「私はキャスター。
あなた達が昨日話していた『冬木のキャスター』!
この特異点を作り出してる原因にして、マシュちゃんと同じデミ・サーヴァントの英霊だよ!」
アーチャーと印象が重なる冬木のキャスターが宣言した言葉に、通信しているカルデアから悲鳴にも似たマシュの声が返ってきた。
『あり得ません! 私以外に、デミ・サーヴァントが成功した例はない筈です!』
「想像力が足りないよ。
私が書き換えたとは言っても、ここは冬木だよ? 貴女みたいに造られた訳じゃないけど、それ以外のアプローチの仕方はあるんだよ」
「どういう…事?」
冷ややかな目で言った冬木のキャスターの言葉に、オレはそう疑問を返す。前所長が、とても酷い実験を繰り返していた事は聞いている。逆に言えば、そうでもしないとデミ・サーヴァントという存在は生まれなかったと言う事だ。
他の方法なんて、思いつきもしないし考えたくもない。
「そうなんでも教える訳ないじゃん。
だって今私は、あなた達と戦いに来てるんだからね!」
「起動して、結界柱! マスターを守れ!」
アーチャーが射出した宝具群が色ガラスのような結界を形成するのと、冬木のキャスターが無造作に腕を振るったのはほぼ同時だった。
僅差で攻撃より早く障壁が展開されーーしかし、焔に耐える事が出来ず、元から張られていた物を含め全ての結界が砕け散った。
「っ、風よ!」
更にロイドが行使した風の魔術、そして庇うロイド自身すら突破して紅蓮の波濤がオレに直撃した。
「あ、あぁァぁアぁッ!!」
『先輩!!』
焔を浴びた部分が焼かれる。僅かにあった無傷な部分も熱に炙られ灼かれた。ヒトの焼け焦げる臭いが鼻腔に入り、息をしようと口を開けた瞬間喉が熱傷を負った。
痛いとか最早そういう次元の話ではなく、ただただ苦しい。辛い。息が出来ない。
『ーー! ーーーーーーッ!!』
遠退く意識の中、マシュの声が聞こえた気がして…
その事を気にする間も無く、オレの意識は闇の底へと沈んでいく。
灼熱に焼かれながら、落ちて、
落ちて、沈んでーー
落ち、て……
◇
『先輩! 先輩ッ!!』
『ちょっ、コレは本気で不味いよ!?』
押し寄せた爆炎の中、マスターが地面に倒れるのが見えた。
開かれたままの無線から、マシュの悲鳴とダ・ヴィンチちゃんの声がダダ漏れになっている。
「マズっ!」
幾ら結界10枚で減衰させて、ロイドが風の魔術で散らして庇ったとは言っても、今のキャスターが
新宿のアーチャーみたく、本当はもっと楽しみたかったけど仕方ない。私の遊びとマスターの命じゃ、後者の方が確実に重い。
「解錠『
自分の部屋兼兵器庫兼etcの宝具を躊躇いなく解放する。そして同時に異界内の回復系のアイテムを捜索、見つけたポーション類を開いた12の門から全て射出する。
アーチャーとして現界したお陰で、異界から物を射出出来るようになったのは不幸中の幸いだった。
「天空の十二連!」
そしてマスターの回復を邪魔をされないよう、キャスターに私は攻撃を仕掛ける。
私の担ぐ巨大な望遠鏡から一条の閃光が放たれ、空中で12の光に別れて冬木のキャスターに殺到する。
「温い温い。そんな攻撃、本当に効くとでも思ってたの? アーチャー」
「いいや、全く。でも、時間稼ぎは出来るから、ね!」
効かない事は初めから分かっていた。光線は全て、キャスターに近づいただけで歪みあらぬ方向へと飛んでいく。あんなキチガイみたいな熱を纏ってるんだから、不思議じゃない。
反撃として飛来した焔を取り出した無名の宝具で打ち消しながら、私はそう反論する。どうせバレるから言ったけど、私の目的は時間稼ぎに他ならない。
「時間なんて稼いで、誰か援軍が来るとでも思ってるの?」
「それこそあり得ないよキャスター! 私が狙ってるのはーー」
炎の弾ける音の中、カシャンとガラスの割れる音が私の耳に届いた。それは射出したエリクサーが砕ける音に他ならず、狙いが一先ず達成された報知であった。
「なんてことない、マスターの回復だよ!」
そう言い切り、望遠鏡からの魔力砲撃と共に炎を封じ鎮める無名の宝具を多数射出する。
それこそが私の真の狙い。この召喚されているサーヴァント全員が対界宝具を持ってる異常な特異点の中で、1番範囲の狭い対界宝具の効果圏内にキャスターを誘導する事。
