忍と侍の閃乱恋唄   作:北岡ブルー

5 / 10
いうなればFPS VS 無双みたいなモンです。



選抜メンバー

「ゆくぞ侵入者ッ!」

 

 リーダー格を倒された6人の悪忍たちは、自分たちが囲んでいる侍より前に立つ者が格上だと悟ると、猛スピードで分散し、クナイ、手裏剣、鎖鎌など様々な武器を鎧の隙間に投降する。

 

 当たれば怯むだろうという考えからだ。しかし――

 

「何ッ!?」

 

 狙いは間違いなく的中。毎日地獄のように厳しい訓練を行っている蛇女の忍にとって、目標に当てることなど造作もなかった。

 だが灰の鎧は手裏剣やクナイが肘に刺さり、鎌が肩を抉ろうとそれを無視して忍の一人に突撃する。

 

「それが――、どうした!」

 

 面積の狭い鉄のクワの一撃。全体重と遠心力を加えた一撃を腹に打ち込まれた忍は、車に跳ね上げられるように他の忍達の前にバウンドする。

 

「あと5人……ん」

「おのれ!よくも嫁入り前の仲間を!!この、この!」

 

 それを回避した忍が鎧の背後に取りつき、エンジンらしきV字の駆動部をクナイで滅多刺しにする。

すると目に見えて鎧の動きがおかしくなり、中の春希が苦悶の声をもらす

 

「あが…!くッ、そんなの俺に…」

「え!?」

 

 瞬間、背中に取りついた忍は一瞬の浮遊感を覚える。

 嫌な予感を感じ逃げようとするも、灰の鎧が彼女の脚を掴んで離さない。

 

「関係ない」

 

 春希は敵の戸惑いに耳を貸さず、一切の情け容赦なく後ろに倒れ、グシャァン!と鎧装を含めた全体重をかけて頭から思いきり潰してみせた。

 

「がああぁあぁあッ…!!」

「これで4人」

 

 硬い地面と機械の鎧に挟まれ、頭蓋骨の軋む音に悲鳴をあげた忍は、それを最後に意識が途絶える。

 忍者として能力を強化しても、女性特有の柔らかさは変わらないようだ。

 

 脚から力が抜けたのを確認した春希は、バク転の要領で転がり他の忍達から距離を取る。

 武器を構えると、誰かが「ヒッ!」と怯えたのがわかった。

 こうなれば必勝パターン。さらに怯えさせるために春希は脅しをかけて突撃する。

 

「今ヒッって言った奴。潰す」

 

 それを聞いた一人が可愛らしい悲鳴をあげた。

 

 

 

○□ △

 

 

 

「まったく、他の物達はどうしたというのだ!!俺に着いてくる事すらままならず、女ごときに半分以上もやられおってッ!!!鍛練を怠けていたのか?貧困街から救ってやった恩を忘れおって!」

 

 ガシャン!と、大きな声をたてながら戦いに倒れた者を蹴り上げ、道端に転がす漆塗りの鎧。

 

 後ろには、何とか着いてくるレベルでボロボロの鎧たちの姿があった。

 

 彼らの正体は先行して敵城に乗り込んだ徳川の部隊で、隊長格である徳川は今。赤い柱が何本もある鳥居を思わせる通路を歩いていた。

 

 だが、敵の気配が一つもない。

 

 それが30分以上続いているのだ。

 

 しかもだだっ広いため、徳川の声がいつもにましてよく響く。

 

「来ないなら仕方ないな、いったん休息を取る事にする。おいコノハ!」

「……は、はい、センセイ」

 

 与えられた名を呼ばれ、内股を震わせながら簡略鎧を纏った一人の少女が出てくる。

 

 年は小学生くらいの茶髪で、おしとやかそうな顔の半分は春希が殴ったとして包帯が巻かれていた。

 

 前に出てきた木ノ葉に対して、兜を外した徳川は一つの命令を下す。

 

「前の道にいた(くの一)を連れてこい。顔のよし悪しくらい分かるだろう?」

「え…?」

「………さっさとしろォコノハ!!死にたいか!?」

「ヒッ!?はい!はい!!」

 

