Alternative Ending Final Fantasy XV   作:ナタタク

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Last Episode プロンプト

再建が果たされた王都インソムニア3階に置かれている人事室で、黒い服を着た男が書類にハンコを押す。

「休暇申請、これで確かに受理いたしました」

「ありがとうございまーす!」

うれしそうにプロンプトは書類の控えを受け取る。

王都が再建し、正式に技術開発部に入って半年。

彼にとっては初めて、まとまった状態でとることのできる有給だ。

「陛下直々の頼みでもありますから…。はあ、ニフルハイム共和国への旅行は、本来であれば受理されないのですが…」

帝政が崩壊し、長らく混乱が続いたニフルハイムだが、最近になって共和制が始めった。

しかし、いまだに帝国再興を夢見る保守派が存在し、共和制を支持する共和派と愛撫対立が起こっていて、終息にはまだまだ年月がかかる。

そのため、現在でもニフルハイムへの入国については制限がかかっており、ノクトの許可がなければ門前払いとなっている。

「ええっと、まあ…ちょっと思い出巡りを…」

後頭部をかき、笑いながら話したプロンプトだが、話の後で目線をそらし、わずかに悲しげな眼を見せた。

 

それから数日後…。

「ほーら、プロンプト。ついたわよ。いつまで寝てんの!」

「ん、んあ…」

女性の声が聞こえ、わずかに目を開いたプロンプトははだしのまま鉛色の床に立ち、大きく背伸びをする。

「まったく、どこかの寝坊助陛下に似てきたわね」

そんなプロンプトを見て、ノクトを思い出したのか、アラネアが苦笑する。

プロンプトにとっては10数年前からの知り合いであるにもかかわらず、彼女は相変わらず若々しい容姿のままで、再会したときに「若作りでもした?」とまで彼に言われたほど。

その時には彼女と部下であるビッグスとウェッジによって袋叩きにされたのだが。

彼女は帝国を抜けてから、アコルド・テネブラエ・ニフルハイムを中心に住民の救助とシガイ狩りをして飛び回っていた。

シガイが絶滅した後はハンター兼傭兵として仕事をし、部下を養っている。

なお、最近になって、自分の戦い方をまとめたアラネア流槍術を作り、それを世界に広めようと画策しているらしい。

「ああ…。で、もう着いたー?」

「数分後にはつくわよ。それで…本当にやるの?」

確認するように、静かな声でアラネアは尋ねる。

プロンプトがいるのはアラネアが所有する飛空艇の一部屋だ。

レスタルムで合流し、そこから飛空艇でずっと移動していた。

「うん…やるよ。あんなのをこの世に残してはいけないからね」

「それは同意できるわ。あんなの…気味が悪いし、後味が悪すぎるわ」

「けど、ありがとね。わざわざ俺の護衛なんてしてくれて…」

「あの王子…いや、王様からのお願いで、報酬もしっかり払ってくれるっていうし、文句ないわ。それに、友達からのお願いでもあるし」

「友達…か」

「何よ?おかしい?」

「ううん。まぁ…そうかもしれないなって思ってさ」

思えば、アラネアとはスチネフの社、しいて言えばヴォラレ基地からの付き合いで、プロンプト達3人はノクトが眠っている間も何度か彼女と共に戦ったこともある。

最初は帝国の人間ということで、警戒することが多かった。

しかし、彼女がもともと他国出身で、傭兵だったこともあるのか、いつでも自然体で自分たちと接し、そのおかげかあの社での戦いの後はすぐに打ち解けることができた。

また、帝都突入の際に移動手段となっていた列車の乗客に避難や運転手の交代に応じてくれた時は本当に感謝したと、ノクトが語っている。

「ふーん。まぁいいわ。じゃあ…先に出てるわよ」

「うん」

アラネアが部屋から出ていくと、プロンプトはホルスターに入れている拳銃の手入れを始める。

シガイが消滅したため、もう魔導兵が動くことはないと思われるが、帝都に住み着いた魔物がいるかもしれないと考え、このように護身用に準備をした。

「よし…。行こう」

 

