Vengeance For Pain   作:てんぞー

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序章 - 5

 推定ライダーは飛行している。

 

 一番近くのビルの屋上から約二十メートルほど上空の位置に存在する。警戒するように周囲へと視線を向けているが、そのメインは捜索という点にある。隠れている存在を探すというよりは迎撃の体制を整えている、という形に近い。となると、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だろう。或いは()()()()()()()()()かもしれない。そう考えた場合、やはり感知される前に一瞬で殺すのが最良の手だと判断できる―――或いは罠にハメて殺すとも。だが自分にそれだけの道具と準備があるかと言われればノーだ、やはり速攻で始末するのが一番いいだろう。

 

 つまりは見つからずに接近し、そして一撃で葬るというスタイルだ。

 

『可能なのかしら、それって?』

 

「まぁ……普通に考えたら無理だろうな」

 

 普通は、という言葉がつく。空に浮かび上がり警戒するライダーを見れば、その姿は真っ黒に染まっている。まるで影の様な姿をしている―――自分の知識の中にあるサーヴァントという存在程、濃い密度でその姿を形成しているようにはどうにも思えないのだ。つまりは、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。それこそ今、冷静に戦えばどうにかなるだろう、と思える程度にしか脅威を感じない。だからたぶん、あのサーヴァントは普通じゃない―――付け入ることは十分可能だと判断する。

 

『ふーん……』

 

 足元の声を無視し、さっさとあのサーヴァントの排除を考える。自分ひとりのことであれば別に、排除を考えなくてもいいのだ。だがアレがまだ未熟な二人とエンカウントした場合を考えると、先んじて排除しておかないとまず危ないだろうと思う。

 

 ―――何故、生きてここにあの二人が来ているということに自分は疑問に思わないのだろうか。

 

 いや、信じているのだろう。レイシフト前に見たあの姿に、絶対奇跡は微笑むはずだろう、と。不思議な気分だ。自分が誰かのことを考えて行動しようとしているのは。やはりこの胸に燻る憎悪を再び抱き始めたことが自分に人間性を取り戻しつつあるのかもしれない。そう思うとさらにやる気が湧いてくる。あぁ、そうだ、復讐だ。復讐を成さなくてはならないのだ。弔いの鐘を鳴らすのだ。

 

「―――気配遮断して暗殺するのが一番か」

 

 誘いこんで一気にしとめる、というのはソロではやりづらい戦術だ。ああいうのはバックアップがいるか、その道のプロフェッショナルがやれる事だ。自分はいわば()()()のような存在だ。さまざまな動作的技術を脳と体に詰め込められ、どんな状況でもどんな手段をもとれるように設定され、設計されている。その中でも英霊を殺す事に特化している。だから殺すだけならまず間違いなく問題はない。一撃で始末をつける自信はある。だがどうやって上空20メートルまで接近するか、という方法だ。

 

 一番身近な足場は真下のビルだろう。その屋上から跳躍して接近するのが一番早く、そして近い。

 

「……となると軽く注意をそらした瞬間に仕留めるのが一番か」

 

『直感系統のスキル持たれていたら失敗しそうね』

 

 そこがネックだ―――その場合はそのまま近接戦闘に持ち込むしかない。相手の数が不明瞭で此方よりも圧倒的に多いというこの状況でそもそも手段を選ぶことはあまり出来ないのだから、さっさと終わらせたほうがいいのだろう。そう判断したら即座に行動を開始する。シェイプシフターを爆弾に変形させ、隠れているこの部屋に設置する。シェイプシフターのリソースが少量余るので、余ったそれを短刀へと変形させ、袖口に仕込む。あまり大きなものや質量の多いものへと変形させるには大きな魔力を消費する。

 

 現在、冬木の大気中にはカルデアでは考えられない程の魔力が漂っている。

 

 それでも注ぎ込めばあっさりとバレるだろう、魔力の動きから。ゆえに消費は最低限に抑える。そうやって準備を整えたら最後にライダーの位置を確認する。影の中からがんばれー、と気の抜けた声を送ってくる妖精を無視しながら、≪気配遮断≫を維持したまま、そのまま一気にビルの中を音を殺して駆けて行く。

 

 窓から飛び出す。そのまま即座に反対側のビルの窓へと着地し、その中を駆け抜けてビルからビルへと、内部を滑るように跳躍して素早く移動して行く。音を、気配を完全に殺し、魔力も最低限の状態まで抑え込むことで気取られる可能性を極限まで落とし、ライダーの下にあるビルの屋上へと一気に跳躍した。

 

