熊本先輩にときめいてしまった…ぐふっ
1日目が終わった。
カルデア陣は、あの人達と一緒に動くらしい。
都合がいい。あの人達との相対は、避ける事は出来ないから。
準備が整うまで、こちらは待とう。
幸い、こちらもまだ片付いてない因縁がある。
だけど、そこまで私の気は長くない。
さあ、ボーナスタイムだ人類最後のマスター。
力を合わせて、私の所まで辿り着け。
◇
『おはようございます先輩。
よく眠れましたか?』
「うん、普通のベッドだったから」
むしろぐっすりと眠る事が出来た。昨日あった一連のドタバタで、予想以上に疲れていたのだろう。用意してくれていた朝ごはんも美味しかったし、調子はかなり良い方だろう。
「あ、いたいたマスター。朝ごはんは…食べてくれたみたいだね。
それじゃあ、ちょっと外に来てくれない?」
少し疑問に思いつつも、持っていたお皿を置き了承の意を伝える。慣れない建物に迷いつつ外に出ると、そこでは戦闘態勢をとったアーチャーが空を見上げていた。
釣られて空を見上げると、そこでは大量のワイバーンとセイバーが戦闘を繰り広げていた。
「助けなきゃーー」
「いやマスター、空はセイバーに任せて私達はこっちこっち」
「え?」
オレの服の裾を引っ張り、アーチャーが指差した方向には土煙が上がっていた。どうやら地上からも攻めてくるらしい。
『多数の熱源が接近中…魔力パターンから、バビロニアで遭遇したムシュフシュやウガルと思われます。気をつけてください、先輩!』
「分かった!」
そうして気を引き締めたオレに、アーチャーが話しかけてきた。
「気張る必要はないよ、マスター。とりあえず瞬間強化…はないか。じゃあ全体強化をくれれば大丈夫だから」
「えっと、はい」
言われた通り、礼装を通じてアーチャーに全体強化を掛ける。
「それじゃあマスター、ご照覧あれー。
真名封鎖、擬似宝具展開」
アーチャーから感じる魔力の圧が跳ね上がる。初日にみた光の柱は一体どんな宝具だったのか期待して…しかし見た目にはなんの変化も起こらない。
「
そして、魔力が開放され光の柱が起立した。そしてそれが、土埃をなぞるように移動していく。
『バカな、熱圏付近からの魔力砲撃だって?
浪漫はあるけど、効率が悪すぎないかい!?』
「倒せればいいんだよ倒せればー」
ダ・ヴィンチちゃんの疑問を適当に流したアーチャーが、その宝具を操作し魔獣達が現れた方向を更に焼き払う。
「よし、これで多分マスターにも見えるでしょ」
そう言ってアーチャーは宝具の開放をストップした。
そうして焼き払われた大地の先に見えたのは、荒廃した世界。あの特異点Fを、更に2回り程滅茶苦茶にした様な光景だった。
「これは…」
『ひどい…』
「マスター、ここからだよ。
あなたが討たないといけない敵の力、その目に焼き付けて」
アーチャーに対して、オレが何か疑問を呈する直前…世界を引き裂く様な異常な爆音が、空気を劈いて轟いた。
『魔力の計器が、一気に異常な値になったぞ!』
『映像断絶…一体何が置きてるんですか、先輩!』
「あれ、は…」
それは、世界自体が悲鳴を上げているのが分かる光景だった。その証拠に、様々な魔獣達がアレから僅かでも距離を取ろうと逃げ出している。
「
頭が狂ったかと思うほどの爆炎が天から一点を目掛け降り注ぎ、地上から放たれた赤と黒の暴虐の嵐がそれと真っ向から衝突している。
炎は知らないけれど、もう1つの宝具は見た事がある。そう、あの宝具の使い手は…
「ギルガ、メッシュ…?」
「よく覚えてたねマスター。
この特異点で生き残っている最後のサーヴァントは…ううん、それじゃあ語弊があるか。英雄王ギルガメッシュとあの子の2騎が、この特異点の始まりの英霊だよ」
アーチャーがそう言い切ると同時、炎と嵐が弾ける様に消え、それきり昨日と同様の静けさが戻ってきた。
『映像回復しました! 何があったんですか先輩!』
『見覚えのある魔力波形が見えた気がしたけど…』
「特異点の、原因を見てた…」
カルデアには来てくれていないけど、あの宝具の力はウルクで身をもって体験している。あんな相手と、オレは戦えるのだろうか?
