Alternative Ending Final Fantasy XV 作:ナタタク
「ノクト…ノクト…!!」
「目を開けろ」
「おーい、生きてるでしょ!?ノクト!!」
王の間で、3人が玉座で眠るノクトに何度も呼びかける。
ノクトの邪魔をさせないため、城の前で幾百ものシガイと戦ったためか、全員傷だらけで、武器もボロボロになっている。
3人とも、シガイが消滅した後、彼の安否を確かめるために応急処置だけを済ませる形でここまで急いできたのだ。
イグニスは手袋を取り、彼の右手首に指を置く。
「脈はある。少なくとも、生きているな」
「ん、ん…」
「ああ、ノクト!!」
「みん…な…?」
ゆっくりと目を開けたノクトは3人の仲間たちに目を向ける。
「ったく、生きてんならさっさと起きろよ!この寝坊助王子!」
そういいながら、グラディオは少し力を入れてノクトをたたく。
「ほんと、よかった…!俺、せめて痛いだけでも持って帰ろうって思ってさ…だから…うう、ノクトォ、よかったーーー!!」
ボロボロ号泣しながらプロンプトがノクトの無事を喜ぶ。
「よく、生きていてくれたな」
「おい、イグニス…。その眼…」
わずかに笑みを浮かべるイグニスの顔を見たノクトは驚いた。
失明した目を隠すためにかけていたゴーグルを外していて、その眼はしっかりとノクトの顔を見ていたのだ。
「ああ。お前が力を発動したとき、強い光が起こってな。そのせいかどうかはわからないが、なぜか…な。それにしても、髭がだらしないぞ。ハンマーヘッドで整えるだけの時間はあっただろ」
「見えるようになって、いきなり小言かよ…」
苦笑いしながらも、久しぶりにイグニスの小言を聞くことができたことへのうれしさを感じた。
ふと、ノクトは自分の左胸に触れる。
服には父王の剣が刺さった時にできた穴が残っているものの、傷は消えていて、心臓も動いていた。
そして、ノクトの右手を見たプロンプトが驚く。
「どうした?」
「ノクト…光耀の指輪は…?」
「そういやぁ…!!」
ノクトの右手中指に、インソムニアに入る前に確かにつけたはずの指輪がなくなっていた。
歴代ルシス王の英知を宿し続けた指輪が失われたのだ。
しかし、一番驚くはずのノクトはなぜか冷静に自分の右手中指を見つめている。
「星の病がなくなったから、指輪も役目を終えたんだろ。いつまでも、ご先祖様に頼ってんじゃねーってことで」
ゆっくりと玉座からたったノクトだが、わずかに体をふらつかせる。
そんな彼をグラディオが右手で支える。
「悪い…」
「気にすんな。それより…こいつを」
グラディオがノクトに父王の剣を渡す。
これは眠っていたノクトの足元に落ちていたものだ。
しかし…。
「刀身が…真っ白だな」
「ああ。俺たちが入ってきたときにはこうなってた」
変化した父王の剣を見つめる。
まるで、ルーナとレギスがいつまでも自分のそばにいるという証をこれに宿してくれたかのように感じられた。
そして、玉座への階段や廊下に円陣を組むように置かれていたファントムソードは石と化していた。
「ファントムソードは、来た時にはこうなっていた…」
「そうか…。だったら、ちゃんと墓にいつか返しに行かねーとな。お…」
「ああ…」
だんだん王の間が明るくなっていく。
窓を見ると、そこにはゆっくりと上りつつある太陽が見えた。
永遠に続くと思われた夜が、一人の復讐鬼が生み出した死の世界が終わったのだ。
「太陽だ…」
「待ちに待った、太陽だな…」
「まさか、こうして自分の目でまた太陽を見ることができるとはな…」
それぞれが感慨深そうに太陽を見つめる中、ノクトはそれを見ることなく、父王の剣を見つめる。
「ルーナ…オヤジ…。見てるか?夜明けだぜ…」
「じゃ、ハンマーヘッド行こうか。これからのこと、ちゃんと考えないと」
「だな。ノクト、ファントムソードと武器をしまってくれ」
「ああ…。ん??」
普段なら、少し念じるだけで出したり消したりすることができた武器が今は何も反応を起こさない。
試しに、普段使用している武器の1つであるアルテマブレードを召喚しようと念じる。
しかし、いくら念じても何も起こらない。
「あれ?武器召喚できないの?」
「何かの阻害されているようには思えないが…」
イグニスとグラディオは帝都で武器召喚できなくなった時のことを思い出す。
