「さあライダー、約束を果たしに来たよ。邪魔は入らないだろうし、存分に殺り合おっか!」
「警告。ライダーのマスター、死にたくなかったら、離れるかライダーに守ってもらうといい。私達は、直接貴方を狙わない」
突然現れ攻撃を仕掛けて来たキャスター
「クラスの無いサーヴァント、だって?」
「今日は本気だからね。それに、宴が終わったら存分に殺り合うって約束したじゃん!」
子供が約束をすっぽかされた時の様にぷんぷんと怒るキャスターだが、その手の死神が持つ様な大鎌とキャスター自身から発せられる異常な密度の魔力によって印象は台無しである。
「ああもう! 戦ってやるから少し待て!」
「え、本当に? イェーイ!」
幼女と言える年齢の2人がハイタッチしている光景は微笑ましいのだが、一旦その事は追い出しウェイバーはライダーに問いかける。
「ライダー、宝具の様子は?」
「残念ながら『
嘘だろと言い返したいところであるが、現在進行形で魔力に解けていく現物を見せられてしまっては何の反論もできない。外れクラスと言われるキャスターであるが、目の前のサーヴァントはやはり色々と規格外の様だ。
「勝算はあるか? ライダー」
「分からん。他の奴らと違い、キャスターに関しては情報があまりにも足りんわ。だがまあ、そうさなぁ…」
ニヤリと笑って、征服王は言い切った。
「余のもう一つの宝具であれば、十分に、ある」
◇
「あ、やっと準備終わった?」
ウェイバー君に待ってと言われたから待つ事数分、ようやくライダーが前に出てきた。そろそろ待ちくたびれでこっちから仕掛ける所だった。
「キャスターよ、お主も宴会にて王を語っておったよな?」
「うん、私が知ってる王様の例を出しただけだけどね」
私がそう返答する直前、一陣の旋風が吹き込んだ。
それは、こんな夜の廃墟ではあり得ないはずの焼けつくような風だった。
この現象を私は知っている。元々知っているイスカンダルの宝具ってだけじゃなく、私の夫の宝具も固有結界。だから何よりも親しんだ宝具であり、何よりもその強さを知っている宝具。
だからこそ、今からそれに挑むという事に心が踊る。
「ならば問おう。王とは孤高なるや否や?」
「いいや、例外はいるにしろ王は孤高じゃない!」
「民や臣に慕われてこそ、王」
勢いを増して逆巻く熱風の中、マントを翻し立つライダーに即答する。ティアってそういえば副王だったよね…正直アザトースには関わり合いたくないけど。
「フハハハ! どうやらセイバーよりは話が分かるではないかキャスターよ。ならばしかとその目に焼き付けるが良い、真の王たる者の姿を!」
吹き寄せる熱風が、ついに現実を侵食し、覆す。
照りつける灼熱の太陽。晴れ渡る蒼穹の彼方、吹き荒れる砂塵に霞む地平線まで、視野を遮るものは何もない。
「固有結界、だって?」
『カッコイイ…』
ありふれた廃墟から一瞬で変転したここには、今は私達とライダー達の4人(+門の中に1人)しかいない。だけどここからが本番。ウェイバーくんの驚愕も、マスターの感嘆も一切気にならない。さあ、来るぞ無双の軍勢が。征服王の朋友が!
