なんとなくFate   作:銀鈴

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日輪の城の交換は終わった。後は素材を回収するのみ…
え、ガチャ?直流とエレナが来ました。新撰組に付いたのに、副長は来てくれなかったよ…


第13節

 剣が舞う。

 火花が踊る。

 鋼の大合奏が空気を揺らし、魔術の光が世界を彩っている。

 砕ける武具の欠片は焔を反射し煌めいて、即座に溶けて消滅した。

 

偽造呼出(コール)ーー」

真名開放(コール)ーー」

「「ロッズ・フロム・ゴォォォッドッ!!」」

 

 同じ宝具。同じ出力。別側面だけど同じ英霊。

 限りなく同等の条件で放たれた一撃が、私と愛鈴の丁度中央で衝突した。アーチャーとして力任せの魔術で落とされた神の杖と、魔術で下から打ち出された神の杖の激突は、頭のおかしい衝撃を発生させて私達を吹き飛ばす。

 

「ーーッ!!」

「きゃあっ!!」

 

 回転する視界と全身を苛む激痛の中、こちらを真っ直ぐと射抜く愛鈴の目が見えた。ああそうだよね、私ならこんな弾かれただけで終わる事なんてしないもんね!

 

「真名開帳ーー集積宝具(アキュムレイト・ファンタズム)栄光に至れ煌炎の剣(カレトヴルッフ)】ッ!!」

真名開放(コール)ーー【自由の女神砲】ッ!!」

 

 そして、お互いの持つ門が大きく開かれ、双方から巨大な閃光が放たれた。そしてまたも爆発を起こし対消滅。

 

「ああもう! 私と戦うのがこんなに面倒なんて知らなかったよコンチクショウ!」

 

 空中で、宝具の力を借りてどうにか体勢を整えた。莫大な魔力の爆発で起きた煙は未だ晴れず……背筋に、悪寒を感じた。

 自分の行動だから、何をやったのかは即座に分かった。この感覚は間違いなく転移。それもおそらく《攻性転移(アサルトジャンプ)》。だけどあの魔術は、転移完了まで一瞬のタイムラグがある。

 

「既知の相手には、それは悪手だよ愛鈴!」

 

 転移の予兆がある空間に、残る5本中4本の絶滅光(ガンマレイ)を纏った軍刀を投げつける。そして残る1本の軍刀を両手で構え、いつでも真名開放が出来るように魔力を込めつつ衝撃に備える。

 

「《攻性転移(アサルトジャン)ーーッ!?」

 

 術名を言い切る事も出来ず、転移直後の愛鈴は私の宝具に襲われた。転移直後は隙だらけだからね、対応出来なくても分かるとも!

 

「ーーまだだァッ!」

 

 そんな私の予想を、愛鈴は想像通り覆した。

 諦めてなるものかという一声と共に、太陽の焔の乗った衝撃波が吹き荒れた。それによって2本の軍刀は溶解し、残り2本は愛鈴の双刀によって弾かれた。

 

「それくらい、知っている!」

 

 けど、その程度で驚いてちゃ何も始まらない。ジャンル違いの神星を取り込んでるんだから、ここまでは全部が予想通りだ。

 

真名開放(コール)ーー

天霆の轟く地平に、闇はなく(G a m m a・r a y K e r a u n o s)】!」

 

 この特異点にきてから、幾たびも繰り返した真名開放。かつて鋼の英雄に憧れて作った、

放射能分裂光(ガンマレイ)に非常に酷似した破滅の爆光を、自分以外に影響が出ない程収束させる軍刀。その最後の一刀を、力任せに振り切れた(ランク : EX)魔力放出で加速しながら愛鈴に振り下ろした。

 

「う、そっ…!!」

 

 衝突。

 恒星の双刀、粉砕。

 魔術結界、貫通。

 焔の魔力防御、両断。

 私が作った巫女服、破壊。

 

「届い、た!」

 

 そして、私の全力全壊の一刀は、愛鈴の心臓(霊核)を間違えようもなく貫通した。

 けれど、この程度で勝負が終わることがあるだろうか? その答えは否である。どうしてかは知らないけど、あんな光の英雄(バケモノ)を取り込んだ愛鈴がこれで終わる事なんて、絶対にあり得ない。

