Vengeance For Pain   作:てんぞー

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北米大戦 - 3

 ―――急いで戦場から離脱した。

 

 流石にケルトという敵と戦いながら、推定・味方であるアメリカ兵を同時に相手するだけの余裕はなかった。いや、その気になればどちらもまとめてぶっ飛ばすだけの実力、余裕はある。だがそうなると()()()()()()()()()()()()()()()だろう。そうなると人理修復、復元の為に戦うカルデアから大義が消える。そして大義とは大事に見えなくても、戦う上では必要な事なのだ。存在意義とさえも言える。それ故、アメリカ兵には必要以上に手を出す事が出来ない。どうあがいても撤退する必要があるのだ。殺さず、千を超える軍団と戦う事は英霊には不可能に近い。

 

 ブーディカの戦車に乗って、立香とマシュが移動する。適当に時間稼ぎをしてから霊体化した英霊達と共に大地を素早く駆け抜けて一気に戦車まで追いつくと、横に並走しながらアメリカの大地を進んで行く。カルデアのレーダーは小さな人の集まりを感知しており、まずはそこで情報収集を行う事を決定していた。その為、そこへと向かって移動しながら軽く先ほどの情報を整理する。

 

「―――まず、ここは北米大陸で、見た感じ勢力は大きく分けて三つ。アメリカ兵、ケルト兵、そして最後に()()()()()()、っぽいね」

 

「此方が未登録の英霊だと判断し、即座に攻撃を仕掛けて来た感じ、アメリカ兵側とレジスタンスの関係は良好ではない様に思えます、マスター。しかしケルト兵が侵略者だとして、それに敵対するアメリカ兵……ならレジスタンスとは何でしょうか……?」

 

 立香とマシュの言葉に続き、大地を走りながらうーん、と呟き、腕を組みながら考える。立香が此方を指差しながら十傑走りと凄く喜んでいるが、何を言っているのだろうかこいつは。ともあれ、

 

「考えられるパターンはいくつかある。その中でレジスタンスって存在を加味して考えられるパターンは大きく分けて二つ。どちらも共通してケルト兵が敵であるパターン。これはアメリカ人を殺している以上絶対の部分だ。そしてそこから考えられるのはパターンA、アメリカ兵を統括しているやつが正気じゃなくてこのままケルトを倒せてもアメリカが詰むのでレジスタンスが活動しているパターン。パターンB、レジスタンス側が正気じゃなくて横殴りしながらアメリカを詰ませるパターン」

 

うーん……(≪人類最後の希望≫)

 

 話を聞いた立香は腕を組みながら首を捻り、そして軽く考えてから再び口を開く。

 

「話を聞いてる感じ、一切迷いもなく攻撃してきたアメリカ兵側にちょっと違和感を感じる、かな? とりあえずまずはアメリカ兵側の統括と接触するのと、レジスタンスとも接触してみたいかな? ケルト? アレは論外だ」

 

「おう、それで判断は正しいぜマスターよ」

 

 クー・フーリンが霊体化を解除し、姿を見せた。

 

「どういう事?」

 

「あの無節操とも言えるケルト戦士共の数、あれにゃあ覚えがある。間違いなくアレはメイヴの仕業だ」

 

「メイヴ……女王メイヴですか」

 

 コノートの女王メイヴは永遠の貴婦人と呼ばれるケルト神話の登場人物であった。スーパーケルトビッチと笑われながら呼ばれるメイヴは数多くの勇士と婚約し、結婚し、そして肉体関係を結んでケルト神話最大の戦争を引き起こした上でクー・フーリンを殺そうと狙ったのだ。つまり、スーパーケルトビッチでありならスーパーヤンデレ地雷女でもあるのだ、あのビッチは。擁護出来る要素は一切ない。

 

「あぁ、アイツは戦士の遺伝子を体内で複製し、自分の血の一滴で無数の兵士を生産する事が出来る。つまり()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()って事だ。勇士たちの恋人を名乗るだけはあるってもんだな? ……冗談だ、冗談。アレにゃあ理性らしき物はねぇ、ただの量産型の怪物だ」

 

 クー・フーリンがそこで最高のギャグを決めたかのように笑い声を響かせるが、立香とマシュの方はドン引きだった。スーパーケルトビッチの名は伊達ではなかったらしい。まぁ、今はそんな事よりも重要な事がある。

 

「聖杯がメイヴの手の中にあるとして、メイヴが聖杯で強化されているのを考えたらヤバイぞこれ」

 

