忍と侍の閃乱恋唄   作:北岡ブルー

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 毎回投稿しているのにまったく感想こない!
 なぜに!?恋愛なのに戦っとるから!?



さいは投げられた

「弾幕が…、止まった?」

 

 その頃、春希は生き残った仲間達を率いて、忍達と撤退戦を繰り広げていた。そもそも、この戦い自体があまりに不利過ぎた。

 

 鎧装はパワーアシストによる身体能力の強化と、鉄で作られた防具による防御力が長所だ。しかし、相手側は外付け無しで鎧装に勝る運動能力を持ち、その上アリのように湧いてくる。

 

 例えるなら侍は戦車で、忍は戦闘機だ。

 

 攻撃はスピードに差がありすぎて当てづらいし、当たったとしても服が破けて生きたまま戦闘を離脱される。

 

 対して忍は本拠地の中で戦っているため武器の補充が効き、狙いをつけやすいため、攻撃に当たらないよう鎧の隙間を狙えば、鎧装を着た侍などいい的に過ぎないのだ。

 

 そんな中でも何人かは仕留めて門に近づいたものの、侍陣営の疲労は最高調に達し、決定打に欠ける。

 

 忍側もまた、近づくと確実に潰してくる侍の守護者《灰の鎧》に手を焼いていた。

 

「……あと少しだ。頑張ろう」

 

 仲間への激昂か、自分に言い聞かせたのか。春希は両手のクワを持ち直し、前を見据える。

 それを見た生き残り達は、負けてたまるかと闘志を燃やし始めた。

 だが、彼らは数分後、それをかき消さんばかりの絶望を味わう事になる。

 

 それを最初に確認したのは、春希の隣にいる、長いリーゼントが特徴の七五さんだった。

 

「あれ?はっつぁんあれ陽花ちゃんじゃないスか?」

「え?」

 

 クナイを弾きつつ七五さんの指差す方向を見ると、確かにそれらしき影が空を飛んでくる。

 

「間違いねぇっス陽ちゃんっス!目だけはいいんスよオレ目だけは!」

「こっち来てない?」

「え?―――うわっと!?はっつぁんどこへ!?」

「受け止める」

 

 ヒュルルル――と、陽花は独特な音をたてながらこちらに落ちてくる。

 

 やがて周囲にその音は聞こえ始め。侍側の前線に陽花は墜落した。

 最初に彼を発見した二人が、鎧装のパワーを用いてクッションとなる。

 

「――カハッ!ゲホッ!?」

「陽花…!」

「陽ちゃんしっかり!誰にやられたんスか!」

「う、あ…、(あに)…、さ…」

「ムシィ!?」

 

 落ちてきた陽花は重傷を負っていた。

 

 鎧装には割るように深い切断面が走り、もはや原型を留めていない。

 傷は本体まで届き、身体から血を垂れ流している。

 

「誰だ。こんなことした奴」

「ごめんなさ…、ごめんな、さい…!わたし…弱く、てぇ…!!」

 

 血の流しすぎでガクリと気を失い、二人に支えられる陽花。

 二人は急ぎ仲間達の元まで退くが、実質春希とナッツに続く強さを持つ陽花の有り様に一同は驚き、勢いは止まってしまう。

 

「ここに攻めこめば当然そうなりますわ。自業自得とはいえ、お気の毒に」

「――ッ!誰だ!」

 

 どこからか聞こえてきたお嬢様言葉に、侍の一人が警戒の声をあげる。

 

 すると目の前にいる忍陣営が二つに割れ、その中から高貴な雰囲気をもった美女が姿を現した。

 

「私は蛇女子学園選抜メンバーの一人『詠』と申します。以降お見知りおきを。ところで、誰かもやしが好きな方はいらっしゃいませんか?いるのでしたら――」

「いや」

「――そうですか」

 

 肩に背負っている巨大な鉈を見た春希は、月冬を倒したのはコイツだと悟り、彼女を嫌う。

 その瞬間、詠が放つ圧力が10倍に膨らんだ気がしたが、春希は気にせず構えた。

 

 すると、上空からまた声。

 

「また仲間がやられてしもたみたいやな。ご愁傷さん」

「ちょっ、もう離してよ日影!パンツ見えちゃうってば――」

「……まだいるのか」

 

 上から聞こえたのはダウナーな関西弁。

 

 春希含めた侍達が上空を見上げると、これはまた妖しい雰囲気をもった美女が、黒いドレスを広げる少女の足を掴み、ゆっくりと門の前に降りてくる。

 

