Alternative Ending Final Fantasy XV 作:ナタタク
「…よぉ、久しぶりだな」
雲一つない月夜の下、静寂に包まれる森の中にある古びた小屋についたノクトはノックすることなくドアを開け、中に入る。
小屋の中にはクローゼットと帽子掛け、それから一対の椅子と小さな円型の机があるだけで、寂しげな空間となっている。
そして、窓から外の景色を見ている、白いYシャツと黒いズボンを着た赤髪の男に目を向ける。
「随分と無礼だねぇ。ノックも、ここの主の許しもなしに土足で入ってきてさぁ」
「ここは俺の場所だ。この森も、この小屋も俺の所有物。許可なんて必要ないだろ?」
「生意気なことを言ってくれるね。ノクト。いや、ルシス王国第114代国王ノクティス・ルシス・チェラム殿下」
「ああ…10年ぶりだな、アーデン・イズニア」
名前を呼ばれた男はゆっくりと振り返る。
かつて、プラスモディウム変異体によって苦しむ人々や生物を救い続け、それゆえに『化け物』となってしまい、2000年前のルシス王家によって討伐された、哀れな王子。
しかし、変異体によって汚染されたせいで老いることも死ぬことも許されず、化け物としての生をさらし続けなければならなくなり、ルシス王家を断絶することで復讐を果たそうとした。
そのために20年前、自らに宿った変異体を利用して世界を滅ぼそうとした。
いや、自分の存在を否定したルシス王国、そして世界など彼にとってはどうでもよかったのだろう。
自らの手でルシス王家を断絶させることができれば。
だが、今の彼はノクトに討ち取られたときと比較すると、腰が若干曲がっており、顔のしわも増えている。
シガイが根絶した影響か、彼の中の変異体が失われてしまったのだろう。
「残念だったな、俺は生きていて、ルシス王家も健在だ」
「…だろうね、しかも戦友の妹と結婚して、しかも子供までできちまった」
「ああ。元気に育っているぞ」
椅子に座ったノクトを見たアーデンもゆっくりともう1つの椅子に座り、彼と正面から向き合う。
こうして間近にアーデンの姿を見たノクトは改めて彼の老いを感じた。
「で、どうする?もう1度、俺たちを殺すために動くか?」
「…今の俺に、そんな力が残っているとでも?」
「ああ。お前は2000年も復讐のために準備を続けた来た、執念深い男だからな」
不敵な笑みを浮かべつつ主張するノクトにアーデンは面白くなさそうな表情を見せる。
せっせと続けてきた準備をすべて台無しにした男にそのようなことを言われてもうれしくもなんともない。
そんな彼には一刻も早くここから出ていき、二度と来てもらいたくないとまで思ってしまう。
「…ありがとな、アーデン」
「はぁ?」
わずかな沈黙の中、ノクトの突然の感謝の言葉に動揺を見せる。
「裏があったとはいえ、あんたの助けがなかったら、俺は何も知らないボンクラ王子のままだった。きっと、旅の中で死んでいた」
こうして長い年月が経ったせいか、ノクトは裏もなく本心からそう言うことができた。
きっと、アーデンと正面から戦っているときは決してそんなことが言えるはずがない。
「…じゃあ、俺からも言わせてもらおうかな。なんで俺をこんなところに閉じ込めた?完全に俺を殺しちまえば、王家は安泰、万々歳のはずだろう?」
あの決戦のあと、しいて言えば死後の世界の戦いでアーデンの中の変異体はノクトの力によって滅ぼされた。
そして、カーバンクルの案内を受けて現世へ戻っていく中でノクトに拾われ、今こうしてこの小屋の中に閉じ込められている。
拾われるとき、そしてここに入れられるときには一切抵抗することができず、出ようとしても見えない壁のようなものに邪魔されて出ることもできない。
チェスやコーヒーポッド、料理など望めばなんでもここに出てくるが、退屈な点は変わりない。
アーデンのいう通り、世界とルシス王家を滅ぼそうとした男を生かすメリットは何もない。
むしろ、また復讐される可能性があるため、デメリットしかないはずだ。
「ここがお前の場所なら、俺を殺すのも用意のは…」
「殺さねーよ。いや、もう殺す理由がない」
「なに…?」
「王都での決戦で、お前にとどめを刺したとき、俺の中にあるお前への憎しみが全部消えちまったのさ…。きっと、過去のあんたについてタルコットたちが調べて、俺に教えてくれたからかもな」
「…なら、なおさら俺を殺さないとまずいだろう?何十年たっても甘ちゃんってことか?」
「知ったときはなんでいまさら、そんなことを知ってどうするって本気で思ったさ。だが…今はそれを知ることができてよかったって思ってる。あんたが本当の悪魔じゃない、あんたも善意の中で生まれたんだってことが分かったからな」
確かに彼は世界を滅ぼしかけ、多くの人々を殺した大罪人だ。
だが、最初からそうだったわけではない。
2000年前の彼が変異体から数多くの人々や生物の命を救ったということは紛れもない事実だ。
ゆっくりと立ち上がり、ドアの前まで歩いたノクトはアーデンに目を向けないで口を開く。
「ここでしっかり見ておけ。あんたが滅ぼそうとした王家が、あんたが救った人々の子孫たちがルシス王国を平和な国にするさまをな。じゃあ…もう俺はここには来ねーよ」
ドアを開けたノクトはそのまま出ていこうとした。
「…いいだろう、王様」
椅子から立ち上がり、また窓から外の景色を見始めたアーデンの言葉を聞いたノクトは立ち止まる。
「つまりは、俺を重石にするつもりだな?」
「…」
「沈黙は肯定ってことか?なら、覚悟しろよ?もし、お前がルシス王国を平和な国にできなければ、また何千年かかってでも、王家を滅ぼしてやる。俺が一番満足する形で。少なくとも、お前が死ぬまではずっと、ここから見続けてやる」
アーデンの言葉を聞き終えたノクトは小屋を出ていく。
1人になったアーデンは指を鳴らすと、机の上にコーヒーが入ったカップが出てくる。
再び椅子に座り、コーヒーを飲み始めたアーデンはフッと笑いながらドアの方向を見続けていた。
「ん…」
「おはよう、ノクト。っていっても、すっかり寝坊よ」
「悪ぃな。昨日忙しかったからな」
朝日が差し込む寝室の中、起き上がったノクトは起こしに来たイリスに目を向ける。
「なにか…夢でも見たの?」
「まぁな。まあまあな夢だった。後で話してやるよ」
ベッドから出たノクトはカーテンを開く。
部屋の中はたっぷりと日光で明るくなっていった。
(見てろよ、アーデン)