「足元、気を付けて」

帝都に放置されている移動要塞ジグナタスに入ったプロンプトはほかの面々にそういいながら、服につけているライトをつける。

10数年前にアーデンの策略によりシガイが暴走、皇帝や将軍といった帝国首脳の墓場と化した場所だ。

帝国市民の半数がシガイと化したことで、この帝都そのものが崩壊したため、内部はその時のままの状態になっている。

足元に転がる魔導兵の残骸、そしてシガイと化した人が残した衣服の数々。

あの時、帝都と要塞にいた人々はどんな思いで最期を遂げたのだろうと思ってしまう。

扉のライトは赤く光っており、明かりについては既に壊れたものもあるものの、一部は相変わらず付いている。

「機能が停止していないなら、俺の生体認証で開けることができるはず…」

扉の前に立ったプロンプトは右腕をかざす。

扉のライトが赤から青に変わり、自動的に開放される。

「開いたわね…。ビッグスとヴェッジは生きている機械を探して、データを集めて」

「了解です、お嬢」

「御意」

アラネアの部下であるビッグスとヴェッジは手持ちデバイスをもって、一緒に部屋にある機械を調べ始めた。

部屋の中には多くの試験管とコンピュータ、そして魔導兵のボディが収納されたコンテナが置かれている。

「まさか、あんたから聞いた時はびっくりしたけど、本当にニフルハイム人で…」

「魔導兵にされる運命だった子供…。俺も、この事実はアーデンに捕まるまで、知らなかった。父さんと母さんが本当の俺の親じゃないってこと…そして、俺がこの中から生まれたこと…」

プロンプトは多くの試験管が入った、透明な液体で満ちたカプセルにそっと触れた。

「試験管出産…。それで魔導兵の材料である人間を…」

試験管出産についてのデータを見たビッグスはあまりのことに息をのむ。

優れた戦果を挙げた兵士や優秀な頭脳を持った学者などの精子や卵子を提供させ、試験管を利用して母体を傷つけずに出産させたのが帝国における試験管出産の始まりだ。

表向きは優秀な人材を生み出すため、だが実際は魔導兵の材料を作るために40年以上前にアーデンが中心となって始めた狂気の研究だ。

それによって、初期型の魔導兵が作られた。

それから10数年かけて行われた技術革新とテストの良好な結果により、量産体制が実現すると、一般市民の精子と卵子を利用するようになった。

そのほうがそれらの調達が容易であり、コストも安かったからだ。

こうして試験管で生まれた子供たちは右手首にマークが刻まれ、だれが親かもわからないまま育ち、ある程度の年齢になったら魔導兵の材料となった。

プロンプトもこの試験管の中で生まれた。

彼が両親から真実を聞いたのはノクトが眠った後でレスタルムに戻った時だ。

この要塞の中に保管されたクリスタルの中にノクトが入った後、プロンプトら3人はアーデンの手引きで港まで行き、合流したシドと共にカイムを経由してレスタルムへ戻った。

そこで、王都から避難してきた両親と再会できたためだ。

 

