予想通りではあったけれど、右脚が砕けてしまったので左足だけで血溜まりの中に着地。バランスを崩しそうだったので、大鎌を杖代わりにして身体を支える。勿論、危ないから刃の方が下だ。
「あーいったいなもぉー!!」
バチャバチャと壊れた蛇口の様に血を噴き出す右足にとりあえず回復魔法を掛けて止血しつつ、英雄王を蹴り飛ばした方向を見つめる。
手応えは十二分。けどどうせエリクサーで回復してるから十分なダメージにはなっていないだろう。つまり私の足は完全に無駄死に。禿げろ英雄王。
『また、髪の話してる…』
「まだ1回目だからね!?」
ベタなネタを入れてきたティアに対応しつつ、本格的にどうしようか悩む。このまま削り合いをしてもいいけど、その場合100%冬木市新都は聖杯の泥より深刻な被害を受けるだろう。それは、このほんの少しの戦闘で吹き飛んだ建物が物語っている。勿論そんな事は望んでないから、やるとしたら手段が限られるんだけど…
『きゃ、キャスター、足が……』
そんな事を考えていた私に、マスターが凄く心配そうな声音で話しかけてきた。…流石に、目の前で自分のサーヴァントの足が血とかをばら撒きながら爆散したらそうなるか。
「安いもんだよマスター、ギル様にあそこまでダメージ与えたんだし。私は全然気にしてない…っていうか、寧ろこの元自分の右足を素材に何か作りたい」
『シャンクスの真似してる場合じゃないでしょ!』
そう言うマスターの声は、まだ若干震えている。私としても足はどうにかしないと戦えないし、何か場を和ませる良いネタを…よし思いついた。無言で展開していたナノゴーレムを集結、形成し私は自分の右足にある物を纏わせた。
「マスター見て見てー。じゃーん、右足だけメルトリリス!」
『…心配して損した。ダメだこのキャスター』
足を高く掲げた私だったけど、マスターにはどうやら不評だったらしい。仕方なく元の自分の足の形に形成し直し、余った部分で自分の身体だった物を回収させながら門内に撤収させる。
「まあいっか。それより性能確認しなきゃ」
ガンガンと足を道路に打ち付け、指だった部分をぐーぱーと動かしてみて動作を確認する。硬度は十分、操作性も良いし、感覚もある。うん、これなら問題無さそうだね。
「後はこの中に門を開いて…よし、これで完成!」
飛び散ったり攻撃に使って消耗しても問題ない様に門を繋げ、即席の義足が完成する。光を吸収する黒色の義足と銀灰色の防具のコントラストは、見てるとなんだかロイドを思い出して懐かしい気分になる。
「義手義足でお揃い…イイネ」
『ひぇっ』
何かマスターが悲鳴を上げて逃げたけど、私だって別に理由もなく切断とかはしない。どこぞのクリミアの天使(狂)でもあるまいし。寧ろそんな事にならないよう手を尽くす側だ。物の作り手としても、癒し手としても。
「さてと、マスター。私がもう戦えなくなったら、遠慮なく令呪で例の命令出してね?」
そう言って私は返事を聞く前に再び全身を強化、一目散にこの場から逃走する。瞬間、降り注いだ黄金の雨が、寸前まで私がいた道路を灰燼に帰した。
「ふはははは! 先程の一撃は良かったぞ! だが
「ああもう! やっぱりこうなるの!?」
続いて私を追って飛来する黄金の宝具の雨。少し目線を上げれば、そこには上半身裸の英雄王が『
「ティア、詠唱お願い!」
『了解』
道路にこれ以上被害を出すのもアレなので、空中を蹴りビルの屋上付近まで上昇、ある一方を目指して私は逃走する。そしてそれと同時に、私は自分の宝具の詠唱を、ティアは魔術に堕とした魔法を詠唱してもらう。
私が唄いあげるのは、自らの渇望をこの世に流れ出す為の祝詞。幾万と唱えたこの言葉に被せて、この作戦の肝となる詠唱をティアが初める。
『その男は墓に住み あらゆる者も あらゆる鎖も あらゆる総てをもってしても繫ぎ止める事が出来ない』
ドクンと世界が脈打ち、世界が書き換えられる予兆が感じ取れた。ティアが唱えるのは、獣殿の創造の詠唱。覇道共存は出来ない? だからさっき言っただろう。私のは創造だけど、ティアのは魔術に堕としたパチモンだって。
「逃げるばかりで、先程までの勢いはどうした!」
『彼は縛鎖を千切り 枷を壊し 狂い泣き叫ぶ墓の主』
英雄王が何か言ってきてるけど、今はハッキリ言ってそれに対応する暇が一切ない。目的地が効果範囲内に収まるまであと少し、そこまで行けば少しは私に勝ち目も出てくる筈だ。
宝具の雨が、道路や建物を粉微塵に破壊していく。私も踏み込むたび壊してはいるけど、それに比べたら微々な物だ。
『この世のありとあらゆるモノ総て 彼を抑える力を持たない』
直撃コースにあった宝具に停滞の波動を浴びせ、大鎌で斬りはらい回避する。そして漸く見えてきた冬木市市民会館。上空に聖杯の穴は確認出来ず、セイバーの姿も確認出来ない。ならそろそろ頃合いだろう。
『ゆえ 神は問われた 貴様は何者か
愚問なり 無知蒙昧 知らぬならば答えよう
我が名はレギオン』
完全に同じタイミングで詠唱が終わる。市民会館、射程範囲。英雄王ギルガメッシュ、射程範囲。魔力、十分。術式に綻びなし!
「
『
私の貯蓄を全て吹き飛ばす程の魔力が膨れ上がり、停滞の世界と共に苛烈な黄金の光が世界を侵食した。
別に私は獣殿じゃないから、この場には戦死者の城は存在しないし、
「くはは! 貴様程度が新たな世界を流れ出そうと試みるか! たかが1柱の神の寵愛を受けている程度で、思い上がるでないぞ!」
何かが癇に障ったのか、弾幕の様な勢いで降り始めた宝具の中私は英雄王に反論する。
「別に私は世界を流出させようなんて思ってないよ。けど、ここでもないと全力で戦えないからね!」
そう、私がこの魔術を使ったのは「全力を出したい」それ一点のみ。この願いにおいて、この魔術以上に適切な物があるわけがない。だって、ここでなら何をしたっていいのだから。
ああ、そうか。アレを言うなら今しかないね。
「いくぞ英雄王ーーー武器の貯蔵は十分か?」