「ここはかつて、我が軍勢が駆け抜けた大地。余と苦楽を共にした勇者達が、等しく心に焼き付けた景色」
足音が聞こえた。一つじゃなく、二つ、四つと倍々に音は数を増しながら隊伍を組んでいく。実際に目のあたりにすると、エクストラクラスって言われても間違いない宝具だね、これ。私の宝具と比べて、死ぬほどかっこいい。
「この世界、この景観をカタチにできるのは、これが我ら全員の心象であるがゆえに」
軍神がいる。神がいる。英雄がいる。王様がいて、その誰もが掛け値無しの大英雄。両腕でその軍勢を振り示す征服王は、まさに真の王だった。
「彼らとの絆こそ我が至宝! 我が王道! イスカンダルたる余が誇る最強宝具ーー『
「納得した。大マスターが、惚れたと言ってた訳が」
『でしょでしょ! やっぱり、すごーくカッコイイよね! ね!』
人の頭の中で会話しないでほしい。私は征服王の演説を聞いてるんだから。ほら現に我慢しようと思っていたのに、どうにも口の端が釣り上がり笑顔になってしまう。
「さて、では始めるかキャスターよ」
「そうだねライダー。だけど私は、一方的な蹂躙なんて受けないよ?」
「同意。たかが2対数万。あの戦いよりは、マシ」
ティアと顔を見合わせ、改めて戦闘態勢をとる。魔力は十二分。ここからじゃブケファラスに乗ったライダーと目を合わせられないので、2人して中に浮かぶ。
最後の戦いは別だけど、どうあっても強敵と戦うのはニヤニヤが止まらない。ライダーは別の意味でニヤついてるのか分からないけど、そんな事より戦だ戦!
「蹂躙せよ!」
「やるよティア!!」
「合点承知」
征服王がキュプリオトの剣を振り下ろし、私達を蹂躙すべく突撃してくる。目には目を歯には歯を…ではないけど、覇道には覇道だ。
私はまっすぐに持った大鎌をギュッと握りしめ、最初の一句を詠む。
私を中心に無色透明の波紋が広がり、ほんの僅かに世界が停滞する。このままじゃあと十数秒後にライダーの軍勢が私達を蹂躙するだろう。でも、私の『創造』を舐めてもらったら困る。
あと数秒でライダーが私に届く。その時になって、漸く詠唱が完了した。この身体だった時より遥かに強度の増した覇道創造、座の本体じゃないからかなり弱体化はするけど受けるがいい。
「
詠唱が終わった瞬間、目に見えて世界が停滞する。砂埃や熱風がコマ送りの様な速さとなり、ライダーに付き従う軍勢の6割程も同様に極めて停止に近い停滞に陥った。
巻き込まれていないか効き目が薄いのは、軍略スキルでも働いているのか征服王本人と、対魔力が高そうな
「ティア、サポート任せた!」
「はいはい」
引き続き響き轟く鬨の声の中、私は移動や防御を全てティアに任せて呪文を唱える。流石に世界一個を巻き込む『創造』を使いながら他にあれもこれもと並行して作業するのは、生前なら兎も角サーヴァントになった今ではスペック不足だ。魔力があっても、こればかりはどうしようもない。
だからこそ役割を分担する。魂まで同化してる、長年連れ添った相棒だからなんの心配もせずに全てを任せられる。連れ添ったとは言ってもティアとはキマシタワーもカ・ディンギルも立たない健全な関係なのであしからず。
「最果ての地に住む熾凍の古龍よ 汝が息吹 今ここに再臨せん!」
ティアの魔ほ…魔術で移動させてもらいつつ、飛んでくる槍を防いでもらう私の目の前に、5つの魔法陣が形成され輝き始める。スペック不足なせいでこんな詠唱をしないといけないのは恥ずかしいけど、今は気分がノッてるから無視無視。
「轟け『
目の前に浮かぶ魔法陣が収束し、そこから私1人分程度の紫色をした光線が軍勢の中に放たれた。それが中空で7つに枝分かれし、低出力なせいで狭い範囲内で炎と氷の竜巻を発生させた。
「改めて始めよっかぁ! 2対万での大戦争を!! アハ、はハハ、あははハははッ!!」
我慢の限界で狂ったように笑う私の前で、竜巻の範囲内に巨大な氷柱が発生、それを落下してきた一発の隕石が砕き貫き炎の地獄を作り出した。まあ
『…ティアさん、なにこのキャスター』
「お薬もとい、IKUSAガンギマリ状態。偶に、鍛冶しててもこうなる。狂化スキルを持つ
『アッハイ』
ウェイバーちゃんからも征服王からも、挙げ句の果てにはマスターとか
あ、そうなんだ。で? それが何か問題?
相手の固有結界で書き換えられた世界を、書き換えられた後の原型を完全に残しつつ自分の宝具で別の世界法則に塗り潰すキチった行動。そしてガバガバなドイツ語…だったかな?読めません。
でもサーヴァントだからかなり弱体化してる模様。