 幼いが故に意図がわからなかった木ノ葉。それにイラついた徳川が火縄銃を向けて脅す。

 

 改造されたそれで撃たれた忍の末路を知っている木ノ葉は、撃たないでとばかりに体を縮ませ、涙を流して逃げるように道を逆走する。

 

 木ノ葉の通った先には、黄色い液が撒き散らされていた。

 

「はははコノハの奴め、ションベンを漏らしながら走っていったわ!ははははは…、どうしたお前達も笑え?」

 

「え…?」

「……あの、それはちょっと――

 

《ドオォォン!》

 

 抗議しようとした金髪の少年に向かって、火縄銃が煙を吐く。

 

 吐き出された弾は、金髪の少年の耳をかすめていた。

 

「笑え」

「あの!ちょっ待て――!」

 

 チャキンと、弟を助けようとした兄 紅葉(もみじ)の頭に口径が向く。

 

「『待て』?待てだとこの餓鬼。貴様いつ主である俺より偉くなった?あ?」

(しまっ――!)

 

 今まで徳川は、体罰として攻撃した事はあれど《殺し》はしなかった。

 それはただ単に、大きな怪我を負わせて病院に行かせるのがめんどくさかったからだ。

 

 しかし、例外が一つだけある。

 

 つまり殺す場合が一つだけある事を、武者学課に居着いて長い紅葉は知っていた。

 

 だが、いきなり弟に銃が向けられたために、つい言葉に出てしまったのだ。

 時代遅れな思考を持っている徳川がめんどくさい殺しを行おうとするのは、ただ一つ。

 

――配下が自身に偉そうに出た時だ――

 

「主に敬意を払わん配下は死ね」

 

 調子を合わせない紅葉に引き金を引こうとしたその時だった。天井が無数の一閃により刻まれ、砕かれたのは。

 

「なんだ仲間割れか?まぁ私には都合がいいけどな」

「――ッ 何奴!」

 

 光差す天井から女の声が響き、瞬間的に徳川は声のした方向に銃を発砲した。

 その数3発。しかしそれは、前に交差した刀によって真っ向から弾かれた。

 その数6本。徳川の後ろにいた紅葉にとってそれは、強靭な龍の爪を思わせた。

 

「そこの黒いの、さっきの反応、銃撃といい中々の腕だな。私と戦え!」

 

 徳川達と同じ床に降り立った六刀の爪が、翼のように拡げられる。

 するとその中から思いもよらぬ美女が姿を現した。

 

「――おぉ…」

「は!?」

 

 徳川が思わず声を洩らし、紅葉は声を失う。

 

 当然だろう。二人ともこんな美女に出会ったことなどなかったのだから。

 

 茶色かかった黒い髪は長いポニーテールとして結われ、顔は明るくも肉食獣を思わせる勇敢な笑みを浮かべていた。

 目立つのは、全身見事に焼けた肌だろう。漆黒の制服とマッチし、ヘソの見える腹部を中心として焼けた身体の魅力をさらに増大させている。

 そして、その胸は豊満であった。

 

 今まで徳川は美人になるであろう少女を中心に集め、大量の側室を作ろうと備えていたのだが、それら全てを主力たる春希に台無しにされ、その度に怒り狂い彼に暴力を奮っていた。

 

 しかしこの美女を見た瞬間、徳川の悩みは消えた。

 

 この女は今まで集めてきた少女や倒した忍、人生全てで見ても間違いなく最高級の女だと確信したからだ。

 

 目の前の女の事を思えば、今までの女など生ゴミ同然。

 それほどの差があるからこそ、徳川の判断は早かった。

 

「くくく…くはははは…!!」

「ん?」

 

 腹を抱え、笑う徳川。

 少女はそれを見ると目に見えて怪訝な顔をし、翡翠の目を細める。

 

「なんだ、どうした黒いの。どこが可笑しい?」

「ふふふ…、いや失礼、戦うんだったな。承知した…!」

 

