-追記-
代わりにバレンタインのは用意終わりました。
誰もがこの状況に注目する中、今まで煩いほど鳴っていた音が突然ピタリと止んだ。
周囲に満ちていた濃霧が中途半端に限界している門へと収束し、杖を掲げるティアさんの姿に、一瞬だけ
「えぇ…なにこの演出」
私がため息を吐き半眼で見つめる中、門がバンッと内側から弾け飛ぶ様に開かれた。その奥に広がる宇宙からは、明らかに見ちゃいけないと判断して即座に目を逸らす。この奥を見た馬鹿は、きっとSAN値が一瞬で消えるんだろうね。
「凄くカッコよく蘇生してもらって悪いんだけど」
門の奥から、不思議に反響する女の子の声が聞こえた。
「今夜はもう戦うつもりはないんだよね……まあ、安全は確保しておかないとだから、少しだけやるけど」
その声が聞こえた瞬間、切れていた自分のサーヴァントとのリンクが回復した。その事に安心感を覚える間も無く、固有結界の空に幾つもの歪みが出現し…その全てから鋭い銀光が出現する。それらは全て武具であり、低ランクではあるが紛れも無い宝具。つまり、それは間桐邸を壊滅させた攻撃の再現であった。
「天より降れ、我が
その宣言が聞こえた瞬間、鋼の雨が大地を襲った。剣、槍、斧、槌、鎌、刀、十手…宝具属性を持ったそれらが幻想の大地に突き刺さり、何もかもを巻き込み大爆発を引き起こした。
そしてその閃光が収まった時、全てが泡沫の夢であったかの様に、景色は元の夜の廃墟へと立ち戻っていた。
「いやぁ、座からとんぼ返りってこんな気分なんだね」
そして、すぐそばの門が存在した空間に、どこかスッキリした顔のキャスターが出現していた。なくなったはずの棺桶も、感じる魔力も万全のものである。
「な、ななな、なんでキャスターが復活してるんだよ!」
その事に何の感慨も覚えず、服を軽く引っ張っえ覗き込み下着にまで入り込んでいた砂が消えてる事に驚く私の隣で、ウェイバー君が叫んだ。
まあ、叫びたくなる気持ちも分かる。自分のサーヴァントが倒した筈の敵サーヴァントが、無傷で復活とか叫ばないとやってられないよね。
「私の宝具で蘇生させた。以上」
「インチキ効果もいい加減にしろぉ!」
ティアさんとウェイバー君が言い争ってる中、横目で見て私の安全を確認したキャスターは、ほんの少し前に自分を殺したライダーに向き直る。
「さっきぶりだね征服王、まさか躱された上に踏み潰されるなんて思ってなかったよ」
「思ってもみなかったというのは余の方だぞキャスターよ。決着をつけたと思っておったら復活するとは、正直洒落にならんわ」
そう話すライダーにもキャスターキャスターにも殺気は無く、互いに武器を納めている。そんな事言ったら、12回は復活するヘラクレスなんて化け物もいるんだけど…と、それは置いておいて。
よく分からないけど、これはもう停戦って事でいいのかな?
「それでまあ確認するけど、私は一度負けたわけだし今日はもう戦うつもりはないんだけど…そっちはどうする?」
「今の状態からお主を相手にもう1度事を構えるとなると、今の余は些か以上に消耗し過ぎておる。そちらが引くというのなら、引き留める理由はないわい」
はぁ…とライダーがため息を吐く。普通に消耗してるライダーと、パスから繋がってる感じだと万全のキャスター。よっぽどの馬鹿じゃなきゃ、この状態で事を構えようとはしないよね。
停戦を確信して安心した瞬間、私のお腹が可愛らしいくぅ〜という音を鳴らした。シリアスな空気漂うこの場に良くその音は響き、鏡を見ないでも顔が真っ赤になったのがわかった。
「それじゃあ、ウチのマスターも限界みたいだしお暇するとしますかね。ほらマスター、こっちこっち」
そう言って、戦闘時のキチガイぶりが鳴りを潜めているキャスターが私を手招きする。正直行きたくないけど、帰るにはいかないといけないし…
「うん」
目に溜まった涙を拭い、消え入りそうな声で返事をしてキャスターの元へと向かう。そしていつもの如く異界にレッツゴー。そしてそのまま、私はパタリと地面に倒れた。
お腹すいたし、全身筋肉痛だし、魔術回路はズキズキ痛むし、仮装宝具を全力展開してるのももう限界だったりする。さっきみたいな嘘泣きじゃなくて、もう本当に泣きたい。
『あ、そうだ。私としたことが、負けたのに何もせずに帰るところだった』
