Vengeance For Pain   作:てんぞー

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影に鬼は鳴く - 15

 ―――どこかに法則(ルール)が隠れている。

 

 少なくとも、蒸発した状態から命を三十回分消し飛ばされた状態でなお完全な状態に復元できる存在は、もはや冠位級でもビースト級でもありえない。何らかのチートを行っているに違いない。つまりは法則だ。そこに何らかの法則が走っているのだ、というのはこの戦いで既に確信できている事だった。彼女(アーキタイプ:アース)は本体ではない。英霊の霊基として再現された、そのまた触覚の再現だ。つまり二重に弱体化しているのであり、聖杯を奪って一度ブーストしてから手放したとしても、それでも無敵というのはまずありえない。そういう全能の領域にある出来事には()()()()()()()()()()()()()()のだから。故に、ロジックが通らない。

 

 たとえば自分の再生、蘇生遡行。これは明確なロジックが存在する。自分の場合は愛歌と繋がっている事を利用し、お互いの存在を根源を通してX次元的に正しい状態を観測している。その観測を通し、正しくない状態に、つまり欠損や死亡状態に入った場合、正しい状態で現在の時間を上書きする事によって限定的な遡行現象を発生、バックアップされた正しい状態に自らの状態を復帰させる。これは片方、愛歌か自分さえ無事でいればどうにかなる方法だ―――逆に言えば二人とも意識が落ちていれば、詰む。

 

 つまり、理不尽で無敵めいた現象であれ、絶対的なロジックとギミックの下で動いているのだ。私は無敵だから無敵である―――なんて理不尽は少なくとも、この世界には存在しない。どんな存在であれ、急所は存在するのだ。そしてそれはあの姫であろうとも、同じだ。彼女もまた、絶対的なロジックの中で動いているに違いない。故にそのルールを見出せば勝機が―――見えなくも、この戦いに終わりを与える事は出来る。

 

「見に回る……しかないか?」

 

「成程、覚者の知覚で法則を悟ろうという魂胆ね? となると私が前に出る必要があるわね。とはいえ、この理不尽をどうにか出来ない限り私達に未来がないのも同然―――本当はこれ、あの子の霊基を便乗させて貰ってる形だから余り手を出しすぎるのは嫌だったのだけれど、そんな我儘を言っていられる状態でもないわね」

 

 そう発言した直後、式の髪が長く伸びた―――流石に衣装まで変える余裕はないが、それだけでも十分、霊基の変換は完了した。

 

これで準備完了ね(根源接続者:無限覚醒)

 

 無限覚醒―――つまりアニメや漫画で発生するような覚醒状態を()()()()()()()()()()()()()だ。その代償は凄まじいものがあるが、その代わりに常に自身を覚醒状態へと追い込み、維持し、鬼神の如き限界を超えた力を発揮し続ける―――先を考えない戦い方でもある。とはいえ、この場で相手の追いすがる為には必須とも言える事でもあった。使いたくない手段なだけに、やや歯がゆいが、

 

「―――任せて。ここで終わらせるべき旅路でもないし、ね?」

 

「あぁ、信用してるさ」

 

 正面に切り込んだ式を補佐する為に、武器を弓へと持ち変える。《根源接続者》で根源の海から魔力を供給し、《修羅の刃》で戦闘用術式を複数構築、融合、統一、無詠唱改造を完了させ、次元を一段階引き上げながら、《救世主》、或いは覚者の能力でサトリを行い、式の動き、その流れを完全に把握する。弓を軽くヌンチャクの様に体の周りに通す様に振るい、躍らせ、祈祷運動を終わらせ、それを概念的に刻印し、術式保存と複製を行い、過程消去を完了させる。アーキタイプ:アース、つまりは地球の意思を完全に読み取るのは流石に生物としてのチャンネルが違う為、少しだけ時間を必要とする為、サトリを平行して行いつつ、梵天よ、死に狂え(ブラフマーストラ・パラシュ)を真っ二つに割って前に進み出てくるアーキタイプを、式の背後から見据えた。

 

「なみよ……!」

 

 言葉と共に式の雲曜の動きよりも早く、大地を覆う数百メートル規模の波が発生した。正面から襲い掛かってくるそれを縦一文字に刀を振るい、式が殺すのと同時に、その背後に一瞬でアーキタイプが出現し、片腕を持ち上げていた。一撃で殺す為の動きに割り込む様に、既に矢は放たれていた後だった。爪弾きを交えた先行射撃、サトリの二矢は式へと回り込むのと同時にアーキタイプの()()()()()()()()()矢だった。

 

 黒く、焦げ付いたかのように輝く矢―――、

 

「―――雷崩(フェイク・ヴァジュラ)

