なんとなくFate   作:銀鈴

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※作者にUTSUWAが決まり始めた末のサブタイ。あとstay night 買いました。
なんだか最近、術じゃなくて讐で召喚した方がイオリの戦闘力は高い気がしてきた。


王のUTSUWA

 征服王が手綱を取る戦車の上で、私から見ても明らかにウェイバー君は疲れ切っていた。頭を抱えていた。ライダーの破茶滅茶な行動に慣れてないっていうのもあると思うけど、今に限っては確実に他の事が原因だった。

 

「いやー、風が気持ちいいねマスター」

「そうだね! あららららーい!」

 

 そう、どう考えても私達が原因である。走る戦車の後方の空間に浮かぶ幼女×2が片方はこの状況に興奮して叫んでおり、もう片方はキャスターのサーヴァントだ。平常心でいられる訳がない。

 マスターがこんなにはしゃいでるのは、本人曰く4次の中で一番イスカンダルが好きな鯖だからだろうし、昨日やらかした私が止める事は無い。寧ろ私は思いっきりサポートしている。

 

「普通の幼女だと思ってた僕が馬鹿だったんだ…偶然とはいえ、何せあのキャスターのマスターなんだぞ? マトモな訳がなかったんだ…」

「よく分からないけど、うちのマスターが征服王の事を凄く気に入ったみたいでね。正直この魔術使うのって疲れるから、マスターだけでもその戦車に乗せてあげてほしいよ」

 

 私はため息を吐いてそう言う。別に魔力が減る訳じゃないけど、集中力は削られるのだ。高ランクの気配遮断をもってる鯖なら、多分私の警戒網を抜けて来られるくらいには。

 

「バカな事言うなよキャスター!この戦車はライダーの宝具なんだぞ? それに敵のマスターを乗せる訳ないだろう!」

「ま、そうだよね」

 

 誰しも自分の切り札を晒したくはないだろう。かく言う私も『もう1つの世界(アナザーワールド)』を隠すために、わざわざマスターの隣で行動してるんだし。

 

「そのわけ分かんない魔術でついて来れてるんだから問題なんてないだろう! そもそも、敵のサーヴァントが疲れるなら僕としては大歓迎だ!」

「わけ分かんなくないよ。ただ自分と対象にした物体との距離を固定してるだけだもん。そーたいきょりって言うんだっけ? 簡単でしょ?」

「キャスターのサーヴァントが疲れるっていう魔術が、現代の魔術師がそう簡単に使える訳がないだろばかぁ!」

 

 この微妙な雰囲気をどうにかしようと話しかけても、常識のズレからこの有様である。多分うちのマスターなら、もう少し鍛えれば使える様になると思うんだけどなぁ…この魔術。

 

「近づいてきおったぞ」

 

 その言葉で私達3人は正面を向く。勿論見えてきたのはアインツベルンの森。原作にあったジルの襲撃が無かったからか万全の結界が張り巡らされ、正直ライダー単騎での突破は簡単ではないように見える。

 

「征服王ー、多分ケリィが対戦車地雷仕掛けてるからこの戦車浮かばせた方がいいよー」

「おおう? それは真かキャスター」

「うん、ほらそことか」

 

 そう言って私は、この前征服王に見せた飛ぶ斬撃を地面に放つ。瞬間、その場所が大爆発を引き起こした。ライダー組は戦車の力場に守られてるし、私も自爆なんて愚は犯さないけど、これで危険性は十分に示せただろう。

 なんかマスターはエキサイトしてるけど、ウェイバー君はそうはいかなかったらしい。ライダーの背中に掴みかかり叫ぶ。

 

「やっぱりアインツベルンでやるなんて無理だったんだよ! あんな大結界に地雷なんて、いくらお前でも無茶だぁ!」

「だがなぁ坊主、地雷とやらは飛べば無いのだろう? それに見ろ、例の大結界はそこのキャスターが壊してしまったぞ?」

 

 そうライダーが指差す通り、数瞬前まで万全を誇っていた大結界は見るも無残に弱体化してしまっていた。そもそもああいう大きな魔術って精密機械みたいなものだし、取り敢えず砂かけとこうぜ!ってノリで誤作動は引き起こせる。そして誤作動が起きれば、必然的に結界は弱体化する。

 まあ、そういう風に干渉する事が難しいんだけど。そこは私のキャスターとしての腕の見せ所だ。

 

「えへん」

「なんなんだよお前達はー!!」

 

 そんなウェイバー君の半ば以上に悲鳴と化した声を響かせながら、結界に侵入し戦車は駆けていった。

 

 

「おぉい騎士王! わざわざ出向いてやったぞぉ。さっさと顔を出さぬか、あん?」

「ぐーてんもるげーんセイバー、面白そうだから付いてきたよー!」

 

 ケイネス先生が来てなかった事により無事だった正門をぶち壊し、ホールまで侵入したライダーとそれに便乗したキャスターがセイバーに向かって呼びかける。

 恐らく切嗣による近代的なトラップを神秘の塊である戦車が蹂躙し、魔術的なトラップはキャスターが鼻歌交じりに無効化していく様は圧巻だった。柄にもなく興奮しちゃうくらいには。

 

「ーー」

「ーー」

 

 少ししてからこの場を一望できるテラスに現れたセイバーとアイリスフィールは、何かを言おうとしてたのだろうが言葉を失っていた。

 まあ、酒樽を担ぐライダーと口からエクトプラズムを出してるそのマスター。その後方に浮かぶキャスターと、顔を火照らしている謎の幼女がいれば普通そうなる。加えてライダーの服装は大戦略Tシャツにウォッシュジーンズ、キャスターはイリヤコス。私達マスター陣は普段着なせいで、頭痛が痛くなるレベルの混乱がセイバー陣営を襲ってる事だろう。

