応する為にエミヤとロビンにはひたすら破壊工作とテロリズムで交戦を避けつつひたすら遅延戦闘で合衆国の戦線を支援して欲しいんだけど……できるかな?」

 

「任せたまえ。この狩人と組むという事に関しては言いたい事はあるが、戦術的な相性は良い」

 

「それはこっちのセリフなんだけどねぇ……ま、俺らの流儀を理解して任せてくれるってなら問題ないわ。話の感じ、道具とかはそっちで用意してくれるならずっと前線を止めてやれるさ」

 

 エミヤとロビンが了承した。確かに口は悪いし、性格的には反発する所もあるが―――本質的にはエミヤもロビンも手段を択ばないプロフェッショナルな戦士ではなく()()気質なのだ。自主性に任せるよりは命令を出してそれに従わせる運用の方が遥かに効率的に稼働するタイプだ、英霊に多い戦士タイプとはまるで違う。その為、口では反発するものの、一緒に動けと命令すれば手段を選ばずに蹂躙するだろう。

 

「このままネロに会いに行っても数が多すぎてケルト陣の索敵に引っかかりそうだし、ここから更にグループを二つに分けて動かす。一つはネロと接触する俺のグループ。もう一つはパラシュラーマと接触する先生のグループ。二グループに分けて行動を開始、終わったらレジスタンス拠点で合流。この行動中にシータの居場所を探せるなら探す方向で……こんな感じでどうかな?」

 

 立香の作戦立案にホログラムのロマニが頷いた。

 

『現状、出来る事と言えばこれぐらいだろうしね……レジスタンスの皆は……?』

 

「我々もこれで問題はない。戦力的には其方に大きく依存する風になる……頼む」

 

「ううん、此方こそ頼むよ。俺だって皆の力を借りて何とかやってきてるだけだしね」

 

 しかしこの流れ、自分が(グル)に会う必要が出てくるとは、なんとも―――色々と、恐ろしいものがある。(グル)―――そう、(グル)だ。探そうと思えばおそらく見つけられるだろう。ただ会う方が圧倒的に恐ろしさを感じる。もう既に何十年と会っていないのも事実なのだから。

 

 とはいえ、立香の作戦にケチのつけようはない。従うしかないだろう。

 

 ……やや、憂鬱だ。

 

「とりあえずチーズ用意するか、チーズ」

 

「あぁ、最高の嫌がらせになるな。チーズ型爆弾を大量に用意するとかな」

 

「拠点にチーズを送り届けても楽しそうだな」

 

「ほほう、オタクも中々解ってるじゃないの。そんじゃ、準備に取り掛かり始めますか」

 

「ほらほら、貴方も頑張りなさいな」

 

「諦めが肝心であるぞ?」

 

「……おう」

 

 それでも、やらなくてはならないのだ。




 という訳で奇襲キャンセルでサーヴァント確保からの合流、アルカトラズの情報収集を平行して行う方針で。

 立香くんの作戦立案能力が経験値溜まってきた事と優秀な先生しか回りにいない事が原因で殺意とガチで溢れ始めてる。必殺、確殺フォーメーション!

 まぁ、という訳でグル探し始まるよ。

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