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が頭上からアーキタイプの腕を蒸発させ、回避しようとして動いたアーキタイプの位置へと落ちた。それをアーキタイプは即座に再生した拳の裏で殴り壊した。その存在強度が増している、と悟りながら素早く矢を先行して射る。その全ては計算づくであり、そして式の動きを支援する様(エンカレッジ)に動く。上と並列して同時に放つ水平の射撃は細胞そのものを崩壊させる疑似・神格再現の雷崩、それがアーキタイプの動きの出だしを妨害する様に乱射される。

 

 その動きに入り込み、刀が軌跡を描く。

 

 誘いこむ様に誘導されたアーキタイプの口を割いてから命を絶ち、蘇る合間に数度、死をその体に刻みながら式が滑るように跳躍した。直後、蹴りが発生し、五十メートル範囲をその動作だけで薙ぎ払いながら再生し、指先から閃光が放たれた。既に放たれた矢がそれに割り込む様にぶつかり、式とアーキタイプの途中で炸裂した。

 

 ―――アーキタイプの視線が此方へと向けられた。

 

迂闊よ(≪雲曜:無拍子:潜行≫)

 

「ならば対応しよう」

 

 知覚外から接近した式の動きを本能的に察知したアーキタイプが式の刀を回避し、踏んだ足で足場を砕きながら、崩壊させながら刀を破壊しようと手を振るった。その手首に矢が衝突し、()()()()()()()()()()()()()()も、その瞬間には刀を反らし、その柄尻をアーキタイプの顎へと向けて叩き込んでいた。

 

 ぐきぃ、という破砕音と共に首が曲げられ、骨が折れていた。

 

 そして次の瞬間には体が解体される。だがそれも刹那の出来事、今まで以上の速度でアーキタイプが蘇り、死からの反撃を繰り出してくる。それを切り払った―――アーキタイプの体が切れていない。今の蘇生でついに死線か奥義級でもなければ攻撃が通らないレベルにまで強度が上昇したらしい。言葉を止めようと刀が振るわれるがしかし、それに反応してアーキタイプが僅かに下がり、振り抜いた瞬間に接近する。雷崩が空を阻む様に頭上から間に突き刺さる様に落ち、それで一瞬動きを止める事もなく、体を焼かれ、分解されながら指を弾いた。

 

 刀と指先が触れ合う。凄まじい衝撃と火花が舞い、同時に波が発生した。多重に波紋の様に広がる衝撃波が世界そのものに広がる様に周囲を蹂躙して行き、一瞬で自分と式を呑み込み、全身の骨を砕きながら押し飛ばす。式と共に、分断され、吹き飛ばされ、笑い声の中、全身に痛みを感じながら折れた弓を手放しつつ、

 

 ―――顔を持ち上げた(≪救世主:サトリ≫)

 

貴様の終わりを悟った(≪根源接続者:無限覚醒≫)―――」

 

 言葉と共にアーキタイプが嬉しそうな表情を浮かべ、踏み込んできた。此方を超える速度、強度、筋力、魔力、運気、性能、天運、全てにおいて此方を上回っている、まさに上位存在。おそらく死の概念すらこの存在には無意味だろう―――なにせ、地球という存在そのものなのだから。いや、否、だからこそ、こいつはここで()()()

 

 髪ひもが切れ落ちて、ふわり、と血に濡れた髪が血色のまだら模様に染まったまま広がった。奥歯をかみ砕きながら力を入れ、斧を一本引き抜いた。チャクラの活性化、マントラの無詠唱化、根源による供給を全て終えた瞬間にはアーキタイプの姿が目の前にある。殺しの動きを前に、サトリで彼女の意識の間隔を理解し、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 花びらが舞い上がり、空から雪の様に降り注いでくる。その中で、顔面を掴んでいた手を首まで落とし、大地へと固定する様に彼女を押さえつけながら、斧を振り上げた。

 

「―――次は戦いなんて疲れる事じゃなく、デートにでも誘ってくれ」

 

「勝ったつも―――」

 

 

 言葉を追える事もなく、斧を振り下ろした。対国級ブラフマーストラ、梵天よ、死に狂え(ブラフマーストラ・パラシュ)。未だに武器の関係で未完成と言えるそれは武器を蒸発させながらアーキタイプを貫通し、彼女を拘束、デバフする聖杯の泥をばしゃばしゃと跳ね上げ、泥の雨を生み出しながらその下にある大地を、半径数キロメートル内を一気に砕いた。その反動として腕が骨に達するレベルまで融解するが、即座に無限覚醒と相互観測による状態遡行による回帰で回復し、新しく斧を握り、

 

 二度目、振り下ろした。激痛は感じるが、想像を絶するそれは最早脳が感じる事を否定する領域にあり、振るった腕が融解しようが痛みを感じる事はなく、アーキタイプの形を崩さないようにその体を貫通しながらその背後にある大地に大地殺しの奥義が炸裂、千年城の湖畔が大地を伝わる対国の破壊規模に吹き飛び、大地が亀裂を生みながら崩壊し始める。根源接続を通した無限の供給を通して神経を焼き切りながら即座に遡行した。新たな斧を握った。

