Alternative Ending Final Fantasy XV   作:ナタタク

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Alternative Ending チャプター3

「んん…」

「おい、ノクティス王子」

後部座席で隣に座るグラディオが目を覚ましたノクティスに声をかける。

目を覚ましたばかりで体にだるさを覚えた彼はゆっくりと体を伸ばす。

「しっかりと目を覚ましておけよ。帰ってきた王様がグースカ寝てたら示しがつかねえからな」

「もう…ダスカか…」

寝る前までは砂と岩の多い荒野、リード地方だったが、目を覚まして見えるのは草原と森、大きな湖。

まだ真夏のような暑さを感じないことから、ダスカ地方だということがわかる。

「まだレスタルムまでは距離がある。どこか標で休みを取ろう」

「うん。けどシドって準備がいいよねー。キャンプ用品があるし、それにカップヌードルも」

「おお!!カップヌードルか。久しぶりだなぁ!!」

「まぁ…たまに食べるなら…」

インスタント食品にあまり手を出さないイグニスでも、グラディオの影響で少しはカップヌードルに興味を持つようになった。

極上のカップヌードルを作るために、仲間たちで協力して情報を集め、苦労して手に入れた食材を使って改造したことを思い出す。

それにより、カップヌードルがどれだけ完成度の高いものかというのが分かった。

ちょうど、レスタルムへの道の途中にある標に到着する。

シガイが消滅したといっても、魔物が根絶されたわけではない。

自然の摂理に従い、生きている数多くの生き物や魔物がいる。

中には人を襲う魔物も。

だから、旅人の避難場所・休憩場所としての標の価値が変化することはない。

炭とマッチ、ポッドと水が入ったタンクを持ち出したノクト達は標に入り、そこで食事の用意をする。

グラディオが火をおこし、イグニスがポッドに水を入れる。

ノクトは4人分の椅子を用意し、プロンプトは準備中の3人の写真を撮る。

テントを設置する必要がない分、かなり準備時間を短縮できた。

すでにカップヌードルに湯が入り、3分待てば至福の時が来る。

「カップヌードルか…。懐かしいな」

「久しぶりだなぁ…。こうして昼にキャンプをするのって」

「キャンプっつっても、テントが足りねーけどな。つーかプロンプト、ちゃんと時間は買ってるんだよな?」

「大丈夫大丈夫。スマホにはタイマーがついてるし、あ…」

3分経ったことを告げるベルが鳴り、プロンプトは急いで折り畳み式テーブルの上に置いてあるカップヌードルを3人に配る。

ふたを開けると、醤油ベースのスープの匂いが4人を包み込んだ。

「んじゃ、いただきます」

「…。いくらうまいからといって、これだけでと栄養が偏る。レスタルムで野菜を調達したら、サラダにして食べるぞ」

「うげ…」

「王に就任するお前がいつまでも野菜嫌いだと、国民に笑われるぞ」

「わかってるよ…」

「次に作るサラダはずっとおまえにも食べられるようにと試行錯誤してきた自信作だ。きっと、お前もお替りしたいと思うさ」

わずかに笑みを浮かべたイグニスは麺をすする。

サラダの話を聞いたグラディオは思い出したかのように口を開く。

「そういやぁ、あのサラダ旨かったよな。肉を食べているような感じがして、すげーびっくりしたぜ」

「俺も俺も!まぁ、その時はそれ以上にイグニスは失明しても料理が作れるってことの驚きのほうが大きかったけど…」

「いつも俺が料理をしていたからな。今でも目を閉じたまま料理を作れる自信がある」

「いや、それはもう結構だ」

「ごっそさん」

3人が話している間に、食べ終わったノクトはスープを捨てる水を入れる用のタンクの中に入れる。

「あれ?ノクト、スープ飲まないの?」

いつもなら、スープも飲み干すのだが、この変化にプロンプトがびっくりする。

「塩分は必要最低限にしねーとな。王がすぐに病気でぶっ倒れたら話にならねーだろ?」

 

カップヌードルを食べ終え、4人は再びレガリアに乗る。

「じゃあ、出発するぞ?」

「いや、待ってくれ。ちょっと気になるんだよな…」

「何がだ??」

「何かが足りねーんだよ。カップヌードル食い終わってからずーっと気になって…」

考え込むノクトに3人は首をかしげる。

1分程度悩み終えたノクトはようやく何が足りないのかを思い出した。

「そうだ、イグニス!メガネだ。メガネが足りねーんだよ。あー、すっきりした」

「…そういえば、そうだったな」

目が見えるようになり、ゴーグルを外したイグニスはすっかりメガネのことを失念していた。

もともと視力が良好なイグニスにはメガネは必要ない。

しかし、あいまいに見えたりするのが嫌だと思っているため、普段はメガネをかけている。

ゴーグルについては失明した自分の目を隠すためのものでしかない。

イグニスは服のポケットに入っている自分のメガネを手に取る。

昔からかけていたメガネで、ゴーグルをつけるようになった後でも、どうしても手放すことができずにそのまま持ち歩いていた。

イグニスはメガネをかける。

「お…やっぱイグニスはメガネをかけてねーとな」

「…。褒めの言葉として受け取っておく」

フッと笑ったイグニスはレガリアを発進させた。

 