 何人かが顔を背ける中、地に足をつけた日影という女は侍を挟んだ奥にいる詠に戦果を伝えた。

 

「詠、上におったのは全部片付けたで」

「ご苦労様です日影さん。もやし1パックどうですか?」

「あ~…、またもやしか。もういややでウチ」

 

「…」

 

 弾幕がやんだ時から覚悟はしていたが、やっぱりか。

 

 言葉が豊かであれば、春希はそう口にしただろう。

 その代わりに春希は震えるぐらい強く両手のクワを握りしめ、敵を見据える。

 

 前方に陽花を吹き飛ばせるパワーを持つ女が一人。

 後方に後衛を全滅させられる力を持った女が二人。

 後衛の援護は期待できず。

 仲間は続く乱入者に完全に萎縮し、自身の指揮能力クソ。

 衣装に全く共通点がないが、忍達の反応から学のない春希でも彼らより上の存在なのはわかった。

 

 そうなると彼女らも服が破けて直撃を避けられるのか、

 装備品、服からどんな攻撃をするのか予測できないか、

 そもそもあの三人を自分は足止めできるのか、

 まだメンバーはいるのか、

 足止めできたとして、ほかの忍をどうする、

 自分がわかってない問題は?

 

 簡単に浮かぶ問題だけでも、気が遠くなってくる。

 

「腹、くくるしかないか」

 

 それでも、手がないわけではない。

 

 彼は陰っていた顔を前に向ける。

 それに呼応するように、運命も逆転し始めた。

 

 

 

○□ △

 

 

 

 侍と忍が激突して半を刻んだ頃、蛇女の所持する訓練場には雨が降り注いでいた。

 

 そこに土が山なりに吹き飛ぶ音と、怒り狂う咆哮が轟く。

 

「――――おぁぁぁぁぁああああああああ…!!!」

 

「なんだ!向こうから何か近づいてくるぞ!」

「もうこれ以上何が出てくるんだよ!!」

 

 またヤバいのが来るのかと、怯える侍たち。

 それは忍も同じであり、特に日影、未来、詠の美女三人は怯えはしないものの、何か心当たりがある様子だった。

 

「なんや大きいなぁ。強いのが侵入(はい)とったんか?」

「何?一体どうしたの見えない!」

「あれは……!」

 

「らぁぁぁぁぁああああああッ!!!」

「ガギャアアッ!!?」

 

 また土が爆発し、土砂の中から何かが飛び出してきた。

 

 それを例えるなら、十中八九ほとんどの者がボロボロの絞り雑巾をあげるであろう。

 しかしソレの正体を、侍陣営の者は知っていた。

 

「「「センセイ(徳川)!?」」」

 

 見間違えるはずがない。

 

 ズタズタの泥まみれになって宙を舞うソレは、間違いなく自分たちをこの窮地に置いてきぼりにした男、徳川である。

 

 春希とナッツが戦っても勝つあの男がなぜ?

 

 その原因も、徳川とほぼ同時に姿を現した。

 

「アアアァァァアアアッ!!!」

「ッ避けなさい!」

 

 詠のとっさの退避命令もむなしく、紅い何かは進路上にいる下忍達を吹き飛ばし、全員を容赦なく裸にする。

 

 紅い何か。その正体は紅く染まったオーラを振り撒く焔だった。

 

 ポニーテールだった髪は下ろされて振り乱し、美しい顔は怒りに歪んでいる。

 焔は徳川に対する怒りで自身の気を暴走させていたのだ。

 

「一体何がありましたの焔さん!落ち着いて下さいまし!」

「どけ詠!!アイツを殺させろ!!」

 

 侵入者らはともかく、後ろには日影と未来がいる。

 あのスピードで突撃されれば二人がひとたまりもない。そう考えた詠は巨大な鉈を盾に焔の突撃を食い止めようとする。

 しかしパワーファイターである詠でさえも、焔に押されて足がめり込んでいた。

 

「うぐ――!」

 

「は…、ひはははッ!よし貴ひゃまらァ!!後ろへ突貫せよ!!撤退ヒゅる!」

「「「え!!?」」」

 

 そこに顔面を切られ、大きすぎる三本線を刻んだ徳川が撤退を命じる。

 

 確かに今なら、忍の戦線が崩れている今なら逃げられるかもしれない。前の相手より後ろの相手の方が勝機もあるかもしれない。

 