 この女こそ、私の妻に相応しい。

 徳川は人の顔を象った仮面の奥で嫌らしい笑みを浮かべ、一族伝来の宝刀を抜く。

 

「お前も他の忍共と同じように、裸に剥いてやろう」

「フン、できるかな?この私を、《焔》を倒せるか!!」

 

 獣の如き獰猛な表情を互いに現わにすると、両者は刀を構えて激突した。

 

 

 

○□ △

 

 

 

「ウリャリャリャリャリャ~~~!!」

 

 幾人もの忍を蹴散らし、赤色混じりの荒野を走る鉄球こと陽花。

 

 何人かの生き残りを追いかけているソレの前に、一人の少女が対峙した。

 

「皆様どいてくださいまし。私がお相手いたしますわ」

「あ、貴女は選抜の!お願いいたします!」

 

 前に立ち塞がる少女を見た忍は、疲れはてた顔を希望に輝かせ、邪魔にならないよう左右に飛び退く。

 

(ん?忍達が左右に飛んで逃げた?いや、前になんだか変な気配がします!なるほどコイツが棟梁ですか!!)

 

 少女の気配を感知したのか、鉄球は左右の忍を無視して加速。潰そうと迫る。

 

 常人なら間違いなく怯えてしまうであろう勢いに当てられても、少女から姫のような高貴さが失われることはなかった。

 

「フフフ、ボール遊びなんて久しぶり。ゴミ箱で拾ったバスケットボール以来ですわ」

 

 ガァギァアァアンッ!!!

 

「――――ウ!?ガッ!」

 

 鉄球…、体を丸めて突進していた陽花に少女の声が聞こえ、次の瞬間瞬く間に空へと飛ばされる。

 

 特急列車に跳ねられたかような衝撃。そのあまりに重い一撃によって、延長された義籠手は無残に引きちぎれ、忍の攻撃をかすり傷で済ませていた外装は醜くひしゃげていた。

 中の陽花も砕けた内部機関に腹をやられ、血ヘドを吐く。

 

「ガッ!カハッ!ゴホッ!?え…、何…!?」

 

 鉄球の姿を保てずに倒れた陽花は前を見る。その先にあったのは天に掲げられた鉈だった。

 

 しかし、その鉈は自身の知る鉈とは明らかに大きさが違った。まるで鉄の山を切り出し、そのまま加工したのかという程の巨大な鉈。

 鎧装抜きでは持ち上がらないであろうそれを、明らかに年増もいかないような少女が扱っていたのだ。

 

 髪はふんわりと柔らかくホイップされたクリームのロングヘアーで、陽花の人生観上。あの人以外の女性では対抗する事すら不可能。ツバを飛ばして星にしてみろというように、まわりと比べることすらおこがましい美しさだった。

 その身は臼緑色のドレスで着飾られ、先のロングヘアーと素晴らしいコントラストをなしている。ドレスの頂点では抑えきれないとばかりに魅惑的な肌の谷間が顔を覗く。

 

 一体なぜ、こんな温室育ちお嬢様が悪忍を養育する場所にいるのか。その美貌に考えがズレてしまった時。

 

「あらあら、まさかあれで倒れる程ヤワではありませんわよね?」

「―――ッ!!!」

 

 瞬間、陽花は気を反らした自身を恥じ、無骨な片方の義籠手で大地を殴った。

 

 確かにロクな強化もなされていない量産の鎧装では歯牙にも掛けられないだろう。だが――

 

「ヤワ…。ヤワ……!?」

 

 武器を失った陽花は、なんとか残っていた片方の腕でファイティングポーズを取り、立ち上がる。

 

「上等です!そのカワイイ顔メタメタしてあげますからねっ!!」

「ふふ、元気ですこと」

 

 それに対し少女―――《詠》は、ブオンと鉄塊のような鉈で風を凪ぎ払い、砂を巻き上げた。

 

「そうでなければつまらないですわ!」

 

 

 

○□ △

 

 

 

 徳川、陽花が蛇女の強者と出くわした頃、崖の上を陣取り銃撃を続けていた後衛にも脅威が迫っていた。

 