 ―――ここで一気に(≪虚ろの英知:縮地≫)

 

 瞬間的にインストールされた技術の中で、一番使いやすく、そして利用できる物を引きずりだす。発動した瞬間、肉体が弾丸のように真っ直ぐ射出される。一瞬で二十メートルという距離を詰める。直後、部屋に置いてきた変形された爆弾が起動する。爆発音とともに隠れるのに使っていた部屋が吹き飛び、すべての意識、視線、そして注目がそちらへと向かった。それに合わせるようにライダーの視線も其方へと向けられ、

 

 無防備な背後を取った(≪虚ろの英知:心眼(歪)≫)

 

「―――っぁ……!」

 

 袖口に仕込んだ短刀を居合抜きの要領で袖を鞘代わりにして加速して放った。首を撥ね飛ばす動きで放たれた袈裟切りは寸前でライダーが首を反らし、引いたことで断ち切るには至らず、半ば食い込む。そこで筋肉が凄まじい力で刃を振り切ることを抑え込んで止める。

 

「貴様ハ―――」

 

 ライダーがマスク越しに視線を向けてくる。こちらへと視線を向けているのが解っている。相手が動き出す。この状況で動き出されたその後に即死するのは解っている。だから、

 

 短刀の切っ先をエーテライトへと変形させた。首に食い込んだまま、それが首をゆるく巻き付くような形で変形し、無色、透明な状態で変形を完了させる。それと同時に瞬間的に加速した天馬が離脱を試み、ライダーが首の違和感に気づく。だが天馬はすでに加速を始めていた。ゆえに自分がやる事は重量を握っている短刀の柄に乗せることだけであり、

 

「―――サーヴ―――」

 

『首を撥ねておしまい!』

 

 加速した天馬の動きがエーテライトを締め上げて、そのままライダーの首をあっさりと切断した。そこには血の姿はなく、霧散する魔力が血液の代わりにライダーの死を証明していた。ライダーの目は解らないが、その口は何かを喋ろうと、しかし驚いたような表情で停止していた。

 

「残念だったな、俺は貴様らの天敵だ(≪英霊殺し≫)

 

 首を切断された事でライダーが言葉を放つ事はなかった。故に魔力へと散るその頭を無視して落下し、ビルに受け身をとりながら着地する。体中の神経が燃え上がるような痛みを訴える。それを軽く無視しながらシェイプシフターを手元へと召喚魔術で呼び戻し、腕輪の状態へと戻してから素早く、既に見出しているルートを通るために移動を再開する。さすがに攻撃をした瞬間に気配の遮断が途切れてしまった為、一気に白骨達が押し寄せてくるのが見える。

 

 だがその動きは速くはない―――人間相手であれば脅威だろうが、サーヴァント級のスペックがあればフリーランやパルクールによって十分撒く事の出来る速度だ。第一、ライダーを討伐すればこうなるのは見えていたため、遠慮なく逃亡を開始する。ビルの屋上から飛び降りるように壁を蹴り、その正面にあるビルの壁面に着地、シェイプシフターを大戦斧へと変形させ、それをアンカー代わりに壁に突き刺して安定させながらビルからビルへと移動し、

 

 鉄橋の方へと逃亡する。

 

 白骨達を置き去りにする頃には神経に走る熱のような痛みは引いていた。

 

『英霊を殺す概念を英霊モドキに詰め込もうとするんだからほんと、マリスビリーはキチガイか考えなしのアホよね。使えば自壊して行くのは自明の理なのに』

 

「おそらくは使い捨ての兵士に積み込む腹積もりか、或いは純正の人間に与える事を目的としていたのかもな」

 

『考えれば考えるほど外道で悪人で救いようがないわね、アイツ』

 

 欠片も救われてほしくないのだから、それでいいと思う。手を出せない以上、バッシングを受けて地獄で苦しんでいてくれ。

 

 

 

 

 無理、無茶、無謀は若人の特権である―――果たして自分は若人と言い張っていい年齢なのだろうか、それはまだ思い出せない。

 

「見えてきたが……辛いな」

 

『無理をしちゃったからしょうがないわよ』

 

 鉄橋の端まで到達する事はできた。だが白骨から逃れる為、ライダーを暗殺してからはノンストップで逃亡してきた事で治療途中だった貫通痕が再び開いた。気づけばローブが割と血で濡れている状態になっていた。それだけではなく、≪英霊殺し≫の影響か、かかっていた筈の治療魔術の効果も薄れていた。逃亡途中に気が付いてかけ直したが、それでも消耗のほうが遥かに大きかった。持ち込みの増血剤と体力回復薬を飲む事でそのダメージを無視し、漸く到着する事が出来た。

