なんとなくFate   作:銀鈴

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連続投稿3日目
シリアスにしきれない悲しさ


第8節

 アーチャー達の準備が終わり落ち着きを取り戻した白い空間で、地面?に座り向かい合っていた。

 アーチャーの格好が、パーカーにホットパンツなんて物に変わってる時点で警戒心は捨てている。加えて胡座をかくロイドに抱き抱えられているのだから、警戒を保てという方が無理な話だ。

 

「それじゃあ気を取り直して、マスターも起きたし、現状の整理と行きますか!」

 

 コクリとオレは頷く。途中からの記憶がないから、話をしてもらわないと何が何だか分からない。

 

「えーと、じゃあまず私の真名と冬木のキャスターについて。マシュちゃんもダ・ヴィンチちゃんも知ってるからね。

 私の真名は、半分はイオリ・キリノ。そして冬木のキャスターは、キャスターとしての私のデミ・サーヴァントだよ」

「それは…」

『自分の力を託した人と、争っているという事ですか…?』

 

 通信越しに、マシュが驚愕した様な声音で聞いてくる。

 それもそうだろう。自分と同じデミ・サーヴァントが特異点を発生させている原因で、尚且つかつて力を託した英霊がその相手を排除すべく現界しているのだから。

 

「そうだね。だから、この特異点は私の不始末なんだ。あの子に背負わせちゃって、ちゃんと助けてあげれなかった私達のね」

 

 でもそれは…/すごく悲しい事じゃ

 

「それは、マスターが気にする事じゃないよ。それに、いけない事をしてる子供を止めるのは、親の役目だから」

「まあ、そんな俺たちの個人的な事情は置いておいてだ。まずは、マスターが気絶してからの事を話すとしよう。補足は頼むぞ? カルデア」

『勿論、ダ・ヴィンチちゃんに任せなさーい』 

 

 子供とか親とか気になるフレーズはあっものの、地雷な予感がするのでスルーする。

 そうして、ダ・ヴィンチの補足込みで聞いた話は中々に驚く物だった。オレが気を失った後、アーチャー…イオリが単独で冬木のキャスターと戦闘を続行。押し負ける直前にギルガメッシュが乱入し、そのまま巻き込まれない為に深山町側に逃走。今はオレ達がいるこの空間は、イオリの『もう1つの世界(アナザーワールド)』という宝具の中らしい。

 そこに逃げ込み一先ずの安全が確保出来た為、こうしてゆっくりと話が出来ている。

 

「それで、私がお風呂に入ってたのは半分受肉してるからで…めう」

「ほら、また話がズレてるぞ」

「ほんほは…ありがとうロイド」

 

 膝の上にいるイオリの頬を摘み、ロイドが話の軌道を修正する。見ているだけで砂糖が生産できそうな空気と距離感…1番しっくりとくる言葉は、本人達の言っていた通り「夫婦」だった。

 

「コホン。じゃあ本題に戻るとして…

 

 マスター。あなたはまだ、あの子と戦える?」

 

 そしてなんとも締まらない体勢のまま、真剣な表情をして2人がオレに問いかけてきた。

 

「あんたは一度、冬木のキャスターに焼かれて殺されかけてる。だから逃げたいって言っても文句は無い。守りきれなかった責任もあるしな」

「だからもし帰りたいって言うなら、今すぐには無理だけど早めにどうにかするよ。あの子に大半の霊基を持っていかれてるせいで全部宝具は持ってかれちゃってるけど、手がない訳じゃないし」

 

 それはなんて悪魔の提案だろうか? 逃げてもいい。助けてあげる。とても魅力的で、けれどそれに頷いてはいけない。それを知っているオレは、無言でかぶりを振った。

 

「それは、まだ立ち向かう意思があるって事?」

「勿論。マシュにそんな情けない姿は見せられないし、ここで逃げ出すなんて恥ずかしい。それに、最初に約束したから」

 

 冬木のキャスターを助けると約束したのだ。男に二言はない。

 そうイオリ達を見つめると、2人とも何故かとても驚いたような表情をしていた。

 

「これが、人類最後のマスターか…何か、凄いねロイド」

「そうだな…これは確かに、俺たちより英雄だ」

 

 自分はそんなに凄い人物ではないと思うのだけれど、ややこしくなるだろうから否定はしないでおく。

 

「カルデアとしては、マスターの決断に文句はない?」

『先輩が決めた事なら、私は賛成です

 けど…先輩の事、よろしくお願いしますね?』

「それは勿論! 今度こそ、ヘマはしないよ」

 

 そうイオリが胸を張って答えた。

 そう簡単な事じゃないっていうのに…とロイドがぼやいているけれど、それでも場の雰囲気は一気に明るいものとなっていた。けれど、そこにダ・ヴィンチちゃんが水を差した。

 