「ナッツさん!ナッツさん!」

「あん?エロ談話ならこの話が終わってからに――」

「左から敵影を確認しました!」

「んまぁオレの好みは黒髪ロング――んだとぉ!?」

 

 後衛を仕切っていたナッツは驚愕した。ナッツは前の銃撃隊に飛んでくるものも含めて全て撃ち落とすよう指示していたし、登ってくる忍は集中砲火で裸に剥き落としたからだ。

 

 後衛の弾込めチームにも後ろの警戒に当たらせていたが何の連絡もなかった。

 

 

 ――ならどこから?――

 

 

 その答えは、すぐに出た。

 

 

「刺して」  ザシュ  「切って」  ザンッ  「割って」  バキッ

 

   「盗って」  バキッ   「撃って」  ドォン

 

「ぶっかけ」  ビチチッ  「落として」  ドッ  「蹴り」 ゴッ

 

   「裂いて」  グバッ  「目潰し」  ドス

 

「噛んで」  ガブチッ   「踏む」 グシャ  

 

「すり抜けて」

 

 

 耳元に、ネットリと絡み付くような息づかいと声。

 

「後ろや」

「―――は!?」

 

 ガチャンと、後ろに銃を向けるナッツ。

 しかしあんなにいた仲間達はほどんどおらず、残った者達も何が起こったのか理解していない顔をしていた。

 足を一歩動かすと、その拍子にグチャっと何かを踏む。

 

「――かっ――あっ――!!お前らッ!?」

 

 それは先ほど報告に来た年長組の一人だった。いや、正確に言えば彼から溢れ出す血か。

 

 他にもいる。腹からカッターの刃の形状をしたナイフを伸ばしているもの、首を切られて座り込んでいるもの、鎧が真っ二つになったもの、マウントされている銃を無くし、蜂の巣になっているもの。

 他も酷いありさまで、内一人は影も形もいなくなっていた。

 

「何だ…?おい誰だよ…、出てこいよ……    ぁぁあああオレがこいつらのリーダーだァ!!来いっつってんだよおお!!!」

 

 不意に現れた恐怖に対し、それを吹き飛ばそうと咆哮を上げるナッツ。すると相手がアクションを取るが、それを伝えたのは前にいる同年代の仲間だった。

 

「ナッツ後ろだしゃがめぇ!!」

「あ?うぉおお!?」

 

 息苦しくて兜を取ったのか、仲間が恐怖に歪んだ顔を晒して銃口を向ける。そこから彼はノーモーションで発砲し、弾がしゃがんだナッツの兜を削った。

 

「お前ふざけんな!いくら怖いから…、てっ…?」

 

 グラリ

 

と、撃った仲間が横に倒れ、仲間の血に濡れる。

 

 その首には他の仲間に刺さっていたはずのナイフが刺さっており、一瞬瞬間移動でもしたのかと誤解してしまう。

 

 しかしその間違いも、すぐさま正されることになる。

 

「出てきてやったで。コイツらのリーダーはん」

 

 犯人は、倒れ付した仲間の後ろにいた。

 

 髪は端が広がっている緑のベリーショート。丈の少ない蛇の紋が入った服やジーンズは所々が破れ、乳白色の、餅の如く柔らかそうな肌をさらしている。

 スタイルも抜群のプロモーションで、これ以上あるかというほどいい身体をしていた。

 

 しかし、ナッツの股間が熱くなることはない。

 それどころか、全身から血の気が抜けていく。

 

 蛇のように瞳孔が長く、黄色い目。その人外の目で睨まれてしまえば、生殖本能より生存本能が勝るのが当然だろう。

 

 何も答えないナッツに目の前の女は長い舌をたらし、ただただ無感情にダウナーな声を出し語る。

 

「何でアンタは震えとるんや?ワシはただお前らの間をすり抜けて暴れ回っただけやで。ありきたりなことやろ」

「ウソつけ!風切る音も気配もしないなんてあんなの人間ができる事じゃねぇだろ!!オレの仲間達に何しやがった!!」

「あーあ、やからなぁ…」

 