炎の所為で分かりにくいが、私の魔眼にはキャスターがその全身を影の中に投じた姿がハッキリと見えた。
「『
「っ、そういう!」
キャスターが気づいたけどもう遅い、1発は受けてもらう。
そう吐き捨てる自分とは別に、キャスタークラスには一歩届かない魔術を魔眼を起点に組み上げる。
使うのは勿論、生前散々使った回復と再生の魔術。『
「ヒールリザレクション!」
それは生前なら、HPが0になった人でも復活させた回復魔法。今は四肢欠損を即時回復する程度まで弱体化してしまっているけれど、即死していないマスターを癒すには不足してない魔術だった。
だけど、まだだ。まだやる事は終わってない。冬木のキャスターに対応しなければ、なんの解決にもなりはしない。
「収束、収束収束収束収束収束収束ッ!」
マスターが息を始めたのを確認し新たな手を打とうとした私の前で、キャスターが詠唱と化した声を上げる。
結果、起きる現象は詠唱通り収束。キャスターが無限に撒き散らす業炎があり得ない密度で圧縮され、掲げられた右腕に一振りの剣となって顕現した。
それを見た瞬間、嫌な予感が走った。忘れるな、今のキャスターは、1人だけそもそもジャンルが違う。覚醒に次ぐ覚醒で、際限のないインフレが起きている。
「違っ、ロイド逃げてぇ!」
咄嗟に悲鳴をあげるが、もう間に合わない。
並列して8つ同時に動いている思考のうち、酷使していない4つを全力で稼働させ、最悪の結末を避けるための手を打つ。
「
「
【
キャスターが振り下ろした圧縮された恒星の様な剣が、発生した別世界へと弾き飛ばす空間を両断した。
ロイドは驚愕して固まっているようだけど、完全に再現できていない事に私は安堵する。気合いで因果律を崩壊させたりなんてされた日には、どう足掻いても勝ちようがない。
「そっか、ティラノがやられたのはロイド君の宝具か。
流石にそれ、邪魔だよね」
「刃翼よーー」
「遅い!」
ロイドの宝具の真名解放よりも、キャスターが恒星剣を横に薙ぐ方が圧倒的に早い。確かにこのままなら、確実にロイドは脱落する事になるだろう。けどっ!
「はぁっ!」
「
【
巨大な望遠鏡の実体化を解除し、代わりに『
そして私は、真名解放によって
「弓も射撃武器も使わないなんて、随分とらしいアーチャーになったんじゃない?」
「うるっ、さい!」
ロイドと、その背後に控えるマスターを守るために打って出たけど、やはり無謀だった。即座に消し飛ばされる事はないけれど、完全に力で押し負けている。
同じ土俵に上がらないと勝負が成立しすらしないのに、上がっても勝ち目が一切ないという虚しさが広がる。
「よくもまあ、そんなグチャグチャな霊基で頑張るよね…イオリ。
バアルの技術もないのに自分に幻霊を混ぜるとか。そんな自殺行為をした所為で、見た所自分の意識を保つので精一杯じゃん」
「あなたに大半の霊基を使われてるから、こうでもしなきゃ現界出来なかったんだよ、愛鈴!」
カルデアへの通信は開きっぱなしだから、ダ・ヴィンチちゃん辺りにはもう分かっただろう。
「ロイドお願い!」
「あぁ!」
愛鈴と斬り結びながら、私は一言だけロイドに声をかける。特に主語は言ってないけど、そこは長年連れ添った相手だから一切問題ない。
私の意思を汲んで、ロイドが未だ重症のマスターを助けに動き始めた。
「私がそんな事、させるとでも思うの?」
「だからこそ、まだだッ!」
本気で恒星剣を押し込んでき始めたキャスターを相手に、私も鋼の英雄に倣って限界を突破する。溜め込んだ素材を使っての、強制霊基再臨。それによって、どうにか拮抗を取り戻した。
「ほう、今の行為は中々に小気味好い物であったぞ、雑種。
だが、今すぐそこを退くが良い。
そこな
その声が聞こえた瞬間、私は
なにせ、直前まで私がいた場所に赤黒い旋風……つまり乖離剣エアの一撃が直撃したのだから。
「この我を殺すと宣ったのだ、もっと我を楽しませろ
そう言いつつ空中に浮遊するのは、既に
有難い偶然の援軍ではあるけれど、状況が更に混沌とした方向へ進む事は確実だった。
ー真名判明?ー
キリノ・イオリ
fgo的に表すなら、ゴルゴーンとかエミヤ[オルタ]戦みたいな耐久戦ですかねこれ。