しかし、今はノクトの力を阻害する存在は皆無で、妨害する可能性のあるあの男はもう死んでいる。
「まさか…!」
試しにノクトは父王の剣を近くの壁に向けて投げる。
本来なら、武器を投げた方向に自分が瞬間移動するというシフトが発動するはずだが、何も起こらない。
「ノクト、指輪もファントムソードも役目を終えたことで力を失った…。ということは、ルシス王家の血の力も…」
「…かもな」
投げた武器を拾ったノクトがつぶやく。
しかし、本来ならこの場所で自分は命を終えるはずだった。
その命をルシス歴代の王とレギス、そしてルーナのおかげで保つことができた。
その奇跡を考えたら、その代償に力を失うというのは仕方ないかもしれない。
安い買い物ではないが、高すぎる代償ではない。
「あんまり、落ち込んでねーみてぇだな」
「まぁな。…そういやぁ、グラディオ。お前言ってたな…。俺は王家の人間だって…」
「ん?ああ…」
カーテスの大皿でのことをグラディオは思い出す。
タイタンによっておこる頭痛で苦しみ、忠告を聞く余裕をなくしていた彼を叱咤したときに、彼が王家の人間であるよりも前に一人の人間だと主張した。
「けど…やっぱ俺は力があってもなくても、一人の人間だわ。婚約者一人守れねえ…みんなに守ってもらわなきゃ何も出来ねえ…ちっぽけな人間だ」
「ノクト…」
父王の剣を握るノクトが振り返り、3人をじっと見つめる。
「みんな、俺…力がなくなったから、多分もう障壁を張ることはできねーし、今まで見たいに戦うことはできねー。こんな俺だけど、これからも力…貸してくれるか?」
「…バーカ。当然だろ」
「力があってもなくても、ノクトはノクト!俺の大事な友達だから!」
「民を守ってこそ王…。障壁を張る以外にも、民を守る方法はいくらでもあるぞ。ノクト」
「みんな…」
問われるまでもないというかのように、3人全員がノクトを助けると言ってくれた。
それがとてもうれしくて、涙が出てきてしまう。
「さあ、帰るぞ。ノクティス王。生きて帰った以上、やることはたっぷりあるぜ」
「そうそう!王都とカーディナ、廃墟になったところを復興させていかないと」
「げー…」
「心配するな。俺たちも手を貸す。誰もお前ひとりでこんな大仕事をさせないぞ」
「とーぜん。…ルシス再建か。こりゃ、星の病を消すよりも大変そーだな」
冗談半分でつぶやき、ノクトはゆっくりと階段を降りていく。
グラディオ達もノクトについていく形で降りていく。
4人が出て行った王の間には、静寂が返ってきた。
あの男が玉座でふんぞり返っていたときのころにはない静寂が。こうして、だれ一人いなくなったこの部屋の中に、青い幻影が2人現れる。
(あなた…もう、いいのね)
(ああ。これからは…ノクト達若者の時代だ。私たちは見守るとしよう)
(うふふ…)
2人の幻影が静かに姿を消した。
暖かな太陽の光に包まれて、息子たちの未来に幸あれと祈りながら。
タルコットのトラックがハンマーヘッドに到着する。
長い間見ることのなかった太陽にハンター達の中には涙を流しながら見ている人がいる。
(…二度と、ここに来ることはねえって思ってたけどな)
旅をはじめ、いきなり父の愛車であるレガリアを壊してしまい、仲間と助け合ってここまで押したときのことをお思い出す。
幸先の悪いスタートを飾り、さらにはレガリアの修理代でせっかくレギスからもらった旅費を使い果たしてしまった。
その結果、ハンターとしての仕事で旅費を稼ぐようになり、長い旅の中で生きる手段を得ることができるようになった。
そんなことを思い出しながら、4人はトラックから降りる。
「おお、ノクトか…」
「あ、シド…」
降りたノクトのもとへ、シドが近づいてくる。
自分が姿を消している間に何度か体調を崩したという話は聞いており、そのせいか、杖をついて歩いている。
また、視力も衰えてしまったためかノクトの顔を見るときは何度も目を大きくさせたり、小さくさせたりしていた。
「ふん。ようやく威厳が多少ある顔にはなったか。ま…よく帰ってきたもんだ」
「ああ…。ただいま」
「よく戻ってきたな。みんな」
シドに続いて、食堂の中にいたコルがノクト達を出迎える。
決戦前のハンマーヘッドには、シガイ退治の依頼をこなすためにハンマーヘッドから離れていた。
