やっと、カルデアがこの場所を見つけてくれた。
邪魔なサーヴァントの排除にも成功した。
元からいる4人は仕方ない。
それくらいの戦力は無くてはならない。
それに、アイツらを味方にできれば、ちゃんとあなた達にも勝機はある。
だから、
そこはただの、ボーナスステージなんだから。
心臓も、頁も、種も、逆鱗も、歯車も、毒針も、胆石も、全部景気良く大盤振る舞いしてあげる。
だから、私にトドメを刺して人類最後のマスター。
私は、他の誰でもないあなた達にしか、
殺されてやる気は無いのだから。
◇
戦闘は、なんの盛り上がりもなく終わった。
草の中に潜んでいたワーウルフをアーチャーの担ぐ巨大な円筒から発射されたビームが焼き、ヤケになって襲ってきた者はセイバーの神速の斬撃が斬り裂いた。
「うーん…ダメだね」
「?」
どこか遠くを見た後、そう呟いた銀髪のアーチャーにオレはそう問いかける。もしかして、何かミスをしてしまったのだろうか?
「マスターに話をしようと思ったけど、思った以上に魔物が向かってきててね。カルデアでも観測できない? 誰でもいいから」
『え、あ、はい! アーチャーさんの言う通り、大量の熱源が全方位から接近しています!』
なんですと。この特異点、何でこんなにもオレに対する殺意が高いのだろうか? その辺りを説明してもらえると、ものすごく助かるのだが…
「多分このままだと、ファヴニールクラスのも出てきそうだよなぁ…」
「アレくらいの竜、あっちの世界じゃゴロゴロいたしな」
「……何か手があったり?」
そんな話を聞いたんじゃ、逃走を優先するに決まっている。オルレアンで戦ったファヴニールは、色々な人の力を借りてようやく倒せたのだ。同格の竜がゴロゴロ出てくるだなんて、冗談でも恐ろしい。
「勿論。あなたを、私たちの拠点に案内してあげる」
「移動は俺に掴まっていればいい」
『ちょっと待って下さい!』
トントン拍子で進みかけていた話を、マシュが制止した。
『この際、あなた達の名前は置いておきます。
ですが、何故あなた達は先輩にここまで手を貸してくれるのですか?』
「それは簡単だよ。この特異点は、私たちの不始末だから」
「それと、そこのマスターがいないと、この特異点は絶対に修復する事が出来ないからだな」
返答は即座に帰ってきた。オレのためだけに作られたって話だから、確かにオレがいなければ話にならないのだろうけど…
「その辺りは、拠点に来てくれたら包み隠さず話すよ。
あなたの大切で、大好きな先輩を傷つけない事は神…は信用ならないから、亡き魔術王に誓う」
『そんな、お似合いのカップルだなんて…』
「心を読まれた!?」
驚くアーチャーが放った言葉に、顔が赤くなるのを感じる。どこからどうその結論に行き着いたのから知らないけれど。
そんなオレたちを見て、溜息を吐いてセイバーが言う。
「俺が言うのもなんだが…早く決めてくれないか?」
居たたまれない沈黙が広がる。
そうだ、確かに今は一刻も早く行動しないといけない。
「それで、どうするんだ?」
既に魔物達の上げる土煙が、オレの目でも視認できるまでの距離になっている。逃げるのであれば、もう一刻の猶予もない。普段の皆ながいるなら兎も角、今この状況では…
「行きます!」
三十六計逃げるに如かず。死力を尽くしての戦闘をするより、逃げた方が圧倒的に良いだろう。
「わかった。じゃあアーチャーは…」
「私はここ!」
アーチャーが、勢いよくセイバーの背中に飛び乗った。それは、所謂だいしゅきホールドと呼ばれる抱きつき方だった。頼んでおいて何だけど、なんだかとても混じりにくい。
「ちょっと待ってアーチャー。そこマスターの場所だから」
「えー…」
「お姫様抱っこ」
「分かった!」
その言葉で即座に霊体化したアーチャーは、次の瞬間にはセイバーの腕の中に収まっていた。すぐそこに魔獣が迫ってると言うのに、何故ラブコメを見なければいけないのだろうか?
「それじゃあマスターは、軽くしがみついててくれ」
「アッハイ」
諦めて言われた通り、大人しくセイバーに背負われる。左腕でアーチャーを支え、右腕ではオレを支えてる辺りは流石英霊だと思う。そしてこの感触からして、義手…なのか?