夕方になり、レガリアはレスタルム北の駐車場に止まる。

「うわあ、集まってるー!」

「ま、この地方で機能している一番大きな都市はレスタルムだからな」

歩道や建物の屋上、そして建物の窓から多くの人々が夕日を見つめている。

再び戻ってきた太陽、そしてこれから始まるシガイなき優しい闇と月の白い光に満ちた夜を。

中には太陽がなくなった後で生まれた子供たちもいるようで、彼らは近くの大人や親に太陽のことを尋ねていた。

「あ…」

ノクトは展望公園のほうに目を向ける。

崖側にある手すりをもって、夕日を見つめている黒いTシャツと黒と緑を基調としたフレアスカートを着た、茶色がかった黒い髪の女性がそこにいる。

「おい、ノクト。どうしたんだ」

「ノクト…?」

「ああ、悪い。ちょっとそこで待っててくれ」

理由も言わず、ノクトは展望公園へと走っていく。

そして、その女性の後ろで立ち止まり、声をかけようとする。

ノクトはその女性が誰であるかを確信している。

彼女がまだ生きているということはタルコットから聞いているが、今の彼女の服装や髪形などについては何一つ聞いていない。

しかし、その女性から感じる面影。

その面影を見せる女性は一人しかいない。

「イリス…」

名前を呼ばれた女性はびっくりしたかのように体をわずかに振動させる。

そして、ゆっくりとノクトに振り返る。

10年前からずっと会っていない彼女の姿を正面から見たノクトは息をのむ。

自分の知っているイリスはいつも前向きで、お転婆な少女だった。

そのお転婆な面影を残しつつ、ルーナのように年頃の女性の美しさを併せ持つようになっていた。

「ノク…ト…」

「10年ぶり…で、いいんだよな?」

わずかに視線をそらし、頭をかきながら確認するように言う。

じっとノクトの顔を見たイリスはしばし呆然としていたが、だんだん表情が崩れていく。

両目には大粒の涙がたまり、我慢できなくなったイリスはノクトに抱き着く。

「ノクト…ノクトォ…!」

「ごめんな、イリス。心配かけて…」

抱き着き、胸に顔を押し付けて泣くイリスに言葉をかけるが、両手は伸びたままになっていた。

(抱きしめて…差し上げないのですか?)

後ろから最愛の女性の声がノクトの耳に届く。

振り返ることなく、ノクトはその声に対して、イリスに聞こえないくらい小さな声で答える。

「俺は、怖いんだ。オヤジやルーナ…。また、守れなかったらって思うと…」

ノクトの脳裏にルーナが死ぬ光景が浮かぶ。

そして、そこでこれから死のうとしているルーナがなぜかイリスと重なって見えてしまう。

「ノクト!もう、会えないって思ってた。ノクトが自分の命を捨てて、シガイを滅ぼさなきゃ、世界は救われないって聞いた時は…とっても悲しかったの!」

「イリス…」

「けど、帰ってきてくれた…。世界を救って、帰ってきてくれた。それだけでも…それだけでも嬉しい!!」

「イリス…俺は!」

「ルナフレーナ様に悪いっていうのは分かってる!けど…もう、我慢したくない!私は…ずっとノクトのことが大好きなの!」

イリスの告白に、ノクトの赤い瞳が揺らぐ。

小さいころに、テネブラエでルーナに会ってから、ノクトの中には彼女以外の女性がいなかった。

そのせいか、王都にいたころはほかの仲間とともに頻繁に顔を合わせ、いろいろと手助けをしてくれた。

高校生になり散らかし放題のだらしない一人暮らしをしていた時も、彼女が家を訪ねて「たまにはイグニスに褒められるくらいのことはしないと」と言って、片づけを手伝ってくれた。

また、イグニスが来れない日には習いたての料理を作ってくれたこともあった。

グラディオの特訓を受け、疲れ果てた彼に飲み物をもってきてくれたりもしていた。

その時のノクトのイリスに対する認識は単なる仲のいい年下の友達だ。

しかし、ルーナを失い、そして今イリスに告白されたことは彼にとって衝撃だった。

そして、あの時に抱いたトラウマがよみがえってしまう。

「ルーナを守れなかった俺に…人を好きになる資格なんて…」

確かに、イリスの思いを受け止めるのも一つの道だとは思った。

だが、ルーナを守れなかったことという過去がノクトの大きな枷となっていた。

実を言うと、死を覚悟して玉座で王の力を発動したときも、ルーナに会えると思うと市への恐怖が若干薄れていた。

しかし、今はルーナや父親などのおかげでこうして生きている。

それは仲間と共に生きていけるという意味であるが、ルーナに会いに行けないという意味でもある。

仮にあるかもしれない死後の世界でルーナに詫びることもできなくなった。

その過去に苦しむノクトにその声は優しく言葉をかける。

(簡単なことです。ただ…抱きしめてあげてください。ノクティス様のぬくもりを、イリスさんに感じさせてください。私の愛するノクティス様なら、それができるはずです)