 

「だから、落ちろォォぉぉぉぉぉッ!!」

 

 叫んだと同時、私は霊基の自壊すら厭わない突撃を敢行した。

 魔力放出、全開。

 音の壁を軽く突破し、私達は一条の流星へと変貌した。

 

 

 焔の塊が恐ろしい速度で墜落し、天地を揺るがす大轟音が響き渡った。空には悍ましい程の魔力の嵐が吹き荒れ、墜落した地点はヒビ割れ巨大なクレーターと化している。

 

「行くぞ、マスター!」

「はい!」

 

 その地点に向かってオレとロイドは駆ける。

 約束事を破るなんてことは出来ないし、イオリの言い分の通りであれば、まだ戦いは終わってすらいない。さして遠くない場所だ、少し走ればたどり着く。

 

『先輩!?』

「約束したから!」

 

 困惑するマシュに走りながらそう返答する。

 確かに説明する暇はなかったけれど、きっとマシュなら怒っても許してくれる。

 そう信じて走り、たどり着いたクレーターの淵。

 

 そこから見えたのは、大の字で地面に仰向けに倒れる冬木のキャスターと、その心臓に怖気の走る光を纏った軍刀を突き刺した今にも消えそうなイオリの姿だった。

 

「あぁ…随分速いね元マスター。いや、ロイドがいるんだからそりゃ速いか」

 

 そうこちらを見てイオリが言う。そしてそれと同時に1つの光景が頭に蘇った。自分と同じ存在に、自分の存在と引き換えに一撃をかます……今になってやっと、イオリの気遣いがわかった気がする。

 

「ッハ、気にする必要は無いよ元マスター。元から私は、自分の死を以って後に繋ぐ英霊。生前と似た道を辿ってるだけだから」

「カルデアの、マスター…?」

 

 そう呟いたイオリに組み敷かれるキャスターが、ピクリと動いた。

 

『幾ら聖杯があっても、あんな状態で行動が出来る訳がない!! 霊核が完全に壊れてるんだぞ!!』

 

 そう叫ぶダ・ヴィンチちゃんを無視して、髪の色以外とても似ている2人の会話は続く。

 

「そうだよ愛鈴。あなたはカルデアのマスターに殺されるつもりらしいけど、看取ってもらうだけでも十分なんじゃないの?」

「看取ってもらう……看取って、もらう……」

 

 そううわ言のように呟くキャスターの目に、段々と光が宿ってくる。それは終わりを認めた様には、どう考えても見えなくて……ぞわりと悪寒が走った。

 

『魔力反応、急激に増大!

 逃げてください、先輩ッ!!』

『この状態でこの魔力量……聖杯があるとは言っても、控えめに言って化け物だよ!?』

「それじゃあ、何の意味もありはしないんだよ!!」

 

 キャスターの感情の大爆発と共に、爆炎が吹き荒れた。

 逆境でこそ輝き、諦めない事こそ主人公とでも言うかの如く、先程までの弱々しい声と正反対な声が響き渡る。

 

「天昇せよ、我が守護星ーーー鋼の恒星(ほむら)を掲げるがため!」

 

 そして轟くのは、一音一音に正の輝きが見て取れる詠唱(ランゲージ)。胸に刺さった輝く軍刀が焔に包まれ蒸発し、そのままイオリの腕まで焼き焦がした。

 

「はぁ…そっか、やっぱりこうなっちゃうか。使いたく無かったんだけどなぁ…」

 

 それを見てイオリは何処か諦めた様に、寂しさを漂わせてそう呟いた。

 

「天墜せよ、我が守護星ーーー鋼の冥星(ならく)で終滅させろ」

 

 そして聞こえたのは、キャスターとは真逆の性質が見て取れる詠唱(ランゲージ)。この場にいる誰よりも死が目前に迫っていると言うのに、イオリの魔力量も桁違いに増大していく。

 そして、発生した暗黒の輝きが溢れ出る焔を喰らって相殺していく。それは余りにも現実離れした光景で、キャスターにとっても完全に予想外な光景の様だった。

 