私の意識が夢の世界へと落ちていく中、現実世界でキャスターがそんな事を口にした。何か良くないことな気がする。
『絶対に分からないと思うけど、私の真名教えとくよ。我が名はイオリ、姓はキリノ。しがない未来の神殺しだよ。この格好から、生前は不死ちょ…こほん、死神の通り名が有名だったよ。どうぞお見知り置きをってね』
「それ、ひびき、じゃん…」
キャスターの名乗りに、銀髪なのもあってか棒ゲームの艦娘が思い浮かんだ。というかモロだった。バーサークキャスターで、フリーダムキャスター…だと。鍋被せなきゃ(使命感)
そんなしょうもない事を考えながら、今度こそ私は夢に堕ちて行った。すぴぃ…
◇
「それじゃあね、征服王とウェイバー君。次相見えた時は、遠慮なく潰しにいくからー」
そう言って私は手を振り、ティアに任せて例の貯水槽へと転移する。戦ってる時に私がやった行動とか、消滅してからほんの少しだけいた聖杯内とか話したい事はいっぱいあるけど、今はそれよりも先にしないといけない事がある。
「『
ティアの宝具の特性のお陰で、真工房が起動したままの異界への扉を開く。これからの事を話すよりも先に、先ずはマスターに謝らないとね。
「マスター、さっきはいきなり放り出してゴメンね。マスターごと消滅するのは、何が起きるか分からないから…って、あらら」
そう言って異界に足を踏み入れた私を迎えたのは、弱々しく燃える宝具を纏いグッタリとしているマスターの姿だった。どうやら疲れ切って寝ちゃっているらしい。
「よいしょっと。凄い軽いなぁ…って、ロイドも私をこうした時に言ってたっけ」
懐かしく愛しい記憶を思い出しながら、マスターをお姫様抱っこして布団へ運んでいく。ついでに《クリーン》の魔法…じゃなくて魔術を使って、マスターを軽くシャワーを浴びた程度まで清潔にする。
幼女が幼女をお姫様抱っこという頭のおかしな光景だけど、サーヴァントのぱぅわーを舐めちゃいけない。そのまま難なくマスターを布団に寝かせ、毛布をかけてあげようとした時に気付かされた。
「ママ…パパ…」
何やら魘されているマスターが、そんな言葉を漏らしていた。小さい頃のテンションのせいとはいえ、凄く悪いことしたなぁ…
「マスターの本当のお母さんじゃなくて悪いけど…お疲れ様、愛鈴。また大変な事に巻き込んじゃうけど、今は、今だけはゆっくり休んでね…」
魘されるマスターの隣に座り、優しくゆっくりとしたリズムでポンポンとマスターを叩く。少しの間続けていると、マスターの寝顔が苦しそうなものから安心した様に変わった。後はマスターの無限収納からお気に入りっぽかったイルカのぬいぐるみを取り出し、マスターが抱きつける様に置く。うん、これで良し。目が醒める時は、少しは気分が良くなっていることだろう。
「さて。それじゃあマスターは寝ちゃったけど、これからどうするか話そっか、ティア」
「了解。こっちも聞きたかった事がある」
マスターのすぐ隣に座る私の前に、霊体化していたティアが出現する。ああうん、やっぱりかなり消耗してる。
「気にする事じゃない、あの宝具はそういうもの。それよりも、間に合った?」
「うん、問題なく。きっと聖杯が表面張力か何かで踏ん張っててくれたのと、ティアの蘇生が早かったのもあるしね」
私とティアが心配してたのは、この時点で聖杯が溢れちゃう事だ。原作で泥がどばーしたのは、残りがセイバー、アーチャーの二騎になった時。そう考えると一騎分余裕があったから平気に思えるけど、キャスター枠の私は自分で言うのもなんだけど規格外だ。
霊基は私とティアで1.5騎分だし、聖杯に匹敵する魔力炉心も確保している。だからまあ、さっきは中々にギリギリだった。アイリスフィールに効いてた早めのアヴァロンと、ティアによる高速蘇生のお陰で溢れなかったに過ぎない。
「それで、霊基に異常は?」
「あるわけ無いじゃん。バーサーカーの適正も、アヴェンジャーとしての適正も持ってる私が、たかだか聖杯の泥に触れただけで汚染されたら笑い者だよ」
ケイオスタイドに触れた場合、どう頑張ってもダメになっちゃうだろうけどね。ビーストは例外中の例外だ。
「マスター、バーサーカーじゃなかったの?」
「れっきとしたキャスターだよ!」
アッサリと掌をクルーテオ卿したティアに、精一杯抗議する。
こんな和気藹々とできるのは、多分これが最後になっちゃうんだろうなぁ…なんとなく、そんな気がするのだった。