 焔という圧倒的存在を目のあたりにした侍たちは、徳川の一手こそ正しいと思考を放棄し、後ろにいる日影と未来に武器を構え睨み付ける。

 

 鎧装という力を持っても所詮は子供。日頃から徳川の虐待を受けていた彼らは、心根に『徳川に逆らうな』という深層心理が働いていたのだ。

 

「残念やな、やっこさんやる気みたいやで」

「そうね、向かってくるなら潰すまで。わかってるわよそんな事」

「あんなワンちゃんワシ一人でやれるわ。未来は下がっとき」

 

 殺気を放つ侍達に怯えもせず、未来の前に立つ日影。

 気のせいか、その顔は怒りを浮かべているようだった。

 

「槍を持っへいるもほは鉈女を刺せ!!他はうしほの女どほをなぶり殺しにしほォ!!!」

「「「うぁぁぁぁぁあああああああッ!!!」」」

「ちょ…!」

「来ようたな」

 

 生きたい、帰りたい。

 思考停止した(子供)たちはその一心で、徳川の言うままに本来攻撃する必要のない詠の背中へ、相性最悪の日影に特攻をかけようとする。

 

 さいは投げられた。

 

「ははははは!!侍ろそうふぁ!忍を女をコロ

 

 

 

―――ドスッ ドスッ ドスンッ!

 

 

 

 前後に別れかけた侍陣営の真ん中で、赤い噴水が音を立てて吹き上がる。

 

 雨の中高く上がる鮮血は、薄暗い天候の中でよく目立った。

 

 聞き慣れた大きな声が途切れた事で驚いたのだろう。侍たちは全員、後ろを向いていた。

 

「……なんや?」

「え?」

「あ…危ない…。もやし食べられなくなる所でしたわ…」

「…………!」

 

 日影、未来も驚いていた。密集していた侍を掻い潜り、誰があの男をやったのかと。

 

 詠はホッとしていた。腹を貫通され、入院費を払う心配がなくなったから。

 

 焔は見た。

 

 灰色の鎧が、徳川、先生と呼ばれていた憎い男の胸をドスで刺し、血の花を咲かせた所を。

 

「何だ、アイツは…?」

 

 焔はその光景を見て茫然としたのか、紅いオーラが収まっていく。

 

 灰の鎧は、その一部を返り血で濡らし立ち上がると、日影に似て平淡な、しかし強く感情の籠っている声で侍達に呼びかけた。

 

「皆、命令は無しだ」

「え…、で、でもはっつぁん。アイツら殺さなきゃ俺たちは…。」

「悪いのは襲った俺たちで、忍は戦っただけ」

「……でも、でもここで終わりなんて!」

「わかってる。悪いのはコイツだ。今まではいう事聞いてたけど、死んでまでコイツの言う事を聞く気ない」

 

 そういって、事切れた徳川の襟首を掴み引きずっていく。止める姿勢を解いた焔と詠の前へと。

 

 侍達は、自然に避けるように道を開けていく。

 

 こうして赤と茶色雑じりの跡を作り、二人の目の前まで来た灰の鎧は徳川の顔面を泥まみれの地面に突っ込むと、本人も同じく泥の中にフルフェイスの顔を突っ込んだ。

 

俗にいう『土下座』というものだった。

 

 

 

 

「いきなり襲ったりして、ごめんなさい」

 

 

 

 

 止まる。周りの空気が固まる。

 

 戦場でするべきでない行いに忍も、侍も傍観するに止まり。ただ雨の降りしきる音だけが響く。

 

 そこに今までの熱気はなかった。

 

「オイ。なんのつもりだ…」

「攻撃しろって言ったのコイツ。だから皆を見逃してほしい」

「ふざけるなよ、なんのつもりだと聞いてるんだ!」

 

 周りが止まっている中、焔だけはその行為を理解できず、灰の鎧の胸ぐらを掴んで持ち上げた。

 鍛えている彼女からすればそのぐらい余裕だ。しかし、この鎧を着込む男の考えだけは訳がわからなかった。

 

 まるで先に襲撃した忍を思わせる言動に、焔は怒気を孕んだ声を飛ばす。

 

「戦いは二つに一つ。どちらかが倒れるまで続くんだ!それを襲った側のお前らが許してくださいだと!?虫が良いにも程があるぞ!!」

「わかってる」

「なんだとこの…ッ!」

 

