(おっ、静かになったぞ。やっと諦めたか、このままカーシさんが倒すまで待っているか。)
ボージャックがトランクスとピッコロと激闘を行っていた時、サタンもトイレに籠り、籠城して我慢比べをしていた。
やっと係員も諦めたのかトイレの外が静かになったために、張りつめていた緊張が抜けかけた時だった。
「ミスターサタン、もう大丈夫ですよ。この大会のために来てくれていたドクターの専門が内科だったようです。
どんな腹痛も治してくれるそうです。
さあ出てきてください。」
先ほどまでサタンと根比べをしていた係員がなんと助っ人として大会の主治医を連れてきていた。
(なんで格闘技の大会の医師が内科なんだよ!)
とサタンは内心ツッコミを入れながらも、
「イタタタタタ、腹痛がひどすぎて扉を開けることができんのだ~。」
と(これなら大丈夫だろ)と用意していた万全の返答をした。
しかし、それを聞いた係員はうっすらと笑みを浮かべた。
「ではお助けしますミスターサタン。」
係員は待っていましたとばかりに宣言すると、なにかゴソゴソと慌ただしく動き回っている音がする。
(いったいこいつはなにをする気なんだ?)
サタンは係員の言葉に困惑しながらも、なにをするのかが気になり耳をすます。
するとなぜか扉の鍵が解錠にむけて動き出した。
「な、なにー!!いったいなにをしているんだ~!?」
焦るサタンに係員はまるで笑顔が見えるかのような爽やかな声で答えた。
「趣味がピッキングなんです。」
答えを聞き呆然としたサタンであるがすぐに気を取り直し(鍵を開けさせてたまるか)と今度は鍵を巡っての攻防戦となる。
これからかという時だった。
地面を揺るがすほどの爆音と、かなりの規模と思われる地震が起こる。
「次から次へとなんなんだ~?」
パニクりながらも冷静になるように努める。
すると今まで感じていた邪悪で巨大な気がほとんど感じられなくなったことに気づく。
そしてそれだけではなく、自分が溺愛する愛娘のビーデルの気が近くにあったことに気づく。
今まではボージャックの巨大すぎる気によって影に隠れるような状態になっていたことと、サタンの気を探る能力がまだ低いことから分からなかったことだった。
「ビーデル―今パパが助けに行くぞー!!」
サタンはドアを思いきり開け放つ、係員はいきなり開け放たれたドアに頭を打ち付けて気絶、猪のようにコースターに向かって走り、行く手を塞ぐものを弾き飛ばしながら走っていった。
腹痛と聞かされていた医師は呆然とするしかなかった。
――――
「やつの気は感じられなくなったか。
悟飯が心配だ。戻るぞトランクス。」
「はい。ピッコロさん。」
ピッコロとトランクスは大穴に背を向け去ろうとした時であった。
漆黒の闇に包まれている底無しとも思われる大穴から、禍々しく歪んだ光が溢れてきた。
その次の瞬間だった。
背筋が凍りつくほどの巨大で邪悪な気が大穴から這い上がってくるような不気味な感覚をその場にいる全員が感じた。
「今のはなんなんだ。
な、なんだと!!」
「どうして!?」
大穴に目を向けたピッコロとトランクスの表情が驚愕と絶望の色に染まった。
大穴からゆっくりと上がってくる影があった。そう倒したと思っていたボージャックであった。
「やつは倒したはずだ。
なぜ生きている。」
ピッコロが誰に聞くともなく、呆然と呟いている。
「ああ、お前たちのお陰で死にかけたが、押さえていた力を解放することで傷も全て癒えたわ。」
ボージャックの答えに辺り一帯が絶望に包まれる。
ボージャックは歪んだ笑みを浮かべて続ける、
「礼をせんとな。」
ピッコロとトランクスの真後ろから突如聞こえた邪悪な声。
聞き終える前にピッコロとトランクスの二人は焼け焦げて光なき大穴に吸い込まれるように落ちていった。
「フッ、やつらは自分の墓穴を掘っていたようだな。」
ピッコロとトランクスが反応することもできずに呆気なくやられたのは、天津飯に恐怖と絶望しか与えなかった。
しかし、天津飯は強靭な精神で踏ん張りボージャックに立ち向かう。
「真気功砲!!」
命をかけての真気功砲、しかしボージャックの服すら傷つくことはなかった。
ボージャックの体から溢れ出る気がバリアとなり全身を覆っていたからである。
「死に損ないがまだいたか。死ね。」
ボージャックが一瞬で作り上げた気弾を発する前に天津飯は力尽き大穴に落ちていった。
「つまらんな、そういえば、あの小僧はまだ生きていたな。
よい声で鳴いてくれると嬉しいが。」
見るもの全てがぞっとするような表情でゆっくりと悟飯にボージャックは近づいていく。
ボージャックが悟飯の前に降り立った時だった。
「…………」
なにも言わずいや、言えずに悟飯の前に守るようにビーデルが立ちはだかった。
目からは恐怖のためか涙が溢れ、足は震え続け今にも崩れそうになっている。
「小娘お前が先に死にたいのか。」
ボージャックの問いかけにも声を出すことすらできない。
「しゃべることもできんのか。では声が出るように今まで味わったことのないほどの苦痛を与えてやるか。」
ボージャックは丸太のような腕をビーデルに伸ばす、それに比べると風に吹かれるだけでも折れてしまいそうな細い首にボージャックの手がかかる、寸前だった。
「どうなってるんだ~!?」
上空から叫び声と共に誰かがボージャックの上に降り注いだ。
「ぱ、パパ……」
ビーデルの目には恐怖ではなく喜びの涙が溢れていた。
ついに英雄サタンが戦いの場に舞い降りた。