忍と侍の閃乱恋唄   作:北岡ブルー

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 しばらくおっぱいありませんが、まぁ見てってください。



武者学課

「んで、どーだったよ?おれの調整した『鎧装』の味は!」

 

 模擬戦を終え、パワーアシストを備えた鎧―――『鎧装(がいそう)』を片付けた後。平地にいた子供ら―――『武者学課』の者は皆、この馬小屋に入って『センセイ』の話を聞くのがルールだった。

 

 しかし、全員が真面目にセンセイの話を聞いているわけではない。40人も集まれば興味ないと聞かない者もいるだろう。

 

 『春希(はるき)』に感想をせがんでいる短髪で太陽のように明るい笑顔が特徴の『夏公(かこう)』(通称ナッツ)がそうだった。

 

 二人は最後尾なため、ナッツがセンセイの所まで声が届くことはないと考えたのだろう。その声は小さくとも、春希の耳によく通った。

 

「いや、ナッツは俺と戦ってたんだし、わからないもんなの?」

「そーゆーもんはさぁ、やっぱ聞きてぇモンなのよオレ的には。なぁどうだった?」

「いや、俺鎧なんてかじらないし」

「ギャグじゃなくていいのよ?」

「やめなさいナッツ。(あに)さんが困っているでしょうが」

 

 ここで我慢できなくなったのか、前の席に座る頭の包帯が特徴の少女『陽花』がナッツに注意する。

 

 特徴と言っても、この顔に巻かれた包帯はここにいる少女全員の共通点だ。あえて陽花の特徴を付け加えるというのなら、ショートボブという所か。

 

 それをナッツが「まーまー」と言って和ませようとした、その時―――

 

「聞こえているぞ貴様らぁ!!!」

「ごあッ!?」「ッ!!」

 

 バットから響くカン高い音と共に、顔のひしゃげたナッツは春希のいる所まで吹き飛ばされ、二重に折り重なって壁にぶつかる。

 

 いや、『そうなるように勢いよくぶつけられた』というべきか。骨がへし折れることも厭わずに。

 

 それを行った男……いやセンセイは、倒れた頭を蹴りつけ、肋を何度も何度も踏みつける。

 

 周りの年長達は黙って顔をふせ、幼い子供らは年長の影に隠れて暴力に震えていた。

 

「誰が!喋っていいと!抜かしたァ!!」

「あっ…!やめっ、やめてくださセンセイ!兄さんが――「何だヨウカァ!!貴様コイツらを庇うのか!ならお前は罰としてハルキに殴らせるからなッ!!」――ッ!?」

 

 この、チョビ髭を生やしたチョンマゲの男こそ、武者学課を創立し彼らを育て上げた自称鬼教官『徳川』。

 

 しかし、何も彼は善意にかられて学課を創立したわけではない。それはこの様子を見れば明らかだろう。

 

 ならなぜ創立したのかと言えば、ある目的のためである。

 

 気が済んだのか、徳川は「ハッ!」と鼻で笑うと、倒れた二人を踏み台にし、ツバを散らしながら話の続きを始める。

 

「よいか!今こそ忍の世だが、かつては俺の末裔たる武士の、侍の、武者の世だったのだ!!しかし、富豪共はペリー来航以降苦心していた武士をたやすく切り捨て、ハデな忍術(手品)が使える忍共を重用し始めた!確かにあの時は装備が悪かった!大砲や銃には刃が立たないからな!しかし、現代()の日本には高い技術が存在する!!それに目をつけた俺は忍装束に対向すべく次世代の鎧『鎧装(がいそう)』を開発した!今こそ我を闇に引きずり込んだ(裏切り者)共に天誅を下し、主従関係を正す時!戦国の世に還る時なのだ!!これを見ろぉ!!!」

 

 パンッ!と、破れそうな勢いで握りしめていた巻物を広げる。

 

 しかし身長差がある上、地べたに座っている子供らの目線では文字を見ることすら出来ない。

 

 徳川はそれを見て嫌らしく顔を歪めると、内容を告げる。

 

