-追記-
相変わらずいるBadアンチネキ…
狂ったようにケタケタ笑い、キャスターが大鎌を振り回して魔術を乱れ撃つ。その後ろを妙に現代風な格好のティアさんが、同じく魔術を使いながら追従する。
『あははは、楽しい楽しい! 私は今、生きている! 死んでるんだけどね!』
『はぁ…これだからマスターは』
「なぁにこれぇ?」
映像越しに見るキャスター達の戦いに、私はそんな声を漏らす事しか出来なかった。
開始直後の宝具と大魔法を使ってた時の様な派手さはなりを潜めて、だけど逆にキチ度が秒単位で上がっている。ブケファラスに乗ってるライダー本人はやりにくいからか、ただ単に遠いからか避けてるみたいだけど、そのほかの
『開け銀の門、全砲門開錠! 吹き飛ばせ
『
『宝具開放。いあ、アトラク=ナチャ。蹴散らせ、ショゴス、狩人』
並み居る英霊の攻撃を避け、掻い潜り、槍を両断し、キャスターが反撃として自身の大鎌で首を刈り取る。その間にも、背負う棺桶に展開した門から顔を覗かせる銃剣やら重機関銃やらパンツァーファウストやらが、一切の容赦なく周り全てを吹き飛ばしていく。神秘の込められたその現代兵器群は、1つ1つがサーヴァントであろうが一撃で重傷に十分な破壊力を持っていた。
そんな鉄の暴虐を生き残った
どこからともなく現れた巨大な蜘蛛の巣が兵士たちを絡め取り、どこからか染み出した玉虫色の何かが奇怪な声を上げながら這いずりまわり拘束し、動きの止まった者から門から発進した羽の生えた黒い大蛇の様なモノが食い散らかしていく。
どう足掻いても余裕のSAN値チェックですねわかります。というかさっきからダイスを振って見てるけど、2分くらいでSAN値が0になった。酷い。
『アハハハ!! いーいじゃん! 盛り上がって来たねぇ!』
『あ、マズイ』
キャスターの背後を守りながら戦っていたティアさんが、キャスターの狂気の混じった声が聞こえた瞬間急激に距離を取った。その理由が私には分からなかったけど、数秒後に否が応でも理解させられてしまった。
ーー不明なユニットが接続されましたーー
ーー
ーー直ちに使用を停止してくださいーー
「うそん」
今私のいる異界の中に響いたノイズ混じりの音声は、正直聞き間違いであって欲しかったものだった。それは全てを焼き尽くす暴力の起動した合図、
『ヒャッハー!! ファンタスティーック!』
キャスターの背負う棺桶の周りを覆う様に展開された、2つの13×5列のパルスキャノンユニット。つまり合計130門の砲門から一斉に光が射出された。
威力? あぁ、キャスターを中心に一定範囲が綺麗に消し飛んだよ? まだ『
『んん? 壊れた? まあいいか! そぉれ『
キャスターが自らの背負う7つの棺桶の内、一つを遠く離れた敵陣へと投擲した。そして巻き起こる大爆発。もう全部キャスター1人でいいんじゃないかな? いやこれは喋っちゃいけない。いったら最後、艦載機も飛ばし始めてキャスターがレ級になる未来が感じ取れた。
「うわぁ…何この時代を先取りした兵器祭り」
そう呆れる私の前で、反動でか分からないけれど動きの止まっていたキャスターへ
『いあ、くとぅるふ』
地面に滲み出た大量の水の中から出現した、ヌラヌラした鱗に覆われた巨大な鉤爪のついた腕が貫いた。神話生物というか旧支配者を呼び出せるのはティアさん以外この場にはいない。なんというか、凄い連携だと思いマスヨ。
『マスター、聞っこえるー?』
「え、うん。どうかしたの? キャスター」
唐突に素面に戻ったキャスターが、大鎌を振り回しながら私に話しかけてきた。何か問題でもあったのだろうか?