「おう、フェルグスはまず間違いなくいるだろうし、クランカラティン、タスラムのコナルケナッハ、未来視のコンホヴォルまでいそうだな! 全部揃うとマジで強いぞ? カラドボルグで更地にしながら逃げ出す場所を未来視で見てタスラムで確実に殺した上で戦車で自分を守ってるからな! はぁ、会いたくねぇ……」

 

 クー・フーリンの肩をどんまい、と横を走りながら軽く叩く。引いていた立香はあははは、と力のない笑みを零しながらそうだね、と言葉を零した。

 

「相手が誰であれ……結局、最後に勝つのは俺達だ。とりあえず情報収集して相手の全体像を捉えよう。それからどう動くかを判断するかで」

 

「了解ですマスター」

 

「あいよ、頼りがいが出て来たな、坊主」

 

「それほどでもある」

 

 調子には乗っていないが、常にマイペースを守れるようになっている。マシュの精神の方はまだ、完全に成熟しきっていないが、立香の方は相次ぐ絶望と試練、そしてそこからの復帰で一足先に一人の戦士として両足で立ち上がる様になっている。その精神を、誰かが必要以上に支えるような事はもう、必要ないだろう。カルデアが誇る人類最強最後のマスターは、その精神面ではほとんど完成と呼べる領域に入り込み始めていた。

 

 ―――漸く、頼りになるマスターとなり始めていた。

 

 

 

 

「医療キャンプ……かな?」

 

 キャンプ地に接近したところでブーディカと戦車を消して三人だけ姿を見せた状態で近づく。キャンプ地点には大量のテント、走り回る医師の姿、そして奥のアメリカ負傷兵の姿が見えた。痛みに喘ぎながらも医師たちがそれを治療しようと走り回る姿が印象的であり、濃い消毒液と血の匂いが漂っていた。苦痛に呻きながらも立ち上がろうとする人々を支える医師の姿は前線の負傷者によって彩られていた。

 

「大量のアメリカ負傷兵と医師の姿が見えます……どうやらアメリカ軍側の医療キャンプの様ですね」

 

 マシュの言葉に頷きを返しながら周囲を見渡せば、アメリカ兵の治療が同じ、アメリカ兵の服装をした者達によって治療されており、ここがアメリカ側の施設である事が見えた。ここにはあのロボの姿もなく、忙しくはあるが、平和そうに見える。ここでなら安心して情報収集が行えそうだった。

 

「それじゃあちょっと分かれて情報収集をしようか。半々でチームを分けよう。俺、マシュ、Zとノッブ、後はそれ以外で班を組んで一時間後、ここで合流で……あ、フォウこっち来る?」

 

「フォウ!」

 

「了解了解、んじゃあ適当に見て回るか」

 

 こうやって積極的に指示を出せる様になった立香の姿を見ると、前までの情けない姿とは比べ物にはならず感動を覚える。これが息子の成長を感じる親の気持ちなのだろうか―――あぁ、そういえば実年齢的には親子ほどの年齢差が自分と立香、マシュの間にはあった。自分がどうにも保護者面をしてしまうのはそれが原因なのかもしれない。自分自身、既に子供を作るという事に関しては諦めている部分があるから、それがいけないのだろう。

 

 まぁ、それはいい。

 

 とりあえずは、

 

「仕事しますか」

 

「そうそう」

 

「ま、適当にサボってる奴見つけて聞き出せばいいんだ、難しい話じゃねえだろ」

 

 (ブーディカ)(クー・フーリン)を活用すればそこまで難しくはないだろう、と首からぶら下がる愛歌を片手で支えながら思う。

 

 

 

 

「―――とりあえず聞き出して軽く解った事を纏めるよ?」

 

 ブーディカの言葉に適当な木箱を椅子代わりにし、クー・フーリンと横に並んで首を頷かせた。膝の上に座る愛歌を片手で支える様に抱き寄せながらブーディカの言葉に耳を傾ける。

 

「現在のアメリカは東西で分割されている。西側をアメリカとして、東側がケルトの領地となっている。当初考えていた英国(ブリテン)軍の姿は一切なし、現在は完全にアメリカvsケルトの勝負となっている。基本的にアメリカ人は全員西部合衆国の一員として参加していて、機械化兵団をメインとした量産化によってケルト戦士団に対してギリギリ踏みとどまっている。だけどこれには唯一例外があって、それがレジスタンスの存在になっている……感じかな?」

 

「レジスタンスに関してはちょくちょく個人的な感情が混ざっているせいで正確な情報が痛いな」

 

「とはいえ、レジスタンス連中に関して俺らで確実に取れる情報ってのはケルトと敵対していて、西部合衆国とは同調してねぇ、って事だろ? んで合衆国の方はレジスタンスを目の敵にしやがってる―――レジスタンスは明確に敵対してねぇのにな?」

 