30数年前のジグナタス要塞…。

「生まれたな…」

黒いチョコボ頭で白い白衣と黒いズボンをはいた、丸眼鏡の研究員が試験管出産を果たした赤ん坊を多くのベッドがカプセルが並べられている部屋につれていく。

赤ん坊を収納したカプセルには4型量産体第103号と書かれている。

「インジウム博士。今回生まれた103号の様子は?」

「ん…?ああ、健康そのものだ」

「それはよかった。そら、一日でも早く大きくなって、いい魔導兵になってくれよ」

インジウムと呼んだ、彼の部下がカプセルをそっと撫でる。

「それよりも、どうした?ここには一部の研究員以外は立ち入りできないはずだが…」

「宰相から許可をいただきました。彼から言伝がありまして…」

「言伝…?」

「ええ。どうやら、この要塞の中に裏切者がいるとのことで…。奴は魔導兵の技術を手土産にルシス王国へ亡命するつもりだとか…」

「なるほど。なら、宰相が御自ら伝えに伺ってもよかったんじゃないか?」

「宰相は魔導アーマーの開発に忙しいとのことで、念のため、ほかの方々にもお伝えいただけますか?」

「ああ…わかった」

「では、私は魔導兵用の武器の開発がありますので、これで…」

頭を下げた研究員は自分の持ち場へ戻っていく。

彼を見送った後、インジウムはじっと先ほど赤ん坊が入ったカプセルを見る。

「もう、時間がないな…」

彼は数年前に帝国軍に召集された大学所属の研究員だ。

専門は試験管出産で、出産後の子供の世話は別の係が行うことになっている。

召集を受けた彼はジグナタス要塞に送られ、そこで魔導兵の研究を命じられた。

元々、孤児だった彼は帝国が設けた奨学金制度により学業を重ね、国立大学での優秀な成績から、そのまま学校にとどまって研究員として身を立てることができた。

そのため、祖国に対しては恩義がある。

魔導兵が非人道的な存在であることは理解していたが、その恩義故に反発することができず、この数年は黙々と研究を続けていた。

しかし、その我慢も限界を迎え、帝国と戦争しているルシス王国への亡命を去年決意し、陰でその準備を進めていた。

帝国内の情報はアーデンが完全に握っており、仮に公表しようとしてももみけされるのが関の山だ。

祖国を変えるための選択肢を、若いなりに考え抜いた結果が亡命だ。

そして今、裏切者の存在がアーデンに知られた。

猶予がないことを理解したインジウムは部屋へ戻っていった。

 

2日後の夜、荷物をまとめたインジウムは部屋を抜け出す。

護身用の銃を隠し、魔導兵に関するデータをUSBメモリに入れた状態で部屋から出た。

夜間警備を行う魔導兵たちの目を物陰に隠れることで盗み、ゆっくりと歩を進めていく。

破壊しなければ進めないときはサプレッサーを装着した銃で魔導兵を破壊していった。

そうして、インジウムはあの赤ん坊たちが集められた部屋に近くまで到達した。

「ここからまっすぐ行けば、一人乗りの飛空艇がある。それを奪えば、ここを出られる…!」

この要塞には武装が搭載されておらず、守備については魔導兵や戦艦に依存していることは所属している彼自身がよく分かっている。

だから、飛空艇を手に入れて脱出すれば、戦艦やほかの飛空艇に追われたりしない限りは大丈夫だ。

また、魔導兵は飛空艇や車両を操縦することができない。

そのようなことを考えていたインジウムはふと赤ん坊たちが眠る部屋に目を向ける。

「え…?」

夜のためか、ほとんどの赤ん坊が眠っている中、唯一また生まれたばかりの赤ん坊が起きていて、じっとインジウムを見ている。

彼に対して手を伸ばしていて、笑っている。

まるで自分が父親だと思っているかのように。

(やめろ…。私はお前の父親じゃない。違うんだ…!)

目を背けようとするが、あの赤ん坊が見せた笑顔が頭から離れない。

そして、その赤ん坊の笑顔を見たいと思ってしまう自分がいる。

「…くそぉ!!」

自分の頬を力いっぱいたたいたインジウムは部屋に入り、所持しているセキュリティカードを使ってカプセルを開き、赤ん坊を抱く。

そして、その赤ん坊を抱いたまま走り出した。

 

「もしかして、そのインジウムって研究員と一緒に脱出した赤ん坊が…」

「うん、俺。本当にわずかな可能性だったなって、今考えたら思うよ」

プロンプトから話を聞いたアラネアはびっくりしながら、冷静にこのことを話すプロンプトを見る。

あの時、ほかの赤ん坊と一緒に眠っていたら、あの時、インジウムを見て微笑まなかったら、あの時、インジウムがこの道を通らなかったら…プロンプトはいま、ここには存在しないことになる。