『とりあえず、前渡したお札は持ってるよね?』
「うん、いつ何があるか分からないからね!」
私の無理矢理覚えさせられた物を仕舞っておける空間を作り出す魔術。それで生み出した空間の中に、私は色々なものを仕舞ってある。愛用のスリッパとかヌイグルミだったり、前世の知識ノートだったり、今キャスターの言ってた呪符だったり。でもそれがどうか……あ、なんだろう私の直感が逃げろって言い始めた。
『そっか、ならマスターも混ざろっか! 仲間ハズレは良くないしね!』
「キャスター、ちょっまっ、何をする気!?」
『いやいやぁ、ちょっとお手伝いをねぇ!!?』
急いでこの場所を離れようと立ったけど、時既に遅し。足元に開いた門から私は、戦場の真っ只中に放り出された。
…はい?
◇
場所は変わり新都郊外の廃工場。時を同じくして、こちらでも激戦が繰り広げられていた。
セイバー原作と違い左手を取り戻していないというのにその状況は拮抗していた。がしかし、その内容は初戦の再現には程遠く、より苛烈な力と力のぶつかり合いの様相を呈していた。
「どうしたランサー、攻め手が甘いぞ!」
幾ばくか生気の戻り始めたセイバーが、片手には重すぎる筈の長剣を振るう。普通であれば軽く鈍くなる筈の剣戟であるが、今のセイバーが振るう剣には両の手で扱う時と同様かそれ以上の力が込められていた。
「見破ったぞセイバー。その膂力の源はその黒い長剣だな!」
「そうだ、置いていった相手こそ癪に触るが、我が友の剣が今の私に力を与えてくれている!」
ランサーの推察通り、キャスターが置いていった『
宝剣と魔槍が鎬を削り百花繚乱の火花を散らし、ただの踏み込みや空振りが廃工場を荒廃させていく。一合、二合、四合、八合…最早肉眼では捉えきれぬ程剣戟を交わし、両者は距離を開け互いの間合いから離脱する。
「やはり貴方との手合わせは心が踊る。此度の聖杯戦争に呼ばれてから、これ程心が晴れやかなのは初めてだ」
「かの騎士王にそう言われるとは、どうやら俺の槍はまだまだ捨てたものではないらしい」
そう言うランサーの言葉にセイバーの顔が少し歪む。ランサーとしては、キャスターの不意打ちにより使えるべき主を守れず、瀕死の重傷を負わせてしまった事への自嘲であったが、セイバーにとっては不快な事であるようだった。
「ランサー、何もそう自分を卑下する事はないだろう。貴方の槍の冴えは素晴らしいものだ」
「いいや、俺は既にマスターを刃に晒してしまった。幾ら不意打ちだったとは言え、これは看過出来ない失態だ」
「ここでも、キャスターが関わるのか…」
セイバーは虚空を見つめそう呟く。あり得ないほどの矮躯に煌めく銀の長髪。ただの女の子のような死神のような、どうにも掴み所のない…簡単に言えば訳のわからないサーヴァント。
そんなキャスターが色々な状況を引っ掻き回している事を思い出し、そのような些事を頭から追い出しセイバーは剣を構え直す。
「さあ、お喋りはここまでだ。構えろランサー」
「ふっ、それもそうだな。元より我らに会話など必要あるまい」
双方とも己が宝具を構えなおし、互いに微笑を浮かべる。そして、あと数秒で剣と槍が再び舞い踊る寸前、パンパンパンパンと計4回のくぐもった破裂音…即ち銃声が夜の空気を震わせた。
「ケイネス殿! ソラウ殿!」
次に響いたのはランサーの叫び。焦燥の顔で背後の朽ち果てた工場を見た事から察するに……たった今、余りにもあっけなくランサーのマスターの命は散らされ、時計塔の天才魔術師とその許嫁は帰らぬ人となったようだった。
ケリィ「やったぜ」