「あれ、糸が解けた!ピッコロさんが倒してくれたんだ。」
「よかったね悟飯君。」
悟飯を拘束していた糸が急にほどけ、霧散したことに悟飯とビーデルは喜び、悟飯は改めてピッコロに感謝し、尊敬の念を深めていた。
しかし、その喜びも長くは続かない。
サイヤ人の宿命なのであろうか、新たな戦いがすぐ間近まで迫っていた。
そうすぐ後ろまで。
悟飯は突然後ろに現れた影に脅威を覚えた。
確かに気を抜いていたが、戦いの場であり、先ほどの戦いでの不覚があったので最大限に気を探りながら危険がないことを察知していた。
しかし、その察知をも掻い潜り悟飯のすぐ後ろまで何者かが迫っていたのだ。
「何者だ。」
瞬時に振り返り身構えビーデルを庇うように前に立ち戦闘体制をとりながら悟飯は声をあげる。
悟飯のすぐ後ろまで迫っていた男は、橙色の長髪をし、濃い青色の肌を持ち、どこか海賊のような出で立ちをするかなりガタイの良い大男であった。
ここまでなら、ドラゴンボールの世界では存在していても別に不思議ではない男である。
しかし、普通とはかけ離れた物をこの男は持っていた。いや、醸し出していた。
『悪』一文字で言えばこれほど当てはまる言葉はない。
一点の曇りもない『悪』、今まで悟飯は数限りない敵と戦ってきた。
そのなかでも三本指に入るであろう、圧倒的に禍々しく、歪んだ悪の気をその男から感じ取った。
もちろん戦闘力がとてつもないことも気から探ることはできていた。
(なんでこんなヤツが近づいてきていることに気づかなかったんだ。)
悟飯は自分の不甲斐なさを嘆くのであったがすでに後の祭りである。
「俺の名はボージャック。
この世を恐怖と殺戮で支配する男だ。」
ボージャックと名乗る男は口許に歪んだ笑みを浮かべ悟飯にいい放つ。
その威圧感でビーデルは放心状態、修羅場を数多く乗り越えてきた悟飯出さえも気圧され、背には冷や汗が止まらない状態である。
「俺の手下達が随分と世話になったようだな。礼をさせてもらうぞ。」
淡々とボージャックが宣言したと同時に悟飯の腹に深々とボージャックの拳がめり込んでいた。
――――
「こ、これは!!」
「おいどういうことなんだよ。」
「俺に聞くなよ。」
それまで歓談していたトランクス、天津飯、ヤムチャがボージャックの悪意に満ちたとてつもない気を感じとり、パニックになりながらも判断に迫られていた。
「これは決勝戦の会場からです。
決勝戦の会場には父さんや悟空さん、悟飯さんそして、先ほどまでピッコロさんがいたようですが、父さんと悟空さんの気が突然消えました。
大丈夫だとは思いますが心配です。
俺が見てきます。」
トランクスがいてもたってもいられず決勝戦の場に走る。
「まて、俺達じゃあ力不足かもしれんが何かの役にはたつかもしれん。」
「ああ、俺達も行くぜ。」
天津飯とヤムチャもトランクスと共に決勝戦の場に向かうとトランクスに伝える。
「ありがとうございます。
とても心強いです。」
トランクスも笑顔で感謝の意を伝え、三人はボージャックがいる決勝戦の場に向かった。
――――
そしてもう一人絶望感に襲われる者が会場内に1人、そう我らがミスターサタンである。
カーシとの修行により気を感じ取ることができるようになっていたためである。
(おいおい、カーシさんが倒してくれたはずじゃあ。どうしてこんなヤツがいきなり現れたんだ。)
サタンは頭を抱えてVIPルームをウロウロし始める。
カーシが近くにいたのならば覚悟を決めていたこともあり平常心を保つことができ、また安心していられたのであろうが、今は違う。元来気が弱いサタンは気が気でない。
そして、死刑宣告とも言える執行人がやって来る。
「ミスターサタン、準備ができました。」
「!!!!!」
ドアがノックされ、係員が決勝戦の場に向かうコースターの準備が整ったことを伝えに来た。
「ミスターサタン?」
中から全く返事が聞こえないことに疑問を持ち係員がソロッと中に入る。
そして、目が合い時間がとまったかのようになる室内。
「ミスターサタンいらっしゃったのですか?
準備が整いましたよ。」
係員の言葉がサタンの脳内を駆け巡る。
(準備が整いましたよ。準備が整いましたよ。準備が整いましたよ。→ 死刑の準備が整いましたよ。)
「ハアーッ!!あたたたた、急に腹が、なんという激痛だ。トイレにいってくるので少し待っていてくれ。」
そこからのサタンの動きは機敏であった。
無駄の全くない動きでトイレに入り鍵を閉めた。
「カーシさんが倒すまで長期戦に持ち込むしかない。」
サタンVS係員も幕を開けた。