「愛情があったかどうか、俺に利用価値があったから連れ出してくれたのかは…今となっては分からない。これはあくまで俺の想像でしかないから」

インジウムの逃走劇については、要塞で幽閉されていたときにアーデンから教えてもらい、更にその証拠資料も見せられた。

しかし、その時のインジウムは何を思っていたのかは教えられなかったし、本人に聞かなければわかるはずがない。

「で…そのインジウムって人は、どうなりましたか?」

データ収集を済ませたビッグスが尋ねる。

「…。ハンマーヘッドで死んだ。王都まであと一歩ってところで、俺を抱いたまま行き倒れてたってさ。で、シドが王都と連絡を取ってくれて、孤児として俺は王都の施設に引き取られた。で、今の倒産と母さんが俺を引き取ってくれて、プロンプト・アージェンタムって名前と居場所をくれた。不思議な因果だよね…」

「それで…自分の出生の秘密を知ったときは、どんな気分だったんだい?」

「怖かったよ。ノクトやみんなの友達でいちゃいけないのかって思ってた。けど…」

自分がニフルハイム人であることを告白したときにノクト達が行ってくれた言葉を思い出す。

(別に生まれなんとどこでもいーし)

(これから俺たちを裏切る、と言われるほうが信じられない)

「…。インジウムさん、あの時、俺をここから連れ出してくれて…ありがとう」

目を閉じて、もはや存在しない男に、自分に命をくれた男に感謝の言葉を述べる。

「お嬢、準備完了です」

「プロンプト」

アラネアはプロンプトに銃の持ち手を模した端末を渡す。

それにはトリガー状のスイッチがついていた。

「飛空艇に乗ったら、このスイッチをあんたの手で押しなさい。これで…この要塞は消えてなくなる」

 

プロンプト達の収容を終えた飛空艇が要塞から離陸を始める。

ある程度の高さにまで上昇を終えると、プロンプトはスイッチを握ったまま窓から要塞を見た。

(さよなら…。俺の生まれ故郷)

意を決し、スイッチを押すと、要塞で次々と爆発が発生する。

機械もカプセルも、残っていた未完成の魔導兵やその残骸も爆発の中に消えていく。

プロンプトが生まれた、アーデンが生み出した負の遺産が消えていく。

崩壊するそれを見つめていたプロンプトの携帯が鳴る。

「もしもし…?」

(プロンプト、ああ…もう、終わったか?)

「ノクト!?…うん、終わった。これで、もう2度と魔導兵が作られることはないよ」

(だな…)

シガイは世界から消滅したものの、いつか人類は人工的にシガイを作る技術を手に入れてしまうかもしれない。

少なくとも、この要塞の中では人間をシガイに変える技術が存在した。

いくらアーデンでも、何百もの人間を短時間でシガイに変えることが不可能だからだ。

その技術が残って、悪しき人物がそれを手にしてしまうと、何が起こるかは目に見えている。

それ故に、プロンプトはこの要塞の破壊を決めた。

(なぁ、帰ったらレガリアのメンテ、頼んでいいか?)

「ん?いいけど…どしたの?」

(ええっと…イリスとレガリアで抜け出して旅行して、フライトモードから着地したときに動かなくなって…)

「ノクト…。TYPE-Fは昔のレガリア以上に繊細だから、もっと丁寧に扱ってよ」

(悪い…。じゃ、ハンマーヘッドで待ってるな。必ず帰って来いよ)

「了解、陛下」

茶化すようにノクトを陛下と呼ぶと、プロンプトは電話を切る。

電話を見つめるプロンプトはフッと静かに笑みを見せる。

(そうだ…。確かにあの要塞、そしてニフルハイムは俺の故郷。だけど、帰る場所じゃない。俺の帰る場所は…)

ブリッジへ移動したプロンプトはそこの艦長席に座るアラネアに声をかける。

「アラネア、もう帰るけど…ちょっと寄り道してもいいかな?」

「んー?別に構わないけど、どこへ行くの?」

「ハンマーヘッド。仕事ができちゃって…」

困った顔をしながら、そんなことを言うプロンプトだが、その顔はどこか幸せそうにアラネアには見えた。

プロンプト達を乗せた飛空艇はニフルハイムを離れていく。

そんな彼らを見送るように、月は優しく光を照らし続けた。


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