なんとなくFate   作:銀鈴

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勢いで書いたfgo編なので初投稿です。


第1節

『……ター!!』

 

 ?

 

『……ター!? ……ださ……ター!』

 

 ださっ!?

 

『マスター……! おきて……ください!』

 

 マシュ?

 

『マスター! しっかりしてください!』

 

 マシュの声で、朦朧としていた意識がしっかりと覚醒する。

 けれど足元に地面の感触はなく、身体は終始浮遊感を伝え、耳は風を切る音で満たされている。

 つまりオレは、またレイシフト直後に強制スカイダイビングをさせられていた。

 

「まーたー落ーちーてーる!?」

 

 そしてそう叫んだところで気づく。息が、呼吸が異常なまでにし難い。そう、これはまるで…

 

『嘘…特異点の魔力濃度、バビロニアと同等です!』

『更に、同行した筈のサーヴァントの反応がありません!

 レイシフトの際、何処かへ弾き飛ばされています!!』

 

 狂乱する管制室からの音声を聞き周りを見てみると、確かに落下しているのは自分1人だった。あの時と違いマシュは居らず、現代の人間には毒となる魔力濃度の空間で、安全装置も何もないたった1人でのスカイダイビング。

 

「あれ、もしかしなくても積んだんじゃ?」

 

『そんなことはありません!

 マスターを呼び戻して下さい、ダ・ヴィンチちゃん!』

『駄目です、強制レイシフト受け付けません!』

『特異点においては、時代の修正を行わない限り、帰還は不可能です!!』

 

 例え万策尽きたとしても、一万と一つ目の手立てはきっとあると、この前見たアニメで言っていた。アニメと現実は別だけれど、最後まで諦める何てことをしてはいけない。

 そう思い体勢を整えようとしたオレの耳に聞こえたのは、更に突き出された絶望だった。

 

『高魔力反応多数接近! ワイバーンです!』

『なんだって、初めから殺意高すぎじゃないかこの特異点!?』

 

 ダ・ヴィンチちゃんの悲鳴ももっともだ。バビロニアも、あの冠位時間神殿さえ、ここまで積極的にこちらの命を狙ってはいなかった。

 前言撤回、こういう時に出来ることはもうただ一つ。

 

「もうだめだー!!」

『諦めないで下さい、先輩!』

 

 

「…令呪を持った黒髪の少年を確認。

 一応聞いておく、あんたがカルデアのマスターか?」

 

 大声を出したところで、聞こえる筈のない声が聞こえた。聞き覚えのない男性の声、姿も見えないけれど、聞かれたのだから返事はしなければならないだろう。

 

「そうですけど、あなたはどちら様ーー!?」

「元気なようで何より、だけどそれは後回しだ。あんな奴らがいたら、落ち着いて話もできやしない」

 

 そうだった、ワイバーン!

 落下するオレの目にも見える、自分を狙う十数体のワイバーン。それに加え、身体を蝕む神代の大気が…って、あれ?

 

「息が、苦しくない?」

「特注の礼装だ。嫌なら外してもいいが、後数秒だけは着けててくれ! それくらいあれば、あの程度の奴らは片付けられる!」

 

 左手に重みを感じ掲げてみると、無地の銀色の腕輪が着けられていた。これが特注の礼装という奴なんだろう。

 

『立香君、その腕輪に特に変な点は見当たらない。着けていて問題ない筈だ。けど、落下までもう時間がないぞ!?』

 

 そう報告してくれたダ・ヴィンチちゃんにお礼を言う。

 それはそれとして、多分この人はサーヴァントなんだろうけど…

 

「助けてくれてありがとう! でも、1人であの数を相手にするのは無茶です!」

『そうです! 幾らあなたが英霊でも…』

「あまり時間がない。すまないが、勝手にやらせてもらう!」

 

 触られた左肩から魔力が盗られ、次の瞬間風が爆発した。

 そしてそれに流される視界の中、宝具開放も無しに、緑色の風がワイバーンの首を半数ほど両断した。

 

「…へ?」

『は…?』

『はい…?』

「焼き尽くせ、アーチャー!」

 

 カルデアの面々が呆気にとられる中、オレをキャッチした薄い緑髪の青年がそんな事を叫んだ。どうやらもう1人サーヴァントが存在するらしい。

 

「はいはーい。真名封鎖、擬似宝具かいほー!」

 

 文字にするなら「ふぉいあー」となりそうな、気の抜けた声が聞こえ…起立した光の柱が残存ワイバーンを全て焼き尽くした。この途轍もない出力の魔力砲は、本人?の言う通り宝具なのだろう。

 

「あー…牙が、逆鱗が…」

「安全になった途端そんな事言えるって、ある意味すごいよな…」

 

 ()()()()()()()()に降ろしてもらい、蒸発したワイバーン達のいた場所を見て思わずそう呟いた。

 ん…? 緑に覆われた地面? 確かレイシフト先は、2004年の冬木市だった筈だ。これはおかしい。

 

『見てください先輩、冬木市が!』

「これ、は…」

「やっと気付いたのか、カルデアのマスター」

 

 2人の声に促される様に周囲を見渡すと、そこには明らかな異常が見て取れた。

 

 街が緑に飲まれていた。

 元が道路であっただろう道は、背の短い草が生い茂る獣道となり、信号は蔦が絡まり奇怪な植物のオブジェと化している。巨大な木々が散在するビルを取り込み、青々とした葉を茂らせている。家だったであろう場所は、草の生えた丘や更地の草原となっている。

 