『良い感じに纏まってきたところ悪いんだけど、勝算はあるのかな? あんなサーヴァント相手にこの戦力じゃ、かなり厳しいと私は思うんだけど?』

「寧ろ余計な英霊がいる方が勝率は下がるよ、ダ・ヴィンチちゃん。それに、あの子は私だもん。戦い方も、宝具も何もかも熟知してる」

 

 イオリの蒼眼が、ホログラムのダ・ヴィンチちゃんを射抜くように見据える。

 

『ん、それなら良いんだ。存分にやってくれたまえ!』

「それじゃあ行こうか! この特異点のもう一つの面、深山町へ」

「はい!」

 

 

 そうやって意気揚々と謎の門から出た先には、完全に死んだ町…いや、町だった物の残骸が延々と広がっていた。

 特異点Fの時のように町を火の手が覆っておらず、建物も8割方瓦礫になってしまっている。元はこちらも緑で覆われていたのか炭の様な物が地面に転がり、周囲を広く見渡す事が出来ていた。

 

「どうマスター? 新しい礼装は」

「問題ない…というよりも、寧ろ動きやすいです」

 

 そういうオレの格好は、出発前から更に変化していた。

 見た目だけで言えば、バイクに乗る人が着けるプロテクターの付いた、カルデア戦闘服。燃え残った元の服と、あの白い異界の中にストックしてあった諸々をパッチワークして作り上げた礼装らしい。一体どこにストックしてあったのだろうか?

 

「よかったよかった。使える魔術は、1つは引き継いでガンド。残り2つは、弱体化の解除・瞬間強化になってるよ。

 後はまあ、プロテクターのお陰で物理的なダメージに少し強いかな? 勿論動きは阻害してない筈だよ」

『奇襲してきたスケルトンの攻撃を無傷で耐えたっていうのに、少し強いなのか。やっぱり神代は頭がおかしいね!』

 

 ダ・ヴィンチちゃんの言う通り、あの異界から出て少し経ってから大量のスケルトンの襲撃があった。

 その数が余りにも多く、数体ではあるが2人を抜けてオレにまで到達したのだ。ガンドでの迎撃も間に合わず、あわやと思い頭を庇って……腕のプロテクターに当たったスケルトンの剣がひび割れた。そして、目の前のスケルトンと同じく固まってる間に戦闘は終了した。骸骨なのに、困惑した雰囲気のまま光の中に消えていったスケルトンには合掌するしかなかった。

 

 その事を思い出しているオレを見て何を思ったのか、安心させるような優しい声音でイオリが話しかけてきた。

 

「大丈夫だよマスター、私だって男の浪漫は理解してる。

 そう…そのプロテクターはパージして、高機動型に変身可能なんだよ! 移動速度がアップして、ガンドがある程度連射可能になるんだ!! だ!! だ!!

「貴女が神か」

 

 セルフエコーをしてドヤ顔を決めているアーチャーの前に跪き、伸ばされた手をしっかりと握り返す。

 

『まさしくプロの犯行だね。一見なんでもない様に見えて、最先端から失伝してるだろう技術までもが完璧に組み合わさっている。一体、キミはなんの英霊なんだい』

「鍛冶師…かな? だよね、ロイド?」

「そうだな。魔法使い…いや、この世界風に言うなら魔術使いでもあったけど、イオリはずっと鍛冶師だったな」

『絶対に詐欺だ!』

『防御を捨てた攻め…なるほど、そういう考えもあるのですね』

 

 色々とツッコミたい所はあるけれど、マシュはちょっと待って欲しい。マシュがアーマーパージなんてしたら、去年のハロウィンの時の様にデンジャラス・ビーストが爆誕してしまう。それはマズイ、非常にマズイ。

 

「そういえば、何処に向かってるんですか?」

 

 話の流れを変えるべく、オレは行き先を訪ねた。もう、安心できないマイルーム生活は嫌なのだ。

 

「ん? 言ってなかったっけ? 英雄王の寝所だよ。」

「え」

「ほら、もう見えてきた。後、戻ってきてるね英雄王」

「え」

 

 そう言われ前を向くと、この荒れきった世界の中不自然なほど限界を保っている協会とその敷地が目に入った。上空には、小さな雷を纏う複数の円盤が浮遊していた。

 

「さてマスター、楽しい愉しいコミュの時間だよ。

 あ、賢王様とは全然違うから注意ね!」

「え」

 

 呆気にとられるオレの前で、アーチャーは鉄柵の門を開けてさも慣れているかの様に協会へ侵入していった。

 




竹箒でもう、ダメ…涙が…卑怯すぎるよFgogo…

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