Alternative Ending Final Fantasy XV   作:ナタタク

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Alternative Ending チャプター1

「オヤジ…あとは、任せろ…」

薄れゆく意識の中で、ノクトは自分の最後の言葉を思い出す。

そして、歴代ルシス王によってファントムソードが次々と打ち込まれる中で、最後に自分の心臓を父王の剣で貫いた、鎧姿の王のことを。

背丈やなぜかその王から感じられた戸惑い、そして構え方。

顔を見ることはできないが、彼が自分の父親にして自分が一番なりたいと思っていた男、レギスだということは分かった。

何の因果だろうか…。

ルーナを奪い、そして世界を完全な闇で消し去ろうとした、堕ちた哀れな王族である男に引導を渡したその剣で自分も最期の時を迎えようとしている。

「ルーナ…。俺を導いてくれて、ありがとな…」

もともと、このたびはルーナとの結婚式を行うためのものだった。

それが帝国の攻撃により、王家の力を得る、そしてルーナが目覚めさせてくれた神々の力を得る旅へと変わった。

そして、最後の最後まで自分の身を案じてくれていた。

ついに行えなかった結婚式、仮に死後の世界というものがあるとしたら、そこで開きたいと思った。

といっても、そこであの男と出会うのは御免だが。

「グラディオ…。いっつも、お前に頼ってばっかりだったな…」

わがままでひねくれていた自分に根性があると言ってくれ、そして辛抱強く稽古してくれた盟友との日々を思い出す。

一緒にキャンプをして、時には厳しい言葉を投げかけて覚悟を促し、戦いではその怪力と大きな体で守ってくれた。

ノクトにとって、グラディオは自分の兄、もしくはもう1人の父親のような存在だった。

「イグニス。料理、うまかった…」

小さいころからいつも陰から自分を助けてくれたイグニス。

嫌いな野菜が食べれるように、いつも工夫を凝らした料理を作ってくれた。

戦いのときには、背中を守るように立ち回り、いつも冷静で的確な策を練ってくれた。

失明した後、正直に言うとイグニスをリタイアさせようとも思っていた。

だが、結局彼は最後まで一緒に戦ってくれた。

その強い意志が自分に道を示してくれた。

「プロンプト。写真…ありがとな」

本当は人見知りで怖がりなのに、いつも明るく自分や仲間を気遣ってくれた親友。

友達になりたい、ただそれだけのために努力し、太っていた体を絞り上げ、自分の性格を変えた彼には正直、自分以上に根性があるかもと思えた。

そして、自分のために旅の思い出を写真で撮り続けてくれたおかげで、今はその思い出を胸に眠ることができる。

ほかにもシドやシドニー、コル、モニカ、タルコット、ゲンティアナ…。

様々な人々が自分を支えてくれた。

彼らがいなかったら、ここまで来ることができなかった。

「みんな…ありがとな。こんな俺を…王に、してくれて…」

ふと、イリスの姿が頭に浮かぶ。

勉強机の上にあるへたくそなクッキーと一緒に…。

「そういえば、イリスのクッキー…王都を出てから、食ってねーな…」

幼馴染の1人であるイリスは王になるために頑張るノクトのために、とイグニスからお菓子の作り方を教わっていた。

そして、ノクトのためにと作ったクッキーだが、いつも形が崩れていて、ちょっぴりまずかった。

高校卒業が近づいたころには、味は良くなったものの、なぜか形の崩れは一向に治らない。

旅立ち、レスタルムで再会したときは、父親の死で絶望しているであろうノクトを元気づけようと一緒に出掛けてくれた。

その時に彼女がまるでデートみたいだって言っていたが、ルーナという婚約者がいる手前、思わず否定して、彼女を怒らせてしまった。

「はぁ…。死ぬ前にしょうもねーことばっか思い出してやがる…。ほんっとうに…俺って…どうしようも…ねえ…な…」

自嘲気味に笑みを浮かべ、ノクトは目を閉じた。

 