 表情の読めない未知の力を持つ女から、冷静さを失い情報を得ようとナッツは矢継ぎ早に叫ぶ。

 

 その様に女は頭をかきながら適当に質問を返そうとすると、それに強烈な横槍が入れる者が乱入してきた。

 

「あたしを無視するなってぇ…!!」

「あ」

「は?」

「いったでしょうがあああああああああああ!!!!」

 

 戦場で響く幼い声に、対峙していた二人が同じ方向を振り向く。

 すると目の前には、光の壁が高速で迫る光景が写った。

 そこから先の結果は両極端だった。

 

「があああああああッ!!!?」

「よ、と、ほ」

 

 ナッツはそれが何かを知る前に光の草原の餌食になり、無限の蟲に群がれた葉の様に鎧装が食い破られて後退してゆく。

 

 対して女はそれが何か知っていたらしく、眩しくて見えない隙間を狙って身体を揺らし、無限に迫るソレをやすやすとすり抜けていた。

 

 それは一分間続き、終わったころに奥から一人の子供が歩いてくる。

 

 それは果たして普通の子供なのだろうか。男がいれば、間違いなくそんな質問が返ってきてたであろう容姿を少女は持っていた。

 

 髪は艶やかな輝きを秘める濡羽色のロング。それがなびくと、そのたびに全体にあしらわれたフリルも揺れる。

 フリルが飾られているのは深緑色のアクセントが施された黒のドレス。本来なら大人の女性に着られているであろうそれは、幼い少女に着られる事でミスマッチを生み出し、猫の要素や眼帯などの中二ファッションと合わさる事で、少女の愛くるしさ、無垢さ、柔らかさを持つ幼顔を最高峰にまで際立てていた。

 

 しかし、少女には容姿よりも大事な事があるようで、そのまま自身の倍の身長を持つ女の下まで迫ると、胸の内の爆弾をブチ切れさせ怒りまくる。

 

「まったくもう!皆してあたしのこと置いていって!半蔵学園のヤツならまだしも、アンタ達が無視するとかひどすぎるわよ《日影》!」

「せやな」

「返事てきとぉ!」

 

《日影》と呼ばれた女は、顔を真っ赤にしている少女の剣幕を適当に流す。どうやら日常茶飯事の事らしい。

 

 ムキィイイと地団駄を踏んで唸っていた少女は、日影が出した情報により怒りを抑えた。

 

「あぁせや、暴れる前に一人捕まえて尋問したんやけどな、コイツら『武者学課』っていう所から来たらしいで。」

「は?武者学課?そんな組織知らないわね?」

 

 少女は武者学課の単語に?を浮かべる。というか、今さら周りの鎧に気づいたようだ。

 

 それに対し、少女も彼らを知らないと知った日影は情報を付け加える。

 

「何でも、今まではヤクザや犯罪者とかを相手にしとって、忍にはトコトン無干渉やったそうや。まぁワシが昔おったトコみたいな感じやな。棟梁はクズやけど」

 

 

 ――クズ――

 

 

 その言葉にいい思い出のない少女は、そこに猫耳を立て、眉間をつり上げる。経験者としての勘が察したのだろうか。

 

「……どういうことよ、それ」

「…『未来』さん。相手は敵や。敵として《秘立》に攻めてきたからにはみんな潰さなアカンで?」

 

 だったらそんな情報わたしに聞かせないでよ。そう言いかけた未来は言葉を呑み込む。

 

 日影は感情を知らないから、それを聞いてあたしが怒るという事がわからなかったんだとアタリをつけて。

 これは日影なりの気遣いだ。日影は感情を知らないが、冷酷ではない。

 どちらにしろ、察してしまった未来は置いておく気にはなれなかった。

 しかし自分の勘違いの可能性もある。もっと情報を集めなければ。

 

「わかってるわよそんなこと。さっ、降りている間にもって聞かせてよ。ごーもんして手に入れた敵の情報ってヤツをさ」

「あいよ」

 

