『気をつけてくれ立香君。アーチャーのお陰で霊基は通常サーヴァントの物に戻ったが、それでもキャスターの聖杯は健在だ』
「分かってる!」
先程激突があった場所から数歩下がり、通信に耳を傾ける。
というか、さっきからダ・ヴィンチちゃんしか喋ってないけれどマシュは大丈夫なのだろうか?
『はい、大丈夫です先輩。ですが、さっきのキャスターさんの言葉に少し思うところがあって…』
「それじゃあ、オレが帰ったら一緒に考えようかマシュ」
『はい!』
『2人とも、キリノ夫妻に影響されすぎじゃないかい…?
いや、それよりもだ。立香君は、戦闘の真っ最中だよね!?』
一度吹っ切れてしまえば後は楽(羞恥心的な意味で)と、イオリとロイドを見ていて学んだのだ。だったら実践してこそ学習だろう。
それに話しながらでも、戦闘からは片時も目を離してなんていない。
「ほらどうした。イオリならこれくらい、鼻歌交じりで避けてたぞ? それとも……本当に遊んで欲しいのか?」
「そんな訳、あるかッ!!」
ワープじみた高速移動でロイドがキャスター…愛鈴に攻撃し、その動きに追いつけないキャスターが無茶苦茶に大鎌を振り回す。けれどそれはロイドに掠りもせず、ロイドの攻撃も何かに阻まれて有効打にならない。
「大鎌の振りが甘い。刃筋が立ってない。重心がズレている。これじゃあ本当に遊びになるぞ?」
「邪魔するなぁぁっ!!」
完全にブチキレている愛鈴が魔術を乱射する。雷が、火炎が、爆発が、カマイタチが、氷の槍が、水の瀑布が、毒々しい煙が、レーザーが、全方位に乱射される。
「ほら、制御が甘いぞ。
「くぅ…」
そしてその全てが、ギュガッという異音と共に消え去った。そして、右腕の義手から薬莢が排出される。あの義手、浪漫がこれでもかと詰め込まれている気がして、すごく…良いと思います。
「うぅ……こうなったら。パパ臭い! 近寄らないで!!」
「がはっ…」
ロイドが血を吐いて距離を取る。それを見て愛鈴が満足そうな顔をし、魔術の狙いを定める。そして放たれた大魔術を、ロイドが殴りつけて粉砕した。
シリアスとコメディが同居した、奇妙な戦闘がここに繰り広げられていた。
「実の娘にも言われた事がない言葉、流石に効いたぞ…」
「突破口はそこか! 洗濯物、パパと一緒に洗わないで!」
「洗濯だけは俺は手出ししてなかったからな、その文句は効かないぞ。イオリに直接言え!」
よくある父親への悪口と共に放たれた魔術が、意外な反論と共にかき消された。それによって大鎌を構え突進していた愛鈴は無防備になり、ロイドの一閃によって大きく体勢を崩す事になった。
「ああもう!」
苛立ちを露わにして、そのまま愛鈴は空中へと移動した。そしてそのまま、空を覆う程の魔法陣が展開され…
「ガンド!」
「きゃっ」
オレが放った北欧に伝わるルーン魔術が、愛鈴の行動を一瞬だけ硬直させた。あんなに動き回られたらどうしようもないが、空中で止まってくれるならオレでも当てられる。
そしてその一瞬は、サーヴァントにとっては途轍もないチャンスとなる。
「なあ、知ってたか愛鈴? セイバーっていうクラスはな、基本ビームを撃つものらしいぞ?」
「ふぁっ!?」
そんな事を言いつつ、ロイドは双剣を合体させて愛鈴に向け……そこから、一直線に青白い光線が放たれた。光線は硬直していた愛鈴に直撃し、その場所から凍結が始まった。そして、それの解除を優先したのか空を覆っていた魔法陣が消え去った。
うん、紛れもなくセイバーの仕業だね。
『いやいや、普通のセイバーはビームなんて撃たないからね!?』
『えっ、ビームを撃つのが普通なんじゃないんですか?』
『そうだった…円卓の騎士は、大体ビームを撃つんだった…』
後はほら、ジークフリートとか武蔵ちゃんとかも。
そんな事話している間に、合体して槍のようになっている剣を持ったまま、ロイドが魔力を高めて言った。
「それに、そもそも
またも、ロイドの姿が掻き消えた。
一瞬の後、現れた場所は回復魔術を使う愛鈴の背後。背中の金属翼からは光の刃が展開されており、どこまでも本気なんだと察する事が出来る。
「なっ!?」
魔力放出を伴い突き出された槍が、魔術の障壁を軽く突き破り棺桶へと突き刺さった。
「マズっ、パージ!」
「ちゃんとイオリの記憶は、引き継いでるみたいだなっ!」
愛鈴が棺桶を慌ててパージし、次の瞬間鎖で繋がれた7つの棺桶は翡翠色の結晶に覆い尽くされ砕け散った。双剣で、合体して、ビームが撃てて、謎の結晶爆散もできる。もうなんだかわからない。
「こうなったら!