「嘘だ! 今のイオリじゃ…ううん、キャスターのイオリでもそれは使える訳ない!! 使えちゃいけない筈なんだ!!」

「ちょっと時間差があるけど、原典通り言い返してあげる。想像力が足りないよ、愛鈴」

 

 そう儚げに話す間にも、暗黒の輝きが広がる焔を喰らい消滅させていく。その会話に混ざる事は誰にも出来ず、そこには只々2人の世界が展開されていた。

 

「私が取り込ませてもらった幻霊の咒は、エドウィン・ハッブル! 私が得た宝具は、深宇宙すら観測したハッブル宇宙望遠鏡が元になった物!」

「まさか!?」

「今更気づいてももう遅いよ。どうあってもその力が振るえないなら、観測して、願って、祈りを捧げて、力を貸して貰えばいい。なんたって対象は星なんだから。

 その為の宝具。その為の幻霊。冥王星(ハデス)を観測し続けて、あなたに対してだけメタを張った私の選択!」

 

 相殺しきれない焔に焼かれながら、してやったりと言う顔でイオリは続ける。

 

「あなたが、ジャンル違いの英雄譚(そんなもの)を持ち出してくるから、私だって逆襲劇(こんなもの)に頼らなきゃいけなくなったんだよ?」

 

 こふっと、イオリの口から血の塊が吐き出された。消えかけの状態で、延々と極大の魔術を発動し続けているのだから、素人に毛が生えた程度のオレでもそうなる事は理解できた。

 

「ダメだよお義母さん、そんな事したら…」

「アーチャーとしての霊基は、暫く使い物にならないだろうね。

 けど、そんな事知ったもんか。子供の間違いを正すのが親の仕事、その為に払う犠牲がそれっぽっちなら勘定に値しない!」

「けどっ!!」

 

 なおも食い下がるキャスターに、イオリはとても優しい顔を向けた。そして抑え込むキャスターの頭を撫で、敵ではなく親として言い聞かせる。

 

「全く、いい歳なんだから駄々を捏ねないの。

 私は、あなたのやる事のぜんぶを否定はしないよ。だけどね、こんなジャンル違いの力に頼ってるんじゃダメ。私の霊基はあげるから、身体1つで戦ってみせてよ。あなたが、私の事をお義母さんって呼ぶのなら」

 

 そう言うイオリに、銀色の毛並みの耳と尻尾が出現した。周囲に踊る漆黒の輝きと合わせて、それは何処か地獄の入り口の様にも見えて…

 

「それでも私は、諦められない!

 超新星(Metalnova)ーーー

 大和創世 日はまた昇る 希望の光は不滅なり(Shining Sphere Riser)

「聞き分けてよ…それは私が連れていく!

 超新星(Metalnova)―――

 狂い哭け、呪わしき銀の冥狼よ(H o w l i n g K e r b e r o s)

 

 やけくそ気味に爆発した太陽の様な輝きを、漆黒の虚無が喰らい尽くした。だけど、それでもと、キャスターが消えかけの焔を揺らめかせる。

 それを満足気に見届けてから、初めてこちらを見てイオリが話した。

 

「これでもう、この子を邪魔する物はない。

 ここから先、英雄譚や逆襲劇(こんな物たち)運命(Fate)には必要ないんだ。用済みの奇跡(まじゅつ)は、退場する事にしよう」

 

 最後に、こちらに優しい笑顔を向けて言った。

 

「それじゃあ、後は任せたよ」

 

 そして、爆発する魔力が1つの形を持って解放される。

 

「現在、過去、未来、我が眼は全てを観測する。星の世界は果てなく続き、人の可能性(ゆめ)は潰えない。

 真名開帳ーー世界の果ての観測者(スターゲイザー・コスモロジー)!」

 

 漆黒の輝きが広がる地獄の大地に、天空の遥か彼方から極大の光が降り注いだ。その優しくも激しい光は使用者も敵も等しく巻き込み、けれどオレ達には決して届く事なく闇の大地を灼き続けた。

 




術 Lv90
銀城 愛鈴
➖➖➖➖➖ (173,175/173,175)
◆◇ Brake!
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