「刃翼開放…」
「うわっ!」
オレの胴の脇辺りから、機械仕掛けの翼が実体化した。これも宝具なんだろうか? そして必然的に見えるアーチャーの顔は、なんだかとても満足そうで…
「もしかして、あなた達の関係って…」
「「ん?(へ?)夫婦だけど?」」
『ああ、それで。得心がいきました。
それでもちょっと狡いです…』
マシュと同様に納得した途端、オレの意識は殺人的な加速によってブラックアウトしたのだった。
◇
「うん、大丈夫大丈夫。視たところ、ただの気絶だから!」
『全然大丈夫じゃないじゃないですか!』
声が響く。
「すまない、マスターが現代の人間だって事を忘れていた」
「ヘラクレス相手に逃げ切ったり、幼女3人を抱えて逃げたり、女神相手に200mプランチャーかますマスターだから、大丈夫だと思ったんだけど…あとアーラシュ空を飛ぶ事件」
『なんでそんな事まで知ってるんですか?!』
和気藹々と話す声が聞こえる。
「あ、セイバーはコーヒー入れててー」
「おう」
『私の真名もそうだけど、キミは一体何をどこまで知ってるんだい?』
「特異点Fから冠位時間神殿まで全部。縁が無かったから行けなかったけど、全部見てたよ? スタンバッてたのに召喚してくれないんだもん…ぶーぶー」
『えぇ…』
鼻腔をくすぐるコーヒーの匂いに目が覚めた。
「ここは…」
上体を起こして周囲を見渡すと、目に入ったのは何の変哲も無い幼稚園の中の様な場所だった。そこに安置されたベッドに、オレは寝かされていたらしい。
『あ、おはようございます先輩!』
「寝起きのヒーコーをどうぞ、マスター。インスタントだけど」
「ありがとう」
そう言って渡してくれたコーヒーのお陰か、段々と頭が冴えてくる。
それを確認して、どこからか取り出された大きめの椅子にセイバーが座り、その膝の上に満足気なアーチャーが座る。
「それじゃあカルデアの諸君、ここの安全は保証するから、先送りにしてたこの特異点の話をしよっか。マスターも起きた事だしね」
威厳も何も無いのに、ドヤ顔のアーチャーがそう言った。
「多分そっちでも観測出来てると思うけど、この特異点は、神代の自然が溢れ魔獣の跋扈する冬木新都と、完全に焦土と化した深山町から構成されてる」
コクリと頷く。
「そして、召喚されてるサーヴァントは
『それはどういう事だい? 特異点は、聖杯か存在しなければ構築出来ないはずだ。故に対応して召喚されるサーヴァントはいる筈だ』
ダ・ヴィンチちゃんがそれはおかしいとツッコミを入れた。色々と謎の多いこの特異点だが、それは大前提の筈だ。
「違うんだよ、ダ・ヴィンチちゃん。
この特異点はソロモンの聖杯じゃなくて、たった1人の女の子の暴走と、それを叶えた穢れきった聖杯によって出来ているんだよ」
『それじゃあ、あなた達はどうやって…』
マシュの疑問に同意して頷く。ならば、あなた達はどうやって現界したと言うのだろうか?
「そこら辺を説明すると、私の真名がバレるから嫌だ。カルデアに敵対しないって事は約束するけど」
「ちなみに俺は、アーチャーに連鎖して召喚された」
「うむむ…」
じっと見つめるが、アーチャーはどこ吹く風といった感じで受け流す。こうなれば根比べだと思った矢先、セイバーが続きを話し始めた。
「そしてこの特異点最大の特徴は、俺とアーチャーの生きた時代が完全に再現されている事だ。誰も知らない世界の逸話だが、大気中の魔力濃度は神代と同様で、化け物だって溢れている」
「だから私達は、カルデアを見習ってこの特異点を『異界戦役都市 冬木』と呼称してる。さしずめ、変貌特異点Fとかかな?」
「異界戦役都市、冬木…」
こちらがその言葉を噛み締めていると、ピョンッとセイバーの膝上からアーチャーが降りた。
「さて、堅っ苦しい話はここまで。
時間も時間だし、私は晩御飯作ってくるよ」
『ええっ、これで終わりですか!?』
「そーなのだー」
いつのまにかエプロンを実体化させていたアーチャーが、そのままこの拠点らしい場所の奥へパタパタと走っていく。
そんな英霊とは思えない家庭的な姿を見て、オレはセイバーに尋ねる。
「アーチャーは、いつもああいう風に?」
「まあな。自慢の嫁さんだ」
『いつか私も、先輩と…』
観測しているカルデアにまで、この惚気た雰囲気は伝わってしまっているらしい。
こうして、そこはかとなく残念臭の漂う特異点1日目は終了した。
因みに夕飯のカレーライスは、
まだこっちでは平和。超平和。バスターズではない。