今回の序盤は会話を初めに作って、そこから説明をのせる形で文をおこしてみました。
「うっ、いたた…」
コツコツと小さな石つぶてが頭に当たり、一人の少女が起き上がる。
名は未来。黒いゴスロリドレスが特徴の忍だ。
彼女は記憶が曖昧なのか、くらくらする頭を抑えてうわ言のように今までの出来事を思い出す。
「あれ…?えっと、私は確か襲撃の任務を終えて、蛇女で何か異変があって、それから―――あ」
顔を上げて未来は思い出した。いや、正確には眼前の光景を見てハッとさせられたと言うべきか。
クレーターが広がっていたのだ。未来が何人か入れるかくらいの大きなクレーターが、極太の煙を吐いて存在していた。
こんな衝撃的なものを見てしまえば、それに関する記憶など戻るもの。
未来は驚愕に目を見開き叫んだ。
「えええええッ!!?一体なにやらかしたのよアイツら!?」
いや違う。私はしっかり覚えていると心の中の未来が叫ぶ。
灰の鎧と焔が交渉…?といえるか疑問だがタイマンで戦うことになって、ラスト で鎧が中身を入れ替え、空っぽの方を爆発させた。
その時に自分は傘で防御するも吹き飛ばされて頭を打ち、気絶したのだ。
「ああ~~っクッソ!あの傘女の時と同じじゃないの!! ――って、それどころじゃない!焔、焔は!?」
焔は確か、鎧を替える所を第三者として見ていた未来は伝えようとするも届かず、空の鎧に抱き込まれ至近距離で爆発に飲みこまれたハズだ。
「まさか――!」
サァっと、顔が青ざめる。
「嘘…、ウソウソ嘘でしょ!?」
おぼつかない足取りで、爆心地のそばまで駆け寄る未来。
根が友達思いの彼女にとって、そんな万が一があったら笑えない。こんな決闘じみた戦いになったのは自分が侵入者に感情移入してしまったせいなのだから。
そう思うと、未来の目には涙がたまっていた。
「焔…! 焔っ!!あんた忍ならしっかりしなさいよ!返事してぇ!!」
普段の負けん気が出て口調が荒くなるも、すぐに余裕がなくなり泣きそうな顔で焔を呼ぶ。
頭の中のイヤな想像が止まらず。我慢できなくなって煙の中に入ろうとた時。
「フンッ!!」
「え――? ひゃあああ!」
未来はもくもくと湧いていた煙ごと斬撃で吹き飛ばされ、服の一部が破かれた。そしてそのままクレーターの外までバウンドさせられる。
それを追いかけるように飛び出し、降り立ったのは黒水着になり、日焼けあとがクッキリ残る肌を晒した焔だった。
体のあちこちが汚れているものの、怪我はない。服の拘束がなくなったからか、その大きな胸はいつもより忌々しく、たゆんたゆんと揺れていた。
「ゲホッ、ゴホッ!まさかエネルギーを行き渡らせて自爆に使うとは一杯食わされた。
死にそうな目にあったのに楽しそうな焔。そんないつも通りの彼女(と乳)を見れば、未来がいろいろプッツンくるのは当然だろう。
「あのねぇ!!普通あんな爆発くらったら死んでるわよ!どんだけ頑丈なのよ!?というかさっきので服破けちゃって…。心配して損したわこの戦闘バカぁぁあああ!!!わあぁああぁああぁん!!」
感情のせきが決壊し、大量の涙を流す未来。
焔はそれに呆れるような、しかし嬉しいような複雑な感情を抱いて、涙や鼻水でグシャグシャになった彼女の頭を撫でたのだった。
「悪かったよ」
「こ"ドもあ"つ"がいすル"なバカぁああ"あぁああぁあ"ああ"ッ!!!」
○□
《半蔵学院襲撃は未来が破れたことにより、結界が保てなくなり撤退、か。これは打倒が目的ではないから良しとして、外の騒ぎはどうした?》
「心配はご無用ですよ先生。焔達がちゃあんとおしおきしてくれますから♪」
地下の奥深くにある御殿。照らすものが松明台しかない暗い部屋で、大鎧の人物と女が密談をかわしている。
暗がりの中で、ピンクのリボンを結っている女は淫魔な笑みを浮かべた。
髪はパーマにかけられてクルリと回り、金の輝きを放っている。それは登頂部に飾られたリボンと共に、熟した大人の顔を持つ彼女をティアラのように彩っていた。