 

 三度目、振り下ろした。体を貫通した時ではなく、その攻撃が彼女を抜けて()()()()()()()()()()アーキタイプの体が反応する様に跳ねあがった。そう、所詮ヒトガタなんて()()()()()()()のだ。彼女の本質は大地。地球。星という存在そのもの。つまりは()()()()()()()なのだ。

 

 今の彼女の霊基で言えば権能か宝具―――指定された領地が存在する限りは、という法則なのだろう。

 

 なら話は簡単だ。

 

 世界(だいち)を消し飛ばせばいい。

 

「―――七つ」

 

 梵天よ、死に狂え(ブラフマーストラ・パラシュ)が振り下ろされた。著しい消耗と遡行による人知を超えた激痛を忘却の彼方へと押し出しながら振り下ろした。アーキタイプが反撃に体を引き裂いてくるが、それを無視して大地に押し付けるのを維持したまま、斧を振り下ろした。腕が胸を貫通するが、そのダメージを無視しながら新しい斧で振り下ろした。押し倒すのに使っている腕を握りつぶされ、体を外に蹴り飛ばされそうになる―――だがその前に縫い付ける刀が動きを止め、斧を振り下ろした。

 

 何度も、何度も、何度も、命を燃焼させながら斧を全力で振り下ろし、大地へと貫通させた。

 

 国殺しの奥義。それはつまり星に対する毒。放てば放つだけ強まっていたアーキタイプの力が抜けて行き、その反則染みたルールが汚染され、侵略され、凌辱されるように弱まって行く。そう、凌辱だ。この宝石の様な女を殺す様に凌辱している―――自分よりも遥かに強い強者を。

 

 ―――まぁ、趣味としては悪くないかもしれない。

 

 そんな事を考え、音と相手からの反撃を全て無視しながら無心で斧を召喚し、振り下ろした。大地は死に逝く。一つの都市の規模を持った領地、特異点、それは斧が振り下ろされるたびに大地が消し飛び、バラバラになりながら崩壊が進み、余す事無く地獄へと叩き込まれて行く。

 

 大地が死に、空が死に、草花が死に―――そして、やがて、攻撃の度にビクビクと反応を見せていたアーキタイプも動きを完全に停止させていた。

 

 それでも斧を振り下ろすのを止めない。

 

 その姿が、原形が消え去るまで首を抑え、片手で斧を掴んだまま、執拗に振り下ろす。何度も、何度も何度も、特異点の大地をもはや完全に消し去る様な勢いで何度も振り下ろし、

 

 ―――ふと、自分が押し倒し掴んでいた感触が完全に喪失した感触を感じ取り、漸く、完全に消し去った事を正気に戻って理解した。

 

 もはや大地は死に耐え、粉微塵となった大地は荒野砂漠の様に完全に荒れ果て、美しかった領地の姿も、元の現代の街の姿もなく、完全に鋼の大地が出来上がっていた。

 

 これが地球を殺す未来の光景だった。

 

 全ての力を抜いて、呆然と斧を振り下ろした後の格好で動きを停止させ、血反吐と息を口から吐き出しながら空を見上げた。

 

 巨大でどこよりも近い月が柔らかな月光と共に崩壊した大地を照らしていた。

 

「あ゛―――……」

 

 言葉ではなく音を喉の奥から吐き出しながら、動くこともなく多重に発生していた強化を解除し、その反動でまた新たに血反吐が喉を湧き上がってくる。鼻血と血涙が同時に溢れだし、吐血もする。おそらく式の方も同じような惨状だから彼女の方へと視線は向けず、血反吐を吐き捨てながら口を開いた。

 

「……俺、ゼルレッチ尊敬するわ」

 

「そうね、今度アドバイスでも伺っておきましょう……」

 

 あぁ、それが一番だろう。世界の狭間でどうせ此方を見守っているのだろうし。というかじゃなければカレイドスコープなんて概念礼装がピンポイントでカルデアに来るはずもないし。ともあれ、今は、

 

 後ろ向きに倒れた。

 

「休む……」

 

 倒れる音が聞こえた。

 

「流石に、もう動けないわね……」

 

 もう二度とアーキタイプとは戦わない。そう心に誓いながら、ゆっくりと目を閉じた。これが終わったら違う天体に移住したい、と思いながら、下手な特異点よりも極悪だった横道は今、ここに終わりを得た。




 タイプアース(超弱体化)撃沈。決め手はマウント。先輩最低です。

 こにてオガワハイムは(物理的に)終了。次回は復活のガチャ丸とバレンタインを短く数話でまとめて、アメリカに入る予定。ついに始まる、FGOインフレ神話。

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