「ん、そういえばマスターは、アレを見るのは初めてだったか」
「おーい、大丈夫? マスター」
降下してきたセイバーが納得した様に言う。そして、そうアーチャーが心配してくれる言葉によって、オレは気持ちを締め直す。それを見たアーチャーが、真剣な顔をして言う。
「私達は、マスターがギルガメッシュと共闘を望んでも、一切無視して私達だけで戦う選択をしてもいい。どんな選択でもいいよ」
「だけどアイツは、マスターと戦う為だけに自分を削り続けている。こんな事言いたくはないんだが……有り体に言えば、アイツを救えるのはマスターだけだ」
『んー…その「あの子」とか「アイツ」って言うのは、具体的には誰なんだい?』
ダ・ヴィンチちゃんが、ずっと気になっていた問題を口にした。あの子や、アイツという代名詞ばかりで分かりにくい。
それを聞き、とても言いにくそうに口ごもってから、アーチャーが口にした。
「あの子の事は、『冬木のキャスター』…そう呼べばいいと思うよ。
本当にごめんなさい…知っているけど言えない。そういうものだと思ってほしいな」
『ならセイバーさんは…』
「俺か? 俺はアーチャーの手伝いをしてるだけだから、詳しい事は知らないぞ?」
『ダメですか…』
通信から聞こえるマシュの声音は、明らかにガッカリしている事が伝わるものだった。だけどここまで情報を伏せられると、なんというか胡散臭さが出てくる。若干懐疑的な眼差しでアーチャーを見つめる。
「う〜…やっぱりこうなるよね。知ってた」
「だけどさっきも言った通り、俺たちはマスターの意見にはよっぽど悪い事でなければ従う。それを違える気はない」
ショボンとしたアーチャーの頭を撫でるセイバーが、こちらを見てそう言う。
悪い人じゃない事は知っているし、信じているけれど…
「方針は今日1日カルデアと話し合って決めればいいと思うよ、マスター。元々今日は、アレを見てもらいたかっただけだし…うん、何か悪いし私は再臨素材集めてくる…」
そう言い残し、アーチャーはフラフラと背の高い草の中に消えていった。
というか、1日話し合えばいいと言ってくれたのは嬉しいんだけど…
「あの、まだ朝なんだけど…?」
『丸っと1日時間を渡されても、正直持て余してしまいます』
全くもってマシュの言う通りだった。幾ら何でも時間が余りすぎるだろう。
「アーチャーはやると言ったら絶対にやる。だから、当分戻っては来ないな」
「そんなー…」
本当に再臨素材を集めて来てくれるなら嬉しい事だけれど、その間に襲撃があると思うと少しだけ怖い。今までと違い、マシュが一緒にいないからだろうか?
「もしこれから向こう側へ行くと決めたのなら、適度に運動して身体を休めておくといい」
『一体それはどうして…』
「生前、何度狂った強行軍に付き合わされた事か…思い出したくもない」
哀愁を漂わせ、何処か遠い場所を見つめるセイバーに、誰も何も言う事が出来なかった。
「こちらに聞かれたくない事もあるだろうから、俺はここに魔獣が来ない様に暫く狩っている。
もし危険が迫ったら、令呪を使って呼んでくれ。まあ、この孤児院に近づける魔獣なんてそうそう居ないが」
そう言ってセイバーも、例の機械の翼を展開し消えてしまった。
『どうしますか? 先輩』
「とりあえず、孤児院の中に戻ろうと思う」
話し合いは、それからでも十二分に間に合うだろう。
『そうだね、それがいい。
その孤児院、キャスタークラスの製作した神殿と同じ位の要塞だ』
「えぇ…」
アーチャーはお昼には律儀に帰って来たのだが、お昼ご飯を作ったらまた何処かに出かけてしまった。
こうして、安穏とした特異点2日目は終了したのだった。
アーチャーの成果
万死の毒針 34 竜の逆鱗 19
竜の牙 48 原初の産毛 13
呪獣胆石 4 世界樹の種 21
蛮神の心臓 2 隕蹄鉄 14