「よぉ。老けたな、コル」
「10年、経ったからな。お前に関しては、陛下に似てきた」
満足げにほほ笑むコルの顔は年齢が50を超えたせいか、しわが増えており、若干腕や足も細くなっている感じがした。
それでも、不死将軍と称された彼の実力は衰えておらず、グラディオ曰く、年を取るほど強くなってるらしい。
そんな彼が、ノクトの前でひざまずく。
「星の病を癒し、ルシスを…世界を救っていただけたこと、感謝します。…陛下」
「おい、コル…。やめろって」
「これは、俺なりのけじめだ」
いつもの口調に戻ったコルが立ち上がると、ノクトの肩に手を置く。
「お前は陛下を越えた。今のお前なら、立派にルシス王国を再建できる」
「超えたって…。もうシフトも武器召喚も魔法も…」
「それについては、電話で聞いた。だが、それを抜きにしても、お前は立派に役目を果たし、それだけではなくここに戻ってきてくれた。それだけでも、お前は十分に陛下を越えている。きっと、草葉の陰で陛下もお喜びになられていらっしゃるだろう」
「まぁ…そういわれたら、悪い気はしねーけど…」
まさかここまでコルに褒められる日が来るとは思わなかったノクトは照れ隠しに頬を人差し指で掻く。
「レスタルムへ戻るぞ。イリスやモニカ、皆がそこに集まっているという連絡が入った。タルコット、疲れているところ悪いが、引き続き運転を頼む」
「わかりました、コル将軍」
コルが一足先にトラックへ向かう。
そして、なぜかハンター達もトラックに乗り込み始めた。
「シドの爺さん…これで」
「ああ。今度また遊びに来い」
「そうさせてもらうさ」
それだけ言い残すと、コルはトラックに乗り込み、タルコットがすぐに発射させる。
トラックは西に出ると、そのまままっすぐレスタルムへと向かっていった。
「あれ…?俺たちは…??」
コルたちを思わず見送ってしまったプロンプトがはっとしたように言う。
今、ハンマーヘッドにはあのトラック以外に乗り物はない。
チョコボを呼ぶにも、チョコボポストが稼働していない今では呼ぶこともできない。
ノクト達は途方に暮れる。
「ふんっ、ルシス王国第114代国王がそんな車で凱旋するわけにはいかんじゃろ」
「シド…?」
「お前たちにはそれ以上にふさわしい車がある」
そういって、しまっていたガレージのシャッターを開ける。
「ああ…」
「おい、こいつは…」
「懐かしいな」
ガレージの中にあるのは両サイドにレギス王国の国章が刻まれた黒い高級感のあるオープンカー。
旅の始まりから帝都への突入まで、常にノクト達の足としてともに走り続けた、ノクトと4人目の仲間。
「レガリア…」
「アラネアって女が回収してな。まったく、こいつを直すのにどれだけ時間がかかったか…。ついでに、お前たちが基地で奪ったパーツ、そしてあの嬢ちゃんが持ってきてくれたパーツを使って、ちょっとした機能ができた。きっと、驚くぞ」
ノクトに説明書を渡すと、少し疲れたといって、シドはガレージのそばにあるいつもの特等席に腰かけ、眠ってしまった。
説明書のタイトルは『王の翼 レガリア TYPE-F』と記されていた。
ナンバープレートの番号はRHS-114に変わっている。
「おかえり、レガリア…」
そっと車体を撫でたノクトはさっそく運転席に乗ろうとするが、イグニスが彼の右肩に触れる。
「俺が運転する」
「いいのか?」
「もう目は見える。それに、昔のようなドライブをしたいからな」
「だな…頼むぜ、イグニス。ブランクあるからって言って、事故るなよ?」
へっと笑ったノクトはグラディオと一緒に後ろの座席に座り、プロンプトは助手席、イグニスが運転席に乗る。
これがいつものポジションで、もう2度と繰り返すことがないと思われた旅の中の日常。
それを取り戻した幸福をかみしめつつ、イグニスはエンジンをかける。
「この振動、座席の感覚…。同じだ…」
「そういえば、シドはちょっとした機能を付けたって言ってたな。…ん??飛空艇モード??」
「ええ!?レガリアで空飛べるの!?」
「それはレスタルムについてからテストしよう。今はいつも通り、路上を走るぞ」
そういって、ハンドルを握ったイグニスはアクセルを踏む。
王権を象徴する黒き名馬は長い時を経て再び主の元へ戻り、再びアスファルトの道を走り始めた瞬間だった。