「これはかのマンモス校、『国立半蔵学院』に出資しているというスポンサー様直々の極秘依頼書だ!!内容は『悪忍を造り上げる組織の壊滅』! 覚えておけ、これは今までのヤクザ鎮圧や犯罪者集団とはわけが違うぞ!決行は今日の深夜だ!!以上ッ!!!」

 

 『悪忍』

 

 その言葉にどよめく子供達をほったらかしにし、いいたいことをいい終えた徳川は「ここから伝説が始まるのだ!」だの「力を認めざるおえなくしてやる…!」等の慢心や恨みを言い散らかしながら教室を後にする。

 

「いいかハルキぃ!ヨウカへの罰は続行だ!出来ない場合はヨウカを俺の前に連れてこい!!顔に写真を貼り付けて、俺の英気を養う為の糧とするからなぁ!!」

 

 その声の後、ハハハハと高笑いを上げた徳川は完全に姿を消す。最後にシンと静かになってしばらく、恐怖が抜けた教室にナッツの声が響いた。

 

「おい!おいしっかりしろ春希!ちくしょうあのクズが!!」

 

 普段から明るいナッツの、怒りや苦痛が混じった声に呼応して、周りの子らがざわつき始める。

 

「春希がとっさにオレの上に乗って庇いやがったんだよ!クソッこのボケ!」

「そんな! 兄さん? 兄さん!!」

 

 周りが本格的に揺れ、不安の輪が広がる。

 

 まさか死んだんじゃ…?誰かがそれを言って曜花に睨まれた時だった。

 

「あ――。あぁ…、大丈夫。今起きた…」

 

 不穏な空気を感じたのか、目を開けた春希は子供の肩を借りて立ち上がった。

 

 体は擦り傷やアザ、額からは血も出て目元は青アザとなって閉じかけているが、何とか生きていたようだ。

 

「兄さんッ!」

 

「ありがと曜花。でも、俺お前を殴んなきゃなんないから」

 

 ポンポンと頭に触れ、ポロポロ大粒の涙を流す曜花の心配に感謝を示す春希。

 

 しかし、最後の言葉を聞いたナッツは顔をしかめ、責任を取ろうとする。

 

「なぁ春希、メシと寝床貰ってるからってあんなヤツの言うこと聞く意味ねぇぞ。さっきのは徳川のハエ野郎がよって来たのに喋ったオレの責任なんだ。オレを殴れ!」

「言うこと聞かなきゃ、全部取られる。それにナッツは鎧装直すの引き受けてんだから殴れないし、殴りたくないよ」

「だがよ!!」

「皆。今から寝たい奴は寝て、食べたい奴は食べる。できる奴はナッツの手伝い。俺は…、曜花を殴っとく」

 

 そう言うと春希は複雑な表情を浮かべた曜花の手を引っ張り、子供らの輪を抜けて教室の外へと出ていった。

 

「おい待て春――!!」

 

 止めようと手を伸ばすナッツ。しかしその手は割り込んできた年長の少年に掴まれ、阻まれてしまう。

 

「――!てンめぇ達磨!」

「ンなことしてる暇があるならさっさと鎧装の強化をしろよ。特に手のな。悪忍ってのがどんな力を持ってるか未知数なんだろ?」

「~~~~!! わぁーってるよッ!!!手伝いのは皆コッチに来い!急げよ!」

 

 それくらいわかっている。そう言わんばかりに乱暴に腕を弾き、鎧装の置いてある倉庫へとナッツは踵を返す。

 

「……突っ立てないで行くぞ、俺らも」

 

 それを見届けると、達磨と呼ばれた少年も戦うことになる子供達を連れて食堂の方へと歩いていった。

 




『鎧装』とは、徳川が忍装束に対向すべく作られた自称・次世代の鎧。パワードスーツの一種で防御力に優れる。

 スペアを抜いて現在、総勢40台が稼働しており、一部は外に流れたとの噂。

 体の小さい子供も動かせるよう手足を延長したモンキータイプ『簡略鎧装』と普通の鎧装。様々な改造を施した恐竜を思わせる兜を持つ指揮官機『灰式』と『橙式』が存在する。

 ちなみに徳川の鎧装はスリムで昔の鎧と外形が変わらず、漆と金箔がふんだんに使われている豪華使用だ。
 

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