 

「流石に、そろそろ合流しないとやばいな」

 

 休みをどこかで差し込まないと、さすがに体のほうが壊れるな、という確信があった。そもそも何が起きるか解らないこの状況だ、万全の状況に体を備えないと何時、何処で即死するか解らないものだ。だから半ば、祈るような気持ちで誰かと合流か、或いは見つけられる事を祈った。少なくとも冬木の東側には誰もいないから、西側にいる事を祈る。

 

『ふふ、その祈りが通じるといいわね?』

 

 鉄橋の上を、味方を求めて歩き始める。視線を正面へと向けながら気配を求めて警戒していれば、鉄橋の先に、白骨たちとは違う、明確に生きた人間の気配を感じ取れた。少しだけ歩くペースを上げて急げば、鉄橋を超えた向こう側に複数人に集団が見えた。一人は藤丸立香、もう一人はマシュ・キリエライト、それに知らない人物が一人―――そしてオルガマリー・アニムスフィアの姿が見えた。

 

『おめでとう、お気に入りの子達は無事だったみたいね……まぁ、あの運命力の高さからして見なくてもどうにかなるってのは解ってたんだけど』

 

 後者二人に関しては何でここにいるか、誰であるのかは解らないが、自分よりも立香とマシュの姿が無事そうで一先ず胸を撫で下ろした。上げていたペースを一気に落とし、軽くクールダウンしつつ、歩いて鉄橋の端へと到達する。そのまま、そこから集まっている四人の集団に接近する。杖を持った見知らぬ男以外の三人は、素直にこちらの存在を喜ぶように笑みを浮かべていた。

 

「アヴェンジャー! 貴方無事だったのね」

 

 オルガマリーの嬉しそうな言葉にコクリ、と頷きを返せば正面、半透明のホロ映像が出現する。そこに映し出されるのはロマニの姿だった。どうやら彼も無事ではあるが、どこか疲れているような表情を浮かべている。

 

『アヴェンジャーの霊基と存在の観測を確定……完了! 良し、これでカルデアからもアヴェンジャーのバイタルをチェック……っておいおい、酷い怪我をしているじゃないか!』

 

 嬉しそうだったり、驚いたりで酷く忙しそうな男だよなぁ、ロマニは。そう思いながら胸に開いている穴を示す。治療の結果、見た目だけは塞がっているように見えるが、濃密な血の匂いとその色が決して無事ではないことを証明している。

 

「コフィンに入っている時、爆発寸前に杭を叩き込まれた。あと少し横にズレていれば心臓を貫通してた。一応、魔術で応急処置はしてあるが―――死ぬほど痛いぞ」

 

 場を和ませる為に説明ついでに冗談を放ったが、杖の男以外には不評だったらしい。杖の男はニヤリ、と笑みを浮かべたがオルガマリーは顔を青くし、若人コンビは狼狽えていた。その間にも杖の男が前へと出てくる。

 

「テメェ、サーヴァントとしては妙な気配をしてやがるが……まぁ、坊主と嬢ちゃんの味方らしいし後に置いておくか。臓器の方はどうだ? 無事か?」

 

「そっちは無事だ」

 

「ってぇ事は純粋に綺麗に突き刺さった、ってだけか。まぁ、ほっとけば致命傷だな。……これでどうだ」

 

 そう言った杖の男は空中に杖で文字を刻み、それで力を発現させていた。自分が持つインストールされた知識によって再現する魔術とは比べものにならない、神話の時代の神秘を感じさせる魔術であった。そうやって刻まれた魔術は即座に力を表し、癒しの力を傷口に染み込ませて行く。自分がやるよりも遥かに効率的に傷が塞がって行くのを感じる。これで急場は凌げただろう。

 

「すまん、助かった」

 

「気にするな。これからやりあう相手を考えたら一人でも動ける奴がいた方がいいだろ……それはそれとして、塞がるまでは戦わないほうが賢いだろうな」

 

 杖の男の言葉に頷く。とりあえず、これでなんとか急場は凌げた。




https://www.evernote.com/shard/s702/sh/dc60a95d-4e6a-4193-8d7a-b77848b7b88e/e749744d9e9e121ed5d3f7e40e1c9661

 スキル追加ってことで。性能で言えばたぶんステータスクソのスキルが本体のタイプじゃねぇかなぁ、と思いつつスキルあげに心臓と涙石を求めてくるスタイル。さあ、イベントに期待しよう―――素材を。

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