「…ティス様…ノクティス様…」

「ん…?」

自分の名を呼ぶ声が聞こえ、目を開くノクト。

そこは青い光に包まれた空間。

床も壁も、天井もない、無機質な青が広がるだけの場所。

「ノクティス様…お疲れ様でした」

「ルーナ…?」

声が聞こえた方向を見ると、そこにはあの時、自分が守れなかった女性が笑みを浮かべて彼を見ていた。

「ノクティス様。小さいころからの約束を果たしていただけたこと、感謝してもしきれません」

「…。ルーナ、俺…」

ノクトの目から涙があふれだす。

あの時、目の前で彼女を失った時のことを思い出したのだ。

「ごめん…。ごめんな。俺は、俺はルーナを守れなかった。俺が…俺が弱かったせいで、ルーナは…」

子供のように泣きじゃくり、懺悔するノクトに近づいたルーナが彼の頬を撫でる。

「なぁ、ルーナ…。ここって、死後の世界…なのか?」

「いいえ、ここは…」

「生と死の境界線…というべきだろうな」

「え…?」

ルーナの背後から聞こえた懐かしい声に耳を疑う。

彼女がノクトの横へ移動すると、その声の主の姿が見えた。

親愛なる父、レギスの姿が。

それも、見送る時に見せた弱弱しい老人の姿ではなく、幼少期にマリリスに襲われたときに自分を守ってくれた時の強くて優しい男の姿で。

「オヤジ…!!」

「すまなかったな、ノクト。あんな別れ方になってしまって…。お前につらい運命を押し付けてしまって…」

「もう、いいよ。…父親として、俺を見送ってくれた。それで十分だ…十分すぎる」

ようやく再会できたことをうれしく思うノクトだが、残念だと思う気持ちも生まれる。

死んだ2人とこうして再会する、ということは自分が死んだのと同義だからだ。

もう、あの3人と一緒に旅をすることはできないし、戦うこともできない。

レギスはそんなノクトの肩に手を置く。

旅立ちのとき、自分に優しく言葉を投げかけてくれた時と同じように。

「オヤジ…」

「お前はまだ、私たちのもとへ行く必要はない」

「…え?」

「そうです。ノクティス様にはまだ生きてやるべきことがあります。星の王としてではなく、ノクティス・ルシス・チェラムとしてのやるべきことが」

「おいおい。オヤジもルーナも、冗談きついぜ。俺はもう…」

(ノクティス・ルシス・チェラム…)

「え…?」

脳裏に自分の名前を呼ぶ声が響く。

そして、自分が手にした13本のファントムソードが3人を包む。

そのうちの11本は砕け散り、それらを所持していた歴代レギス王が姿を見せる。

(お前に、未来のルシスを託す。障壁のごとく、国民を守る賢者の魂)

(民に富をもたらす、修羅の魂)

(あまたの技術を宿す、飛者の魂)

(神凪を闇から守る、夜叉の魂)

(陰から人々を守護する、伏龍の魂)

(慈悲と苛烈を併せ持つ、鬼の魂)

(六神に忠を尽くす、聖者の魂)

(愛を貫く、闘争の魂)

(民の幸せにすべてを尽くす、慈悲の魂)

(孤高の魂で国民を導く、獅子の魂)

(矢面に立ち、勝利を呼ぶ、覇者の魂)

自らの魂の名を呼んだ王たちが青い粒子となり、ノクトの体に宿っていく。

しかし、最後のときに感じたような痛みはなく、なぜか心地よい感じがした。

そして、神凪の逆鉾を持つルーナがノクトを見つめる。

(私の魂も、常にあなたと共にいます。一緒に、光あふれる世界を見せてください」

「ルーナ…」

「私の魂は…王と共にあり、人々をいやす、神凪の魂」

そう叫んだルーナもまた青い粒子となり、ノクトの体に宿る。

「ルーナ!?…オヤジ!!」

驚きを隠せないノクトは父王の剣を握るレギスに目を向ける。

剣を持つレギスは優しく微笑んでいた。

「ノクト。もう、選ばれしものの宿命にとらわれる必要はない。お前の思うように、生きろ」

「オヤジ…」

「私も…お前とともにある。そのことを忘れるな。私の魂は…家を守り、未来へ思いを繋げる、父の魂」

自らの魂の名を呼んだレギスも、ルーナたちと同じようにノクトの体に宿る。

13の魂を宿したノクトの体が青く輝き、自分の背後には白い絨毯のような道ができる。

絨毯の両サイドには火が付いたたいまつと剣がいくつも並べられている。

「これって…」

(あなたの帰るべき場所へと続く道です)

「俺の…帰るべき場所…」

(ノクティス様…。私を愛してくれて、ありがとうございます。そして、この道の先には、あなたを愛する人が帰りを待っています。どうか、その人を幸せにしてあげてください)

「ルーナ…。けど、俺は…」

自分を愛してくれる人が何者かを聞くよりも先に、仮にその人がいたとしても、自分には守ることができないのではないかという不安が生まれる。

また、同じように失ってしまうのではないかと。

(大丈夫です。今のあなたなら…)

(お前はこの10年でとても強くなった。私を超えたのだ。恐れる必要はない)

「ルーナ…オヤジ…」

(案ずるな。もう、迎えは来ている)

「迎え…?」

白い絨毯の上を歩き、1匹の小動物がノクトの目の前まで歩いてくる。

「お前は…」

ルビーでできた角を持つ、白いフェネットのようなかわいらしい動物を見て、ノクトは思い出す。

レギスが昔、自分へのお守りとして買ってきてくれた守り神、カーバンクルのフィギュアのことを。

カーバンクルはうなずくと、ノクトを先導するかのように絨毯の上を進んでいく。

ノクトは静かに自分の左胸に手を置く。

きっと、そこに父とルーナがいるということを信じて。

「一緒に帰ろうぜ…。オヤジ、ルーナ。俺たちの世界へ」

優しく言い聞かせるように言ったノクトはゆっくりと、どこまでも続く絨毯の上を歩きだした。




まだまだ続きがありますが、今回はここまで。
近日中には続きを書いていきたいと思っています。
なお、イリスのクッキーはオリジナル設定ですので、悪しからず。

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