 日影が了承したのを確認した未来は、フリルの多い傘を広げ崖から飛び降りる。

 すると下から来る気流でスカートがフワッと浮き上がり、パラシュートになる。

 日影も、未来の足を掴んで共に降りていく。

 

 それからしばらくして、彼女らの離脱を待っていた者が起き上がる。鎧装を砕かれ、血塗れで倒れていたナッツだった。

 

「あ"…、つぅう…。あの当たった感覚…。あの光は弾丸、弾幕かよ。ありえねぇ…、何なんだあいつらは!!」

 

 装甲は殆どが破壊され、内部の機械もカラカラ空しく回るだけでもう役に立たない。

 

 安全の為に着ていた服も食い破られ、ほうほうのていで仲間達の転がる場所に行き着いたナッツは、届くことのない友に向かって天に叫ぶ。

 

「クソぉ!!逃げろ春希!俺たちじゃコイツらに敵わねぇ!!逃げろ!逃げろぉぉおぉ……!!!」

 

その声に答えてくれる者は、どこにもいなかった。

 

 

 

○□ △

 

 

 

「ぬうううぅぅううう……!」

「どうしたどうした!私を裸にするんじゃなかったのか!!」

 

(そんな…!バカな、こんなはずじゃない。今はもうこの女の具合を楽しんでいる時間のハズだ!!)

 

 一方、焔と遭遇し、戦っている徳川は、目の前の現実に疑いをかけていた。

 

 かれこれ10分も刀を交えているが、もう何十年も戦っている気がした。

 それだけ焔の……女の攻撃が苛烈でやむ気配がないのだ。

 

 最初に刀を交えた時、徳川は勢いに耐えきれず、おもちゃのように無様に吹き飛ばされた。

 

 その時は銃を乱射してなんとか近づかれる事を回避したが、そこから焔が「いい腕だ」と評し戦闘法を切り替えた事で、一気にこの状態に持ち込まれてしまった。

 

 柱、壁、天井。全てを踏み台に加速し、焔は黒の閃光となって徳川を追い詰めている。

 

 「これでは狙いも定まらないだろう」と後ろから。

 星を描いて四方八方から。

 時には足を掬い上げられそうになり、その時は間抜けな声を上げてしまう失態を犯した。

 

 男である自身より何十倍も動いているハズなのに、男たる自身と、徳川の末裔たる自身をここまで追い詰めている。

 

(『女』が、『女』ふぜいに、『忍』のくせに、『忍』ごときに…ッ!!)

 

 全てが特注の鎧装を装備している自分を軽く凌駕している。

 

 その現実に最初は意気揚々だった徳川も、刀を当てる度に自慢の宝刀が粉々に砕けるのではないかと幻を見るようになった。

 それほど紙一重の攻撃をこの刀でさばいたのだ。

 

 しかし、戦いのセンスに愛された焔がそんな隙に気づかないハズがない。

 

「及び腰だぞ!」

 

 ダンッと、後ろから思い切り蹴る音がする。

 

 長時間にも思える重厚な接戦で感覚が鋭くなっていた徳川は、瞬時に来る方向を感知し、振り向き様に真っ二つにしようとする。

 

 だが甘い。

 

「何!? は?」

「感覚に頼りすぎだオッサン!!」

 

 焔はまだ来ていなかった。

 相手の動きが活性化していたのを感じていた焔が、飛ぶ時に六本の刀で柱を引っ掻き、意図的にタイミングをずらしたのだ。

 

――速すぎた!しかしこれなら頭を突ける!――

 

 それもまた甘い。

 焔は刀身を横にして風切り羽とし、空中で宝刀を軸とした急旋回を見せた。

 人間技ではない鳥のような軌道に目を見開く間もなく、背後をとった焔から三列の一閃が飛ぶ。

 

「そら!」

「ガッ―――」

 

 前に飛んで回避するも、内一本の刀が徳川の足の腱を捉え、切断した。

 

「――――あッ!!? がああああぁぁぁぁぁぁああああああああああ!!?!?」

 