 

「城を構えていると聞いて来てみたのだかーー何ともシケた所だのぅ、ん?」

「ライダー、貴様はここに何をしに来た?」

 

 気色ばんで呼びかけるセイバーではあったが、この混沌とした光景に眉を顰める。そして無視されたキャスターが若干拗ねている。自業自得だろうに。

 

「おいこら騎士王。今夜は当世風の格好(ファッション)はしとらんのか。なんだ、そののっけから無粋な戦支度は?」

 

 さっき挙げた私たちの服装に対して、甲冑を纏ったセイバーは確実に浮いている存在だった。王は人の心が分からない(ポロローン)

 

「もう一度問うぞ、ライダー。ここに何をしに来た?」

 

 ライダーの性格はこの前の戦闘で思い知っただろうし、この雰囲気と格好、そしてライダーの持つ酒樽を見て分からないなんて、やはり王は人の心が(ry

 

「見てわからんか? 一献交わしに来たに決まっておろうが。ーーほれ、そんなところに突っ立ってないで案内せい。どこぞ宴にあつらえ向きの庭園でもないのか?」

 

 そのライダーの言葉を聞き、セイバーは諦めたような疲れ切ったようなため息を吐く。そしてアイリスフィールと何かアイコンタクトして、キャスターに向き直る。

 

「ライダー、貴様の目的は分かった。だが少し待て。キャスター、ならば貴様が来た理由はなんだ? よもや好奇心のみという事はないだろうな?」

「そりゃ勿論。折角の宴なのに、料理が何1つ無いってのは寂しいからね。美味しい料理を作りに来た」

 

 効果音をつけるならドヤァッ! って顔をしてキャスターが宣言する。アイリスフィールが既に疲れた顔をし始めている。この程度で疲れてたら、キャスターの相手なんて無理だよアイリさん。愛鈴(あいり)ちゃん覚えたもん。

 

「セイバーがあの騎士王っていうなら、

アインツベルン(ここ)での食事以外は美味しいご飯なんて食べた事ないでしょ? だから作りに来た。という事で私は厨房に案内して欲しいな」

 

 もうセイバーが最初に放っていた覇気は見る影もない。完全に戦意は静まってるように見える。アーサー王のUTSUWAを持ってすれば、キャスターが嘘を付いてないのは分かるだろうしね。

 

「あの、ちょっといいかしら?」

 

 丁度いい機会とみてか、アイリさんが恐る恐るといった感じでこちらに質問してくる。というか、私を見つめて話しかけてきた。

 

「という事は、もしかしてあなたがキャスターのマスター…なの?」

「はい、まあ成り行きでなっただけですけど」

 

 取り敢えず真面目に私は返答する。成り行きっていうのは間違いじゃないから、セイバーの直感には引っかからない筈である。

 

「はぁ…分かりました。その挑戦、受けて立とうライダー。アイリスフィール、あなたはキャスター達を厨房へ案内してもらえますか?」

「えぇ、別に構わないわ…」

 

 やれやれといった感じでアイリさんが頷く。セイバーのアホ毛がピコピコ動いてたのは見なかったことにしたい。

 そして、このまま聖杯問答の起きる宴会に移行するのかと思った刹那、キャスターが虚空を睨みつけて言った。

 

「多分盗聴器とかがあるだろうから、あらかじめ言わせてもらう。衛宮切嗣! そして久宇舞弥! あんた達がこの宴会の意味を無視してマスター達に手を出した場合、大聖杯ごと冬木も滅ぼすし、全て殺す。そも()らせはしないが、もし実行する気なら相応の報復があると知れ!!」

 

 いつもの舌足らずな見た目相応の言葉使いでなく、敵意と殺意を剥き出しにして放たれたその言葉によって、ロビーが完全に静まりかえる。

 

「なっ、キャスター! 人のマスターを「アイリスフィールさんなら分かるよね? こんな効率の良い敵の排除手段、衛宮切嗣なら見逃す訳がないって」

 

 顔を憤怒に染めるセイバーの言を遮り、キャスターがアイリさんに問いかける。そして、それを否定するそぶりがアイリさんには一切見えない。

 

「まあ何もしてこなかったら、ただの王達の宴になるから心配は要らないよ。私みたいな英雄になることから逃げた奴は、後は大人しく料理人にでも徹するから」

 

 そう言ったキャスターの手元に魔力が集まり、フライパンとフライ返しが出現する。服装もいつのまにか、クマさんのプリントされたエプロンに変わっている。

 でも、王達の宴でセイバーさんのメンタルはメタメタになるよなぁ…一触即発の空気の中、そんな事を考えられるようになった私もそこそこ図太くなってるのかも知れない。

 

「えっと、あの…アイリスフィールさん、厨房に案内してもらっても…良いですか?」

「え、あ、そうね! それが良いわ!」

 

 このままじゃ折角話がまとまったと言うのに、キャスターが大歓喜の状況になりそうな事を察してくれたのか、アイリさんが私たちを手招きする。

 いつ英雄王が爆誕するのか分からないけど、既に雲行きが怪しい。でもこういう時こそあれだろう。常に余裕を持って優雅たれだ。嫌だめだ、トッキーは(多分)死んだ!もういない。

 ならば言う台詞はこうだろう。きっとネタ元の本人が聞いてるけど。

 

「お手並み拝見だ、可愛いキャスターさん」

 

 これから少し後、肋骨を起源弾にされそうになるだなんて事、私は全く考えもしてなかった。

 




チョロっと名前だけ出した複合神性、うちのキャスターさんに組み込まれた神性が10と1つで笑う。ワラウ。0o4(ラフム化)

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