 許しを懇願している立場のくせに堂々と語る態度に、焔が鎧の男の顔を殴ろうとした時だった。

 

 それを止める声が、焔の耳に届く。

 

「――あの黒い鎧の男が率いていたのはね、全員孤児の、多くが貧困街の子供らしいのよ」

「……なんですって?」

 

 それは、侍たちの背後を陣取る未来の声だった

 

 歩いてきた未来の発言に詠が目を見開くが、友達を傷つけるのを覚悟の上で未来は語る。

 知らずに傷つけるよりは、知らずにいじめッ子のようにさせるくらいならと想って。

 

「これは日影が教えてくれたんだけど、黒い鎧の……徳川ってのは昔の侍の末裔らしくてね。時代に取り入った忍を憎んでたらしいわ。それで忍装束に対抗するためにこの鎧……鎧装とやらを作って転覆の機会を伺ってたってワケ。でも自分は大将気取って他に戦わせたの。ホラあんた脱ぎなさい」

 

 そこまで話すと未来は侍の一人に傘を向ける。

 

「え? なんでボク――」

「いいから早く脱ぎなさい!」

「ヒン! はっ、はい!」

 

 ガゴッと傘でケツをつつかれた侍の一人は、そう言われると急いで地に膝を付けうなだれる。

 とても脱ぐ動作に見えないソレに焔が疑問を抱いた時、背中がX字に割れて煙が吹き出した。

 

「うおっ……  ―――ッ!?」

 

 サナギが羽化するのに見えた焔は一瞬引きそうになるが、そこから出てきた者の姿を見て動きを止める。

 

「日影のいう通りね」

「――ッ」

 

 なぜなら、鎧の中から出てきたのが未来よりずっと幼い子供だったからだ。

 

 紙を切って作った様に雑なYシャツと汚れきったズボンを着ている姿は、貧困街出身の証。

 

 長かった手足は、竹馬の様に延長されていたのだ。

 

 そんな子供が忍と戦わされたのかと、詠は目を見開き、地べたに張り付く徳川を見てわなわなと怒りに震える。

 

「ありえないですわ…!これだから…、これだから金持ちは…!!」

「………」

 

 声は聞こえにくいが、豪華な見た目の人が怒ってくれたというのはわかった。

 

 突破口を見た春希はそこを狙う。

 

 ズルいのは知ってる。しかし、もうこんな男のために仲間が死ぬのはゴメンだった。

 

「徳川にやらされてたんだ。皆を見逃してほしい」

 

 二度目の願い。

 黒ドレスの女が言葉不足を補ってくれた意図はわからないが、春希は深く深く謝罪する。

 しかし、その空気を一刀両断にするものがいた。

 

「ハッ、バカらしい。嫌だね」

 

 焔である。

 

「経緯がどうあろうが、年はいくつだろうが、生まれがどうのこうの関係ない。お前らの戦いはちゃんと見ている。あれは変な鎧の強化だけじゃない、明らかに中の奴も慣れている。見ればわかるんだよ」

「ッ……!」

 

 言葉の一つ一つを発するたびに、首を絞める指が深々とめり込む。

 無抵抗に捕まれている春希はその度にジワジワと苦しめられる。

 

 それを無視して焔は詠と未来に目くばせし、警告する。

 焔は自分の事となると雑だが、仲間が関わるとなるとある種のカリスマ性を発揮する女だった。

 

「詠、未来。気持ちはわかるが相手はどうあれ蛇女子学園を襲った『敵』だ。下手に情に流されるんじゃない」

「うっ…」

「……ええ。わかってます、わかってますとも。すいません焔さん、感情移入しすぎてしまいましたわ」

「ならよし」

 

 説教が終わると同時に、春希が侍陣営の前に投げ出され、ドチャンと泥を跳ねる。

 

 これを見れば、交渉が断ち切られた事など容易に悟れるだろう。侍達の足は挫け、嘆きの声がこだます。

 

「それとな、私は情に訴えるやり方は好きじゃないんだ、腹が立つ。以降(・・)気をつけな」

「『以降』――?」

 

 倒れ、見上げる形になった灰の鎧に、焔が影となる。

 

「ああ、『悪は善より寛大なり』。それがこの学園の教えだ。でもそれはやたら甘やかすって意味じゃない」

 

 

 

「生きたければ『代償』を寄越せ。そうでなければ全員を斬る」

「なら俺が『代償』だ」

 

 絶望から一転、交渉は成立した。

 


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