 足が言うことを聞かなくなって倒れる徳川。発狂して転げまわり、無様な悲鳴をあげる。

 顔など赤ん坊の泣きっ面のようだった。

 刀を下げた焔は、じわじわと歩みより徳川にプレッシャーを与える。

 

「あ!あああ!?ひぎぃいいぃい!!?」

「なぁオッサン。私で何かイヤらしい事を企んでいただろ?」

「あ!あぁああ!え!?―――ガッ!」

 

 なぜそれを――。

 

 答えるまでもなく倒れた徳川の仮面を踏みつけて、焔は軽蔑の目を向ける。

 

「刀を扱うクセに知らないのか?薄っぺらなんだよ。武器を交えれば大体の考えは透けて見える!特にお前のような奴は飽きるほど見てきたからなぁッ!!!」

 

 踏みつけられてなお自身のパンツを覗こうとする徳川を蹴りあげ、赤い柱に叩きつけると、崩壊する柱に飲まれる徳川を見届ける。

 

 その顔には、楽しかった衝動が鎮火してしまった無念と、最悪な思い出を思い出させられた怒りがはっきりと映っていた。

 

「あぁ~~クソ!!今日は厄日だ!甘ったれ忍者に会うし!帰ってひとっ風呂浸かろうとしたら蛇女が襲われてるし!!センスのある強者の来たと思ったら欲情じみたクズだ!!!いい加減にしろ!!」

 

 悔し紛れに放った足蹴が床に響き、音が反響する。

 

 しばらくその場で唸り、落ち着いた焔は、ハァと溜め息をついて、トップがこんなものなら他も大したことないだろうと考えつつ仲間の加勢に行こうとする。

 

 とにかく暴れてこの気持ちを発散したかった。

 

 しかし、嫌な事とは続くもの。焔もその因果から逃れることはできなかった。

 

「おいバケモノォオ!!止まれ!止まらんかぁ!!」

 

 瓦礫の崩れる音の中から、徳川の狂気じみたがなり声が聞こえる。

 焔はそのしつこさに呆れ、後ろを振り向いた。

 

「ハッ、なんだまだ生きていたのか。その鎧はずいぶんと―――」

 

 頑丈なんだな。それ言おうとした焔の口は止まっていた。

 その理由は徳川の行為にあった。

 

「はははザマぁ見ろぉ!お前は俺の汚点だッ!!汚点は消さなければ!!徳川に汚点などない!殺されるべきなんだッ!!殺されたくなければ自分の刀で死ねぇぇえええ!!!」

 

 武士としての誇り、染み着いた男優女卑思考、徳川の末裔として生まれたプライド。

 

 徳川が徳川として構成していたものは数分で砕かれ、彼は壊れた。

 

 徳川は失われたものを取り戻そうと、倒れた忍とそれを連れてきた幼い顔を晒した少女――木ノ葉に銃を向けていたのだ。

 

「あ…、え、え?」

 

 少女は訳もわからぬまま当てられた殺意に腰が抜け、股間を濡らす。

 

「早く死ね死ね死ね死ね死―――!!」

 

 焔は無言で両者を見る。

 

 プライドは取り戻したい。けど命が惜しいから脅して自分で死んでもらう。

 なんてワガママな男だ。こんな奴に私は期待していたのか。

 

 なんて可哀想な子だ。鎧を着てる事からヤツの部下であることは容易に理解できる。部下なハズなのに、検討違いな脅しに使われ殺されようとしている。

 

 その時捕まった少女の口から、消え入りそうな声が漏れた。

 

「なん、で…?いう通りに、したのに…」

 

 

 ――「セン、セイ」――

 

 

 『焔、お前には死んでもらう事にした』

 『オレの事が好きなんだよな?』

 『なら死んでくれよ』

 

 

 

 『ハハハハ!あいしてるぜェ焔ァ!!』

 

 

 

 ポニーテールを留める白い紐が解かれ、紅い紅蓮が身を焦がす。

 

 徳川は、焔のトラウマを、堪忍袋の緒を、逆鱗を。

全て、傷つけたのだ。

 

 




時間軸的には、半蔵学院襲撃の帰り。アニメで言えば六話→七話の間

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