「
距離を取るためか敢えて落下する愛鈴から放たれた透明の波動が、ロイドから放たれた薄緑の波動とぶつかり消え去った。そのよくわからない光景を見て、ダ・ヴィンチちゃんが絶叫する。
『固有結界の発動を固有結界で相殺だって!? まるで意味がわからないよ!』
「覇道の共存は出来ないとか、確かそんな事を言ってたな!」
「それでも普通、こんな事できないよ!!」
槍から戻った双剣とヒビ割れた大鎌が衝突する。先程までの様に何かが砕ける異音は鳴らないし、激突の瞬間しか目で追えないけれど、そのどちらもが全力とハッキリ分かった。
「というか、なんでそもそも拮抗出来るのさ! 幾らイオリに魔力を分けて貰ってても、聖杯があるこっちとは出力が違いすぎる筈なのに!」
「分かりきった事だろ? 俺はイオリの夫だ。ティアさんと比べると怪しいが、誰よりもイオリと一緒に過ごした人間で、誰よりもイオリと戦った人間だ」
弾幕の様に放たれる愛鈴の魔術を薄緑の風で逸らしながら、鍔迫り合うロイドは続ける。
「模擬戦で、夫婦喧嘩で、欲求不満で、新作の装備の実験で、何か気分が乗ったからって理由で、とりあえずって理由で。細かい事をあげるとキリがないくらい俺はイオリと戦っている。
だから、イオリの力を受け継いだって言うなら、あの焔の力みたいな馬鹿みたいな力がなければ、動きも癖もまるっとお見通しだ! 全盛期じゃないのなら尚のこと!」
ロイドが双剣を払い、鍔迫り合いが終了した。
なんと言うか、思ったより殺伐とした家庭環境に何も言うことが出来ない。いや、ある意味想像通りではあるのだが。
「えっと、その、ごめんパパ。義理の娘風情が踏み込んで良い領域じゃなかった」
戦闘中だというのに、あの愛鈴ですらなにか躊躇してしまっている。緊迫感が、一瞬だけ緩む。
「気にするな。俺もイオリも幸せだったし、この場で口を出していいのはお前しかいない」
「そっか、それなら良かった。
じゃあ死んじゃえ」
笑顔のまま、大鎌が振り抜かれた。緊迫感は、微塵も緩んでいなかったらしい。
そこは明らかに間合いの外にある筈で…しかし、その刃は確かにロイドに届いていた。大鎌の刃の部分に透明な揺らぎが発生し、巨大な刃の部分のみがロイドに到達していた。
「だから、全部分かってるって言ったろ?」
「わっ、ちょっ、離して!」
けれど、その刃は右腕一本で止められていた。寧ろガッチリと掴まれて固定されていた。両腕で必死に奪い返そうとしている愛鈴がいい証拠だ。
「それと、この大鎌はお前の魂とリンクしている。それ故に絶対的な威力を誇っているが、同時に最大の弱点でもある」
「だから、離せ!」
より一層力を込めて動かそうとする愛鈴を見ながら、笑みを浮かべてロイドは語り続ける。そして、その腕から6個の薬莢が排出された。
「自由を!」
その言葉をトリガーに、大鎌の刃を掴む義手に赤い線が走った。そして、どんな原理なのか想像もつかないけれど大鎌が砕け散った。そしてその砕けた破片も、落下する最中に風に溶けて消えていく。
「あっ、かはっ」
それが原因か、地面に膝をつき愛鈴が盛大に血を吐いた。その吐血は沖田さんの様なものではなく、何かしらの大きな怪我によるものだというのは明らかだった。
「さて、これでようやく対等だ。遊びは終わり、最終幕といこうじゃないか」
それを見て、ロイドがそう宣言する。
終わりの時間は、確実に、一歩一歩近づいてきていた。
術 Lv90
銀城 愛鈴
➖➖➖➖➖ (107,329/107,329)
◇◇ Brake!
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