身体の方も負けていない。ムッちりと艶のある太ももと最大級の大きさを誇る爆乳は、ピンクで露出が多いレオタードによりしっかりと引き締まって、ダイナミックなスタイルを維持し続けている。
それらを全て覆い隠してしまう罪な白衣は、大人の色香を内に溜め込んでいる百合そのものだった。
例えるなら、色香溢れる淫らな淑女。
そんな思わせる存在を前にしても、大鎧の人物は冷静さを失うことがない。選抜メンバーの一人『春華』に先生と呼ばれるだけあって、その精神力は折り紙つきのようだ。
《奴ら……詠と日影の情報によれば武者学課というらしいが、一体どのように侵入したかわかるか?なぜ奴らは蛇女の監視網に引っ掛からなかった?》
大鎧から発される加工された声。その内容を聞いた春華は笑みをやめて真剣な顔立ちになり、調査した内容を述べる。
「――その事なのですが、武者学課なる者たちは『囮』。そして『牽制』だったのではと、私は予測しております」
《根拠は》
「侍討伐は他のメンバーで十分と考え、単独で調べたのですが、
大鎧の仮面から覗く赤い眼光が細まる。
《奴らを手引きしたものがいると?》
「それもかなりの実力者です。防衛用の傀儡も、起動する前に消えてましたから」
《消えた?破壊ではなくか》
「ええ、跡形もなく、証拠も残さず、『消失』していました。申し訳ありません」
《――――そうか》
情報を残さずいなくなる。それは、古来から忍が得意としてきた行為だ。
しかし詠と日影から送られた報告の中に、それに通じた能力、技術を持つ侍はいなかった。隠れていたとしても、選抜メンバーの一人たる春華に見つけられないとなると相当の実力者だ。
武者学課が窮地に立たされても救援に来なかったのが、彼らが『囮』であって仲間ではない証拠。
となると仮称――《消失者》――は、一体何を目的に侍をけしかけたのだろうか。それほどの腕を持つ者が囮を使う理由とは?
《全く、半蔵学院を前にして厄介なものが出てきたな。私が出るべきだったか》
ガチャリと鎧を擦り、仮面の顔を片手で隠す。そこには難儀の色が見えた。
だがいつまでもそうしている訳にはいかない。大鎧の人物は座っていた台から立ち上がると、後ろへと歩いて闇と同化していく。
《春華、報告ご苦労。次は被害報告をまとめるように選抜の者たちに伝えておけ》
「御意」
大鎧のガチャガチャとなる音がなくなると、春華は楽な姿勢を取って身体を伸ばしながら、愚痴をこぼした。その様子はいちいちいやらしい。
「んっ、んんーっ、ホント残念。私も会って見たかったわぁ、頑丈な子がいたら奴隷に欲しかったんだけど…」
誰か捕まっていないかしら。と、立った彼女は少し期待しながらその場を後にした。
○□ △
「…みんな…」
春華と大鎧の人物が接触していた頃、爆発の勢いで裏門を飛び出した春希は、森の中を黙って歩いていた。
歩きだして何時になるのかも木々に遮られわからず、どのくらい歩いているのか、そもそもどこにいるのかわからない。移動は鎧装持ち出しを防ぐためにトラックで行われ、外の景色を見ていないからだ。
ただ勘で歩いていた。ただみんなの元へ帰りたいという一心で、傷だらけの体を動かしていた。
「ナッツ…、曜花…、月冬…、七五さん…」
仲間の名を呟き、漆塗りの鎧のアシストを受けて歩く。転びそうになっても幽霊の如く、前のめりになって。
「凧…、氷助…、渚…」
しばらく歩くと、広い川が現れた。
しかし疲労困憊の春希は気づくことなく、まっ逆さまに落ちて流されてしまう。
「あ…んず………、き…な、こ」
行き先は町。今さら落ちたと気づいた春希は、もがく力もなく鎧の重みで沈んでいった。
「―――秋奈…。―――」
「ゲホッ!オエッ!」
15分ギリギリまで水に沈んでいた春希は、死にそうになっているのに気づいて覚醒。鎧装のフルパワーをもって水面下から浮上し、兜を脱ぎ捨てて空気を取り込んだ。
死の危機から生還して落ち着いた春希は上を見る、そこは暗いコンクリートの壁。上流の川を辿って下水道に流れ着いたのだ。
「ここ臭いし痛いな。上がろ」
このままでは明らかに傷に悪い、汚れた水が閉じかけの傷に入ってズキズキ痛む。