「ルーナ…」

「ノクト…」

ゆっくりと胸から顔を話したイリスはじっとノクトを見つめる。

何も話さず、何も反応を見せないため、自分のことが好きではないのではと思い始める。

「そう、だよね…。急に言われても、困っちゃうよね。ごめん、さっきの言葉は忘れ…」

無理に笑顔を作り、離れようとしたイリスをノクトは力の限り抱きしめる。

急に抱きしめられたイリスは顔を真っ赤にする。

「そ、そんなノクト!?だ、だ、大胆!大胆だっ…て…」

自分の頬に熱い滴が当たる感触がする。

それがすぐにノクトの涙だということに気付いた。

「泣いてるの?ノクト…」

「うるせえな。かっこ悪いから、黙っておいてくれよ…」

わずかに声を詰まらせつつ、悪態をつきながらも抱きしめるのをやめない。

「…うん」

これ以上、いうのをやめたイリスもノクトを抱きしめ返す。

(もう、なくしたりしない。もう…見失ったりしない。俺の…大切な人…)

しばらく抱き合った後、ゆっくりと2人は互いの瞳を見つめあう。

(あ…)

ノクトの瞳を見たイリスはわずかに驚きを見せる。

先ほどまでは赤くなっていたノクトの瞳の色が、昔のような黒に戻っていく。

そして、ノクトの後ろにいるルーナの青い幻影を見つめる。

(イリスさん。ノクティス様のことを…どうか、よろしくお願いいたします)

優しいほほえみを浮かべ、イリスにそういった幻影は静かに消えていく。

「あれって…」

「どうした?イリス」

驚くイリスにノクトは静かに尋ねる。

といっても、ノクト自身も先ほどイリスが何を見たのかはわかっている。

あえて、気づかないふりをしている。

「…ううん、なんでもない」

首を横に振り、そういうと、イリスは目を閉じてゆっくりとノクトに唇を重ねる。

キスをされ、目を大きく開くノクト。

恥ずかしがっているのか、両腕がイリスから若干離れ、ぎくしゃくしている。

しかし、それもわずか数秒のこと。

ノクトはゆっくりと目を閉じ、両手はゆっくりとイリスを包み込んでいた。

 

そんな2人の姿を3人の友人が駐車場から見ている。

ついでに、プロンプトはこれをフラッシュなしで撮影済みだ。

「いいのか?グラディオ」

メガネの位置を整えたイグニスが隣のグラディオに尋ねる。

イリスの兄であるグラディオは彼女をかなり大切に思っている。

ノクト自身も、イリスと2人っきりで出かけたときにはグラディオに殴られると思っていた。

だが、今のグラディオは笑みを浮かべながら2人を見ている。

「あれー?ノクトを殴りにいかないの?」

「バカ言え。ルナフレーナ様を失ったとき…あいつはずっと自分のことを責めていた。きっと、目覚めて俺たちと再会した後もずっとな…。あいつはああ見えて責任感の強いやつだ。きっと、もう誰かを好きになる資格はないって思ってたんだろう。そんなあいつがまた誰かを好きになる…今のあいつにとって、すごい勇気がいることじゃねえか。そんな勇気を出したノクトがすげえなって思ってよ」

「まぁ、確かにな…」

「それに、イリスがずっと一途に思っていたんだしな…。今は譲ってやるが…まぁ、結婚するときには少なくとも俺に勝てるぐれーにはなってもらわねえと…な!」

そういって、後ろを向いたグラディオを見て、ふっと笑ったイグニスは彼の肩に手を置く。

「飲みに行くか?今回だけは付き合うぞ」

「ああ…。どっかのバーで飲もうぜ。ルシス奪還記念パーティーだ…」

そういって、真っ先にグラディオが駐車場を後にする。

カメラを持ったまま二人の会話を聞いていたプロンプトはイグニスに尋ねる。

「ねー、今グラディオ…泣いていた、よね??」

「…」

「…そっか。じゃ、グラディオの酒代は俺たちで持とうか。ね?」

「そうだな。王はいま、大忙しだ。今は俺たちがグラディオの面倒を見ないとな」

「そーそー!そうだ、行きがけに名物のケバブを買ってぇ…」

2人もまた、これからどうしようか話し合いながら、駐車場から出て行き、グラディオと共にレスタニアの街中に入っていった。


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