「ここは、元は冬木市新都と呼ばれていた場所だ。まあ、今はアイツに書き換えられて、神代と同等の空気が流れる魔獣の巣になってるがな」

 

 やれやれといった感じで、薄緑髪のサーヴァントが説明をしてくれた。視界には見渡す限り自然が広がっており、街を飲み込んだそれな異様さが先程より際立っているように感じた。

 

「安心するといい。この特異点の範囲は、冬木市新都と深山町を囲うくらいしかない。今までの特異点より、移動は楽だろう」

「えっと、それは嬉しい情報だけど…アーチャーさんは放っておいていいんですか?」

 

 宝具で砲撃をしてくれたアーチャーの人を、合流もせず放っておくのは間違っている気がする。

 

「ああ、それなら…」

「セイバー、無事? 魔力足りてる? 供給する? 勿論1番効率良いやつで!」

「大丈夫だから! 大丈夫だから離れてくれアーチャー、折角のシリアスが台無しになるから!」

 

 突如現れた、ガラスの嵌ったメカメカしい巨大な筒を背負った銀髪蒼眼の女性が、セイバーの背中に抱きついていた。一つ縛りにされた髪が、ポンポンと跳ね回っている。

 うん、もう色々と台無しである。

 

『セイバーさん、もう遅いです…』

『どう考えても手遅れだね』

 

 マシュとダ・ヴィンチちゃんの言葉にオレも頷く。真面目な空気が一気に吹き飛んでしまった。

 

「ほらやっぱり…」

「私たちに、シリアスなんて似合わないからいいじゃん!」

「俺たちは良くてもさぁ…」

 

 目の前で、唐突にラブコメが始まった。銀髪のアーチャーは心底幸せそうな笑顔だし、薄緑髪のセイバーも本心からは嫌そうにしていない。なんて砂糖空間だ。もしかしなくても、オレがいる事を忘れているのかもしれない。

 そんな事を考えていると、不意に銀髪のアーチャーが地面に降りこちらに向き直った。

 

「さてと、魔力供給も終わったし、ここからは真面目にしますか。

 ようこそ、カルデアのマスター。あなただけのための地獄へ」

「オレ、だけのため…」

 

 その言葉に、思わず固まってしまう。今までの特異点は、どれも歴史を変えたいという願いから発生したものだった。故に、オレという個人の為だけに特異点が生まれるなんて、予想の遥か外を行っていた。

 

『ちょっと待ってくれたまえ』

 

 そんな静寂を、ダ・ヴィンチちゃんの声が破った。

 

『その話はとても気になるのだけど、そろそろあなた達が何者か、教えてはもらえないかい?』

『あっ…』

 

 そう言われて気づく。確かに、未だ名前を教えてもらってはいない。

 けれど銀髪のアーチャーは、はぁ…と溜息を吐いて手を額に当てる。

 

「ここからは予習かな。

 サーヴァントは本来、真名は伏せて戦うものなんだよ、カルデアのマスター。どんな大英雄でも、神話通りの弱点は持ってるからね。有名どころだと…ほら、アキレウスとか」

 

 アキレウスの話は確かに有名だ。その弱点を突けるかは置いておくにしても。

 

 まあ人理修復の時には、そんな事気にしてられる状況じゃなかったとは思うんだけどね…と、前置きしてから銀髪のアーチャーは続ける。

 

「だからまあ、普通の聖杯戦争だとクラス名で呼び合うんだよ。

 ダ・ヴィンチちゃんなら分かってると思ったんだけどなぁ…だって万能の天才って自称してるんだし…」

『うぬぬ…言われるまで失念していたよ…というか、何で私の真名を知ってるんだい?』

「企業秘密だね! でも、アーチャーさんの目には丸っとお見通しなのだー」

 

 悔しそうなダ・ヴィンチちゃんの声を聞くのは、随分と久しぶりな気がした。

 

「だから私たちの呼び名は、簡単にアーチャーとセイバーって呼べばいいよ。詳しい理由を説明には、この特異点を説明してからが楽なんだけど……あちゃー、囲まれてるや」

「絶対このマスターを狙ってるよな…」

 

 アーチャーがあちゃー…いや、なんでもない。

 

『すみません先輩、落ち込んでるダ・ヴィンチちゃんが面白くて目を離してました! 先輩の周囲を、大量の熱源が囲んでいます!』

 

 双剣を構えたセイバーと、背負っていた筒を担いだアーチャーの背後で耳を澄ませると、獣の唸り声が確かに聞こえる。

 

「さてと、カルデアのマスター。仮契約で悪いけど、一応あなたをマスターとして考えるから。指示は任せた!」

「上手く俺たちを使えよ?」

「はい!」

 

 そして、この特異点に来てから初めての戦闘が始まった。




次回
拙者にときめいてもらうでござる






アーチャーの詳細設定(知名度補正全開)

・銀の長髪
・背は高くない。寧ろ低い
・その胸は、平坦であった
・メカメカしい、ガラスの嵌った巨大な筒を持っている。バズーカ砲みたいな感じの持ち手

【ステータス】
 筋力 : D 耐久 : C 敏捷 : C 魔力 : A++
 幸運 : D 宝具 : EX

【クラス別スキル】
 対魔力 : B
 単独行動 : EX

【保有スキル】
 万里の魔眼 : A
 千里眼:A と 魔術:A と 魔眼:A の複合スキル

 天賦の叡智 : B
 並ぶ者なき天才の叡智を示すスキル

 心眼(真): C

 道具作成(偽) : A

 大◼︎◼︎◼︎ : A
 ーlockedー

 神性 : C

 無限の魔力供給 : B

【宝具】
 ーlockedー
 ーlockedー

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