春希は犬かきで水上を移動して上に上がった。
そのまま出口を探して歩き回り、しばらくすると上から注ぐ光を見つける。そばに鉄棒で出来た階段を見つけると、ソレに登って地上へ出た。
○□ △
「ここならナッツ達と来たこともあるし、大丈夫。これで帰れる」
上がった先は裏通りだった。かつてのかって知ったる道であり、幼い頃徳川が与える食べ物が少ないと、ナッツがここで漁ればウマイものが手に入ると教えてくれた場所。
三人一緒に探したっけ。と汚くなった鎧装を外して落ち着いていた所を、グウゥと腹の虫がなった。
当たり前だろう。なにせあんな
「腹減った…」
傷も洗わないといけない。問題はここからだと気を改めた所で声がした。それも、今聞いたらマズイ方の。
目だけを横にスライドすると、そこには春希にとって見知った光景があった。
「なあ、アンタ何アタシのスカートにつけちゃってくれてんの?責任取っちゃくれないかね?」
「せっ…せきにん…?」
「テメェの母ちゃん呼んでこいッつってんだよガキが!!」
「ひっ!?」
春希から少し離れた所で、少年一人を複数の不良たちが囲み、壁際に追い詰めていた。
取り巻きが脅しで店の看板を蹴り飛ばし、子供を威圧する。
リーダーらしき人物は女だが、腹が出たオバサンが女子高生のカッコしてんのかという言葉がお似合いの輩で、先に戦った焔と同じ存在なのか疑問に感じる。
足にはアイスクリームらしきものが乗っかっていて、怒っている理由はこれだろうと予想できた。
だが明らかに過剰だ。女子高生のコスプレをしたオバサンに幼い少年が追い詰められているなど通報ものだろう。
しかし、見た目のことなどどうでもよかった。
「ちょっと」
「あ"ぁん?んだテメェ―――ホフゥゥンッ!!?」
背中をつつく指に振り向いた不良の股間から、衝撃が走る。おもむろに近づいた春希が肩を押さえつけ、金的を蹴りあげたのだ。
股間を潰され倒れる部下に、その部下のブレザーを奪ってはおり、少年の前に立つ男。
そんなエグいものを見せつけられては、こちらに釘つけになるだろう。不良のターゲットが少年から春希に切り替わった。
「なんだいアンタ?アタシがここを取りしきるクジラ様だと知っての狼藉かい?」
「知らないよ、アンタなんて――――さッ!」
春希はクジラと名乗った女の腹に一直線の蹴りを放ち、後ろのごみ場へと吹き飛ばす。その衝撃でビニール袋やゴミ箱は中身をぶちまけた。
「ぬわあぁッ!?」
「「「クジラの姉御ォ!!」」」
クジラの子分がその様子に眼を奪われた隙に、春希は少年に呼びかけた。
「今逃げた方がいいよ」
「あっ…!お兄ちゃんありがとう、ありがとう!」
膝が笑っても何とか立ち上がった少年は、涙を流しながら何度も頭を下げて逃げ出した。
しかし、春希はこの時、いらない事をしてしまったと言えるだろう。
「つッ――!」
――ブチブチブチッ!――
重いものを蹴った衝撃で、完全に傷が開いて血が流れる。元々動ける状態ではないのだ。
これを隠すためにブレザーを取り、着たのだが、体は泣き言を言い出し、体勢を崩して倒れこんでしまう。
しかも、クジラ含む取り巻き達は鉄パイプやらバットやらを持ち出し、彼を囲んだ。
「アンタ、よくもやってくれたね。おかげであたしゃあゴミまみれだよ?どう責任とってくれんだい?」
絶体絶命。帰れる見込みなし。
目の前にそびえる巨体を見て、春希は悟った。ここで終わりだと。
なら、ナッツに教えられた悪態でもついてみようかと片膝をつきつつ、春希は口を開いた。
「バナナがいい飾りだね」
「――――てえぇんメェエエ死ねえぇえええッ!!!」
クジラの持つ竹刀が頭を砕かんと迫り、春希は眠るように目を閉じた。
しかし、降り下ろされた凶刃が届くことはなかった。
「ニ刀…、繚斬っ!!」
春希と不良達の間を緑色に輝く一閃が交錯し、不良達の得物を粉々に砕く。
春希の前には一人の少女が降り立ち、砕けた破片が彼女を彩る様に降り注ぐ。
その後ろ姿を、春希は我を忘れて見続けていた。
人には、二つ大事な日があるという。
生まれた日と、なぜ生まれたかを知った日だ。