 聞いた話。状況はケルトは全てに敵対している、

 

 西部合衆国は全てに敵対している。

 

 レジスタンスはケルトのみを敵としている。

 

 この中での明らかな異端はレジスタンスではなく西()()()()()だ。倒さなくてもいいはずのレジスタンスにまでその矛先を向けているのだから明らかにどこかがおかしい。或いはレジスタンスがそのおかしさの理由を掴んでいる為にこうなっているのかもしれない。ともあれ、その部分は実際にレジスタンスに接触しない限りは解らないだろう。

 

「西部合衆国に関しても直接大統領って奴に接触しねぇ限りは全容が見えてこねぇな」

 

「セイヴァーとしての鑑定眼としてはそこら辺、どう判断しているんだい?」

 

 ブーディカがそう言って話を此方へと向けてくるが、手を横へと振って無理、無理、と言葉を放つ。

 

「流石に俺のサトリもそこまで便利なものじゃねぇよ。最低限接触して観察させてくれないと情報を引っこ抜けねぇわ。基本的に俺が接触した分、兵士連中は本気でトップを信じて戦ってるってのだけは伝わってる」

 

「うーん、やっぱり末端だけじゃ駄目か」

 

「最低限、幹部辺りじゃないとダメっぽいね。それに今回の特異点、本当に規模がアメリカ全土らしいし、これはお姉さんも倒されないように気を付けなきゃいけないかな」

 

 少なくとも会話から特異点の規模は算出出来た。そしてそれによれば特異点はアラスカとハワイを抜いた、このアメリカ全土となっているらしい。となると西部合衆国側から東部ケルト軍の本拠地まで移動する事を考えたら、ライダーによる騎乗宝具の移動援護は割と真面目に必要な事になる。無論、サーヴァントが立香を抱えて移動するのもいいし、俺が仙術の縮地で運ぶのも悪くはない。だが前者は問題として著しく立香の体力を消耗するという事実が、そして後者は人間の為の技術ではなく、仙人等の超越者向けの技術なので立香の無事が保障出来ないという事実がある。

 

 その為、立香に続いてブーディカもまた最優先護衛対象だ。

 

 ブーディカが消えた際、場合によっては詰む可能性すら存在する。

 

「オケアノスも規模としてはかなり大きかったけど―――」

 

「これはそれ以上だな。世界有数の大陸丸一つが戦場だ。今まで以上に移動が増えるし、野営の回数も増えるな」

 

「となるとそちら方面で立香のフォローする必要もあるか……まぁ、大分慣れてきていると思うけど」

 

 最初はキャンプさえまともに出来なかったのになぁ、今では普通に捕まえた鳥を毟るまで出来る様になって来た。あの少年、カルデアに来る前と今ではまるで違う人間になったかのような逞しさを感じる。自分もあの成長には負けていられないなぁ、なんて事を想っていると、怒号と銃声が聞こえ、そしてその直後にホログラムが浮かび上がった。

 

『皆、ケルト戦士の襲撃が発生している! 立香くん達が直接の迎撃に回ったから、キャンプの防衛を頼む!』

 

「了解」

 

『すまないね! じゃあこっちは立香くんのサポートに戻るよ!』

 

 ホログラムが消え、キャンプ地の騒がしさが聞こえてくる。ケルト戦士に対して、ここの人間では圧倒的に戦力が足りていないだろう。誰かが防衛に回らなければ一瞬で押しつぶされる。やれやれ、と呟きながら斧を新しく引きずり出し、それを肩に担いだ。

 

「そんじゃ、ま」

 

「やりますか」

 

「はは、無理をしちゃ駄目だよ?」

 

 ういーっす、と声を零しながらクー・フーリンも槍を担ぎ、軽く柔軟体操をしてからキャンプ地の前に陣取る様に移動する。更に遠く、地平線の先ではケルト戦士を相手に戦闘態勢に入る立香たちの姿が見える。また同時に、霊基を感じさせる気配もある。メイヴの能力が本物であれば、今のアメリカのやり方では最終的に磨り潰されるだけだなぁ、と思い、

 

 ……レジスタンスにはそれが見えてるのか?

 

 そこまで思考した所で考えるのを止める。自分が全ての結論を見出して教えるだけでは一切の成長がない―――自分はヒントに留め、立香の判断に任せよう、

 

 そう決め、武器を構えた。




 戦闘力が低いので戦えないけどいなくなったら詰むという絶妙なポジションのブーディカさん。弱い英霊でもそれぞれ、そこに存在する意味は確かにあるのだ。

 次回、ロリ人妻と自称マイナー英霊。それにしても幼女ボムを貴様ら気に入り過ぎじゃない?

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